神のお告げ
お待たせしました。
新しい召喚獣、追加です。
『ねぇ』
ファーレイを薬で大人しくさせたその日の夜。誰かに呼ばれて俺は、目を開けた。
「……誰だ?」
夢の中にいるようなフワフワとした視界、しかしそれとは逆に意識がハッキリとしていて俺は超常的な存在から干渉を受けているのではないかと推測し、それは見事に的中していた。
「お前は、神……か?」
目の前に浮かぶ光球を見て、直感で浮かんだその正体を口に出した。
『正解。今日は確認に来たよ』
「確認? だとしたら、随分遅かったんじゃないか?」
『しょうがないでしょ、神様だから忙しいのー』
これ以上話の腰を折る必要はないだろう。俺は黙って目の前の球体の話を聞く事にした。
『君、まだ魔王の鎮静化、出来てないね』
「……」
『別に時間制限はないけど……あんまり遅くても困るんだよねぇ』
「なら、ちょっと位情報をくれよ」
『でも、君はもう答えに辿り着けてるんだよ?』
「何?」
『問題。魔王の出現条件は?』
それは確か……世界全体の負の感情が集まる事、だった筈だ。
他でもない神本人が俺の前で漏らしていた筈だ。
『うんうん、しっかり覚えて偉い偉い。なら、神である私の予想を超える速度で復活を繰り返す程のその感情は誰の物かしら? 近くにいる君なら分かるよね?』
近くにいる――この言葉が、俺の思考を線で繋いだ。
「…………」
――ファーレイは自分が神から創られた存在だと言った。
――レイカーナは依然、神によって祖竜霊に成ったと言った。
「……つまり、召喚獣である彼女達が原因だって?」
『そうそう。
だから3度目に魔王が倒された後に、急いで代わりに魔力を生み出して世界を満たす弱い精霊を作ったんだけど感情は魔力じゃないからね……止められなかったんだよね』
……待て。なんでそこまで知っていたのに俺に今、それを伝えたんだ?
『私の生み出した召喚獣は全部で30体。その内の過半数が負の感情を持っているの。此処まで言えば分かるよね?』
「――ふざけるな!」
魔王の早期復活の食い止める。それが俺にこの神が与えた目的。
「つまり、俺に召喚獣を殺せって事か!?」
『……いや、違うよ?』
「……何?」
『召喚獣はこの世界に必要な存在。いざという時に世界を守護する最終手段。できれば、1人でも欠けないで欲しいなぁ』
じゃあ、俺にどうしろと。
『分からないかなー? 君はね、この世界に召喚されずに長い間、負の感情を溜め込んでしまった召喚獣達のストレス解消の為の……玩具だよ』
その言葉をすぐには理解できなかった。
「…………は?」
『永遠に。そう永遠に、召喚獣達の負の感情を受け止める為にこの世界に連れてきたんだよ』
「い、いや……待て待て待て!」
俺は役目を果たせば元の世界に帰れるんじゃなかったのか!?
『じゃあ今度はしっかり伝えるね? 君には世界中の召喚獣と契約を結んで貰う。
で、その後は人間らしく死んで欲しい。
私が皆の目の前で君を復活させてあげたら、皆が私に感謝してもう負の感情を抱いたりしないよね』
俺の人権が一切考えられていない神の言葉は聞いていて不快感が込み上げてきた。
余りにも強過ぎて、その感覚だけで吐きそうだ。
「っ……!」
『そんな怖い顔しないで。ファーレイちゃんとかマァタナちゃん、可愛いと思うんだけど駄目? だったら、ご褒美に私が貴方の――』
「――黙れ! 誰がそんな事に協力なんてするか!!」
目の前の球体に拳を振るったが、すり抜けた。
『……まあ、こうなるよね』
「俺を元の世界に帰せ!」
『これで3(・)回目だし、やっぱり説明して協力させるのは無理だね』
「おい! 俺の話を――」
――突然球体から腕が伸びて俺の顔を小突いた。
それだけで、俺の体は後ろに倒れる。
『最終説得おーわり。今日の記憶は消しておく事にするよ。そしたらこれからも君の意思で、君の考えで旅を続けてくれるもんね?』
神の声が聞こえなくなると同時に、俺の眠りも覚めていき――
***
――目が覚めた俺はべっとりとした寝汗をかいていた。
「……気持ち悪いな」
そんな俺に、ファーレイがさっとタオルを手渡してくれた。
「何やらうなされていましたが、大丈夫ですか?」
「ああ……特に夢を見た覚えはないんだけどな……」
少し悩んだがこちらを見る彼女に心配をかけまいと顔を上げ、馬車を降りて水場で顔を洗った。
その後挨拶をした俺はファーレイに質問をした。
「……ファーレイ、もう薬の効果は切れた?」
「はい」
「悪かったな。でも俺、一度君には冷静になって貰いたくて……」
「ええ。コウジ様の御心は理解しております」
「マァタナやレイカーナにも後で使うつもりなんだけど……大丈夫かな?」
「えぇ、恐らく大丈夫です。コウジ様を困らせる彼女達には必要な罰かと」
「そっか……そこまで酷いなら、やめておこう」
効果を正確に把握していなかった俺からすると罰とまで言われては流石に使用するのは躊躇われる。昨日の淡泊な返事しか返ってこない旅路も居心地が悪かったし。
いつも通り出発の準備をして馬車を走らせた。
ファーレイは余り怒っていない様だけど、彼女は今までもコロコロと感情が変わる事が多かったから本当はどう思っているのかは分からない。
「……ん、なんだこれ?」
「? コウジ様、それは?」
馬車に揺られていると、俺は自分の腰掛けている場所に白い紙を見つけた。
こんな物があったら座る前には気付く筈なんだけど……そう思いながら紙をめくるとそこには見覚えのある文字でメッセージが書かれていた。
『神様だよ。
今回は調査が遅すぎる君にしておくべき情報を教えておくよ。
エスダムの国境を超える前の砦の石碑で緊急召喚を使えば、ある召喚獣を呼べるよ。
どう? ゲームの攻略情報みたいで面白いでしょう?
