家選び
人魚のことはひとまず置いておいて、俺が住む家を選ぶことになった。
ひとまず置いておくには気になって仕方ないが、明日になればイヤでもわかることなので気にしないようにしておこう。
村にある空き家は6軒。全て以前は誰かが住んでいた中古物件だそうだ。
昔は多いときには30軒以上の家が建っていたそうだが、古くなった家は取り壊されたらしい。
村長から「なんでしたらドワーフを呼んで新しい家を建てましょうか?」と言われたが、さすがにそれは遠慮した。
果樹園から出て一番近くにある家がホールドさんの住居らしい。
そのホールドさんの家から少し南に行ったところにある家が空いているらしいので中を見てみた。
「あたしはこの家が一番オススメ!」
ピュティが妙にこの家をプッシュしている。
「オススメの理由は?」
「村で2番目に大きいから、かくれんぼしたら楽しそう!」
「それなら一番大きい村長の家ですれば良いんじゃない?」
「前にやってたらウルサイって怒られたの!」
「ですよねー」
その後も近い家から順番に見ていくが、どの家も2階建てだ。
全ての家の共通点として、1階部分は地面がむき出しとなっていて靴を履いたまま歩くのに、2階部分は土足禁止となっていて階段下などで靴を脱ぐようになっていた。
中には1階の何割かだけが土足のままとなっている家もある。
そういえばルーティの家はキッチンとダイニングだけが土足になっていた。
「わたくしの一番のオススメはここです」
村長のオススメは村長邸のすぐ隣に建っている家だそうだ。
「何か理由があるんですか?」
「村の中央に位置しているのでどこに行くにしても便利ですよ」
「なるほど」
確かに立地条件は悪くないと思う。
「それに隣の家ならモーションもかけやすいですしね」
「何か言いました?」
「いえ、言ってませんよ」
村長が小声で何か言ったような気がしたけど気のせいか。
妖精の誰かかな?
「この家が最後ですね」
最後の家はルーティの家の隣だった。
ルーティが引き戸になっている玄関扉を開けてくれたので中に入る。
「この家に決めた!」
俺は中に入った瞬間に叫んでいた。
なぜならこの家、入ってすぐの所で靴を脱ぐように造られている。
つまり、完全に土足厳禁の家だ!
「そんな! レン様、お考え直しを! ほら、ルーティもレン様を止めて!」
「いあいあ、だから私に言われても困りますって」
村長になぜか引き止められたが気にせずに靴を脱いで家に上がる。
内装も日本家屋に近い造りで、畳のようなモノが敷いてある部屋もある。畳みのようなというか、畳ではなかろうか、コレ。イ草ではないようだが。
「わーい、手が真っ黒になるー!」
「あっ、こら! ピュティ、止めなさい! というか出てきなさい!」
ピュティが階段に積もっていた埃を拭って遊び、それをルーティが玄関から叱っていた。
廊下にも埃が積もっていたようで俺とピュティの足跡が付いている。
埃っぽいしピュティを連れて一度外に出よう。
「うん、やっぱりここにするよ。あー、でも住む前に掃除をしないと……」
時刻はすでに夕方である。掃除をしないと住めないが、今から掃除をするのは無理だろう。
「私もそろそろお夕飯の支度をしないといけませんし、明日やりましょうか」
「手伝ってくれるの?」
「そのつもりですけど?」
「何から何まで世話になって申し訳ないなぁ……」
何かお礼にできることを探さないと。
「レン様、わたくしもお手伝いいたします!」
「えっ、村長まで手伝ってくれるんですか?」
「はい、お任せください!」
村長が鼻息も荒く手伝いを主張してくれる。
ありがたいけど、村長って掃除が苦手そうなイメージがする。
「でもそれだと今日は寝る所に困りますね。ウチに泊まりますか?」
「ちょおおおっと、こっちへ来なさいルーティ!」
俺が何かを言う前にルーティが村長に拉致られて連れ去られて行く。
しばらく2人で喋った後で戻ってきた。
「レンさん、今日はウチに泊まってください」
あれ? 疑問系じゃなくなってる。
ルーティは少し疲れた顔をして、村長は逆にニコニコとしている。
何を話していたんだろう。
しかしルーティの家にお泊りか。
これは大人なお誘いではなく善意から言ってくれているのは間違いない。
俺も今日は疲れているからそんな気分にはならないだろうし、ピュティもいるから大丈夫だろう。
なによりせっかく俺のことを信用して泊めてあげると言ってくれているのに、その気持ちを裏切るわけにもいかない。
よし、普通に寝るだけだ。それなら問題ない。
「じゃあ、せっかくだしお世話になろうかな」
再びルーティの家にやって来た。
俺のお泊りが決まるとピュティは大喜びをして、村長は準備がありますからと帰って行った。
準備ってことは晩ご飯の準備か。村長って料理できるのかな?
