村長に挨拶
村内には12軒の家があるが、半数は空き家らしい。
村長の家は村の中央にある一番大きい家だとルーティに案内される。
ピュティと妖精3人は待つのが苦手らしく、家を飛び出した後そのまま村中に噂を広めに行ってしまった。あれが若さか。
ルーティと歩いていると噂を聞きつけた妖精が5人やってきた。
肩の上に乗るのは構わないけど、頭の上に乗って髪を引っ張るのは止めてくれないかな?
ルーティも注意してくれないし。
「着きました、ここが村長さんのお家ですよ。確認してきますのでレンさんは少し待っていてくださいね」
ルーティが村長邸の玄関扉をノックしてから中に入っていく。妖精2人がその後ろに付いて行った。
残った妖精に髪を弄られながら待っていると、5分もかからずにルーティが戻って来る。
「レンさん、どうぞ」
ルーティの案内で村長邸の一室に通された。お城の謁見の間を小さな村サイズにしたような部屋だ。
その部屋の奥に少しゴージャスな椅子が置いてあり、二十歳ぐらいの女性が座っている。そしてその周りを4人の妖精が飛んでいた。
この女性が村長なのか。村長というぐらいだからしわくちゃのお爺さんを想像していたのに、良い意味で裏切られた。
村長は遠目からでもわかるぐらいの美人だ。服装は質素なドレスのようなものを着ているのに、思わず傅いてしまうような気品に溢れている。
それとむちゃくちゃ胸がデカい。本当にデカい。ルーティの戦闘力は目算で79だが、村長の戦闘力は92、いや93、94、95……まだ上がるだと!?
服の上からでは多少わかりにくいが、3桁超えかもしれない。これは俺のスカウターでは測りきれない……!
「ようこそお越しくださいました。貴方がこの村に移住を希望されている方ですね」
村長が鈴を転がすような声で俺に問いかける。
「は、はい。レン・ミズモリです」
「あら……? 貴方は今、ご自身の名前に嘘を吐きましたね? わたくしはなんとなくですけど他人が嘘を吐くとわかるのです。名前を偽るのは感心しませんよ」
うわ、マジか。このまま改名しようと思っていたのに。
いや待て。もしかしたら村長なら俺の名前を聞いても笑わないんじゃないか?
この優雅な雰囲気はそんな気にさせてくれる。
そうだな、せっかく両親に付けてもらった名前だ。堂々と名乗るとしよう。
「すみません。レンタロウ・ミズモリです。よろしくお願いします」
「ぶふーっ! キ、キラキラネーム……、くふっ。ちょ、これ卑怯……、ぷぷっ!」
うん、やっぱり改名しよう。
あとこの世界でもキラキラネームっていうのね。それもビックリだよ。
「村長さん、人の名前で笑うのは失礼ですよ。確かに吹き出すぐらい面白い名前ですけど」
ルーティ、それフォローになってないから。
日本だと珍しい部類だけど普通の名前だったのに。ちくせう。
村長は笑いを堪えるのに必死でしばらく会話になりそうになかったので、隣のルーティにこっそりと耳打ちをする。
「それにしても随分と若い人が村長なんだね。村長っていうぐらいだからてっきりうわぁっ!」
急に真顔に戻った村長が瞬間移動でもしたのかという速さで俺の目の前に移動してくる。
そして驚く俺の手を両手でガッシリと握った。握られた手がちょっと痛い。
「貴方様の移住を村民一同は心より歓迎いたします」
「え……? ええー?」
名前を言っただけなのに移住の許可が下りた。しかも村民の総意なのか。
どういうことだと思っていたら、村長の周りを飛んでいた妖精達が呆れたような声を出す。
「村長、若いって間違われて喜んでるー」
「ほんとは300歳超えてるのにねー」
「若作りー、年増の若作りー」
「誰が300超えの行き遅れたババアだ、ごらぁー! まだギリギリ300にはなっとらんわ!」
「きゃああああっ! 年寄りが癇癪起こしたー!」
村長が怒り狂いながら妖精達を追い掛け回している。お顔は般若になっているが走るたびに凶器がバインバインと弾んでいるので眼福だ。
ルーティは見慣れた光景なのか平然として……いや、こっちも呆れた顔をしていた。
「村長もエルフか何かなの?」
「いえ、村長さんは妖精さんですよ」
「妖精? あのちっこい子達と同じ種族ってこと?」
「はいそうですよ。元は同じ……と言えば良いでしょうか。妖精さんは年齢を重ねるごとに魔力が高くなる傾向があるんですけど、魔力に比例して見た目もあのように大きくなるんです」
「へー。ということはあの小さい妖精達はまだ若いか魔力が低いってことか」
「そうです。もっとも村長さんぐらいまで体が大きくなる妖精さんは珍しいですけど」
つまり村長はかなり高い魔力を持っているのだろう。
村に結界を張れるぐらいだし、相当凄いんだろうな。
しばらく妖精達と追いかけっこをしていた村長が肩で息をしながら戻ってきた。
「村長さん、レンさんの移住は問題ないんですよね?」
「はぁー、はぁー……。ふぅ……。あら? よく見たらかなり好みのタイプ……じゃなかった。こほん。レン様からは悪い気どころか神聖な気を感じるので移住に関しては何も問題ありません。空き家はいっぱいありますので好きな家に住んでくださって結構ですよ。なんでしたらこの家でわたくしと一緒に暮らしますか?」
お胸に凶器を抱えた村長と一緒に住むとか、ナニソレヤバイ。
同じ家で四六時中そんなモノを見せられたら、間違いなく我慢できずに襲い掛かってしまう。
そして襲い掛かったが最後、この村から叩き出されてクマッピーの胃袋行きだ。
なんというハニートラップ。
「え~っと、せっかくのご好意ですけど、まずは村の中を見て回ってから決めたいと思います」
「ちっ、ダメか。いえ、焦ってはダメよ。この村に住むのだからチャンスはいくらでもあるわ。じっくりと篭絡すれば良いのよ」
なんか今、村長が舌打ちをした気がする。
もしかしてガチでハニートラップを仕掛けて俺を追い出すつもりとか……?
