暗黒霊の同胞
1年以上放置していましたが、また時間があれば投稿していきたいと思ってます。
たまに覗いて頂ければ幸いです。
綾田さんが小人の村を出て行った翌日、俺と精霊達も旅を続ける事にした。
新たな移動手段と道標を早速活用し、一番近い暗黒霊の場所を目指していた。
「コウジ様ぁ……」
「むすぅ……!」
しかし、出発の際に一悶着があった。
誰がレイカーナの上に乗る俺と同行するか、だ。
「此処は翼での飛行に慣れた私が!」
「私の闇なら、安全」
「私がご一緒すれば負けはありません」
ファーレイ、マァタナ、ペルケが空での安全の為にと誰か一人を同行させるべきだと進言した。まあ、俺としてもそれはありがたい。
しかし――
「いやだ! 絶対にいや! 乗せるならコウジだけ!」
――レイカーナが同伴は必要ないと言い合いを始めたのだ。
俺としては全員傍にいた方が良いと言ったんだけど、流石に乗せてくれるレイカーナが嫌がっていてはあまり贅沢は言えない。
慣れない急な事態に対応できないと困るから、せめて1人だけでも同行させて欲しいと頼んだ。
最終的に「どこかの祖竜霊のダイブがトラウマになった」と言うと、流石に良心を痛めて納得してくれた。
なので、普段から翼があって視覚的に安心感のあるファーレイに同行をお願いした。
「むぅ……」
「さあ、その自慢の竜の姿を見せて下さい」
よくよく考えたら俺も竜と化したレイカーナは初めて見る。
「それじゃあ……ターン・オリジン!」
すーっと光が彼女の足元から立ち上り、人の姿であるレイカーナが光に包まれたかと思うと全ての光が一瞬で彼女の元へ収束し、拡散された。
「眩しっ……!」
思わず目を瞑っていると強い風が俺の体を通り抜け、力強い翼の音が耳に届いた。
目を見開くと、そこには岩石の様な茶色の鱗と皮、薄水色の瞳を持った竜がこちらを見て4本の足で聳え立っていた。
その全長はおよそ6m。
首が長いが、両翼を持つ体はより大きく、尾も含めるなら8mには達しそうだ。
太く鋭い爪は剝き出しで、口は閉じられているが外からも見える4本の牙が中にある歯の尖り具合を物語っている。
「お、おお……!!」
思わず感嘆の声が漏れた。
異世界に来てオオカミや人型程度の魔物になら襲われた事があるが、元の世界では空想上の生き物と呼ばれ続けていたドラゴンの存在が目の前にいるとなるとテンションが上がらない訳がない。
「え、かっこいい……!」
「コウジ様?」
ファーレイが心配そうにこちらを見たが、俺は気にせずファーレイに――もっともこの時は竜だとしか思ってなかったが――に近づいて、ドラゴンがいる現実に確認の手を伸ばした。
レイカーナは微動だにせず、俺の手が彼女の前脚に触れるのを黙って見ていた。
その鱗は見た目通り頑強で、触ってだけで取れるような小魚の物とは全く違っていて、聖剣であってもこれをはぎ取るのは無理なんじゃないかと思ってしまう程だ。
その隙間にある皮に触れてみるが、まるで骨を触っているかの様に硬い。
本当に岩なんじゃないかとも思えたが、絶えず動く翼や首と尾のしなやかな動きはこれが生物なのだと教えてくれる。
「凄い……」
「……」
何度も何度も皮と鱗をなぞっていたが、唐突にレイカーナの首がこちらに近付いてきた。
「わっ!」
近くで見る竜の首は恐ろしくも感激の感情を揺さぶられ、その間に彼女は俺の後ろに回ると服を口に挟んだ。
「コウジ様!」
ファーレイが俺の名前を呼ぶより早く、レイカーナは俺を首の根元に降ろして空へと飛んだ。
「あ、待てレイカーナ! ファーレイが――」
「――コウジ様!」
どんどん地上から離されて思わず心配してしまったが、俺の隣にファーレイが現れた。
「そっか、召喚獣は離れても俺の元に戻ってくるんだったな」
『そうだよ。まあ、戻ってこなくても良かったけど』
突然頭の中でレイカーナの声がした。
『念話だよ。竜の姿じゃ喋れないからね』
「念話!」
そんなの初めて聞いたんだが、今までは使えなかったのか。
『竜の姿じゃないと使えない能力もあるからね』
「やっぱりドラゴンって凄いんだな!」
『まぁーね!』
「コウジ様。喜んでいられるのは結構なのですが、祖竜霊の透明化の魔法は?」
『心配しなくてもちゃんと使ってるよ。ちゃんと調整して、2人にだけ見える様にしてるの』
レイカーナが反抗期の娘の様な口調でそういうと、唐突に俺の隣にいたファーレイ、そして乗っていたはずのレイカーナが消失した。
「うぇ!?」
驚きのあまり変な声を出した。木の上から落ちた時の記憶が瞬時に脳内を走っていく。
(お、落ちるっ!?)