いや、かなり長生きみたいだし、料理ぐらいはできて当たり前か。
「ピュティ、私は夕飯を作るからその間にお湯で身体を拭いてきなさい」
「えーっ、そんなの後でいいよー」
「ダメよ。さっき埃まみれになってたじゃない」
「ぶーっ! めんどくさーい!」
頬を膨らませたピュティと目が合った。
「そうだ! お兄ちゃんがあたしの身体拭いて!」
「こーら! お客様にそんなことさせないの」
「えー、いいじゃんそれくらいー! お兄ちゃん、いいよねー?」
「というか身体を拭くぐらいなら風呂に入った方が早いんじゃない?」
俺がそう言うとルーティが困ったような顔をする。
「すみません。この村ではお風呂は特別な日ぐらいにしか入らないんですよ」
「えっ? なんでまた」
「お風呂を沸かそうと思ったら薪が沢山必要になるからです。この辺りは冬になっても寒くはならないので暖炉用の薪の備蓄は必要ありませんけど、さすがに無駄使いをするわけにもいきませんから」
「あー、なるほど。ごめん、俺が前に住んでたところは簡単に風呂に入れてたから……」
「聞いたことがあります。都会の方になると魔法でお湯を沸かすらしいですね。でもこの村には火魔法を使える人はいなくて……」
都会だと魔法でお湯を沸かしてるのか。
ん? 魔法じゃなくても、俺ならスキルでお湯を沸かせるよな。
「ルーティ、この家に風呂場はあるんだよね?」
「それはもちろんありますよ」
「ちょっと見せてもらっても良いかな?」
「はい? それは構いませんけど……?」
ルーティに案内されて風呂場に行く。
浴室を見せてもらうと、昼に見た妖精3人衆が湯船に水を張って遊んでいた。
台所もそうだったが、どうやら風呂場も日本と同じように蛇口から水が出てくるようだ。上水と下水もあるようだし、どうなっているんだろう?
まぁそのことはまた今度聞けばいいか。今はそれよりも……。
「キミら、何してるの?」
「泉の精霊ごっこー!」
「あたちが王子様の役ー!」
「アタイは王女様ー!」
なるほど、わからん。
「いいの、あれ?」
「勝手にウチで遊ばれるのはいつものことですし、水は水源が豊富なので大目にみてます」
ルーティに聞いてみたら、苦笑が返ってきた。
って、水が張ってあるのは好都合だ。
「遊んでるとこ悪いけど、念のためちょっと離れててくれないかな」
妖精達に場所を開けてもらい、右手を湯船の水に浸す。
【水の領域】発動。水よ、お湯になれと念じる。
温度は……、うん、42℃にしよう。42℃のお湯になれ。
時間にして10秒ほどだろうか。湯船から湯気が立ち上りだした。
やはり水に触れた状態のほうが操作効率が良いようだ。
左手で温度を確かめてみると、丁度良い湯加減になっていた。
「よし。ルーティ、風呂が沸いたよ」
「えっ!? ほ、本当です! お湯になってます!」
「おおおーっ! お風呂だー!」
後ろから見ていたルーティ達が湯船に手を浸してから驚いていた。
「これ、どうやったんですか!?」
「ああ、俺はスキルで水をお湯にできるんだよ」
「うわぁ、それは凄いですね! いつでもお風呂に入れるじゃないですか!」
ルーティが凄く嬉しそうだ。風呂が好きなんだろう。
家の中とか見ればわかるけど、キレイ好きな女の子のようだし。
「あたし、お風呂入るー!」
ピュティが脱衣所で颯爽と服を脱ぎだした。
ふっ、戦闘力たったの55か。さすがにピクリとも反応しない。
「あたちもー!」
妖精達も一緒にお風呂に入ると言いながら服を脱ぎ出した。
背丈が常人と同じならルーティぐらいの戦闘力だったかもしれないが、人形の裸を見ている気分でピクリとも反応しない。
……嘘です。正直に言うと少しだけ反応しました。
「うわーい! ザブーン!」
「ひゃあああーっ!」
ピュティが勢いよく湯船に突撃して水飛沫が脱衣所まで飛んで来た。
湯船から溢れたお湯に妖精の1人が流されている。
「もう。湯船に飛び込まないの。あと先に身体を洗いなさい」
「はーい。それよりもお兄ちゃんとお姉ちゃんも早く入ろうよ!」
とても魅力的な提案だが、今日はルーティに色目を使わないと心に誓っている。
俺、ちゃんと我慢できる子。
「ルーティ、俺のことは気にせずにピュティと一緒に入ると良いよ」
「えっ、でも……。う~ん……」
「大丈夫。絶対に覗いたりしないから」
「あはは、その心配はしてませんよ。でも、そこまで言ってくれるのなら先にお湯をいただいちゃいますね」
ルーティはコーヒーのような飲み物を淹れてくれてから風呂へ行った。
ダイニングの椅子に座ってそれを飲みつつまったりしていると、風呂場からピュティと妖精達に混じってルーティのはしゃぐ声まで聞こえてくる。
これは出てくるまでにかなり時間がかかりそうだ。
でもそれなら丁度良い。天使のヤツにいろいろと聞きたいことがあったから1人になりたかったのだ。
アイツが素直にこちらの呼び出しに応じてくれればいいけど……。