勿論、この情報は活かしてくれると信じてるよ?』
……この世界に来て、最初に牢屋で読んだ神様の手紙と同じ書体だった。
「神からの手紙か……」
「っ――神、ですか?」
ファーレイが苦虫を噛み潰した様な顔をした。
「どうやら、新しい召喚獣を仲間に引き入れろって事みたいだ」
こちとら既に3人でキャパオーバーなのに……
「コウジ様、どうなさるおつもりですか?」
「従うしかないだろ。
あの神、こういうのには後で首突っ込んで来そうだし……」
転生してからは一度もそんな事になってないのになんで俺は神の横槍を確信してるんだ? ……まあいいか。
「どちらにしろ砦には行くつもりだったから、良いんだけど」
「……コウジ様。私は誰よりも貴方をお慕いしています」
「ああ、ありがとう、ファーレイ」
やがて、国境の砦に到着した俺達は駐在しているエスダムの兵士達に神聖国の手紙を見せて、石碑へと案内された。
案内してくれた1人の兵士に説明を頼むと彼は手短にと言って説明をしてくれ。
「此処にはエスダムの独立の際に戦った英雄達の名前が刻まれています。
独立戦争には全員が剣の柄に星が収められた太陽の紋章を携えて、正しき者を勝利へと導くと言われる戦制霊様に祈ったとされています」
「この上にある紋章がそれですか」
どうやら彼は石碑に名を遺した英雄に尊敬しているようで、得意げな顔をした兵士を横目に石碑をざっくりと眺めてみる。
やはり、石碑と関連する戦制霊が来ると見て間違いなさそうだ。
砦の地下に入ったせいか少し寒い。
「よし。じゃあ、早速――緊急召喚!」
「え? あ、何を!?」
横にいる兵士さんには悪いけれど、時間が惜しいので召喚獣の正体に大体の目星が付いたので早速召喚させてもらおう。
足元に緑色の魔法陣が広がり、強い光を放った。
――そして、光が消えると女性1人が座り込んでいた。
「……」
「……君が、戦制霊?」
俺は、少し戸惑いながら目の前の精霊に質問をした。
彼女の緑色の髪はとても長く、前髪は左目を隠して顎より下に、後ろ髪は腰まで伸びている。
その服装は白いワンピース……の筈だが、所々焼けて穴が空いていたり汚れていたりと浮浪人の様な服装だ。背が高く、人間なら20歳前半位に見える。
「いえ、私は…刻敗霊です」
「刻敗霊?」
俺はファーレイへと首を動かして説明を求めた。
「刻敗霊とは戦いの敗北が刻まれた場所に宿っているは精霊です。敗北の中で散った無念を鎮める為に存在し、戦制霊とは月と太陽の様な関係にあります。召喚されない限り彼女達が出会う事はない、という事です」
「――そ、そんな筈がないっ!」
召喚した刻敗霊に対する理解を深めていると、突然案内していた兵士が声を上げた。
「英雄達は勝利した! だからこそ、この源剣国エスダムは建国している! 敗北など……!」
「……またぁ……?」
ようやく刻敗霊が呆れの含まれた第一声を放った。
「人間って、どうして都合の悪い結果から目を逸らすの? 死んだら負けでしょう?」
「そんな訳ない! 彼らは自由の為に立派に戦い、領土を勝ち取った!」
「勇初国“カラジョーゾ”の近くで魔王が蘇っていなければ、独立軍を鎮圧するのは時間の問題でしたでしょうね。そのタイミングが偶々最後の戦争と重なっただけ」
「それは天が彼らに――」
更なる反論を重ねようとした彼は、突然その場に倒れたがそんな事はどうでも良いとばかりに刻敗霊は近づいて俺の手を握った。
「ごめんなさい、つい熱が入ってしまって。決して召喚主を蔑ろにした訳ではないの」
「あ、別に良いんだけど……」
謝られた俺は兵士の無事を確認したかったのだが、恐らく今だとタイミングが悪いと思ったので口を閉じる事にした。
「早速で悪いのだけれど私と契約して頂けますか?」
「ああ、俺達はそれが目的だったし」
一度警戒心剥き出しのファーレイの方を見てから、俺は刻敗霊の目の前に手をやった。
