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祖竜霊の悪癖

大変お待たせしました。3ヶ月も開けてしまい大変申し訳ありません。

これからも愛読頂けたら幸いです。

「――と言う訳で、ギルドカードを作って階級制限の無い緊急クエストを受けたんだけど……」


「その、この町を直ぐに去ると聞いてましたけど……」

「ごめん」


「無計画」

「本当にごめん」


 宿屋に戻った俺はファーレイとマァタナの前で頭を下げた。

 冒険者ギルドの前にあった依頼を見て、既に緊急依頼の中でも町の近くで済みそうな物を選んで受けてきた。

 カードには緊急依頼受注中の文字が書かれており、これを見せればあの門番も通行税を取る事は出来ないらしい。


「それに、町の外ならレイカーナ以外の2人を召喚しても問題ないし」

「――っ!」


「当然、戦うならより強い召喚獣の方が好ましい」

「私ならコウジ様を守りながら魔法で攻撃できます」

「うん」


 2人のやる気が目で見える。まあこうなると分かっていたし、逆にレイカーナが不穏な位に落ち込んでいるのが見て取れる。


「と言っても、依頼の数は多いから交代交代だ。レイカーナは接近でも戦えるし魔法の効かない相手とかいれば――」

「――いません。ですから、安心して私を使ってください」


「え? いやでも――」

「魔力は神の力の一端です。この世界にそれを遮る手段があっても完全に防ぐ方法は無いです。また勇者が攻めて来ても私だけで事足ります」


「冗談。光の魔力は闇に弱い」

「貴女程度の闇なら照らし尽すのは難しくありませんよ?」

「ええい! ストップストップ!」


 俺が止めないと話が進まなくなる。何で挑発に挑発を重ねるんだこの2人。


「じゃあ、依頼は明日から! 必要になったら呼ぶから、今日の所は誰かに見つかる前に帰ってもらうよ」


 半強制的に送還した。よし、取り敢えずレイカーナの機嫌をとってあげないと――


「――あれ?」


 いない。と思ったらすぐに見つけた。ベッドの上のかけ布団が、不自然に膨らんでいる。


(……随分可愛い拗ね方だな)


 そう思いながら近付きつつ布団を思いっきり引っ剥がそうと思って掴んだ瞬間、内側からその手を逆にがしりと掴まれた。


「え――ちょっ!?」


 まるで海の捕食者が餌に釣られた獲物を捕らえる様に素早く、布団の中へと俺を引き込んだ。


「――捕まえた」


 布団越しの手はいつの間にか放されており、代わりに両手が俺の体を抱きしめていた。


「あの、レイカーナさん? ふ、2人の言った事は、俺が代わりに謝るから――」

「へー……謝るんだ。私が、弱いって事は認めちゃうの?」


 光の入ってこない、直ぐ傍に顔があるが互いに視認出来ない空間の中。それでも彼女の瞳は一寸違わずこちらを見つめ、俺の心を見通そうとしている。

 しかし、確かに先の勇者との戦いで見た3人の力量で言えば彼女は弱いのだろうが、勇者も彼女達もこの世界では強者の分類に入るだろう。


「そんな事は無い」

「うん。そう言ってくれると思ってたよ。

 でもね、私は弱いの」


 彼女は俺を掴んだまま、彼女自身の話を始めた。


「祖竜霊ってね、竜としての強さと精霊としての強さを持っているけれど、別にそのどちらも極めた者じゃないの。竜の魔力を司る精霊になったから魔力を生み出して操る手段を持っているけど、竜としての成長はもう止まった。

 精霊の能力はあくまで世界に影響を与える魔力の制御。私が好き勝手に使う分はそんなに多くない。あの神聖霊は神から創造された純粋な精霊だから自分の意思で魔力を扱う事を神に許されているし、暗黒霊も魔力を与えるという都合上、制限なく使える」


「……」


「暗黒霊の魔力を受け取った時は自分の魔力が増えた事に昂っちゃったけど、落ち着いた今確認してみると微量だし……私、足手まといかな?」


「そんな事は無いよ」


 俺は慰める。彼女はへこんでいるが俺にとっては大事な仲間だ。他の2人と比べて変な暴走も少ないし是非ともこれからも一緒に居て欲しい。


「これからも、頼む」

「……えへへ、そんな真っ直ぐ言われると恥ずかしいな……」


 嬉しそうな声が聞こえ、嬉しそうな手がもっと強く体を抱きしめた。


「うん、うんうん! 私、これから頑張る!」

「ああ、お願いするよ……っ!」


 だ、段々背中に痛みが……! 


「任せて! 祖竜霊の力で、どんな敵も倒して見せるから!」

 ああ! 前が柔らかいけど、背中が! 背骨が!


