そして新生活へ
「つまり、この子が仕事で大ポカをやらかしてレン様に多大な迷惑を掛けたから、この子の上司に無理やり奴隷扱いで押し付けられたと」
「そういうことです」
場所は俺の部屋。フィオーネから借りた服を着たエルルと俺は正座をさせられていて、その正面では村長が腕と足を組んでベッドに腰掛けている。フィオーネが初めてウチにきたときの同じ状況だ。
相変わらず俺の目線の位置的に村長のパンツが丸見えになっているので気が散ってしまう。
「ご主人様、そういうことなら最初からそう言ってくれれば良い」
「いや、言おうとしたのに話を聞いてくれなかったのは皆だよね?」
「わ、私はレンさんのことを信じてましたよ?」
ルーティは気まずそうにそっぽを向いた。
さっきまで村長と一緒になって俺の事を締め上げてたくせに。
「でも裸の奴隷と一緒に寝てたんでしょ? つまりそういうことをしていた訳で、何も解決してない気がするんだけど……」
せっかく話が纏まりそうだったのにミリアが余計なことを言い出した。
「いや、何もやましいことはしていないぞ。たまたま偶然が重なってあの状況になっていただけだから」
「本当かしら?」
「ほんと、ほんと。村長なら俺が嘘を言っていないってわかりますよね」
「ええ、確かに嘘は言ってませんね。ではレン様、この子とはそういうことをしたいとは思っていないのですね?」
おおっと、ここで余計な質問が飛んできた。
したいかしたくないかで言えば当然したい。でもバカ正直にヤりたいと答えるのは命にかかわる気がする。
「エルルとはそういう関係ではないので」
「そうですか。なら良かったです」
「あれ? なんか今のって微妙に質問の答えをはぐらかしたような……?」
くそう、村長は誤魔化されたのにミリアは意外と鋭いな。
「ところでさっきから気になっていたんだけど、なんでミリアさんがいるの?」
「えっ、なんでってその……。レンが私と結婚したいって爺ちゃんに言ったんじゃなかったの? だからこうして嫁ぎにきたんだけど」
「えっ」
「えっ」
俺がギルダスさんにミリアと結婚したいと言った?
おかしい、そんな記憶は全くないけどミリアが嘘をついているようには見えない。
「レン様、どういうことか説明してくださいますか?」
「いや、なんでそんな話になっているのか俺にもさっぱりで……」
「あっ! もしかしてあのことかも」
納得のいく説明をしないと殺すと笑顔で語っている村長にビビっていると、ルーティが何かを思い出したようだ。
「ルーティ、どういうこと?」
「ほら、前にギスダスさんが竜のことで謝罪にきたときにレンさんが『ギルダスさんのことも家族と思っている』って言ったじゃないですか」
「うん、言ったね」
竜のことで村同士にわだかまりができたら嫌なので、今後も仲良くしたいという意味を込めて家族のように思っていると伝えたんだっけ。
「…………もしかして?」
「額面通りに受け取って、ミリアさんと結婚して身内になりたいって言っていると思われたんじゃないですか?」
「え、違ったの? 爺ちゃんからそう言われたけど」
なんてこったい。確かに俺の言い方が悪かったのかもしれないけど、そこでいきなり結婚という発想に飛ぶのか。
「ごめん、それギルダスの勘違いみたいなんだけど。えっと、このままお引き取り願うことは……」
「出来る訳ないでしょ! 昨日爺ちゃんが私とレンが結婚することになったって発表したらそのまま村中でお祭り騒ぎになって夜通しで宴会が行われたのよ。しかも朝になって私が送り出された後も宴会を続けていたのに、そんな中に勘違いでしたって帰れると思う?」
「それは確かに帰り難いとは思うけど……。でもそれだと俺と結婚することになるけど?」
俺の言葉にミリアは心底呆れたような顔で怒った。
「アンタ、私のこと馬鹿にしてるの? いくら爺ちゃんの勘違いが原因とはいえ、結婚したくない相手のところに嫁いでくるわけないでしょ」
それは確かにそうだ。いくら祖父に言われたとはいえ、ミリアにも選ぶ権利はあるだろう。
ということはなんだ、つまりミリアは俺と結婚しても良いと思っている訳だ。ははは。
「ふぁっ!? 俺と結婚しても良いってこと!?」
「だからそう言ってるでしょ! 私はアンタのことが好きだから結婚したいって思ってるのよ! そういうアンタはどうなのよ!」
ミリアの顔が真っ赤に染まっている。
産まれて初めて告白なんてされた俺も同じように真っ赤になっているのだろう。顔が熱い。
不安そうに見つめてくるミリアの瞳を見つめ返しながら、答えを出そうとしたところでルーティが視界に割り込んできた。
「レンさん! わ、私も……。私もレンさんのことが好きです! レンさんのお嫁さんになりたいって思っています!」
突然ルーティからも告白された。
「私も当然ご主人様のことが好き。初めてあったときから」
間髪入れずにフィオーネにも告白された。これがモテ期ってやつなのだろうか。
いきなりの急展開すぎて頭の処理が追いつかない。
「レン様」
「は、はいぃ!」
村長に静かな声で呼ばれて慌てて振り返る。
般若のごとく怒っているのかと思ったら、頬を染めて真剣な眼差しで俺を見ていた。
「言わなくても伝わっていると思っていましたが、わたくしもちゃんと言葉で伝えます。レン様、ずっと前からお慕いしておりました」
おしたいって、押すなよ絶対に押すなよとかいうあのネタのことだろうか。
いやいや、この状況でそんな訳が無い。
フィオーネとミリアはなんとなくそうなんじゃないかとは思っていたが、万が一違った場合は死ぬほど恥ずかしいので気付いていないフリをしていた。
ルーティも最近は良い雰囲気になることが多かったし、もしかしたらという予感はあった。
でもまさか、村長まで俺のことを好きだったとは……。
いや、でも今までの村長の言動に俺のことが好きだという前提を付け加えたらどうなるだろう。
目の前で別の女の子の裸を見て喜んでいたり、くっついていたらそりゃ怒るよね。
なんてこった。少し前までゲームやアニメの鈍感主人公がヒロインの好意に気付いてないのを見て『ここまで鈍感なバカはいねーだろ』なんて笑っていたのに、まさか自分も鈍感だったとは。
「それでレン、返事は?」
「えっ」
「レンさんは誰と結婚したいんですか?」
あれ、結婚することが前提なの?
