勇者の沈静
最近、LOLのチームファイトタクティクスに嵌ってしまいました。執筆する為にも、ほどほどにしないといけませんね。
「子供を……成せる?」
「実体を持とうと精霊の体では種族の違いで人間の子は産めませんが、私は既にコウジ様の為にこの体を呪いにより最適化しております。
最初に召喚され契約したのも私ですし、コウジ様の正妻として私が最も相応しい者だと自負しています」
ファーレイは自信満々に喋りながらも、勇者へと向けた腕から光の魔法を止めどなく放って攻撃を続けている。
「笑止。コウジは緊急召喚で召喚を行う。順番に意味なんてない。それに、私は魔力をコウジに与えた。彼が私と同じ闇を司る存在になるのは時間の問題」
マァタナは反論しつつ、激しい光と砂塵から守る為に自分と俺とレイカーナの前に薄暗い壁を張ってくれた。よく見ると俺の隣にいるレイカーナの前で壁が薄くなっている気がする。
「なら、緊急召喚じゃなくて出会ってその場で契約した私が彼の僧侶に相応しいんじゃない? それに、闇の魔力なら私が貰ったし」
「ボロボロの姿で見苦しいですよ?」
「勝手に奪っておいてぬけぬけと」
新顔に厳しい言葉を浴びせるが、彼女達の表情は嫉妬している様にも思える。
「……ふぅ、もういいでしょうか?」
ファーレイは魔法の連射を止めた。
すっかり忘れていたがアレだけの連撃を受けて、砂塵の先の勇者は無事だろうか?
「そもそも、何で勇者が俺達を襲うんだ? 魔族が意識をって言ってたけど……」
俺の疑問にマァタナが答えた。
「魔族は魔王の魔力と、負の感情で生み出された生命体。その中には生物の意識に干渉する者もいる。今、勇者の体は魔族が奪って……いや、多分魔族の存在はもう殆ど残っていない。だけど、僅かに残った意識が勇者の力を暴走させている」
「あと数時間放って置けば勇者も目を覚ますでしょうが、その間の周りの被害は計り知れないでしょうね」
ファーレイが軽く言うが、それじゃあ不味いだろ。
「だから……戦って魔力を外からぶつける! これならもっと早く勇者も目を覚ます筈……!」
つまり、今の説明で分かった事はあれだけの攻撃を受けてもいまだに勇者は健在だという事だ。
砂塵が晴れて、光の無い瞳がもう一度見えた。
服はこちらの世界の物と元の世界の制服を合わせた物の様で、鉄製の胸当てや篭手、足当てをブレザーの上に着用している。アニメや漫画のキャラのコスプレに見えなくもない姿だが、なんとなく彼女が元の世界に戻ると決めているからこその装備にも思える。
耳の下に切り揃えられたショートボブは黒く可愛らしいが、今はその強さと度重なる攻撃による汚れも相まってその魅力が半減している。
「加減はしましたが、まだ目覚めませんか」
「光と光では大した影響はない。私の援護に撤するべき」
「コウジ様の前で良い恰好がしたいのですか? 背伸びをし過ぎると転びますよ?」
あの2人、このタイミングで喧嘩してるのか……?
