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暗黒霊の監禁 

「……国境、出た」

「漸くだな」


 旅の準備を始めてから約2週間が掛かったが、俺達はドラクラムを抜けた。

 1日毎に召喚獣を交換すると約束して、今日はマァタナの日だった。

 彼女の日は馬車では無く足で移動するので大変だが、彼女達との約束を破って余計な問題を抱えない為にも仕方ないと我慢する事にした。


(……ファーレイが御者を教えてくれればよかったんだが、嫌がられたからなぁ)


 俺が色々出来る様になると自分が呼ばれなくなると思っているのだろうか? いや、確かにそれが頭の片隅にないといえば嘘になるけど。


「小さな村があるけど、まだ掛かる」

「よし、休憩したらもっと行こう」


 まだ元の世界から離れて1ヵ月も経っていないが、未練を感じる事が無いのは俺に迫ってくる3人のお陰だろうか。感謝は出来ないが、まぁ怪我の功名だと思っておこうか。


「コウジ、この旅で成長してる」

「ん? そうか?」


 飯を食べているとマァタナが珍しく俺を褒めてくれた。


「今なら魔王になれる」

「あーうん、それが狙いだよなぁ」


 マァタナはあの手この手で俺の体に魔力を流そうとするので、食事の時は特に警戒しないといけない。


「……出来た?」

「ああ」

「冷ましてあげる」


 そう言ってスープの入った茶碗に手を伸ばす彼女からスッと避ける。


「……何故?」

「3日前に水入れに魔力流したのは誰でしたかねぇ?」


「……もうしない」


「だったらなんで今両手を隠したんだ?」

「魔力漏れ、うっかり」

「うっかりで漏れる程度の実力だったら俺も苦労しないんだけどなぁ」


 本当に諦めない奴だ。だが出来ればもっと俺に関係無い事に執着して欲しいんだが。

 落ち着きの無い食事を摂った後は村を目指して再び歩き出す。


(明日はレイカーナか……)


「コウジ、他の女の事考えてる」

「そりゃそうだろ……3人揃って目の上のタンコブだからな」

「タンコブ?」


 翻訳スキルとか便利な力で異世界と日本語で会話が可能だが、偶にこんな風に首を傾げられる事がある。諺なんかは特にだ。まあ、表現が特殊だしこういう事もあるのだろう。


「タンコブってのは、体を何かに思いっきりぶつけた時に膨らんでできるコブの事だ。それが目の上に出来たら見えにくいだろ?」


「……つまり、私は邪魔?」


「……うーん、平たく言うと?」


 俺が遠慮がちに言った後、彼女は押し黙ってしまった。


「……あの、マァタナさん?」


「……」


 そして少し浮きながら俺の前をすーっと移動した彼女はそのまま前へ前へと移動して、急に止まり、急に移動を繰り返し始めた。


「何して――あ」


(もしかして、拗ねて俺から離れようとしたけど召喚者の俺から離れられる距離が限られているからあれ以上離れられないとか?)


 試しに制止してみるとマァタナは移動できずに戸惑い、こちらを無表情な顔で睨んできた。


(ま、まぁ……口は災いの元だな、反省しよう)


 と、今日が過ぎればなんとかなると思っていた俺だが、これは思った以上に長引く事になる。


***


「……えーっと」

「いいんです、私達が悪いんです……」


 次の日、指輪に戻ったマァタナ同様、昨日の俺の“目の上のタンコブ”を聞いたレイカーナは拗ねて昨日のマァタナ同様、距離を取った。

 馬車の上なので物理的には離れていないが、無言を貫いている。


(うむ……いやまあそりゃあ、態々召喚して助けて貰っているのに邪魔なんて言ったら怒るのは当たり前だよなぁ)


 一日経って自分の発言が保護されている側でありながら図々しい事に気付いた俺は何とか謝罪しようと会話を試みるが、レイカーナは自分達が悪い、の一点張りで聞き入れてくれない。

 村にはもう少しで着くらしい。


「そういえば、此処はドラクラムの近くだしレイカーナは村について何か知ってるか?」

「いえ……自分の国からは出られなかったので……ごめんなさい」

「そ、そこまでネガティブにならなくても……」


 ここまで来ると俺まで罪悪感で暗くなりそうだ。だが、出てくる魔物はちゃんと倒してくれているし、普段よりも高度の低い飛行と休憩を繰り返して旅を助けてくれている。


「村か……まぁ、ベッドで寝られる場所があればそれでいいけど」


 最近は快眠するには少々寝心地の良い環境ではなかったので、現代人の俺はベッドが恋しくて仕方なかった。


(……正直、今はこの頼りない無言の飛行が少々怖いけど)


