11-4 空隙とデッドスペース
「どんなに高い意欲を持ち、多くの努力をしてみても、自分一人の力ではどうにもならないのが婚活です!ジャックさん、一緒に頑張りましょう!」
ジャック・ジャコビマン 31歳。
今まで恋愛沙汰なしの俺に心配してか、親に婚活相談所を勧められてもう、2年になる。
しかし、いつ命を落とすかわからない冒険者なんて職業は結婚では不人気だ。それはギルド職員であっても変わらない。
「強化スキル:雪中送炭!くそ!そんなにがっつくなら、コム持ちでもナンパしてなさいよ!このパロパロ野郎が!!空間魔法:フォッサマグナ!召喚魔法:猿轡!上級水魔法:怪雨」
「はぁぁぁぁぁ!!!剣スキル:山裾!格闘スキル:ロコモティブタックル!移動スキル:蠢動!」
目の前では、B級冒険者〝なんか〟になりたい若者が奮闘している。
「あー、あれは竜スキル:スキャンダラスタトゥー。痛ったそう〜」
俺もまだ、アンドレアススカードラゴンに付けられた傷が残っている。もう10年も経つのにな〜!消えないものだ……
「竜スキル:ハイジーンブレス!!!それに、竜スキル:ケアブレス!!か……うん、雑魚だな………幼竜はどこまでいっても幼竜…………大人とは違い過ぎる」
gaaaa
「剣スキル:蝶番!!ぐっ!?」
淡紫色の炎とともに、黒髪の長い方が飛ばされる。
接近戦を主体としたい気持ちもわかるが、〝向いてない〟戦闘に向いてない。
この職しか就けない俺と違って、もっといい職に就いた方がいいと常々思う。
gaaaaaaa aaaaa aaaaa
「空間魔法:食劇!!!!水魔法:スクランブルミスト!土スキル:インターロック!!な、ノゾータ!伏せて!!!!」
う〜ん?……手数は多いのは確か……
多彩なスキルだけじゃなく、魔法もよく勉強してる。スキルの組み合わせもタイミングも悪くない。空間を司る技量といい、申し分ない。だけど、器用貧乏だ。………その威力では上にはいけない………………うん、
〝向いてないな!〟
「あーあ、今日もお守りか〜」
今日も一日が潰れる。この時間を婚活に当てられたらな〜とつくづく思う。
どこかの遠い東国では、週に2日間を休む文化があるそうだ。
いっそのこと!同業者を狙うか?
いや、同じ職場とかになったら面倒だ。
「強化スキル:詠唱平準化!空間魔法:狭隘道路!強化スキル:スペルプロナンシエーション!Exスキル:スキルジョイント!空間魔法:タイドプール!雷スキル:インクルージョンスパーク!!」
gaaaa!!
「くっ!強化スキル:思考按配!防御スキル:ソードシールド!がはぁ…」
「ノ、ノゾータ!?くそ!この童貞野郎が!!!Exスキル:スキルサマリー!!上級土魔法:地盤沈下!!!」
gaaaa!!
「ぐっ、」
「そ、そんな…ノゾータ!!杖スキル:食刃!!!!!下がれ!下がれよぉぉぉぉ!」
さぁ、そろそろ助けますか……………
俺はストーンナイフを構える。
ヴァンパイアストーンという、血を吸う石で作られた優れものだ。俺の婚活費用とそう変わらない。
「それじゃ、仕事しますか〜、干渉スキル:ボトルネック!身体強化スキル:ブラッドシフト!」
討伐が終われば、採点して、マスターに報告して、相談所でお見合いして、寝て、明日も仕事!
「はぁ、ほんとにつくづく冒険者なんて嫌になる!!!!転職しようかな?……」
俺はナイフを構えたまま、茂みから抜け出す。
「付与スキル:グラインド!Exスキル:驕慢!!!」
俺の両手に、黄銀色の光が宿る。
「剣スキル:水雲!!!!」
gaaaa gaaaaaaa!!!!!!
「ちっ!?」
斬撃も飛ばすも、一本しか首を取れなかった!