「闇の魔力なら私にもある。今度こそ……!」
3人の作戦も決まらぬ内に、勇者は戦闘に備え終わっている。見ればその手には先まで抜いていなかった聖剣を握っている。
「ヴァルキリー・ウィンド!」
突然白銀の翼を背中に生やしてこちらに真っ直ぐ突っ込んできた。
俺は慌てて横へと走って直線状を避けた。
他の3人も同様に躱すが、一瞬で接近を許してしまった。
「だけど、この距離なら――!」
マァタナの闇が8本の槍となって勇者へ飛来する。しかし――
「――聖剣よ」
聖剣を翳すだけで彼女の闇は先端から消え失せた。
「っく、魔王を殺す為の聖剣……!」
「っ!」
障害となる闇を払った勇者はマァタナを最初のターゲットに定めたか、翼による高速移動で近づいて彼女を切り裂こうと剣を振るう。
「無駄」
だが、振られた剣が切ったのは闇、そこにあったマァタナの姿は勇者の後ろへと移動している。
「私は暗黒霊。聖剣の輝き程度では切れない」
勇者は直ぐに剣を翳して再び光を浴びせようとするが、マァタナは直ぐにそばを離れた。
切られないが、あの光を直に浴びるのは危険らしい。
「竜首の影!」
弱点を突く為にレイカーナは闇の魔力で攻撃するが、一度破れた技は効かないとばかりに剣の光だけでそれを払った。
(不味いな……聖剣を抜いただけなのに、あの3人が押されている)
俺は勇者の力を漸くこの目で理解できた。これが、元の世界とこの世界の歴史の差、と言う奴なのだろうか。
此処に来て1週間程度の知識ではあるが、俺の召喚した彼女達はこの世界でも上から数えた方が速い程の実力者の筈だが、本来は唯の女子高生でしかない勇者がそれを悠々と超えている。
「ジャッジメント・ブレス!」
「セイグリット・ガード!」
先まで喰らっていたファーレイの魔法攻撃にも軽々と対処している。暴走しながらも戦い方を変化させているのか。
「今だ! 竜爪の影!」
「闇よ」
だが、それと同時にこちらの拙さも分かってきた。マァタナとレイカーナの攻撃が同時に同じ方向から飛んできたので、聖剣はその全ての闇を輝きだけで消し去っている。
(連携が、足りない……!)
「3人共――っ!」
駄目だ。暴走状態とはいえ、言葉にすればあの勇者にも伝わる。
一度呼び戻そうにも、流石にあれだけ詰められている状態では駄目だ。
(だったら、俺が見切るしかない)
ファーレイ達の戦いを目を凝らしてよく見る。
「――」
またしても光魔法。だが、今回は躱され、その先にいた2人も咄嗟に躱した。だが、そのせいでマァタナの背後に隙が出来てしまう。
聖剣が今度こそ必殺だと強く輝きながら、迫る。
「っく――!?」
俺は咄嗟に叫んだ。
「――マァタナ、しゃがめ!」
召喚獣は俺の命令に従う。マァタナは即座にしゃがみ、聖剣による横一閃は空を切った。
必中の筈だった一撃が外れ、晒した隙は見逃さない。
「レイカーナ!」
「竜首の影!」
遂にレイカーナの闇魔法が勇者に命中した。
「――っぐ!」
だが、聖剣を振り回すその瞳には依然として光が無い。まだ暴走している。
俺は上空に浮かぶ彼女を呼んだ。
「ファーレイ!」
「ジャッジメント・ブレス!」
「そのまま抑えろ!」
魔法の知識が無いのでそんな事が出来るかは分からないが、魔法の盾で光の流れを防いだ勇者の動きは止まった。その場所はマァタナの射程距離だ。
「マァ――」
「もう、やった」
煙状の闇が、勇者を包んだ。
***
「大丈夫ですか?」
「う、うぅん……ちょっと、疲れてるけど、大丈夫」
闇の魔力で暴走の源と化していた光の魔力を緩和した事で女子高生は目覚めた。
「えーっと、何があったかとか、覚えてる?」
「断片的にだけど、魔法をぶっ放したり、剣を振り回したりとかは覚えてるかな……」
彼女はちょっと顔を上げて俺を見て再び俯いている。迷惑をかけたと、責任を感じているのだろうか。
「はぁ……えーっと、取り敢えず、止めてくれて、ありがとう……で良いのかしら?」
「いや、止めたのは俺じゃなくてこの3人だけど」
「いえいえ、召喚獣の手柄は召喚した主であるコウジ様の物です」
