敗刻霊の望み
先日レビューを書いて頂きました。
人生初でしたので喜びのあまり早めにもう1話更新させて頂きます。
こんな現金な作者ですがこれからもよろしくお願いします。
マァタナの見つけた煙を確認しつつ歩く事2時間、俺達はその出所に辿り着いた。
勇初国カラジョーゾに入ってから最初の村、独立を巡り戦争をした源剣国エスダムのすぐ隣に位置しているのだが、強固な砦もなければ物々しい外壁もなかった。
そもそも、あの煙さえなければ道を逸れて草木の生い茂る森の中を進まなければ辿り着けないこの村の存在を知る事なんてなかったんだけど……
「……少なくとも、人間の村じゃない?」
「そうみたい」
目の前に村人らしき人型の生物達がいるのだが……全員小さい。親指位の大きさだ。
「……小人?」
「ニンゲン、ニンゲンだ!」
「なんでニンゲンが此処に?」
「ニンゲンだけじゃない、精霊様もいる!」
なんか、沢山集まってきた。
全員が人間の様な服を着ている。良く見て見れば、小さいけど装飾や模様も細かくて綺麗な物ばかりだ。元の世界でも小人は靴を作ったりと器用な存在として描かれていた。
怖がっている訳でも怒っている様子もなく、皆が唯々興味本位で集まってきているだけの様だ。でも俺は反応に困る。
「……え、えーっと?」
「ニンゲンがどうして此処に来れたの? 精霊様のお導き?」
「もう一人の勇者様?」
「いや、剣がないから勇者様じゃないよ」
全く敵意がなさそうなので、俺は柔らかい口調で会話を試みる。
「いや、煙が出ていたから人間の村が此処にあると思ったんだけど……ここは、君達の村なのかい?」
「そうだよ」
「煙? ……あ、そっか」
「先魔物を追い払ったからだ!」
どうやら、こう見ても自衛の手段があるらしい。
「そろそろ日が暮れそうだし、泊めて貰えたら……なんて思ってたけど、流石に人間の俺のサイズの部屋はなさそうだなぁ」
と言ってマァタナとペルケに目を向けて離れようと伝えたが――
「待って! あるよ、ニンゲンの寝る場所!」
――小人達に呼び止められた。
「え?」
「勇者様が泊まる場所なんだけど、今日の勇者様は仲間がいないから部屋なら空いてるよ!」
「え、勇者って今いるの!?」
「うん。疲れて部屋で寝てるよ」
「このニンゲンいいの? 勇者様じゃないよ?」
「精霊様が2人もいるんだから大丈夫だよ」
「こっちだよー」
なんか、良心が人形に宿って動いているみたいだ。
「じゃあ、お願いして良いかな?」
『うん!』
手の平サイズの彼らの家を壊さない様に魔法で作られた道を進み、連れて来られたのは――下からでは先端が見えない程高く、太い幹を持つ大樹の上に作られた巨大な館だった。
「ど、どうなってるんだ……?」
「凄い」
「小人は建築技術に秀でた存在だと認識していましたが、ここまでとは」
恐らく、この世界なら貴族階級の人間が住むような豪華な館。それが大樹とは言え、木の上に建てられているのだから凄いとしか言えなくなった。
しかも、大樹もまた不思議で館の建っている中部の葉は秋の紅葉の様な鮮やかな色をしているが、その上に上がると黄色、緑色と色が変化している。
「階段をご用意します」
1匹の執事服姿の小人がそう言うと、どこからともなく角材が現れ約10mの高さまで続く階段を作った。
「……」
「燃やされなければアースドラゴンが乗っても壊れないので安心して下さい」
冗談のつもりは無いようで、屈託のない笑顔をこちらに向けている。
そんな彼らを疑うのにも罪悪感を感じてしまうので、俺は勇気を持って一歩踏んでみた。
滑りもしなければ軋みもしない。
浮ている筈なのにその場で固まっている様に動かない。
「落ちても安心して下さい。僕達が受け止めます!」
無垢で優しい種族で良かった。もしこれが戦闘種族なら、恐らくこの世界の人間は絶滅していただろう。
木の上でも美しく佇む館を前にして、そんな事を考えてしまう、
中に入ってもその美しい外見通り、人間に合わせたサイズの美しい内装が広がっていた。