***


 緊急依頼を受けた証を見せて、嫌な感じの門番達を驚かせながら門を通過した。今回は馬車ではなくレイカーナに掴まる形で馬に乗る事になった。


「――……」

「機嫌、良さそうだね」

「えへへ、勿論!」


 幸いにも、あの後ベッドから怪我なく脱出出来た。現在向かっている最初の緊急依頼は薬草採取だ。


「薬草と一緒に、その森に縄張りがある魔物の退治もする必要があるそうだ」

「任せて! 絶滅させてあげる!」

「いや、絶滅はしないでくれ……」


 元の世界で言えば魔物は害獣、猛獣の類である。幾ら人の暮らしの妨げになるといってもいなくなればどんな影響を及ぼすか分からない。


「ただ、薬草の要求数は結構多いな」


 依頼の紙に重さで書かれていた時は危ない草なんじゃないかと邪推してしまったが受付の人の説明だと回復薬の材料らしい。


「確かに、下位の薬の材料だけどこの数はちょっと個人では手に余るね」

「依頼人は騎士団とは書いてあるが……魔王との戦いに備えようって事なのか?」


 しかし、冒険者達には通行税や物価の上昇で町を出て行かれて依頼を遂行する奴が誰もいない。


「これ、俺が受けなかったらどうなってたんだ?」

「恐らく兵士にやらせるんじゃない? 人間の貴族って、貧しい者を使うのは当然見たいに考えているでしょう?」

「知らないけど、まあそういう奴が居てもおかしくはないのか……?」

「私が知っている貴族は大半がそんなんだった。魔王や勇者を前にしても、それは変わらなかったし」


 まあ、地球がベースになってればそんな感じなんだろう。


「兎に角、魔物を蹴散らしつつ薬草を集めよう。魔物の討伐数はギルドカードに倒した魔物の血を流せばいいんだよな?」

「うん、確か私が勇者と旅した時もそんな感じだったね」


 このシステム、普通に凄いんだけどそんなに前にもあったのか。

 感心しつつ森を進めば、やはり依頼が滞っていたせいか薬草は生えている場所には沢山生えていた。


「根を抜かず上の葉だけを採ればいいんだったな」

「うん。ゆっくり採ってて」


 そう言ったレイカーナが少し俺から離れた。魔物の接近を感じ取った様だ。


「俺、魔物は任せて採取してていい?」

「問題ないよ」


 駆け出したレイカーナを信じて、俺は近場の薬草の採取を始めた。

 なるべく枝を取らずに掴んで袋に入れていく。渡された袋を一杯にすれば大体50グラムになるそうだ。薬草の葉は元の世界でみたバジルより一回り程度大きいが、やはりこれだけで50グラムは大変な作業になりそうだ。


『――、――!』

「木々の後ろから断続的な獣の声が……まあ、大丈夫そうだな」


 ある程度取り終わり、少し離れた場所からも摘み始める。地道な作業を繰り返して汗を流していると森の中から右手に持ったカードを振りながらレイカーナがやってくる。


「倒してきたよー!」

「ああ、ありがとう」

「ざっと30!」


 まだ十分程度しか経っていた筈だが既に沢山倒してきた様だ。


「俺もそろそろ終わるから、もうちょっと待っててくれ」

「私も手伝おうか?」

「いや、これくらいはさせてくれ」


 幾ら自分と契約した精霊でも全部任せるのは悪いと思い、少しペースを上げて袋へ突っ込んで無言の時間が過ぎていく。


「……やっぱり、手伝おうか?」

「大丈夫!」


 レイカーナの助力を断って3分後、ようやく袋が一杯になった。


「ふぅ……終わった――」

「お疲れ様」


 後ろを振り返ると、そこには俺が一杯にした袋より一回り大きな薬草の山が2つ出来ていた。

 呆気に取られていると、彼女は笑顔で言ってきた。


「これで、もっと一杯報酬貰えるかな?」

「あ、うん、多分……」


 なんとかそう返した。正直、脱力してその場に倒れそうだった。


(俺の十数分……)


 レイカーナは祖竜霊だからと、自分を励ましながらなんとか彼女の顔を見る。


「じゃあ、次の依頼に行こっか」


 自分の存在意義を針で刺された様な気分の痛みを抱えつつ、次は森の中の湖へ移動する。


 水の中でのみ育つ花を4つ、その採取を邪魔するであろう魚の魔物を数匹討伐せよとの事だ。


「確か、この餌で誘ってその間に討伐と採取を――」

「はい、これでいいよね?」


 湖に到着して、依頼の準備をする俺を尻目にレイカーナは花4つと8匹程度の魔物を闇の魔力で掴んで持ってきた。


(……講習、受けてきたんだけどなぁ)


「次は……羽根だね」


 湖から移動し、鳥の魔物の生息地である山肌が見える場所に移動する。こいつらは目がいいので金属片で太陽光を反射させて巣のある場所に向けて――


「はい、20本で良いよね?」

「ですよねー」


 もう俺、いらねーじゃん。


***


 可愛いなぁ。

 思わず零れた笑みに、口元を隠した。


「よーし、次行くぞー」

「はーい!」


 やる気の無い号令に私は元気に返事をする。

 最初は純粋に、コウジの役に立つ為にはりきっているだけだった。だけど、私は気付いてしまった。


 コウジが、拗ねてる。


 宿屋にいた時は自分があんな感じだったかもしれない。あの時は本当にモヤモヤしていて、でもそんな私にコウジが声をかけてくれるのが嬉しいかった。


 だけど、今は愛しいのコウジが私の頑張りを見て、拗ねている。もしかしたら嫌われるかもしれないけど、少なくとも今は私の仕事の速さを見て泣きそうになってる。


「ちょっと休む? 必要ない……か」

「い、いや全然疲れてないから! ないから……」


 気を遣ってくれたのに、逆にバツが悪そうな顔をして逸らしてしまった。

 思えば、最初に出会った時に彼が恐れ慄く姿はちょっと面白かった。私は自分で思っている以上に意地悪な精霊なのかもしれない。


 だから、私はもっと頑張る。


 コウジの為に、そして私の新しい楽しみの為に。


「行こう。コウジ」

「うん……これで最後だ」


 その為なら、悪魔でも竜でも、魔王でも倒してあげよう。


 そうだ。次は倒した魔物の首だけ持って帰ろうかな? コウジ、もっと驚いてくれるかな?


感想、誤字報告等、お待ちしております。

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