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主の買い物

 昨日はこの町に来て、冒険者ギルドの依頼という異世界転移らしい事を漸くする事が出来た。


 ……思えば、この生活の始まりから最悪だった。


 神の横暴とも言える説明を受けてこの世界に送られ、唯一渡された召喚魔法で呼び出せた精霊は強いが、どいつもこいつも俺に重い愛を抱いている。


 だからギルドカードを作って依頼をこなして、自分の為に異世界気分を味わおう、そう思っていたが……レイカーナが強過ぎる。


 折角前もって情報を集めて対策やら準備をしてきたのに、結局1人で殆どの依頼を完遂された。

 勿論、モンスターを倒すとなれば俺は素人。そこは彼女に任せようとは思っていたが……


「召喚魔法使いってそんなに地力ないの?」


 ベッドの上で思わずそう漏らしてしまった。

 異世界に来ても俺に出来る事は増えてない。寧ろ、有能な仲間が増えて劣等感を感じてしまった。これがもし狼とか竜とかの見た目をしたモンスターなら喜んでいたかもしれないが、完全に女子の姿。男の威厳は粉々だ。


 ……いけない。ちょっと気分が沈んでしまった。


 レイカーナは結局2日で終わらせる筈だった依頼を全部こなして魔力切れになり送還。久しぶりの独りだったから心がざわついてるのかもしれない。


「さてと……町から出る準備をしよう」


 俺は買い物に繰り出す事にした。


 精霊は人間とは違い食べる必要はないし睡魔や怪我も少ない。つまり人間に必要な物かどうかは俺が判断して買うしかないのだ。

 しかし、この時間は俺の楽しみでもある。

 流石魔法も剣もあるファンタジー異世界と言うべきか。市場に行けば魔法のアイテムやらが売っているので見て回るだけで興味深い品々がある。

 大体が値段が高く、そして殆どあの3精霊に出来てしまうので必要ないんだけど。


「なんか、そう考えると俺の旅って自由な様で不自由だな。もっとも、あの3人に捨てられたらそれはそれで困るか」


 緊急魔法で精霊を召喚しても、もしコミュニケーションに失敗でもしたらあれだけ強かった精霊の力がこちらに向かってくるかもしれない。


 寒気を感じて、頭を振った。


「兎に角、今日中に此処を発とう」


 暗い事を考え過ぎたか。

 いや、多分今独りでいる時間の後にやってくるであろうあの精霊達との接触を想像して憂鬱になっているんだろう。


「そこのお兄さん」

「ん? 俺か?」


 小さな店を構えている普通のお婆さんに声を掛けられ振り返った。


「あんた、精霊に何か悪さをされているのかい?」

「分かるのか? まぁ、悪戯程度だけど」


 流石に神聖霊や暗黒霊と言っても信じてもらえないだろうから、濁して答えた。


「私は数年前までドラクラムで生活していたのさ」

「ドラクラム出身なのか。俺も少し前に寄らせてもらったよ」

「ふふふ、だからこうして人間相手に多種族に関する道具を売ってるいんだよ」


 少し売り物を見ると獣人族が作った薬だったり、竜人族の鱗で作られた防具なんかもある。ドラクラムでも何度か見たことがあり、確かあの国では職人に脱皮した時の皮や鱗を寄付していると聞いた事がある。