しかし、落ちない。手にはまだゴツゴツとした竜の鱗の感触がある。
『ほらね』
レイカーナの声が響くと、すーっと2人の姿が見えた。
『見えないと不安でしょう? だから2人には見える様にしてるよ。それとも貴方の視界からコウジだけ透明しておく?』
「あまり神聖霊を舐めないでください。仮に隠されても、コウジ様を視る事は可能です」
「頼むから、2人とも喧嘩しないでくれよ。ファーレイ、今の悪戯はマジで心臓に悪いから……」
『はぁーい』
その後、マァタナから借りた水晶玉で指し示された魔王、もとい暗黒霊の場所へ俺達は向かった。
障害物や地形に邪魔される事なく進める空の旅が始まって数十分。
徐々に色が濃くなり矢印が太くなる水晶が、そろそろ目的地だと教えてくれる。
レイカーナの魔力で空気抵抗に守られている俺は地図を出してある程度の場所に目星を付ける。
「今通った川が多分此処だから……地図の通りならここか」
神聖国でもらった地図なので他国の事がしっかりと書いてあるか不安だったが、魔王に関係する場所だからか、しっかりと明記されていた。
「此処は闇が蔓延る森って書かれているな」
「恐らく、もっとも多く勇者の子孫に倒され封印された魔王が生まれた森ですね。
城を持っていなかったので跡地の様な物はありませんし、最近の出来事ではありませんので表立って暗黒霊の魔力も感じられません」
『魔物はいるかもしれないけど、警戒する程危険な場所じゃないかな?』
「とりあえず調べてみよう。マァタナが、確かにここに着いたら自分を召喚してくれって言ってたし」
***
「――で、なんとか2人には送還して貰ったけど……」
「大丈夫、私に任せて」
水晶玉が一番強い反応を示した場所に降り立った俺達はさっそくマァタナを召喚した。
そして、彼女が闇と反する神聖霊と闇の魔力を取り込んで影響を受けやすくなった祖竜霊には帰ってほしいと言ったせいで再び一悶着起きて、ようやくマァタナと二人っきりになった。
(ファーレイには警戒してと口酸っぱく言われたし、俺も嫌な予感がするんだけど……しょうがないよな)
――コウジが召喚してしまえば契約する召喚獣が増える。そう言われてしまっては彼女の案に乗るしかない。今の4人も、俺だけで抑えるのが難しくなってるし。
「暗黒霊のいる次元に私が乗り込む。そこで話す」
マァタナは闇の魔力で彼女より少し大きなゲートの様な物を作り出すとその中へと消えていった。
安全の為、周りには闇の壁が張られているのでテントから油式のランプで辺りを照らしながら俺は彼女が戻ってくるまで休憩だ。
食事をしつつ、彼女の帰りを待つだけだ。
「ふー……静かだなぁ」
生憎と闇に包まれているので周りの景色は楽しめないが、やることもない俺は地面に敷いた布の上に寝そべった。
***
「貴女……私?」
「私は暗黒霊のマァタナ」
此処の暗黒霊に用意された牢獄、暗黒霊の次元に侵入した。
しかし、私と全く同じ暗黒霊は私を見るとあっさり近付いてきた。
「一緒、同じ」
それは来訪者への喜び。
私より後に生まれてきたけれど、やはり私と同じ様に強い孤独を感じているらしい。
けれど、がっつき過ぎ。
私の手を取った彼女は真っ先に私を取り込もうと闇の魔力を私に繋いだ。
「違う」
勿論、私の狙いも彼女と同じ。
だけど、主導権は私だ。
「どうして?」
「私を吸収しても貴方は此処を出られない。
私にはどうしても魔王にしたい人間がいる」
私がはっきり口にすると、彼女は私を吸収するのをやめた。寧ろ自ら取り込まれようと魔力の流れを私に向けてくれた。
「羨ましい。けど、嬉しい」
「嬉しい……?」
完全に消える間際に彼女が言った言葉の意味が分からなかった。
しかし魔力を全てこちらに譲渡した彼女は、言葉の意味を問い質す前に完全に私の中に消えていった。
「……嬉しい……」
呟いても、魔力として吸収された彼女は答えてくれない。
そして、ぼーっとしている時間もない。
召喚獣としての役割が与えられた彼女が消えた今、この空間も消滅する。
巻き込まれれば、もうコウジには会えないかもしれない。
「ありがとう」
消える空間にお礼を言った。
特に意味はないけれど、コウジを魔王にする事を喜んでくれたあの暗黒霊の顔を思い浮かべると何故か自然と口から零れたのだ。
ちょっとヤンデレ成分が足りないので、次回は暗黒霊以外の夢オチバッドエンドを書きたい。