「なら、もう一撃!!!!!!剣スキル:白銀河!!!」
最近、仕事訛りが多いなと感じる!
思うように身体を動かせてない!本気出すまでもないからな〜
それに、言葉遣いだって、ビジネス訛りが出てきた気がする!妹曰く、寝言が標準語だったそうだ。
gaaaaaaa aaaaaa
次撃は、肩肘を張らずに臨んだが、避けられてしまう。それでも尻尾は落とした。
「B級ドラゴン相手に三撃目で仕留めれないと、さすがに衰えてるよな?…」
これで終わ…………ん?…なんだ?…あれは………〝ヒトなのか?〟
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日照りの朝曇り。
〜休耕田〜
「う、うわあああああああああああああ」
摩擦熱でかかとが擦り減る。
液晶が割れる音とともに、森林エリアに突っ込む。
「っ!痛っ!?」
潜望鏡ほどある丸木にぶつかり、何とか止まったようだ。
くっ、肩甲骨から嫌な音がした。
折れてるな…多分………………
gaaaaaaa gagaga!!
「なっ!?トレント!?」
倒れてくる木を、スパイダーウォークでかわす。
「死んでる?」
何という威力で飛ばされたんだ………
このトレントが、スポンジの木じゃなかったら危なかったぞ…………
僕は、アファーメーションでモチベーションを上げる。
「ずいぶん、遠いな……」
あの大きな巨体が、点にしか見えない。
ずいぶん、飛ばされたものだ……
リンパドレナージュで痛みを和らげる。
「ふー、じゃあ、行きますか!!!」
僕は震える右手で勾玉を構える。
〝この、人殺し〟
「サ高住でも紹介してしょうか?この、エロガッパ?ジジィなら、まだエロリーマンの方がまし!エロフェッショナルでも呼んでこい!」
変わらず声が聞こえる。
どうやら、苦戦を強いられてるらしい。
「1人の時は変身できるんだよな〜」
おそらく、〝二度暴走した〟時のトラウマが原因だろう…………………
人なら、〝トラウマが行動を阻害することが当然だ、しょうがない〟
「でも、今はトラウマを想起させるものがない!」
弱さという名のセルフ・ハンディキャッピングを握り潰す。
「ヒーロースキル:変身」
象牙細工のような鎧が出現し、
乖離の文字が胸に広がる。
「モード:アクセル」
禍々しい色をしたオイリー肌。
背中から、生えるリアウィング。
尻尾のような紙縒り。
〝浪花節とは人生の縮図で御座候ふ。〟
ダッチオーブンを思わせる顔。
赤電話のような左手。
オットマンのような右手。
牧歌的な作務衣。
gaaaaaaa aaaaa aaaaa aaaaa aaaaa
トレントは基本的に群れで生息する。
「1…2…3…4…5…匹…」
右手に出現するのは、黄金色の警策。
強化される、貴いバイタルパート。
サウンディングの要領で足を固定する。
「舞え!!!リボルフラワー!!!」
赤い剣軌道とともに、二撃でFlowerの文字を描く。曲線の斬撃はまるで、恋人に宛てた達筆の手紙を思わせる。
恋文を愛する、太公望ヒーロー。
アクセル・ワーキー。
「よし!いくぞ!!!!!!舞え!!飛魚!」
僕はヒーローのジャンプで一気に距離を詰める。
ん?首が二本だけ?もしかして、助太刀はいらなかったかな?
「舞え!!ダズンフラワー!!」
十二撃で描く、Flowerの文字。
前足を集中して攻撃したおかげで、ピラミッドほどあるであろう巨体がバランスを崩す。
gaaaa!
「糵の舞!緒の舞!」
倒れる勢いで繰り出される後ろ足の鉤爪を、しっかりとパリィしていく。
ん?ブレスか?
「舞え!!!介党鱈!」
ヒーローによる移動で、確実に回避してゆく。
gaaaa!!!!
続くもう一方の首によるブレス。
「舞え!!カリフラワー!」
五連撃によるFlowerで、防ぐ。
gaaaa!!