しかも強制的に4択。
「えっと、正直に言えばみんな魅力的だから1人を選べないっていうか……」
村長は文句無しの美人でスタイルバツグンだ。
ルーティはたまに暴走するけど優しくて家庭的で癒される。
フィオーネは一途に慕ってくれるのが凄く可愛らしい。
ミリアはなりは小さいけど中身は年相応の大人で一緒にいて安心できる。
この中から選べとか、どんだけ贅沢な悩みなのか。
「なるほど。つまり全員をいっぺんに娶ると。仕方が無いですね、わたくしが正妻というのであれば認めましょう」
「はい?」
「待ってください。納得いきません」
村長からまさかの多重婚許可宣言。一夫多妻のハーレム生活とか男の夢じゃないか。
しかしさすがにそれはルーティから待ったがかかった。普通は納得いかないよね。
「いくら村長さんでも正妻の座は譲れません」
「そうよ! ここは最初に告白した私が正妻になるべきよ!」
あれ? 納得いかないってそこなの?
なんか俺の意思とは無関係に話がどんどん進んでいってる。
不満はないけど、何かおかしい。どうしてこうなった。
「それなら皆で勝負をして正妻を決めれば良いと思う」
「勝負は構わないけど、方法はどうするつもり? 公平な勝負じゃないと皆納得しないわよ」
「ルールは簡単。一番最初にご主人様の子供を産んだ人が正妻」
フィオーネがまた凄いことを言い出した。
これで皆を諦めさせる作戦だろうか。
「なるほど。それなら確かに公平だし文句も出ないわね」
「ま、負けません!」
「良いわよ、その勝負。受けて立ってあげるわ!」
「いやいやいや! その勝負はさすがにおかしくない!?」
確かに結婚すればいずれは子供がデキるかもしれないが、そういうのは自然な流れでそうなるのであって勝負するのは違う気がする。
そもそもいきなり結婚の話になっていて尻込みしているのに、さらに子供とか話が重過ぎる。
エロいことに興味はあるしやってみたいけど、このままだと俺の人生設計が確定してしまう。
「そうと決まればウェンディ達が参戦してくる前にリードを奪っておきたいわね。レン様、早速赤ちゃんを作りましょう!」
村長が豪快に服を脱ぎ捨てた。もう少し恥じらいを持って欲しい。
「村長待ってください! そこにピュティとか居るんですけど!」
部屋の隅にお行儀良く座っているピュティと小妖精達が居たはずだ。
黙って成り行きを見守っているとか、とてもよく出来たお子様である。
さすがに村長達もそんな子供達に痴態を見せる訳にはいかないだろう。
「ピュティ、お姉ちゃん達は難しいお話があるからその間にエルルさんに村の中を案内してあげて欲しいの。少し時間がかかるかもしれないから、お昼はグレンダさんにお願いしてね」
「うん、わかった! エルルちゃん、行こ!」
「は~い。皆さん、ごゆっくり~」
ピュティを盾にしようと思っていたのに、ルーティによって速やかに追い出されていた。
「あの、皆さん、ちょっと落ち着きましょう? 俺にはまだ結婚とか子供とかは早いかなーって思う次第でして、ちょっと覚悟を決めるのに数ヶ月ぐらいは待って欲しいなって思うのですが……。あ、いや、数日でも良いです。血走った目が恐いんで本当に待って……」
服を脱いだ4人に部屋の隅に追いやられた。
憧れのハーレム的な状況であるはずなのにおかしい。身の危険しか感じない。
「い……。い、い、いやああああああっ! 犯されるうううううううううっ!」
俺の悲痛な叫びとは裏腹に、村は今日も平和そのものだった。
もう少し違う展開で第1部を終わらせて第2部に続ける予定でしたが、ここで終了することにしました。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました




