四精霊の要望
なんとか年末に間に合いました。
2020年最後の投稿です。
大樹の上に登り枝を取った俺はその余りの高さの登りと下り、そして落下事故で精神的に疲れ、死んだように眠った。
小人の館の一室で目が覚めると、精霊の皆が俺を囲む様に立っていた。
「お、おはよう」
「おはようございます。コウジ様」
その光景に気後れしつつも挨拶をしつつ、全員の様子を確認した。
ファーレイ、マァタナ、レイカーナ、そしてペルケ。全員居る様だ。
「俺は、どれくらい寝てたんだ?」
「2時間程度かと」
昼過ぎ位に帰ってきて、そのまま寝てしまった筈だからまだ夕方前か。
「そっか……う」
立ち上がろうとしたと同時に、腹の虫が鳴った。
「大きい」
「そ、そう言えば昼飯も食べてなかったなぁ」
マァタナの指摘に言い訳を返しつつ扉へ向かおうと思ったが、そう言えば眠りに就く前に小人達にペルケの服を依頼していた事を思い出して彼女を見たが、服はまだ変わっていなかった。
「ペルケ、服はまだなのか?」
「は、はい! コウジ様の知り合い、アヤダ様に先をお譲りしましたので」
「そっか。まあ、此処でもう暫くのんびりするのも良いだろうし、早く飯を――」
『――勇者様? もう行っちゃうの?』
扉の向こうから小人達の声が聞こえて来た。
『さ、先を急がないといけないのっ!』
どうやら、綾田さんが出て行ってしまうらしい。かなり慌てている様だ。なら、彼女が行く前に挨拶しないと。
「これ、お土産にどうぞ!」
「これもこれも!」
「頑張ってね!」
「あ、ありがとう、ありがとう……!」
扉を開いてまだ騒がしい声のする方へと歩を進めた。
「綾田さん、もう出発する……え?」
「へぇあ!? こここ、交冶さん!?」
玄関前で小人達に囲まれていた綾田さん。
だがその恰好は先まで着ていた制服に防具を合わせた物ではなく、黒の下地の上にフリルの付いた白いエプロン……所謂、メイド服と呼ばれる衣装だった。
それをまじまじと見ていると、彼女は顔を俯かせて両手で顔を覆った。
「み、見ないでください……!」
そう言って恥ずかしがる彼女を励ます様に、周りの小人達は「似合ってるよ」「可愛いよ」と言っているが、本人は余計困り果てておりその場に座り込んでしまう。
「な、なんでこんな格好……」
「ウンディーネ様もお喜びになられますよ!」
「ウンディーネ様、この服はご自身の巫女の正装にしたいって仰ってました!」
ウンディーネ……いい趣味を持っている様だ。
「……綾田さん」
「うぅ……!」
声を掛けても情けない鳴き声しか呟かない。
「その……そこまで恥ずかしいなら、ウンディーネに会うまでは着替えてきたら……?」
「そう、します……」
「可愛いけど、流石にその恰好で旅はし辛いだろうし」
「……本当に、可愛いって思ってますか?」
「勿論!」
「……じゃあ、また今度、頑張ります」
……?
“また今度”が良く分からなかったが、ウンディーネに会う時には恥ずかしさを我慢するって事だろうか? それが良いとは思うけど。
トボトボと部屋へと戻っていく綾田さんを尻目に、俺は小人にご飯を用意して貰えないかと頼み、食堂へと案内された。
***
「……それで、皆の頼みはどうなったんだ?」
口周りをナフキンで拭きつつ皆に小人に何を頼んだのか、改めて聞いた。
「はいはーい! 私はこれ!」
意気揚々と手を上げたのはレイカーナだが、次の瞬間にはその場から消えていた。
「どう?」
「え、何処?」
「此処ですね」
ファーレイが何もない所に手をかざして光を放つと声だけだったレイカーナの姿が現れた。
「姿を消す魔法ですか」
「そんなに直ぐにバラさなくてもいいでしょ?
