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事後処理

 ゆっくりと意識が覚醒していくのがわかった。

 硬い地面に寝かされているのか、背中が少し痛い。

 しかし頭には温かく柔らかな感触がするので、もしかして誰かに膝枕でもされているのだろうか。

 微妙に獣臭いのとゴワゴワした毛深い膝枕だと思いつつ目を開けると、クマッピーが俺の顔を覗き込んでいた。


「どぅわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 瞬間的に跳ね起きて距離を取ると、クマッピーがなぜかちょっと傷付いたような顔をした。

 いや、そんな顔をされても俺も困るんだけど。


「あっ、レンさん! 気が付きましたか!?」

「レン様! お身体の具合はいかがですか!?」

「お兄ちゃーん! 良かったよー!」


 ピュティにタックルするような勢いで抱き付かれた。

 村長とルーティは口では俺のことを心配しつつも、恐る恐るといった感じでゆっくりと近付いて来る。

 ああ、俺の近くにいるクマッピーが恐いのね。その気持ちは痛いほどよくわかります。


 改めて周囲の状況を確認してみる。

 場所は村の中央広場の近く。そこで俺はクマッピーに膝枕をされて寝かせられていた。

 服がまだ濡れているので竜を倒してからそれほど時間は経っていないようだ。


「あれ? クマッピーが村の中にいるんですけど、村長の結界は?」

「結界は竜に破られましたけど、すでに張り直しています。ですがその魔物はレン様とルーティをここまで抱えて運んで来てくれましたし、敵意もないようだったので一時的に入村の許可を出しているんです」

「ああ、クマッピーが運んできてくれたのか。ありがとう。今度お礼に肉でも持って行くよ」


 クマッピーは気にするなと手を振ってから、東の森へと帰って行った。

 初対面で襲われたけど、実は良いヤツなのだろうか。


「そうだ。それよりルーティの頭のケガは?」

「ケガでしたらクマッピーが回復魔法をかけてくれました。レンさんの右手の火傷も治してくれていますよ」

「あいつ回復魔法も使えるの? 確かに右手の火傷が治ってるけど」


 竜の血を沸騰させたときに触れていた右手を火傷したのだが、それがキレイに治っていた。

 かなり高度な魔法が使えるようだ。


「レンさん、助けに来てくれてありがとうございました。私、もう死んじゃうだと思っていました」

「ルーティも結構無茶をするよね。間に合って良かったよ」


 ルーティが俺に抱き付き、胸に顔を埋めた。

 肩と声も震えているし、よほど恐かったのだろう。

 優しく抱き返して、背中をトントンと叩く。


「レンさん、私――」

「はいストーップ! そこまでよ」


 ルーティが潤んだ瞳で俺を見上げ、何かを言おうとしたところで村長に引き剥がされた。


「きゃっ! ちょっと村長さん、邪魔しないでください」

「さて、何のことかしら? そんなことよりもレン様、ご無事でなによりです」


 今度は村長に抱き付かれた。柔らかいモノがダイレクトに当たっていて反応に困る。むしろ下半身が反応しそう。


「気を失ったレン様が運ばれてきたとき、胸が張り裂けそうになるぐらい心配したんですよ。ルーティもですけど、レン様も無茶なことはしないでくださいね」

「はい。すみません」


 結果的に竜は倒せたものの、一歩間違えればいつ死んでもおかしくなかった。

 今回はルーティのために仕方なかったとはいえ、もう2度と戦いたくはない。


「……レン様。どうしてわたくしにはルーティにやったように抱き返してくれないのですか?」

「えっ、いや……。どうしてと言われましても……」


 抱き返して良いのだろうか。本人が良いと言っているし、良いのだろう。

 でもこれ以上密着するのはとてもまずい気がする。


「はい、時間切れでーす」


 今度はルーティの手で村長が引き剥がされた。


「あっ、こら! 待ちなさいルーティ!」

「ダメでーす、待ちませーん」


 そのまま村長とルーティの睨み合いが始まった。

 あの2人が睨み合うとか珍しい。


「お兄ちゃん、わたしももう1回ぎゅーってする!」

「うん、良いよ。おいで」


 ピュティを抱っこすると、ついでにミルクが頭の上に乗ってきた。

 ようやく普段の生活に戻ってこれたんだなと実感が湧く。


「じゃあ、ピュティの次は僕だね」

「ではその次にワシらも」

「しませんけど!?」


 いつの間にか復活していたホールドさんと6人のドワーフ達がハグの順番待ちの列を作っていた。

 さすがに男の人は勘弁していただきたい。



 1時間後、竜を退治したことがポルドワ村に伝わり、避難していた妖精の里の皆と一緒にポルドワ村のドワーフ達が押しかけてきた。

 その場でポルドワ村の村長であるギルダスさんの正式な謝罪があり、事件を起こしたアッシュの処罰と妖精の里への賠償について話い合いたいと言われたが、さすがに疲れていたので後日にしてもらった。


