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調査

一気に更新する予定だったのですが、大雨で避難指示が出て執筆が遅れているので一旦投稿することにしました。申し訳ありません

 カニカマことフェアラルマーナの実がもうすぐ収穫の時期らしい。

 真っ赤に熟した実はどこからどう見ても特大サイズのカニカマである。

 カニカマの収穫は村人総出で行うらしく、ホールドさんと妖精達が忙しそうに準備を進めていた。


 更にルーティの畑で育てているジャガイモとニンジンも一緒に収穫するようで、こちらは俺とルーティとフィオーネの3人で籠や木箱の準備を進めている。


 ついでにそれらの収穫が終わると収穫祭があるらしく、今までなら年に数回しかないお風呂に入れるチャンスでルーティが情緒不安定になる時期でもあったそうだが、今回の収穫祭は穏やかに終わってくれそうだと村長達がしみじみと呟いていた。


 そんな風に慌しく過ごしていたある日、村長が突拍子もないことを言い出した。


「レン様、ポルポテル山の温泉を調査しに参りましょう」

「はい? 温泉の調査ですか? なんでまた急に……」

「来月がルーティの誕生日なのはご存知ですか?」


 村長の説明によると、来月はルーティの誕生日があるので普段お世話になっているお礼を込めて祝ってあげたい。

 でもルーティは歳の事が一番気になる年代なので、ただ祝うだけでは喜んでくれないかもしれない。

 だから誕生日には温泉に浸かってゆっくりしてもらいながら、盛大に祝ってあげようと考えたそうだ。


「良い案だと思いますけど、今から行くんですか?」

「はい。明後日ぐらいからカニカマの収穫が始まりますし、それが終われば今度は収穫祭です。さらにその後は西と南の行商人が同時にカニカマを買いに来るので、わたくしはあまり村から離れられなくなるんです」

「なるほど。だったら収穫祭が終わった後で俺が妖精達と一緒に調査して来――」

「ダメです。今からわたくしとレン様とフィオーネの3人で向かいます。すぐに準備してきてください」

「あっはい」


 村長のいつにない迫力に思わず頷いてしまったので、自室に戻って準備をする。

 といっても温泉の調査の準備って何をすればいいんだろう?


 よくわからないし、採取に出掛けるときの格好で良いか。

 いつも使っているウェストポーチを巻いてからベルトにナイフを装着。

 村長がいるから魔除けは必要ないのかもしれないが、ポルポテル山にも魔物が出るはずだから念のために天翼の護りも身に着けておく。

 ポーチの中には魔物に襲われたときのための道具も入っているし、これで大丈夫だろう。

 いや、念のためにアレも一応持って行っておこうかな。



「では、出発しましょう」


 居間に戻るなり、村長が出発を宣言した。

 その後ろを大きめのリュックを背負ったフィオーネが着いて行く。


「ルーティ達に出掛けてくるって言っておかなくて大丈夫ですかね?」

「ルーティにはレン様が準備をしている間に言っておきました。あとグレンダにも昨日の内に今回の作戦……、げふんげふん。温泉の調査をしてくると言ってあるので大丈夫ですよ」


 いま作戦って言ったけど、計画と言い間違えたのだろうか?