「指示は、悪くなかった」
「私はちょっと謝ってほしいかな? ボロボロになっちゃったし」
「あ、すいません!」
慌てた様子で勇者は回復魔法を俺達全員にかけた。擦り傷も、血が出る程の怪我も、そして先の戦いで破れた服すらも治せた。
「……あれだけ暴れて、こんな魔法を惜しげもなく使える辺り、やっぱり勇者は化け物だね」
「あの、そろそろ1つ聞いていいですか?」
「ああ、俺も質問したかった所だ」
取り敢えず俺と彼女は自分達の立場をお互いに説明した。しかし、俺より少しだけ早くこの世界に召喚されたらしくあまり詳しくない様だ。
だが、彼女の方は俺の存在に何か期待がある様だ。
「えっと、じゃあ貴方はこの世界に魔王を倒す為じゃなくて再発防止の為に呼ばれたって事?」
「そうなるかな」
「じゃあ、私と一緒に行かない? この世界の兵士達だと魔族に対抗できないし、目的がそれなら魔王と直接戦えば何か分かるかもしれないでしょ?」
確かにそれは良いかもしれない。
魔王の強さも分からないので慎重に行こうと思っていたが、天敵である勇者がいるなら一緒に行くのもありか。
(女の子の召喚獣を侍らせているのがちょっと嫌だけど、久しぶりの日本人を見てなんだかホッとできるし、流石にあんな暴走して何も返せませんじゃ申し訳ないしね)
「じゃあ一緒に――」
「――コウジ様」
俺の言葉を遮る様にファーレイが口を開いた。
「少し、留意して欲しい事が御座います」
「何?」
「今回の様に再び勇者の力を暴走させようと魔族が攻撃してきた際に、それに唯一対抗できる私達が近くにいると少々危険かと……」
「どうして? むしろ安全じゃないの?」
「いえ、もし勇者様とコウジ様、2人が同時に暴走する様な事態に陥れば、このテハボーラの中の最大戦力が一時的にでも守るべき生命に牙を剥く事になると愚考します」
「そうなれば、国位なら滅びる」
「私達も、コウジに命令されたら止める間もなく味方になっちゃうし」
なるほど。確かに、そうなってしまえばそれこそ世界の危機か。
「ですので、勇者様はまず精神攻撃への耐性を獲得すべきかと。水の最高位精霊にお会いすべきでしょう」
「それまで私達との接触、厳禁」
それを聞いた勇者、否、綾田さんは少し悲しそうな笑顔を浮かべて頷いた。
「うん。分かった。交冶さんの帰れる条件は私とは違うしね。
それじゃあ、最終決戦には探して呼ぶよ。本当にありがとう」
「ああ。また絶対会おう。助けが必要になったら絶対行くよ」
彼女は左右を見渡した。
「所で、私は何処に行けば?」
「任せて。ドラクラムなら私が案内出来るわ……あ」
レイカーナが小さく声を出してこちらを見た。そうか、俺が近くにいないといけないか。
「……途中まで送るよ」
「お願いします……」
別れの雰囲気だったのに結局見送りをする事になり、2人して少々恥ずかしくなりながらも綾田さんをドラクラムの境界まで連れて行ったのだった。
他愛の無い、しかし最早遠くなってしまった日本での思い出を語りながら。
***
ドラクラムにある宿への帰り道。特に問題は――発生していた。
「コウジ様、漸くゆっくりお話しできますね」
「私を召喚しなかった理由、答えて」
「ちょっと先の勇者にデレデレしてませんでしたか? 私とデートした時も、あんなに楽しそうにしていませんでしたよね?」
現在進行形で3人の精霊に詰め寄られている。
「えーっとね……」
俺は一度言うべき事を頭の中のまとめてから、先ずは彼女達の質問に答える事にした。最悪、命令すれば危害は加えないだろう。
「まずは、マァタナ」
「うん」
「急に消えたのはマァタナだよな?」
「……うん」
「それにあの時俺の体に渡された魔力の影響か、思考も色々とおかしな状況で山を登ってた先でレイカーナに出会ったんだ」
それにファーレイが挙手をして訪ねて来た。
「ですが、宿を確保した時点で私を召喚すべきだったのでは? 今回は急に戦闘に呼び出されて連携もままならなかったですし」
(真っ先に連携を取らせなかったのはファーレイじゃ?)
