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可愛い女の子がいっぱいの村

『起っきろー! あーさー! 朝だー! いつまで寝てるんだコラー!』


 喧しい声が聞こえて、いや脳内に響いてゆっくりと意識が覚醒していく。


『あっれー、おっかしいなー? 生態反応はあるから生きてるはずなのに返事がないわね。あっ、もしかしてもう死ぬ直前で返事ができない状態とか? なら仕方ないわね。ちゃんと成仏して、後はそっちの世界で天国に行くか生まれ変わるかするのよ。南無南無……』

「勝手に殺すな、どアホ……」

『ちっ、生きてたか。せっかくアフターサービスなんていう面倒なことから開放されると思ったのに』

「いろいろ言いたいことはあるがアフターサービスをする気はあるんだな。てっきり連絡がつかないようにしてくると思ってたけど」

『職業柄、契約や約束を一方的に反故にはできないのよ。面倒だけどね』

「そんなもんか」


 天使に適当に相槌を打ちつつ身体を起こす。


「頭痛ぇ……」

『アンタ、魔力が枯渇したのに空腹で寝たでしょ? バカねー、そんなんじゃいくら休んでも意味無いわよ』

「仕方ないだろ、食べ物が何もなかったんだから」

『え? アタシがあげた初心者セットは?』

「昨日、魔物に遭遇した所に置きっ放し」

『うっわー、勿体無い! 初心者セットの中にマジックポーションも入ってるのに! 飲めばすぐに魔力が回復する霊薬よ』

「先に言っておけよ、バカ……」


 周囲を警戒しつつ立ち上がる。

 倦怠感は少しはマシになっているな。


「とりあえず休める場所に行きたいんだけど、村はどっちだ?」

『はいはい、ちょっと待って。……うわ。アンタ、村とは逆方向に逃げたのね。えっと直ぐ側に川があるでしょ? まずはその川の上流に向かって歩きなさい』


 えー、昨日の魔物が逃げて行った方向かよ。

 もう遭遇しませんように。




 どうやら天使は俺の周囲50メートルぐらいの範囲に魔物がいるとわかるそうだ。途中で迂回するように指示されたりしながら歩く。

 グチグチと文句を言いながらもちゃんとナビをしてくれた。


『着いたわよ』


 3時間ほど歩いて森が途切れた。むき出しの地面が辛うじて道を作っていて、その道の先に村の塀が見える。

 安心感から疲労が一気に押し寄せてくるがまだ休むわけにはいかない。


「今更だけど、村に入れてもらえなかったり追い返されたりしないよな?」

『それは大丈夫でしょ。人に対してかなり友好的な村みたいだし』


 道なりに進むと村の入口があった。門は無く、門兵などもいないようだ。

 村の中へと入る。入口付近には畑が広がっていて、所々に森とは違う種類の木が生えていている。

 村の奥の方にいくつか家のような建物も確認できた。


『おっ、左に村人がいるわよ。しかもアンタが望んでた若くて可愛い子達よ』


 天使に言われて左を見る。切り株に腰掛けてやたらと露出度の高い格好をした3人の女の子がお喋りをしていた。

 1人はレオタードのような服を着ているがもう1人はビキニ水着のような格好で、3人目にいたっては胸と腰に布を巻いただけという様相だ。

 そして一様に背中から透明な羽が生えている。

 遠目なので正確にはわからないが、身長はおよそ15センチから20センチほど。

 うん、どう見ても妖精。フェアリーだ。

 確かにどの子も可愛い。しかしこの可愛いという感情は子猫や子犬を見たときの感覚そのままだ。つまり恋愛感情ではなく庇護欲。


「おい天使。俺の言いたいことはわかるな?」

『嘘は言ってないでしょ? お互いの認識に齟齬があっただけで』

「ガッデム!」


 確信犯じゃねーか!