「あー、レン達だー」

「どこか行くのー?」


 西門から外に出ようとしたところで、近くで遊んでいた小妖精3人が近付いてきた。


「ああ、今から温せ――」

「ちょっと出掛けてくるだけよ。そうだアナタ達、お小遣いをあげるからこれでオヤツでも買って食べなさい」

「わーい! 村長ー、ありがとー!」


 俺の言葉を遮って村長がお小遣いを渡すと、妖精達は嬉しそうにグレンダさんの店へと飛んで行った。

 まるでこうなることを想定していたかのような手際の良さである。


「それではポルドワ村に向かいましょう」

「直接山を登らずに、ポルドワ村を経由して行くんですか?」

「はい。ポルポテル山はポルドワ村のドワーフ達が縄張りにしていますから、山に入る前に許可を取っておけばトラブル防止になるんです」


 それならドワーフ達の許可を貰っておいた方が良いだろう。ギルダスさんやミリアなら簡単に許可をくれそうだし。


「フィオーネ、なんだか荷物が多いけど代わりに持とうか?」

「大丈夫。中身はバスタオルと着替えだから重くない」

「バスタオルと着替え?」

「……なんでもない」


 なんでバスタオルなんて持って来てるんだろう。

 温泉の調査と聞いて温泉を探すだけかと思っていたけど、もしかして入る気なのだろうか。

 確かに実際に入ってみた方が早いと思うけど、俺がいるのに。

 さすがに3人で混浴ってことはないだろうし、俺は見張り目的で呼ばれたのかな。そんなことより混浴したい。



 ポルドワ村に着いた。そのままポルドワ村の村長であるギルダスさんの家に向かうが、どうも様子がおかしい気がする。


「なんだかいつもより人が少ない気がする」

「そうですね。何かあったのでしょうか……?」

「私が一昨日来たときはいつも通りだった」

「えっ、フィオーネって一昨日もポルドワ村に来たの?」

「……なんでもない」


 珍しく1人で出掛けたと思ったら、ポルドワ村に用があったのか。

 俺に内緒にしておきたい事の1つや2つもあるだろうし、詮索はしないけど。


 村長邸の呼び鈴を鳴らすと、いつもの家政婦さんが出てきた。

 少し待つように言われたので玄関前で待機していると、灰色のケセララピを抱えたミリアが帰ってきた。


「あら、来てたの?」

「今日はギルダスに許可を貰いに。というかその抱いてるケセララピって、この前とは別の子?」

「そうよ。ここ最近、村の周辺までケセララピが下りてくることが多くてね。昨日も近くに仕掛けてあった一角タヌキ用の罠に3匹も同時に掛かってて大騒ぎになったのよ」

「3匹も? ケセララピって滅多に人里まで下りて来ないんじゃなかったっけ?」

「ええ。もしかしたら山に異変が起きてるんじゃないのかって話になって、今朝調査隊が山に入ったところよ」


 山の異変って大丈夫なんだろうか。

 温泉が湧くぐらいだし、実はポルポテル山は活火山で、それが噴火したとかだと洒落にならないんだけど。


「村長、これだと許可が下りないんじゃないんですか?」

「そうですね。せっかくここまで順調に来たのに、それだと困りますね」

「許可って、何の許可?」

「ああ、ちょっと温泉の調査をしようかと」

「温泉? そういえば妖精の里からポルドワ村の温泉を1日貸し切りにさせて欲しいって要望が――」

「わー! わー! わー! 調査ですわよ、調査!」


 ミリアの話の途中で突然村長が慌てたように大声を出した。

 どうかしたのかと村長の方を向くと目を逸らされたので、今度はフィオーネの方を向くと同じように目を逸らされた。


「え~っと、温泉の調査……ですよね?」

「はい、調査です」

「ふ~ん。……レン、温泉の調査なら私も着いて行って良い?」

「ダメです!」

「ダメ!」


 俺が返事をする前に村長とフィオーネが即答した。


「私、レンに聞いてるんですけど?」

「今回の発案者はわたくしです」

「着いて来ちゃダメ」

「どうして? 温泉の調査なのに?」

「温泉の調査だからです」

「そう、調査だから」


 よくわからないけど、ミリアと村長達の間に火花が散っている。こわい。

 さらにミリアが何かを言おうとした直後、山の方から3人のドワーフが大慌てで駆けてきた。


「た、大変じゃああああああああっ!」

「うわ、どうしたの!? 酷いケガをしてるじゃない!」


 1人のドワーフが、血を流して気絶をしているドワーフを背負っていた。

 気絶しているドワーフに見覚えがあると思ったら、以前、俺と酩酊我慢比べで勝負をしたアッシュだった。

 さらによく見ると残りのドワーフ達も軽くケガをしたり服が焦げたりしていて、ただ事ではなさそうだ。


「一大事なんじゃ! ギルダス村長はおるか!?」

「どうした、何があった?」


 騒ぎを聞きつけたギルダスさんが家の中から出てきた。


「アッシュのヤツが、禁止区域で採掘をして眠っていた竜を起こしたんじゃ!」

「竜……だと? 禁止区域には本当に竜が眠っていたのか?」

「ああ、間違いない。まだ若い個体のようじゃったが、アレはフレアドラゴンじゃ」


 野次馬に集まってきていた村人達の間にも、竜の単語と共に緊張も広まっていく。


「あの、その禁止区域って所に竜が眠っていると云われていたんですか?」

「うむ。ワシらも実際に眠っているのかどうかは知らなんだが、禁止区域には決して入らぬのがこの周辺の村の掟なんじゃ」

「それなら、アッシュはなんでそんな場所に?」

「オリハルコンじゃ」