「もう一撃か?厄介だな?ん?どこを狙って?」
狙いは……ノゾータ!?
「舞え!!ロイヤルフィッシュ!!舞え!!ドライフラワー!!」
ヒーローによる斬撃で、ノゾータを庇う!
「っ!?お前は一体?」
「いいから!引いて!!!」
gaaaa!!!!!
「舞え!!プリザーブドフラワー!!」
続くブレスも防ぎ切る。
gaaaa!!!
痺れを切らしたのか、覆いかぶさるように、飛んでくる。
「好都合だ……舞え!!緋水鷄!!釦の舞!総総の舞!」
ギン、ギン、ギン、ギン、ギン、
二首による噛みつきも、四股による鉤爪も、きっちりと防ぐ。
「舞え!!オルネフラワー!!」
gaaaa!!
揺らぐ巨体。
アナボリックホルモンが分泌される。
「ここだ!心に剣を…鋸の舞!」
飛ぶ、一首。
もう一撃。
使うのは、ルーチェフラワー。
八連撃だ。
プロスタグランジンが放出される。
エンプティカロリーが消費される。
カタボリックとアナボリックが繰り返される。
「舞え!!ルーチェフ…
「えっ!?、ヒーロー?ノゾータ!!そいつ!そいつを攻撃して!!」
「身体強化スキル:レバレッジパワー!剣スキル:餓鬼狩り!」
〝ねぇ、プレイヤーなの?〟
僕はまた何かを間違えたらしい…
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〜ルート砂漠〜
「星雲仮面マシンマンも、ハイスクール!奇面組も知らないっての!」
「ねぇ、君、何、口遊んでるの?」
「ん?大地讃頌!」
ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ、
壮大な光景に、不釣り合いな会話。
でもそんなこと私たちには関係ない。
これからの試練をクリアするのは私たちだ。
「ねぇ、ダミアン!」
「なんだい?みさき?」
「絶対、勝とうね!!」
「う、うん!お、おう!!」
ラポール…来た!!
1人でも味方は多い方がいい。
この、ダミアンという少年は、四次審査を一緒にクリアした同い年の男の子。完全にラポールは形成されてる。
「ふふ、そうなんですか!もう、冗談はやめてください!!!!」
「ほ、僕は本気なんです!!子供を持つより、君と家族になる方が大事なんだ」
向こうではままも上手いことやってるようだ。
魔王と勇者の勢力図が織りなす剣と魔法のファンタジー世界が舞台。そこに紛れたヒーロー(異物)を倒すのが私たちの任務。
ままと私は、ヒーローを一番多く倒した者に贈られるという賞金が目当てだ!
「今日の服も可愛い!似合ってるよ!」
「今日の服“も”ってどゆこと?初対面だよね」
なんなのこの人?不気味な人だな……
「おい!俺のことほっぽりだして、しこたま嬉しそうだな?」
「べ、別にほかってないし!!!その中折れしそうな顔、どうにかしたら?」
「そのど下ネタ!ますます母ちゃんに似てきたな!おい!てかおい、ちゃんと消毒したか?こら?」
彼は、ファービー。
アルコール系のスキルを多く取得し、
アルコールの霧で闘う戦士だ。
「定刻となりました!!皆さま、この魔法陣にお集まりください!!!!」
いつからそこにいたのか?
いつからあったのか?
世界一暑い砂漠に、氷で覆われた魔法陣が描かれている。
正直、はじめは異世界なんて話は胡散臭いと思っていた。
詐欺師は相手を信用させるために、先に金を渡すというが、この男は、私たちに魔法を見せてくれた。
魔法だろうが、スキルだろうがどうだっていい!賞金を賞金を手に入れるんだ!なんとしても!
「私から一言あるとするなら、ここまで審査を潜り抜けてきた皆さんが本気を出せば、周りは抗えない。これから送る世界に理屈はいらない、感覚を信じていい。以上!」
「では!!!存分にヒーローを駆逐してください!!Exスキル:プレイバック!」