「あ、そろそろ降りようかレイカーナ」

「……大丈夫。迷惑かけてる分、ちゃんと飛ぶから」


 俺の申し訳なさを加速させながら、この日の移動で俺達は村に着く事が出来た。


 どうやら国自体がドラクラムやサグラッドと比べると貧しいらしく、宿らしい宿は無かったが自警団の隊舎の一部屋を貸してくれるそうだ。


 結構空いているので金さえ払えば貸してくれるとの事だが、旅人である俺を監視する意味もあるらしい。とはいえ、あくまで村の安全の為であって余所者を嫌っている訳ではないらしい。食事に関しても食堂を利用してくれと案内された。まぁこうも警戒されるとレイカーナの村人に対する感情は余り良くないが、此処は抑えて貰おう。


「じゃあ、俺はもう寝るよ。明日は2人も呼んで出発の前に村を回ろうか」

「はい……おやすみなさい」

「お休み」


 何とかして機嫌を取る方法を考えようと思ったけど、旅の疲れと久しぶりのベッドの感触に俺はあっさりと眠りについた。


 翌日、何も考えずに俺は召喚を行った。


「あ、あの……」


『……』


 いかん。3人同時に呼んだのに誰も俺とまともに会話してくれない。


(そう言う約束だから誰か一人でも省いたら余計事態が悪化すると思って3人同時に召喚したけど……全員、表情暗いし)


 村には大した物も無かったので外の風景を楽しもうと散歩しているが、旅の中で魔物に出くわした時以上の緊張が俺に襲い掛かっている。

 最初こそ罪悪感があって俺が悪いと自分を責めていた俺も、此処までくると文句が言いたくなってくる。


「……あのさぁ、俺に邪魔って言われてそんなにショックか?」

「当然です。私を召喚してくださるのはコウジ様だけです。そんな方に迷惑な存在だと思われているのに、どうやって存在し続ければいいのでしょう……」

「私もです……祖竜霊だと民達には慕われ羨まれていたのに、まさか愛しの方にそんな風に扱われるなんて」


「……」


 マァタナは無言だ。


「俺が悪かったって。失言だったよ。俺には3人が必要だ」

「……そう、ですよね」

「うん、分かってるけど……暫く、放っておいて欲しいな」


 目で分かるほど沈んだ様子の3人。特にレイカーナは普段よりなんだか力が抜けている様に見える。


「しょうがないか……この調子だし、今日も村で厄介になるか」


 ため息交じりの散歩を終えた俺は村に戻り、自警団の所に戻ってお金を払って部屋に入って行った。



 ――だが、それは旅の終わりを意味するのだと、この時の俺は知る由も無かった。


***


 忌々しい他の精霊に悟られぬ様に私はコウジの元へと向かった。最も、精神的に参っているあの者共にはその心配も必要ないだろう。


 コウジの放った一言に傷付いた私は、契約の指輪越しにそれを聞いた神聖霊と祖竜霊の感情を察してそれらを利用する事にした。


 特に祖竜霊は私の力の一部を持っていて、コウジ魔王化の為にはその力はいずれ返してもらう必要があったので丁度いい。


「コウジ……コウジ」


 痛い。胸が痛い。彼の言葉は今も私の孤独を刺激し焦燥感を掻き立てる。このまま邪魔だと思われているままならば、私の心は砕けてしまう。


 自分の魂に罅が入った様だ。だから私は、私に出来る最高の祝福を彼に与えなくてはならない。

 ベッドに眠る彼を見て、その決意を再び固める。その為にこの村を私は利用する。邪魔なのはあの精霊共だが、契約の指輪を彼の指から外した。もういない。


 夜は暗黒霊である私の時間だ。特に、魔王誕生に大きな関わりのある負の感情に関しては時間こそかかるが私の思うがまま。


「さあ、恐怖を――此処に!」


 宿に帰って来た時、祖竜霊の姿を見た者達には緊張が走っていた。何故なら、彼らは隣の国を見守っている精霊だと知っていた。それがこんなチンケな村に来たのだ、警戒は当然。