「勇者様は二階の中央のお部屋です。1階の5つのお部屋は好きに使って構いません」
「え、5つも良いの?」
「はい!」
そう言われたので俺は、ドラグラムドラピヨを召喚して預かっていた契約の指輪を渡してもらう。
「まだ後2人の精霊がいるんだけど、呼んでもいいかな?」
「っ!? か、かまいません!」
流石に驚いた様だが、構わないと言われたので早速召喚してみ――
「――コウジ」
抓られた。
「ま、マァタナ……良いだろ? 2人にもこの館を見てもらいたいしさぁ?」
「マァタナ、コウジ様の意思ですよ?」
「……ふん」
やっぱり、既にペルケを連れて約束を違えてしまったし、ご機嫌斜めになるのはしょうがないか……
「ファーレイ、レイカーナ」
『おおー!』
名前を呼んで召喚すると、執事服の小人と後ろを付いて来ていた沢山の小人達が一斉に声を上げて、拍手までした。
「精霊様だぁー!」
「もっといたぁ!」
「今日はすっごい日だぁ!」
勝手に盛り上がり始めた。なんか、後ろの小人達は皆に知らせてくるーと言って館から出て行ったし。
「コウジ様、此処は……」
「小人達の、村?」
多種族の国であるドラクラム出身のレイカーナは知っている様だ。
「精霊になる前に立ち寄った事はあるけど……村の小人はやっぱり凄いわ」
「レイカーナ様! お久しぶりです」
どうやら彼女の事を知っている精霊もいるらしく、何人かは彼女の前に飛び出していった。
「あ、貴方達も久しぶり!」
「これ見て見てー!」
「んー? 何かし――っ!?」
レイカーナの表情は精霊の見せた物を見て固まった。
「どうですかこのテーブル! レイカーナ様の鱗で作ったんですよー!」
「この椅子もー!」
複雑そうな表情で返答を詰まらせていた。
(……もし俺の立場だったら、自分の抜けた歯を加工されて見せられる感じか? そうなったら、きっと俺もあんな表情をするよなぁ)
玄関ホールで小人達と精霊達がそれぞれ打ち解けあっていく中、階段の先にある2階の扉が開いた。
「んん、皆おはよ……」
「……」
「……」
「交冶さん!?」
「やっぱり、綾田さん!」
そこから出てきたのは以前出会った勇者、綾田赤奈さんだった。
***
「ドレスコード?」
「はい」
俺と綾田さんはホールに備え付けられていたベンチに座ってこれまでの事を話し合った。
綾田さんはファーレイに提案されて水の最上級精霊ウンディーネの元を訪れようとしたらしいのだが……
「なんでも、私の着ているこの服が気に入らなかったみたいで」
以前暴走した時と同じ様に黒のブレザーとスカートの上から金属製の胸当て、篭手、足当てを今も装着している。
それを確かめた瞬間、少し離れた位置からの4つの視線が厳しくなった気がしたので顔に視線を合わせて話を聞いた。
「ウンディーネさんは美しい人間に加護を与えるとの事で、それでこの小人の村を訪れたんです。なんでも、小人さん達のお願いを聞けば望みの品を用意してくれるらしくて」
「そのお願いって?」
「えーっと、私もまだ聞いてないんです。
到着したら早々にこの館に案内されて、あのベッドがあんまりにも気持ちよかったから……寝ちゃいました」
「そうなんだ」
多分、異世界でも生活が合わなかったんだろう。
俺は元々生活に拘りのない高校生だったし、神聖国の王を脅して用意させた物資と精霊達のおかげで生活水準は対して変わんなかったけど、綾田さんは少し厳しかったのかもしれない。
「でも、いつ魔族が襲ってくるかも分からないし、のんびりはしてられません!」
「それはそうだろうけど、休める時にはしっかり休まないと」
「ありがとうございます」
彼女は近くで待機していた執事服の小人を呼ぶと、早速おつかいの内容を聞いた。
「勇者様にはこの屋敷が建っている大樹の上に登ってもらって枝を取ってきて貰いたいんです!」
「この大樹の枝を?」