「あーっ! 人間だー!」

「うわぁ、ほんとだ! 珍しいー!」

「しかも男だー!」


 あ、大声を出したから妖精達に気付かれた。

 3匹……いや、3人(?)がこちらに向かって飛んでくる。


「えーっと、こんにちは?」

「うわー! 喋った! 喋ったよ!」

「すごーい! 頭良いんだねー!」


 言葉はちゃんと通じるな。でも人を珍獣扱いするのは止めて欲しいんだけど。


「人間がこんな所にまで何しに来たのー?」

「ああいや、なんて言えばいいのか……」

「みんなー。大きな声で騒いだりして何かあったのー?」


 なんと説明しようか迷っていると新しい声が聞こえた。

 声の聞こえた方を向くと、ジョウロを持った女の子が木の影から出てきた。

 良かった! 妖精以外に普通の女の子も居た!


「ルーティー! 人間だよ、人間!」

「しかも男だよ、男! これ飼いたい! 飼っても良い!?」

「ちゃんとお世話するから!」


 えっ、何? もしかして人間の男って珍しいの?

 あと人のことを目の前で飼いたいとか言うな。期待しちゃうじゃないか。


「こら、あなた達。そんな失礼なこと言っちゃダメでしょ」


 少女が妖精3人を嗜めてから俺の前までやって来た。


「旅のお方ですか? すみません、この辺りまで来る人間さんは滅多にいないのでこの子達がはしゃいでしまって」


 そう言って少女が頭を下げる。この子は人間じゃないのかと思ったら耳が尖っていた。

 なるほど、エルフ的な種族なのか。さすが異世界。妖精がいるのならエルフがいてもおかしくはない。

 しかしエルフと言えば長寿であるのが日本での常識だ。この少女も見た目は15歳ぐらいに見えるが実際には100歳とか超えていたりするのだろうか。

 っと、それよりもまずは挨拶が先だ。せっかく可愛い女の子とお知り合いになれたのだから、気の利いたことを言って第一印象をよくするべきか。


「ああいや、気にしてないから大丈夫。それよりもその……、何か食べ物を恵んでいただけないでしょうか?」


 色気よりも食い気が勝った。




「美味い! マジ美味い!」


 俺は湯気を立てるスープに一心不乱にかぶりついた。

 エルフの食事といえば木の実や果物が中心なのかと思っていたが、このスープには魚の切り身が入っていた。他の具材はジャガイモにニンジンと非常にシンプルだがお世辞抜きに美味い。

 今度はスープと一緒に出された白くて丸いパンに齧り付く。ふわふわの生地の中に砕いた木の実が入っていた。クルミだろうか。


「いえ、その……、お昼の残り物で申し訳ない感じですけど。あ、おかわりもありますので慌てずに食べてください」

「天使や……。本物の天使がおる。ありがたやありがたや!」

「いあいあいあ! いきなり拝まないでください!」


 どこぞの偽天使にこの子の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

 ちなみその偽天使は村に着いたぐらいから交信が途切れている。


「そういえばまだ名前も言っていませんでしたね。私はルーティア・クラスティンです。皆からはルーティって呼ばれています。よろしくお願いします」


 強請った俺が言うのもなんだけど、出会ったばかりで自己紹介すらしていない男を家に招いてご飯を食べさせてあげるとか、ちょっと無防備すぎではなかろうか。

 この子が可愛いだけに悪い男に騙されて襲われたりしないか心配だ。俺はそんなことしないけど。うん、しないぞ。したいけどしないぞ。


「俺はミズ……、ああいや、レンタロウ・ミズモリ。よろしく」

「レ、レンタロウですか? それはまた、なんていうかその……、キ、キラキラと輝いた素敵なお名前ですね」


 キラキラネーム!? えっ、何? レンタロウって名前はこの世界だとキラキラネーム扱いなの!?

 ルーティが笑うのを必死に堪えて顔が引き攣ってるんだけど!


「それでレンタロぶふっ! ご、ごめんなさ、ぅくっ……。ぷっ」


 笑った!? この子、俺の名前を呼ぼうと吹き出したよ! 今も口元を押さえてプルプル震えてるし!


「あ、うん……。えっと、俺のこともレンって呼んでもらおうかな」

「……こほん。すみません。それでレンさんはヒュースレッド大陸から旅をして来られたんですか?」


 なんて答えれば良いんだろう? バカ正直に異世界から来ましたなんて言って良いのか?