……まあ、これで私の姿は周りから見えなくなるって事」
「そんな力で何をする気ですか? コウジ様に何かあれば私が成敗します」
慌てて俺はファーレイを制止した。こんな所で魔法を打たれたらシャレにならない。
「そんな事に使う訳……ないかも?」
「頼むから使わないって言い切ってくれよ」
「えへへ、はいはい。でも、これで竜の姿になっても私の姿が隠せるから馬車を使った移動も必要なくなったでしょう?」
そう言われて納得した。
確かに祖竜霊のレイカーナは竜の姿になれる。人目に付かずに空を飛んでの移動が可能になればこれからも旅もグッと楽になるだろう。
「私は――これです」
次にファーレイが見せてくれたのは家を組み立てる魔法だった。
事前に設計した建物を、魔力で結合して家を建てる仕組みらしく、小人達に頼んで小屋を建てられる程度の材料も貰っていた。
実際にそれを見た他の精霊達の反応は、同じだった。
「小さい」
「小さいよね?」
「コウジ様しか入れないのでは?」
小屋の中には家具も用意されているが1つしかないスペースに机と椅子とベッドが1つずつ置かれており、寝れるのは俺1人だけだろう。
「私達召喚獣に部屋は必要ないですから」
「嘘だよね? 貴方、コウジと狭い部屋で2人きりになるつもりでしょ?」
「神聖霊が一番下品」
言いたい放題だが、まあ彼女なりに俺に気を遣ってくれたん……だよな?
「まあ、野宿生活もきつかったしちゃんと寝泊まり出来る家があるなら幸せだ」
「ええ、コウジ様にはしっかりとした場所で過ごして頂きたいです」
「ありがとう、ファーレイ」
「敗刻霊様! お召し物が出来上がりました!」
「え、あ……!?」
小人達は嬉しそうに走って来るや否や、攫う様にペルケを食堂から連れ出したと思ったら、数分も経たずに帰って来た。
勿論、もうボロボロのワンピースではなくなっている。
「き、着替え、ました……」
少し恥ずかしそうに食堂へと戻って来たが、服は襟が無く胸元より少し上まで開いている白の服で丈の長い緑のスカートと、露出度はそこまで高くないし彼女に似合っていないとは思えない。
「ど、どうですか……?」
「似合ってるよペルケ!」
俺が手放しで褒めると、彼女は何故か隠れてしまった。
「えっと……俺が悪いのか?」
近くにいた小人に聞いてみるが、首を傾げるだけだった。
「……ペルケ?」
「あ、あのあの……! と、とても素晴らしい服なんですけど……その、わ、私に勿体ない位の品質で……!」
まさか、自分の着ている服のクオリティに敗北感を感じているのか?
「こ、刻敗霊がこんな立派な格好をするなんて烏滸がましいじゃないでしょうか!? それに、私は普通の恰好を頼んだのに小人達が勝手に此処まで凄いレベルの服を!」
「うーん、敗刻霊様のご注文通りの、普通で素朴な衣装な筈なんですけどー」
これは流石に、本人に我慢してもらうしかないだろう。
それに前の服は流石に人目を惹き過ぎる。
「ペルケ。頼むからそれを着てくれ」
「う、コウジ様……ど、どうかご容赦を……!」
「前の服を悪く言うつもりはないんだけど、これから旅を続ければペルケと一緒に色んな種族と会う事になるんだ。その時に一緒にいるペルケが綺麗なら、俺も鼻が高いし交渉なんかもスムーズになるんだ」
「私が……」
「だから、着てくれないか?」
……こんなセリフを吐いたせいで後ろから複数の視線が刺さって背中が寒気でゾクゾクしている。
「わ、分かりました……! 刻敗霊ペルケ、コウジ様に相応しい姿へと衣替えさせて頂きます!」
承諾してくれた様だ。
「よし、これで後はマァタナだな」
「私はこれ」
マァタナがこちらに見せて来た手の上には、黒い水晶玉があった。
「これは?」
「魔王を指し示す水晶」
「そんな便利なものが作れたのか!?」
「私の魔力を参考にした。これでいつでも魔王に辿り着ける」
図らずも、小人達の報酬で目標に一気に近づけた。
目的地が分かった上で拠点に移動手段も手に入ったし、これで魔王を直接調査することも出来そうだ。
「ですが、それは本当に機能するのですか?」
「そうだったな。取り合えず、試してみよう」
「分かった」
マァタナが力を込めると水晶の中に赤い光が走った。
「この線の指す場所が目的地」
「つまり、この方角に……あれ?」