「精霊は、珍しい存在だけどドラクラムなら少なくない数の交流があるんだけど、他の国だと悪戯したり害を成す精霊もいるからね。ここではそういう薬も売っているんだよ」


「薬……」


 そう聞くとあまり良くない物を想像してしまう。


「大丈夫さ。これはねぇ――」


 お婆さんに勧められた商品はどれも俺に今までと違う時間を与えてくれそうな希望の品ばかりだった。その説明にうなずきながらギルドで稼いだ金で少し奮発するのだった。


***


「さあ、出発だ!」


 決して安くない通行税を払いつつ、レイカーナと共に馬車で町を離れた。


「よし。そろそろ交代しようか」

「分かってるよ。……また何かあったら、私を呼んでね! いっぱい役に立ってあげるから!」

「う、うん……」


 彼女の勢いに押されつつ返還し、代わりにファーレイを召喚した。


「召喚して頂きありがとうございます、コウジ様」

「うん、これからよろしく」


 そう言いつつ、片手は町の中で買った小瓶を握りしめていた。


「コウジ様、それは―—」


 ファーレイには俺の心を少しだけ読み取れる能力がある。もしかしたら、俺の買った物に気付いているかもしれない。


「ごめん、ファーレイ……!」


 だが迷っていたのでは現状は変わらない。俺は構わず蓋を開けて、その中の粉を摘まんで彼女に向って飛ばした。


「っ……こ、これは……?」

「ファーレイ、大丈夫か?」


 完全に緊張と期待感に後押しされ、その場の勢いでやらかしてしまった。もしこれで効果がなかったら……


「え、ええ……」


 ファーレイは悲しげに自分の胸に手を当ててから、手綱を掴みなおした。


「なんでしょう……突然、自分の中にあった炎に水をかけられ消されたみたいな……」

「これは精霊や妖精の様な、魔力によって体を構成している種族を落ち着かさせる粉薬だってお婆さんに言われた」


「……コウジ様」


 俺が小瓶を片手に説明をしてもまだ悲しげなファーレイは俺の手を握った。

 しかし、その手はすぐに離れた。


「私は、それでもコウジ様をお慕いしています」


 顔は赤くならない。興奮もしてない。

 正直、効果を説明された時は暴れる怪獣を大人しくさせるヒーローの技みたいな薬だと思っていたが、想像以上にファーレイに効いている。


「……もしかして悪い事しちゃったのか?」

「いえ、コウジ様のお手を煩わせて申し訳ありませんでした。このまま、一度反省させて頂きます」


 そういって馬を操る彼女は、別人の様な瞳で前を向いた。

 戸惑う俺は、まあでもこれならいいやと悲観していた状況ではなくなったと一息吐いた。


「これから向かう場所って――」

「砦、ですね」


 固さを感じる声で答えられた。


 ドラクラムとエスダムの国境には砦がなかった。それはドラクラムが外交に関心があり、エスダムがまだ独立したばかりの国であるのもそうなんだろうが、それ以上にエスダムと敵対関係にある国の存在があるからだ。


「でも、砦って通っていいのか?」

「下手に遠回りをして見つかればそちらの方が厄介です。サグラッドの手紙も効力がありますし、最悪実力行使で通させて頂きましょう」


 大人しくなった筈だが、そういう処は相変わらず物騒だな。

 不意に、あくびが出た。


「ふぁ……ごめん、寝ていいかな?」

「ええ、ごゆっくりお休み下さい」


 荷台に入り、俺は粗末な布団を取り出して寝っ転がった。

 ファーレイが薬の効果で落ち着いてくれたお陰で、ゆっくり寝れそうだ。


「……効果は一日だけだし……いいよなぁ……」


 買い物疲れに耐え切れず、俺は瞼を閉じた。


***


 コウジ様と淡々と話していた裏側で私は焦りを感じていた。


 消失感。酷く落ち着いた心の中は寧ろ焦燥感を絶えず増していた。


「コウジ様。コウジ様……私の、愛は?」


 涙は出ない。怒りもない。


 愛しの御人に触れたいという欲求はある。それ以上の事をしたいという願望もある筈なのにまるで水の中に落ちたガラスの様になくなっている。


「好きです。この体に呪いを刻んだ程に、求めている……」


 不安、不信。


 自分の心が信じられなくなってくる。


 だから答えを他人から得ようとコウジ様の心を見たのに、流れてきたのは少しの不安と安心感。

 これでいいのだと、他の誰でもないコウジ様が頷いてしまったのだ。


「これは、危ない」 


 そう思ってあの薬を抜き出そうとしたが……手が止まる。


「……あ」


 今まで、召喚獣としての縛りの多くを自分の魔力と意思で私は破いてきた。しかし、心が無理矢理鎮静化された私の意思では魔力を使って規則を破るだけの力を発揮しなかった。


「嘘……」


 伸ばせない腕。伸ばしても何も掴まない手。


 それは今まで私を閉じ込めていたあの暗い空間でも時間と重なった。


「違う、違う。私は外の世界にいる」


「私はコウジ様に召喚された」


 焦っているのに、口から出る声はひどく冷静なままだった。


「…………コウジ様」


 この胸に確かに宿っていた熱を懐かしいとまで思えてしまう。








(コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様コウジ様……コウジ様コウジ様コウジ様、コウジ様……)


「コウジ、様……」


 募る愛を幾ら思い出しても一向に燃え上がらない、揺らぎを忘れた思い。

 しかし、だからこそ現状をはっきり理解できる。


「ああ、そう……そうだったんですね」


 他の鬱陶しい精霊達を思い出しても怒りは沸いてこない。

 だから今だけは静かに、自分の過ちに気付ける。


「コウジ様の望み、今度こそ深く理解しました」


 確かに、最近の自分はあの2人に飲まれ品の無い言動を繰り返していた。

 それをコウジ様は望まれていなかったのだ。


 では、どの様にすれば良いのか。


「最初に出会ったのは私。夫婦の契りを結べる者は私だけ。コウジ様は最初から私だけを選んで下さっていたんですね」


 そう。今日の薬はコウジ様からのアピール。他の哀れな精霊達が傷付かない様にと、私にだけ与えてくださった……


「……愛の鞭」


 そうだ。そんな単語を、あの呪術師の本で読んだ。

 鞭だなんて痛みを与える道具で例えるなんてと思っていましたが、この切ない痛みはそう呼ばれるのに値する。


「やっぱり、私を愛してくれているんですね。コウジ様」


 そう思うと、完全に消火された筈の自分の胸の真ん中に再び熱を感じる事ができた。


「ああ……! 愛の鞭!」


 今なら本当に鞭に打たれても、私はあの方に笑顔でい続ける事が出来る。


「……ふふ」


 馬達が疲れた様で、馬車の速度が下がっている。


 寝ているコウジ様を起こすのは忍びないので、命令を待たずに私は近くの場所で彼らを休ませる事にした。


 そして、寝ている主様の耳元で囁いた。


「……私も、愛していますよコウジ様」


 これ以上は自制が利かなくなる。そう思ったけれど、しなければならない使命が時悪く私の目の前に課せられた。


「ジャッジメント・ブレス」


 逸る気持ちを抑えながら、その場を離れた私は代わりに魔法を近くまで来ていた魔物達に放った。


「ずっと御傍で御守りいたします。コウジ様」



感想や誤字報告等、お待ちしております。

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