 よくわからないからとりあえず話を合わせておいて、後で天使に聞いてみるか。


「うん、そんな感じ。安住の地を探してブラブラと歩いてたらここまで来ちゃって」

「そうなんですか。でも荷物も持たずに旅をしていたんですか?」

「ああ、荷物はなんかデカくて黒い熊と豹を合わせたような魔物に襲われたときに全部落としちゃって。おかげで昨日から何も食べてなくて餓死するかと思ったよ」

「えっ! クマッピーに襲われたんですか!? よく無事でしたね!」


 なにそのラブリーな名前。あの厳つい生物に誰がそんな可愛らしい名前を付けたの。


「ギリギリで追い払えた感じだったけどね」

「追い払ったって……、クマッピーは東の森のヌシでとっても危険なんですよ。出会ったら死を覚悟しないといけないと言われてて、この辺りに住む人達は東の森には絶対に近付かないようにしています」

「えっ、そんなバケモノが森をうろうろしてるのにこんな所に住んでたら危ないんじゃ?」

「いえ、この村とその周辺は村長さんが張っている結界のおかげで安全なんですよ。魔物とか、あとは村に害を加えようとしている悪意のある人なんかは、結界に阻まれて入ってこれないようになっています」


 なるほど、その結界があるのに俺は普通に入って来れたから害意のない人間として見られているのか。


「たっだいまー! 人間が来てるってほんとー!?」

「アレだよ、アレ!」

「ねー、ほんとでしょー?」


 突然玄関扉が勢いよく開き、ルーティを幼くしたような感じの女の子が入ってきた。普通の人間なら小学生低学年ぐらいの年齢に見える。

 その後ろには村の入口で会った3人の妖精もいた。人を指差してアレとか言うな。

 それよりこの幼女はルーティの妹だろうか? 娘ってことはないよな……。


「ピュティ、ドアは静かに開けないとダメでしょ。あとお客様の前で大声で騒がないの」

「はーい」

「すみません、レンさん。妹が騒がしくして」


 良かった、妹だ! ルーティが人妻じゃなくて本当に良かった!


「ピュティナ・クラスティンです! よろしくね、お兄ちゃん!」

「うん、よろしく。俺の名前はその……、レンタロウ・ミズモリっていうんだけど……」

「ぷーっ! きゃはははははっ! 凄い名前ー!」

「あっはははははは! 変なのー!」

「なにそれ! ほんとにそんな名前なのー!」

「だ、だめ、笑いすぎてお腹痛い……!」


 ピュティと妖精3人が大爆笑している。

 そんなに変な名前なのか……、なんだか恥ずかしくなってきたんだけど……。


「こら、アナタ達! 人の名前で笑っちゃダメでしょ!」


 ありがとうルーティ。でもさっきキミも俺の名前を聞いて思いっきり笑ったよね?

 レンなら普通っぽいから今度からそう名乗ろうかな。



「お兄ちゃん、お兄ちゃん! お兄ちゃんってこの村に住むの?」

「えっ?」


 ひとしきり笑った後でピュティに質問された。

 そういえば最初からこの村に住む気満々だったけど、移住できるのかな? 家とかどうすれば良いんだろう? 


「おおー! そうしようそうしよう!」

「家ならいっぱい余ってるよー」

「勝手に決めないの。ほら、レンさんも困ってるじゃない」

「えー、レンはここに住みたいよねー?」


 妖精達が囃し立て、ルーティが嗜める。いいぞ妖精、もっと言え。


「んー、空き家があるなら住んでみたいけど、勝手に住み着いても大丈夫なのかな?」

「いえ、妖精ならこの村に好きに移住してきても大丈夫ですけど、それ以外の種族が定住するのなら村長さんの許可がいります」


 村長の許可か。結界を張っているのも村長らしいし、ちゃんと挨拶しとかないといけないな。


「じゃあ村長に会ってみたいんだけど、アポって必要かな?」

「村長はいつも家でグータラしてるから大丈夫だよ。あたしが案内してあげる!」

「あたちも行くー」


 ピュティや妖精達がわれ先にと外へ出て行く。

 案内してくれるのはありがたいけど、まだ食べてる途中だから待って。

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