 俺の疑問にアッシュを背負ってきたドワーフが答えてくれた。


「禁止区域には竜が眠っておるのと同時に、オリハルコンが採掘できるとも云われておったんじゃ。それでアッシュはオリハルコン目当てで禁止区域に入ったようじゃ」

「なぜそんなバカな真似を……!」

「おそらくじゃが……、ミリアにプレゼントするためじゃろう」

「えっ、私に!?」

「うむ……。この前のレン殿との勝負で負けたことをアッシュは随分と気にしておった。このままではレン殿にミリアを取られてしまうと焦っておったんじゃろうな」

「だからって私にプレゼントするためにオリハルコンを求めて禁止区域に入ったって言うの!? ふざけないで!」

「落ち着かんかミリア。アッシュはケガをして気を失っておる」


 アッシュに掴みかかろうとしたミリアをギルダスさん達が食い止めた。

 これって、勝負をした俺にも責任があったりするんじゃ……。


「いま話し合うのはそんなことではないでしょう?」


 村長が一歩前に出て、よく通る声で言った。


「責任の追及は後にしなさい。まずは現状の確認が最優先よ。それで、目覚めた竜は今はどうしているの?」

「竜は……、妖精の里を目指して一直線に山を下りて行った」


「「「 なっ!? 」」」


 俺とフィオーネとミリアは驚いた声を上げたが、村長やギルダスさんはやはりというような顔をした。


「なんで竜は妖精の里に……」

「フェアラルマーナの実じゃ。あの果実の持つ魔力に空腹の竜が引き寄せられておるんじゃ」

「それと村にはルーティがいるからでしょうね」

「フェアラルマーナの実はなんとなくわかりますけど、ルーティもですか?」

「はい。詳しく話している時間はありませんが、ルーティはそういったモノを引き寄せる体質だと思ってください」


 村長がそう言うのなら今はそれで納得しておこう。それよりも聞くべきことは山ほどある。


「村の結界で竜は防げるんですか?」

「まず無理です。結界はすぐに破られるでしょう。竜が実を食べている間に村から避難するしかありません」

「なら村の皆にすぐに連絡しないと!」

「いや、妖精の里にはワシらの仲間が知らせに行っておるはずじゃ」


 そう言ったのは、先程山から下りて来たドワーフの1人だ。


「別の部隊のやつらが竜を足止めしている間に、さらに別の部隊が妖精の里に危険を知らせに行っておる。じゃが、少し問題があってのう……」

「その問題とは?」

「ワシらの使う武器じゃ。ワシらは魔導武器を全員使っておるが、竜の鱗は魔力を無効化するせいでまともにダメージを与えることができん。その状態でいったいどれほどの時間、竜を足止めできるのか……」


 聞けば聞くほど絶望的な状況だ。


 それなら、()()()()()()()()()()()()


「村長、ちょっと俺、ひとっ走りして村の皆を避難させてきます」

「ちょっと、レン! 相手は竜なのよ! それなのに村に戻るって、どうなるかわかってるの!?」


 正直言って、よくわかっていない。

 多分、生身で戦車と戦うとかよりももっと酷い状況なのかもしれない。


 でも、だからこそ村の皆を助けに行きたい気持ちの方が強い。


「フレアドラゴンの弱点は水属性です。なのでレン様であれば多少の足止めは可能かもしれません。ですが先程、そこのドワーフが言っていたように竜の鱗は魔力を無効化するので、レン様のスキルでは倒すことは不可能です」

「わかっています。竜を倒そうなんて思っていません」

「では、何をしに村まで戻るのですか?」

「それはもちろん、村の皆が逃げるのを手伝うためです。ここで村に戻らずに、もし誰かが死んでしまったら俺は一生後悔することになると思います。だから俺は、村に戻ります」

「ここでレン様を送り出して、もしもレン様が死んでしまったらこの場にいる全員が一生後悔することになります。もちろん妖精の里に住む者達も全員が一生後悔することになるでしょう。……なので、絶対に死なないと約束していただけますか?」

「はい。俺は絶対に死にません」


 村長、フィオーネ、ミリア、ギルダスさん、そしてこの場にいるドワーフ達全員の真剣な眼差しを受け止め、俺は宣言した。


「わかりました。では、わたくしがレン様を抱えて飛びます。飛ぶのは久しぶりですけど、レン様が走って戻るのよりは早いですよ」

「それは……、いえ、お願いします」


 きっと村長も村に戻るつもりだったのだろう。

 なんだかんだ言っても、村長は村の住人の1人1人のことを大切に思っているのを俺は知っている。


「ギルダス、ウチの村の子達にここに来るように言うから、面倒を見てて頂戴ね」

「もちろんじゃ。全員が来ても大丈夫なように準備をしておこう」


 ギルダスさんはさっそく村人達に受け入れ準備をするようにと指示を出している。


「ご主人様……」

「フィオーネはここに避難してきた人達のことを頼む」

「……わかった。気をつけて」

「フィオーネ、もし竜が山に帰らずにこっちに来たら、ウェンディ達の集落に逃げるように言って頂戴」

「ん」


「レン様、失礼しますね」


 村長に後ろから抱きつかれ、その柔らかさに少しドキドキした。

 でも、それよりも今はその温もりが竜に立ち向かうという不安を和らげてくれた。


「それでは、行きます!」


 妖精の里を目指して、村長が羽ばたいた。

次話はタイトル詐欺をしてレンが頑張ります

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