「そんな話より竜を見てみたい」


 誰が最初に言い出したのか、皆が竜を見たがったので全員で東の森に入り竜を見に行った。


「ほほー、見事なもんじゃな。サイズは小さいほうじゃが、よくこれを討伐したのう」

「ええ本当に。ナイフ1本で討伐するとか人間業とは思えないわ」


 竜の亡骸は外傷がほとんどないので今にも襲ってきそうな迫力がある。

 一部の妖精やドワーフ達は到着する直前まではしゃいでいたのに、実際に竜を目の当たりにすると遠くから観察しているだけだ。


「それでレンタロウや。この竜を売る伝手が必要なら紹介してやろうかえ?」

「えっ、これ売っても良いんですか?」


 基本的に魔物はトドメを刺した者に所有権がある。

 しかし元々はポルポテル山で眠っていた竜なので素材として売り払っても良いのかとギルダスに聞いてみたら、二つ返事で許可が下りた。


「じゃあグレンダさん、お願いします」

「うむ。任せておきな」



 翌日、グレンダさんの弟の孫で南の行商隊リーダーのクリンツさんが大勢の部下を連れて村にやって来た。

 作業員が20人に護衛が15人とかなり大規模の部隊だ。

 元々はカニカマの収穫が終わるのに合わせて来るはずだったのだが、グレンダさんから竜の話を聞いてすっ飛んで来たらしい。


「連絡ってどうやって受けたんですか?」

「遠くに離れている相手と会話をすることができる魔道具があるんですよ。いろいろ制限があるので頻繁に使える物でもないんですが」


 燃費の悪い電話とでも思っておこう。


「それにしても、あれだけ状態の良い竜の死体など初めて見ましたな。背中の一部に傷があるだけでほとんど原型を残しているとは」

「ただ単に俺の力が弱くて、それしか傷を付けれなかっただけなんですけどね」

「ははは。1人で竜を討伐するような方に力がないとか、謙遜を通り越して嫌味に聞こえてしまいますぞ」


 純然たる事実なのに。しかも1人で討伐したのではなく、天使とクマッピーの助力があったのも大きい。


「ところで竜ってどれくらいの値段で売れるんですか?」

「そうですなぁ、姿がそのまま残っている竜ともなれば王都に持って行ってオークションに掛ければ3億……。いや、4億は確実に超えるでしょう」

「………………え? 4億って、4億バルシって意味ですか?」

「ええ、そうです。4億では不満ですかな? まぁオークションなので上手くいけば5億以上にもなると思いますが」

「あ、いや。低いと言ってるんじゃなくて、予想よりも2桁ぐらい多いんですけど……」


 前にミューが鱗が1枚5万バルシと言っていたので、数百万ぐらいの値が付くのかもと思っていたが億単位だとは微塵も思わなかった。

 宝くじで1等に当選してしまった気分である。ちょっと現実味がない。


「竜は鱗から骨に至るまで余すことなく高級素材として重宝されていますからな。丸々1匹となればそれだけ価値が跳ね上がります」

「な、なるほど」

「ああ、大婆様の紹介とはいえ、手数料として落札金額の1割を頂戴しますのでそこはご了承ください」

「はい、それはグレンダさんから聞いています」


 よく考えれば竜を運ぶのに作業員と護衛を合わせて35人も動員しているのだ。

 1割の手数料でも元が取れるのなら、それ相応の値段で売れて当たり前である。


「クリンツ様、竜の輸送準備が整いました」

「ご苦労様。では30分の休憩の後に王都に向けて出発する。みなにも伝えてくれ」

「了解しました」


 報告に来た護衛戦士の中年男性はそのまますぐに戻らずに、なぜか俺の方に向き直った。


「その前に【竜殺し(ドラゴンスレイヤー)】殿にお願いがあるのですが」

「えっ、竜殺しってなんですか?」

「4人以下のパーティで竜を討伐すると与えられる称号ですな。しかも今回はレン殿はソロで竜を狩ったので、パーティにではなく個人として与えられていますぞ」


 クリンツさんが補足説明をしてくれたが、いつの間にか称号が増えていた。

 なんか大事になっているので、俺とルーティとクマッピーでパーティを組んでいたことにしたい。


「それでお願いなのですが、握手していただけないでしょうか?」

「はぁ、それくらいなら良いですけど」


 握手ぐらい別に構わないので差し出された手を握り返した。

 ゴツゴツとした硬い手で、かなり鍛えられているのが素人の俺にもわかる。


