速さの時代
宇宙旅行が当たり前となった時代、光よりも速く目的地に着く技術が開発された。ワープである。目的地に一瞬にして到着するワープ機能はどの宇宙船にも備え付けられ、人々はワープによって月や火星、他の惑星や銀河に出掛けていった。
ワープ機能は宇宙船のみにとどまらず、もっと身近な生活にも活用された。通勤に使う車や電車、通学の自転車、果ては出前のおかもちにまで付けられた。
ワープ機能の普及は、移動という無駄な時間をこの世から完全に排除したのだった。
ある男が、通勤で使う自家用車に乗り込んだ。目的地を設定し、さっそくワープボタンを押すが、車はうんともすんとも動かない。
「参ったな、ワープ機能が故障してしまったらしい。これは久しぶりに歩いて行くしかないようだ」
仕方なく車から降りた男は、ワープ機能の普及で整備する必要のなくなった、草木が鬱蒼と生い茂る道をゆっくりと歩いていった。