「ええ、すいません。召喚された先でコウジ様をお守りできない程度の力の祖竜霊が居たのでつい……」
「あ、俺の思考が読めるんだったな」
「ええ」
何故かファーレイはチラリと他の2人を見た。いや、明らかに挑発している。
「……そんで、出来ればその、綾田さんとの会話については許してくれ。似た様な境遇の日本人だったから俺は――」
「――コウジ、謝らなくていいから」
レイカーナがそう言って笑顔で微笑んだ。
「先の冗談だから、ね?」
「あ、そ、そうなのか?」
「うん、もう二度とあの女の話はしないでね?」
ちょっと待て。今の言葉はなんか棘があったぞ。
「これからは、そうだな……やっぱり3人同時召喚での旅は流石に無理だと思うんだ」
「何故? 貴方の王道に他の精霊が邪魔なのは同意だけど」
マァタナの発言にも棘が見え、苦笑しながら続けた。
「単純に、目立つからだ」
ファーレイは鎧姿で、しかも子供が産める様になってからは露出も多い。
マァタナは子供の様な身長で大人びたドレスだ。
レイカーナは……ギリシャっぽい服で他の2人より地味ではあるかもしれないが、2人と共通して容姿が優れている。
「流石にそこに大した特徴も無い俺がいると違和感があるだろ?」
「そんな事はないですよ?」
「魔王の風格は、備わっている」
「うん、全然問題ない」
なんでそこだけ同意見なんだよ。3人の俺推しが怖い。
「取り敢えず、これからは交代制で行こう。1日毎にファーレイ、マァタナ、レイカーナの順番で召喚する。もし力が必要になったら他の2人も召喚させて貰う。それでいいか?」
「交代制……か」
どうも3人共、特にレイカーナが不満そうだが。
「でも、ドラクラムの時は私がいた方が都合が良いでしょう? 他の2人だって、まさか我が儘を言ってコウジの足を引っ張ったりしなたくないよね?」
「いや、此処はお詫びも込めて明日は2人もドラクラムを楽しんでもらう。その後にレイカーナと一緒に旅の準備を進めればいいだろ?」
「別に、国や街に興味は無い」
「そう言わずに、な?」
正直、ファーレイとマァタナが何をしてくるのか分からないのでマジで1日での交代にしたい。今のレイカーナも似た様なもんだし。
「私はこの身の全てをコウジ様に捧げたい。そう思って行動しているだけです。コウジ様に会えるのであれば交代制であっても構いませんし、私の行動が不快であれば正しますのでどうかお傍に……」
思考が読めるファーレイはどうやら俺の疑いを晴らそうと謝ってくれる様だが、彼女の行動に一貫しているのが俺に対する忠誠心だけなのでそれを改めて誓われても……
「コウジは私を怪しんでいる?」
「出来れば、魔王の情報を教えてくれ」
「知らない」
やはり話してくれないか。
「ねぇ? やっぱり、私より扱いやすい召喚獣なんていないでしょ?」
君も中々やべぇ奴になってると思うよ。
「……あ、今日の部屋どうしよう……」
「この2人は不要、即刻送還すべき」
「魔力を勝手に他人譲渡する暗黒霊さんはお帰り下さい」
「子供なんて作ったら旅の邪魔ですよ?」
俺は思わず頭を押さえながらも、この3人が全員揃っているのが一番安全なんじゃないかと思った。
「……よし、3人部屋と1人部屋を用意して貰おう」
感想や誤字報告等、お待ちしております。励みになりますので是非。




