11-3 プロスペクト理論
僕はみぎききではない!
りょうききだ、
というか、〝ききてなどない”
ききあし、ききみみ、ききめ
ききというがいねんそのものがない
だって、僕のからだは僕だけのものだから
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一日生きることは、一歩進むことでありたい。
湯川秀樹
神は細部に宿る。
とは誰の言葉だったっけ。
もしここがほんとにゲームの世界で、
ゲームマスターの存在がいるのなら、文句を言いたい。
何故、NPCにリアリティーを持たせたのか?
何故、心を、感情を持たせたのか?
何故、ここまで人間らしくしたのか?
「魔法を使えない?だと!」
「す、すいません!新米の冒険者なものでして…………」
「どうしたの?ノゾータ?昨日から変だよ?」
あくる日の朝、ギルドの集合した僕たちは、お互いの戦力を確認し合うこととなった。
魔法を使えない!と言ったらこの状況。
首しまってるから良い加減手を離して欲しい。襟元が伸びてしまう。
というか、え、なに怒ってんの?
「特に警戒する相手でもないし…普通に雑魚だよ〜!」
「……………くれぐれも足を引っ張らないで!」
「ちょ!」
僕はそのまま、ボーリングの弾のように床を転がされる。
「ちょっと!大丈夫?」
「!?ミサキ!近づいては!」
ノゾータがミサキを無理くり制す。
「あ!わかった!ノゾータ!私を心配してくれてるんだ!大丈夫だよ!私が強いの、知ってるでしょ?それに、ノゾータ一筋だよー!」
僕は、長座体前屈で、
二人がイチャイチャしているのを見続ける。
ミサキがノゾータの、シャツのボタンを外し、胸元に…展開……おや、誰か来たようだ
「おいおい、何イチャついてんだよ!どけよ!!!」
ピンクの空間に割って入ってきたのは、
鬼族のソン。なんか、昨日より武器が増えてないか?
「どこでイチャイチャしようと勝手でしょ?」
「おい、やんのかよ?捻り潰してやろうか?」
「ふん、たいそうな装備ね…知ってる?自信がないひとほど余計なことやりたがるの」
「斧スキル:パワーアックス!」
「移動スキル:縦横無尽!」
マッハで迫る斧を軽々と8の字に避けるミサキ。
「火スキル:ファイアボール!土スキル:クリスタルバレット!」
そして、至近距離からスキルをソンに撃ち込む。
「がっ!?これしき!」
「そう?なら、これはどう?召喚魔法:ファラリスの雄牛!!!」
「なっ、なぁぁぁだだぁぁぁぁ!」
「は?」
突如現れた拷問器具をパワーで捻り潰すソン。
「なら、これでどう?杖スキル:食刃!!!」
「鬼スキル:暴鬼!!!」
「何をしている!?」
な、?なんだこの威圧は?…
空気が凍った?というか、世界が止まった?
ミサキなんて、杖を振り上げた状態で固まってるし、ソンなんて、両膝を曲げた状態で固まっている。
「何をしている!?」
「こ、これは…」
「これより、試験を中止する!即刻脱落だ!」
「そん…な…」
「無論、第一グループもだ!連帯につき、脱落!それでは解散!」
「待ってください!」
「テシュムノ?どけ!二度は言わん」
「くっ、」
…僕が動くしかないか…
「これは、親交の深め合いです!
仲良くするようにと、試験監督の指示に従っただけですが?」
「ほう………床を削り、椅子を壊し、内部を破壊したこの、光景が親交だと申すのか?」
「ええ!これでも…吝嗇した方なのですが?」
「ほう………ならば、ペナルティとして、各グループそれぞれ、今日中に、B級依頼をクリアしてもらう!ヴィザル!!!こいつらにクエストの手配を!」
「え…」
「なっ!?」
「B級だって………」
「それも今日中だと…」
「燃えて来たぜ…」
B級の依頼……大丈夫なのか?
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〜ハートの森〜
「………ここまでとは…」
「うわ、グッロ…w」
「棺内分娩か?」
「よく知ってるわね!そんな言葉?」
「どういう意味?」
「ノゾータ?こんな雑魚、警戒しなくて大丈夫だよ!ただの知識ジャンキーなだけだよ!」
「サピオセクシャルじゃないけど?」
「サピ?何?それ?…そういう難しい言葉使うの、きもいよ!情報弱者の方が百倍マシ!」
gaaaaaaa gaaaaaaa!!
「大きいっ!?」
「ノゾータ!フォーメーションΒで!、雑魚冒険者さんは、後方待機、」
gaaaaaaaa!
僕たちが対峙しているのは、
赤の迷彩が特徴的な三首の龍。
トリニティスペアドラゴンの幼竜だ。
「ノゾータ!行って!!付与魔法:エナジーアームズ!」
ノゾータに、赤いエフェクトが追加される。
「はぁぁぁぁ!剣スキル:気合切り!」
ga!
竜の尻尾に弾かれるノゾータ。
そこに、ミサキによる、援護射撃が飛ぶ。
「ノゾータ!!伏せて!土魔法:ドリルランナー!!火魔法:フレイムシャワー!音スキル:メランコリックノイズ!」
gaaaa!!
削られ、もがき苦しむ幼竜。
龍といえども、所詮まだ子供……
「水スキル:スーパーウォーターボール」
「はぁぁぁぁ!剣スキル:団結剣!」
gaaaa!!!!
二人のコンビネーションが、幼竜の体力を抉る。
gaaaaaaaa!!!
しかし、腐っても龍。
「くっ!剣スキル:蟹眼!」
「まずい!ブレスが来る!ノゾータ!下がって!雷スキル:雷光!土魔法:アイアンウォール!毒スキル:ポイズンアーマー!火炎魔法:フレイムフォートレス!!」
gaaaaaaaa!!
ミサキのサポートで直撃は免れたものの、余波で飛ばされるノゾータ。
「ノゾータっ!?これが…B級……闇スキル:サイキックブラック!!回復魔法:キュア!!」
「くっ………」
「ヤメロォォォォォ!ノゾータに近づくなぁぁぁぁ!杖スキル:食撃!!!」
gaaaa!!、!!
後ろにたたらを踏む龍。
僕はその隙を突く!
「猨の舞!鬼の舞!」
アルファベットのHを描く軌道、それから、剣先で凶の字を描く。
gaaaa!!
「うそ…スキルもなしで効いてる…」
そのまま、ノゾータを回収する。
gaaaa!!!
尻尾の攻撃を、一歩下がることで避け、
心臓への、牙の攻撃を、半身になることで避ける。
gaaaa!!!!
「上級水魔法:獄水!上級土魔法:牙城沈下!」
gaaaa!!、!!!!!
ミサキの猛攻が刺さるが、一向に攻撃を止める気配がない………
「修羅の舞!」
「今の、剣舞って…ままの…」
真ん中の、首元に剣を入れ、僕は下がる。
「離して!!!」
「あ、すいません、」
ええ、そんなに嫌がらなくても…………
gaaaa!!
ヤマボウシの香りが広がる。
「なっ、、?」
揺れる視界。遠のく景色。
剣によるガードもままならぬまま、
僕は彼方へと飛ばされた。