「あとウチの息子に頼まれたのですが、よければこれにサインを頂けないでしょうか?」

「ま、まぁ、名前を書くぐらいなら良いですけど……」


 差し出された色紙のような厚紙に万年筆で名前を書く。

 どちらも使い慣れない物だったのでかなり字が歪んだが、それが逆にサインっぽくなった。

 そもそも日本語で字を書いてしまったが、大丈夫なのだろうか。


「ありがとうございました! ではワタシはこれで」


 喜んでくれているので大丈夫なのだろう。

 でも俺よりもさっきの護衛戦士さんの方があきらかに強いと思うんだけど。


 それから数分後、話を聞きつけたクリンツさんの部下達に取り囲まれ握手とサインを求められた。

 どう見ても俺より強そうな強面の戦士達に群がられて、ちょっと恐かった。



 クリンツさん達が帰った後で、ポルドワ村の長のギルダスさんが尋ねてきた。

 俺とルーティも村長の家に呼ばれたので顔を出す。


「アッシュは禁止区域に入り竜を起こした罰として、ケガが治り次第、村から追放しようと思うのですがいかがでしょう?」

「罰としては甘いけど幸いにも死者は出なかったし、レン様とルーティがそれで納得するのなら構わないわ」

「私はレンさんの判断に任せます」

「いや、俺はこういうルールに疎いから、任せられても困るけど……」


 結局アッシュは村外追放ということで決まった。

 村長は罰としては甘いと言っているが、十分に厳罰だと思う。


「もし温情をいただけるのでしたら、アッシュの叔父が住んでいる村に住まわせてもらえるように手配をさせてもらえないでしょうか。ここよりかなり離れた場所にあるので、もう2度とご迷惑をおかけすることもありません」

「それは全然構いません。そのようにしてあげてください」

「ありがとうございます」


 確かにアッシュのせいでルーティがケガをしたり皆が恐い思いをしたりもしたが、さすがに死んで詫びろとまでは思わない。

 新しい場所で1からやり直せるのなら、それが良いだろう。


 村への賠償については、壊れた塀をタダで修繕してもらうことで合意した。

 焼け落ちた家も新しく建てると言ってくれたが元々は誰も住んでいなかった家なので後片付けだけをお願いし、もし次に家を建てることがあればそのときにタダで建ててくれることになった。


 さらにギルダスさんは金品を支払って賠償をすると言い出したが、それは断固拒否した。

 お隣の村同士だし、今後もわだかまりもなく仲良くしたいと伝えると嬉しそうに何度も頷いていた。



 さらに翌日、大きなトラブルはあったが予定通りカニカマの収穫が行われた。

 小妖精と中妖精がもぎ取ってきた果実を残りの面々で仕分けする。

 傷が付いている物や形が悪い物は商品にならないので加工品や村人が食べる分にするらしいが、俺にはさっぱり区別がつかなかったので素直に箱詰めと荷運びに徹した。

 ホールドさんやルーティが慣れた手付きで仕分けをしているのはさすがだと思ったが、村長も真面目に仕事をしているのは意外だった。


 途中で竜の襲撃の噂を聞きつけたウェンディ達がお見舞いに来て、そのまま収穫の手伝いをしてくれたおかげで3日で作業は終了した。


 その翌日にはルーティの畑に植えていたジャガイモとニンジンの収穫をしたが、こちらは1日で収穫を終えることが出来た。


 収穫が終わると今度は西と南の行商人に連絡を入れて、カニカマを買いに来てもらうらしい。

 一度に大勢の行商人がやって来るので、その準備がバタバタと進められる。

 ちなみに今回の南の行商人はリーダーのクリンツさんが王都に行っていて不在なので、クリンツさんの息子さんが来るそうだ。

 南の行商人達からまたサインを強請られたりしないだろうかと、今から戦々恐々としている。


 ルーティに「行商人さんが帰ったら次は収穫祭の準備ですよ」と言われ、収穫祭は少し日を開けても良いんじゃないのかと村長に直談判したくなった。

 でも皆は忙しそうにしつつも凄く楽しそうなので、このまま流されるのもありだろう。



 そんなこんなで竜の襲撃から6日ほどは怒涛の日々だった。

 ただ、天使にお礼を言おうと暇を見つけてはコールをかけてみたが1度も繋がらなかった。

 何かあったのかと少し心配だが、こちらかは干渉する方法がないので連絡を待つしかない。

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