彼女に親指を握られ、光が集まるとすぐに8個の黒い石が鎖で繋がれた指輪の様なアクセサリーが付けられていた。
「――これで、貴方と私は繋がった。ふふふ、良かった」
「俺は魔王の復活の秘密を暴く為の旅をしているんだ。
出来れば、君にも協力して欲しいんだけど」
「いや」
彼女の言葉を聞いて当然俺は戸惑ってしまった。
「え? でも、神に頼まれて――」
「――あんな神の言う事なんて聞かなくていいの。私はね、私を召喚してくれる誰かをずっと待っていたの」
彼女の思ってもいなかった発言に戸惑う俺の肩をファーレイが掴んで警告した。
「コウジ様、この者は危険です! 一度送還を――」
「――私の敵になるの?」
その一言でファーレイが床に倒れた。
「ファーレイ!?」
「こ、コウジ様……! その精霊は――」
「――敗者は黙っていて」
俺の指から勝手にファーレイの指輪が抜けて、刻敗霊の手へと移った。
契約の指輪が俺から離れた事で倒れたままのファーレイが送還された。
「っな、なんでこんな事を!?」
「…………」
「答えろ!」
「あ、ごめんなさい。ちょっと大変な作業をしていたから貴方に返事を返せるだけの余裕がなくて――もう大丈夫。何かしら?」
「……だから、なんでこんな事をしたんだ!?」
「貴方が欲しかったの。それ以外の全てが邪魔でしょうがないの」
彼女も他の精霊と同様俺に何か特別な感情を抱いているのか?
「私は言うなれば敗北の象徴。そんな私は誰にも召喚さえずに永遠に暗い場所にいると思っていたのに、貴方が私を救ってくれたの。英雄なの」
「俺は、神に選ばれただけだ。英雄視なんてしないでくれ」
「安心して。心配しなくていいの」
「貴方は私が守ってあげるから」
彼女の身勝手な言葉を聞いていると、段々、俺は心の何処かで彼女を見下し始めていた。
(ふざけるな)
(召喚したのは俺だ)
(俺の言う事を聞けばいいのに)
(……すぐ目の前にファーレイの指輪がある)
(隙だらけだ)
(こんな弱そうな精霊なら力づくでも――)
(――負けない)
「――この!」
全く根拠の無い確信だった。
だが気付けば彼女を両手で押し倒して、その手にあった指輪を奪い返していた。
「……え? な、なんで?」
拍子抜けする程あっさり指輪を取り戻せてしまい、疑問の声が口から洩れた。
「乱暴な人、なんですね」
「ご、ごめんっ! 怪我してない!?」
「ふふふ、変な人。先まで怒っていたのに」
取り戻した指輪を嵌めなおして、俺はもう一度ファーレイを召喚した。
「コウジ様、無事ですか!?」
「あ、ああ……」
「今のは、私の事をよく知って貰う為の唯の茶番です」
「……主に対して、こんな無礼が許されると思っているのですか?」
「ごめんなさい。私、刻敗霊なんて名前だから、ちゃんと自分の力を理解してもらえないと召喚してくれないと思って……」
「それで、君の力って?」
「私は敗北を操れるの。既に敗北している状況を早めたり、逆に遅くしたりも出来る。
先はその神聖霊の敗北を早めたから突然倒れたの。そんなに意外だった?」
「っ――!!」
ファーレイが怒ったのは直ぐに理解できたので、俺はそれを制して次の質問をした。
「ならなんで俺は俺は君から指輪を簡単に奪え返せたんだ?」
「だって、君に負けて欲しくないから。私がどんなに強くても貴方の手中に収まっていたいの」
そう言って彼女は俺の手を取った。
「私が貴方の敗北を全て遠ざけてあげる。代わりに、私の敗北は全部貴方の物」
そして、その手を自分の左胸に持ってきた。
「命さえも貴方の手の中だから、安心してね?」
彼女は自分の生死すら俺に譲り渡したのだと、屈託のない笑顔で告げたのだった。
「刻敗霊のペルケ。それが私の名前。殺した後でも覚えていて欲しいなぁ」
因みに、神が交治を説得したほかのタイミングは異世界に送る前と牢屋の中の1回です。今回同様記憶が消されているので当然覚えていませんが。