これは警戒をする必要があるかな。
「それじゃあレンさん、今から村の案内と皆へ紹介をしますね。……村長さんも来ますか?」
ルーティはなぜか生暖かい目をしながら村長を誘う。
「そうですね! せっかくなのでわたくしもご一緒しますね!」
「え、村長も案内してくれるんですか? ありがたいですけど、忙しかったりしないんですか?」
「いつも暇して……、いえ、ちょうどいつもの見回りの時間でしたので!」
「なるほど、見回りのついでですか。それでしたらよろしくお願いします」
村長も村の見回りついでに案内をしてくれるらしい。
多分、俺が村に馴染みやすいように気を使ってくれているんだろう。
ということはさきほどの発言も善意からか。ハニートラッとか疑ってすみません。
「見回りだってー」
「いつも寝てばかりでそんなことしなもがもがががっ!」
「では動きやすい服に着替えますので、少々お待ちください!」
何かを言おうとしていた妖精達を村長が必死で取り押さえていた。
「あっ、お姉ちゃーん! 村の皆にお兄ちゃんのことを話して来きよー!」
村長の着替えが終わるのを村長邸の前で待っているとピュティがやって来た。
そのピュティの後ろには沢山の妖精がいる。本当に沢山だ。
身長が20センチほどの小妖精が10人以上飛んでいて、身長が50センチはありそうな中妖精が6人。あとはピュティと身長が同じぐらいの幼女サイズの大妖精が2人だ。
全員、背中に透明な羽が生えているから妖精だとわかるけど、そういえば村長は羽が生えてなかったな。
と、そんなことを考えていたら妖精達に囲まれた。
口々にキャーキャーと喚き散らしながら妖精の大群が俺に群がる。
おい待て、カンチョーをするんじゃない。はしたない。
あとズボンを引っ張るな。脱げるから。
「この村の住人って、妖精以外にもいるんだよね?」
「9割は妖精さんですけど、それ以外の種族の方も住んでいますよ。私とピュティとレンさんを除いたら3人だけですけど」
「妖精はどれぐらいの数が住んでいるの?」
「今は大体50人ぐらいだと思います。この子達は気紛れなので気付いたら新しい子が増えていたり、どこかに遊びに行ったまま数ヶ月帰ってこない子とかもいるので正確な数は私もわからないんですよ」
なるほど、いま集まっているので半分ぐらいなのか。
それでこの惨状とかヤバくない?
「すみません、お待たせいたしました」
着替え終わった村長が出てきた。
先ほどのドレス姿とはうってかわって、チューブトップにミニスカートというセクシーな格好だ。
周りの妖精達もやたらと露出の高い格好をしているが、妖精はそういう服装を好むのだろうか。
「わたくしたち妖精は自然と直接肌で触れ合うのが好きなんですよ。土や水や草木はもちろん、日光や風も自然ですから」
聞いてみたらそう教えてくれた。なるほど。
「そういえば村長って羽は生えてないんですか?」
「ある程度魔力が高くなった妖精は羽を消せるようになるんです。羽は空を飛ぶときの補助の役割しかないので日常生活には邪魔ですし」
「そういえば小さい子達しか飛んでませんけど、大きくなったら飛べなくなるんですか?」
「いえ、大きくなっても飛べますよ。ただ、飛ぶための魔力消費量が凄く多くなるので歩いた方が疲れないのです」
ああ、魔力が枯渇したときの倦怠感に比べれば歩く方が楽だろうな。
ご飯を食べて休息したのにまだ少し体がダルいし。
「お姉ちゃん。どこから案内するの?」
「んー、まずはグレンダさんの所からにしましょうか」
「うん、わかった! お兄ちゃん、今度はちゃんと着いて来てね!」
「はいよ、案内よろしく」
ピュティと小妖精達を先頭に一団となって移動を開始した。
戦闘力=お胸のサイズ