水晶の中の赤い線は突然枝分かれして4つの方角を指し示していた。
「……えーっと、これは?」
「そう言えば、魔王の出現場所は過去の討伐や封印の度に点々と場所を変えていました。
その場所には人間の目には見えない次元に今でも暗黒霊が存在している筈です」
ファーレイの言葉を聞いた俺は、マァタナの持っている水晶を掴んで彼女の回りを一周した。すると、1つの赤い線はマァタナを追従した。
「つまり、分かっているのは暗黒霊の場所か。まあでも、今までみたいに町で情報を集めれば、過去に魔王が現れた場所とも区別できるだろうし」
「魔王の連続復活の原因はそれかもしれませんね。見つけ次第消滅させるのも手かと」
「え? ……それでいいか、マァタナ?」
「関係ない。今の魔王と暗黒霊には繋がりはない」
「信じると思いますか?」
喧嘩腰のファーレイとマァタナをなんとか抑えながら、その情報を元に今後の目的地を決める事にした。
水晶は近い場所を指していると赤い線が太くなるらしいので、マァタナ以外の一番太い線から向かいつつ、間にある町や村で補給と情報収集、移動手段は透明化したレイカーナに乗せてもらって向かう。
移動手段も道標も手に入れたし、これからの旅はきっとスムーズに進むだろう。
「よし。今日はもう遅いからもう一泊だけして、此処を出よう。
綾田さんはどうするの?」
「え、このタイミングで私ですか? 私は勿論ウンディーネさんの所に戻って今度こそ加護を貰ってきます」
隣の机でご飯を食べていた綾田さんに尋ねてみたが、やはり俺達とは一度離れる様だ。
「善は急げです。私は今日中に出ます」
「……まあ、余計な事かもしれないけど気を付けてくれ」
「はい、ありがとうございます!」
その後、彼女は本当に支度を素早く済ませて小人の村を発って行った。
まあ、目的がほとんど共通しているのでその内再会できるだろう。
その日の夜、小人達によって振る舞われた料理を食べた交冶達はそれぞれの部屋で夜を過ごしていた。
神聖霊ファーレイは小人達と建築魔法の改善を試みており、11時を過ぎてもまだ眠りにはついていない。
祖竜霊レイカーナは翌日から味わえるであろう主の感触を想像しつつ、寝具の上で瞳を閉じたまま口を開けている。
「……」
暗黒霊マァタナは水晶玉を見つめ、魔力を込めたり抜いたりを繰り返している。
そして、敗刻霊ペルケは――
「――ああ! 服、私の服ですっ!」
感激の言葉と共に自分の体を、否、着用している服を抱き締めていた。
「コウジ様の、贈り物……! 嬉しい、嬉しい……!」
唯の精霊であれば、例え召喚されずに過ごした年月がどれ程長くとも、物に喜んだり執着する事などない。服は己の魔力で作り変える事が出来るし、その全力を使えば手に入らない秘宝は無い。
しかし、敗刻霊ペルケにとってそれは大変得難い特別な品となった。
勝敗の敗北の面を司る彼女は勝利しなければ報酬を得る事は出来ない事を、長い間この世界の敗北の歴史を見届け続ける事で実感していた。
召喚されて、自分の主をファーレイの敗北で手に入れた事も相まってその認識はより強くなった。
しかし、今回の服は相手を敗北させてでもなければ己が勝利してでもない……交冶の善意によって渡された初めてプレゼント。彼女の価値観に大きな衝撃を与えるのに十分だった。
図らずも交冶はペルケを永久の静寂から解放しただけでなく、大きな希望を見せた。
(敗刻霊である自分にも、コウジ様なら繁栄を齎して下さるかもしれない……)
別に彼女は金銀財宝の類に興味はない。しかし、目に見える形で受け取る事の出来た品を見て、自分の運命が変わりつつある事を理解した。
他の精霊達同様に、愛を求める欲が芽生えたのだった。
精霊同士で争う必要は無い等と口にしていた彼女はもういなかった。
***
「みんな、楽しそうだね」
「久しぶりに外に出れて、彼女達も満足してるね。うんうん、交冶君は良い仕事をしてる――」
「――けど、ちょーっと欲張り過ぎじゃないかな? もうこの子達も十分満足しただろうし、後がつっかえているから早くしてほしいなぁ」
「……っと、次に干渉する日程は決めてるんだし、もう少し待たないと。
……新しい派遣先だけ決めておかないとだね」
2021年も、感想や誤字報告、レビュー等よろしくお願いします。