「はい! この大樹の緑の葉を生やしている枝は切った者によって材質を変える特性を持っているんです! 勇者様に切って貰えばきっと未だに見た事のない素晴らしい木材に変わると思います!」
「なるほどね」
「ですが気を付けて下さい! 木の上にはたまに大きな鳥の魔物がやってきてます! 私達は小さいので相手にもしませんが、ニンゲンが登れば襲ってくると思います!」
「分かったわ。それじゃあ明日の朝にでも、すぐに切って持って来てあげる」
「はい! そうして貰えば、僕達もウンディーネ様に気に入って頂ける服を勇者にご用意します!」
心配しなくても、綾田さんはやる気に満ち溢れている様だ。
「……その」
いつの間に俺達の近くまで来ていたファーレイが、執事服の小人に質問をした。
「精霊である私も、枝を切って持ち帰れば望みの品を頂けますか?」
「勿論です! 精霊様の切った枝も絶対に素晴らしい木材になります!」
「そうですか。ありがとうございます」
どうやら、彼女も何か欲しかった様だ。
(ファーレイも服が欲しかったのか? でも魔力で作れるんじゃ……あ、でも小人のこんなに凄い建築作りを見せられた上に裁縫も得意となれば気になるよな、女の子だし。
……あ、そういえば……)
「……じゃあ、俺達全員で切りに行っていいかな? 皆も、それでいいか?」
「いいけど」
「勿論行くよ!」
「コウジ様の頼みなら、断りません」
ファーレイ以外の皆も承諾してくれたので、執事服の小人に向き直ると――
「――お、お、おぉぉぉ!」
滅茶苦茶泣いていた。
「こ、こんなにも沢山の精霊様に枝を持ち帰って頂けるなんて……! 嬉しい、嬉しいよぉぉぉ……!!」
『嬉しいよぉぉぉ……!!』
他の小人達まで泣き出しているし……
「そ、そんなに泣かなくても――」
「よし皆ぁ! 今日は皆さんに美味しい物を振る舞うぞぉ!」
『お任せあれぇ!』
……とんでもない速度で、小人達が外へと消えて行った。
「……あはは」
「……ふふふ」
俺と綾田さんは顔を見合わせて、笑い合ったのだった。
***
「あの方は誰なんですか?」
「知らなーい」
質問をしたけれど、レイカーナさんは昨日の夜で私に返り討ちにあったのを根に持っている様です。
「もしかして交冶様の恋人でしょうか? でしたら挨拶に――」
「――あの女は唯の勇者! この前暴走していたのを私達が助けただけ!」
「コウジと同じ国の人間」
ちょっと挑発したらマァタナさんと一緒に直ぐに教えてくれました。
「だから随分仲が良かったんですね」
コウジ様と楽し気に会話しているので少々イラっとしたけど、私以上に怒っていたファーレイさんがいたおかげで観察に徹する事が出来ました。
――恋愛感情を持つには至っていない様ですが、同郷の人で見逃すには少々危険な方ですね。精霊の加護を受け取れる勇者ですので、私の能力で負けさせられないのも問題です。
「……コウジ様」
此処で事を荒立てる訳にもいかない。その結論に至った私は、別の事を考え始めた。
先程の話、枝を切って持ち帰れば小人から望みの品を貰える。
恐らく、ファーレイさんとマァタナさんは何かコウジ様に贈る物を用意させる筈。レイカーナさんは分かりませんが、ここは私が先手を頂きましょう。
「コウジ様」
「どうしたの、ペルケ?」
「小人の品の件ですが、私の分はコウジ様がお好きになさって下さい」
「え? いいの?」
「はい」
敗刻霊である私が何かを得る事はない。なら、その権利そのものをコウジ様に贈呈すればいい。
これで他の精霊達も慌てて自分の権利をコウジ様に……
「……あ、いや皆は別に自分で使って大丈夫だから!
ペルケ、本当に良いんだったら貰うけど、大丈夫?」
「は、はい……勿論です」
コウジ様が、私以外の他の皆さんを庇った……?
「それじゃあ、そうさせて貰うよ!」
それが少し引っ掛かったけれど、コウジ様が笑顔を見せてくださったので私は微笑み頷いた。
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