「なら、後は――」


「――よ、よし寝ているな……! 皆、捕縛の準備はいいな!?」


 来た。暗闇に姿を隠した私には気付かずに彼らはコウジを捕縛するつもりだ。

 両手足を縛られて運ばれていく。その先は牢屋だろうか。


 ――ならば召喚獣として、主の危機を救わなければならない。


「――闇よ。消して」


 この瞬間、恐怖で慌てふためいていたであろう自警団の隊舎……だけでなく、村全体から声が無くなった。

 皆、夜の闇に飲み込まれたのだ。


 だけど、此処に1人だけ残っている……私の愛しい、永遠の魔王となるコウジが。


***


「マァタナ……?」

「ここにいる」


 俺の掌に彼女の物だと分かる小さな掌が重なった。目の前には、こちらを真っ直ぐ見つめる瞳がある。


「なぁ……俺は何時までこうしてれば良いんだ?」

「魔王になるまで」


 此処に閉じ込められてから何日が経過したのだろうか、それすらも俺には分からなかった。


 ただ、彼女から流れてくる魔力には恐怖を和らげる効果があるらしくそれを受け入れていると自然にこの牢屋の中にいる状態でも眠れるし、不安を感じたりしなくなる。


「……舌、出して」

「ん……」


 逆に、彼女はドンドン大胆な行動を取り始めている。どうやら、俺の魔力を吸いながら闇の魔力を送っているので受け取った彼女の性質は人間に近付いている様だ。


「コウジ……ぁあ、っん……」


 最初はこの牢屋にいる事や彼女に疑問と不満、そして怒りがあったが今では彼女の要求を受け入れて魔王になる事が最短の方法だと納得して半分既に諦めている。


「ん……っ、ん……ぁ」


 満足げに舌を離すマァタナ。その表情も、幼い外見には似合わない色を含んだモノを見せる様になってきた。


「コウジ、魔王になったら……私と子供、造ってくれる?」

「ファーレイみたいな事を言うんだな……痛い痛い痛い」

「他の女の話はしない」


 こうもはっきり嫉妬している彼女は本当に人間らしくなっていた。


「なぁ、魔王になるのってこんなに時間が掛かるのか?」

「分からない。人間の感情で魔王が誕生するけど、人間を魔王にしようとするのはコウジが初めて」

「そーですか。じゃあまだまだ掛かりそうだな」


「……」


 マァタナが急に黙った。またそれか。


「ねぇ、コウジ? 私、邪魔じゃない? 迷惑かけてる?」

「かけてない」

「本当?」

「ああ、だから早く出してくれ」


「……うん、コウジが魔王になったら、必ず出す」


 そうかい。そして俺の腹が鳴った。


「……飯くれ」

「うん。待ってて」


 彼女の用意するのは大体焼いた肉と俺が自作していたスープ。旅の途中に俺が作っているのは真似たらしい。もっとも、薄暗い牢屋の中で隠そうともしない程溢れ出ている闇の魔力のトッピングのせいでまるで見えないけど。


「早く、私の魔王になってね」

「おう、頂きます」


 マァタナの渡してきた料理を平らげる。その度に心の中で根拠のない確信が訴えてくる。

 魔王の覚醒は近い。これ以上は人ではなくなる。

 しかし、同時に魔力の影響で精神が変化している俺はこうも考える。


 ――それがどうした。


 魔王になれば力が手に入る。此処から出られる。

 そして、この女も俺に着いて来てくれる。ああ、そう考えると嬉しくて堪らない。

 どうやら、俺を侵食しているのは闇の魔力だけでは無いらしい。


「……コウジ、またイヤラシイ目で見てる」

「そうか?」


「……そう言うのは、魔王になるまで禁止」

「そうだな……」


 マァタナの愛が、俺の骨髄にまで行き渡るのは時間の問題だろう。 




***


「……夢、か?」


「コウジ、起きた」


 目を覚ますと、馬車の中でマァタナが声を掛けて来た。夢見が悪かったのか、汗が首元に溜まって気持ちが悪い。


「今日中に村に着く」

「分かった。じゃあ、レイカーナと交代だな」


 俺はそう言いながら、マァタナの頭を撫でた。


「ありがとうな、お陰で助かった」

「……タンコブ」

「昨日の事は本当に悪かった、ごめんな。でもやっぱり、こうやって旅の中でも熟睡出来るのはお前達のおかげだ。これからも、よろしくな?」

「……わかった。許してあげる」


 その言葉に、俺の心はストンとした安心感を感じた。


「今度、料理、教えて」


「え? マァタナが作ってくれるのか?」

「うん」


「分かった。約束だな?」

「うん。破ったら魔王になってもらう」

「罰則が重いって……」


 この後、何時もよりも召喚が遅いとレイカーナにへそを曲げられるのは、また別の話。


※最終回ではありません。


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