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ミューの実験2

 また衝撃の事実が発覚。

 村の特産品のカニカマは正式には『フェアラルマーナの実』という名前だった。

 より正確に言うと、フェアラルマーナと呼ばれる木になる実のようだ。そして名前が長ったらしいからなのか、通称でカニカマと呼ばれているらしい。

 これは天使にも確認したので自動翻訳さんが見た目だけで判断して翻訳していた訳ではなかったようだ。


 しかしこの世界にはカマボコはあっても、日本で売られていたカニカマは存在しない。

 なのになぜカニカマという通称なのかと村長やグレンダさんに聞いてみたが、両親達がそう呼んでいたから自分達もそう呼んでいるという返答だった。

 しかも最初はカニカマという通称はこの村独自のモノだったのに、村の特産品ということもあってかそれがいつの間にか大陸中に。最終的には大陸の外でもカニカマと呼ばれていたそうだ。

 カニカマという名称も謎だが、その感染力も謎である。やはり王侯貴族が好むほどの果実だからなのだろうか。俺には甘すぎるけど。



 驚きの内容ではあったが、だからといって特に何かが変わる訳でもなく、今日も元気にお仕事である。

 最近では採取にもすっかり慣れたので、短時間で素材袋をいっぱいにできるようになった。

 そろそろ天使のナビ無しで東の森に入っても大丈夫かもしれない。


 しかしこれは決して油断していたり、周辺の魔物を甘く見ているからではない。なんと【水の領域】の新しい使い方を発見したのだ。

 使い方は至って簡単、まずバケツ1杯分ほどの水を霧にする。

 次に霧にした水を自分の周り30メートル、制御可能空域周辺に張り巡らせる。

 そうしておくと、もし霧にネズミ以上の大きさの生物が触れると俺はそれを感知できるのだ。

 理屈は自分でもわからないが、できるのだから活用する。【水の領域】様々である。


 問題があるとすれば30メートルという距離は微妙なので、もし足の早い魔物に見つかった場合は逃げるのが大変かもしれないことだろうか。

【水の領域】を常に発動させておくという問題点もあるが、俺の魔力量もそれなりに増えたのでバケツ1杯分であればなんとかなる。

 それにいざというときのためにグレンダさんにマジックポーションを3本も調合してもらっている。

 マジックポーションが3本もあれば、嵐の夜にちょっと畑の様子を見に行っても無事に帰って来られる気がするぐらいの安心感である。もう何も恐くない。



 採取を終えて村に帰ってきた。

 今日はいろいろと高く売れる素材が手に入ったので、推定でおよそ5万バルシほどの売り上げだろうか。

 危険な林や森に入ったとはいえ、数時間でこれだけ稼げるのだからホクホクである。


「ちわーっす」

「いらっしゃーい。って、レンか。素材の買い取り?」


 グレンダさんの店のドアを開けると、久しぶりにミューが店番をしていた。

 店番と言っても、相変わらず饅頭を頬張りながら本を読んでいるだけだが。


「うん。買い取りをお願いしたいんだけど、グレンダさんは?」

「大婆様なら村長のところに出かけてるからしばらく帰ってこないわよ」


 どうやらまたグレンダさんは不在のようだ。

 素材はミューに預けて、明日にでも纏めて買い取ってもらうべきだろうか。


「そうだ、レン。また実験に付き合ってくれない? 大婆様が帰ってくるまでどうせ暇でしょ」

「さ~ってと、帰ってピュティと一緒にミルクでもモフろうかな」

「あ、こら! 無視するんじゃないわよ!」


 ミューの発した不穏な単語に、即座に踵を返した俺の服をミューが掴んで引き止める。


「俺、村長とグレンダさんからミューの怪しい実験には付き合わないようにって釘を刺されてるんだけど」

「失礼ね! うちだってちゃんとした実験ぐらいしてるわよ。そりゃあ確かに今まで行った実験の内、9割ぐらいは怪しいヤツだったかもしれないけど」

「自己申告で9割って、どう考えてもアウトだろ」

「でもこの前こってりと絞られてさすがに反省してるわよ! 今回の実験だって、レンのスキルをいろいろ検証してみたいだけだし」


 ミューは【水の領域】の効力を実験したいようだ。それなら俺にも得があるし、内容によっては協力してもいいだろう。


「具体的には何をするのさ?」

「前に大婆様の手伝いをしてて、魔力の宿った水は操れないって言ってたでしょ? だからそれ関係の実験……、というより検証をしてみたいのよ」

「う~ん。まぁそれなら付き合っても良いかな」

「話がわかるわね! じゃあ準備をするから上がって頂戴」


 ミューが意気揚々と母屋へ入っていく。

 その後ろ姿に一抹の不安を覚えたが、さすがに今回は大丈夫だろう。多分。


 場所は広い方がいいからと、店から母屋に入ってすぐのところにある居間に通された。

 テーブルの上にミューが自身の工房から運んできた品を並べていく。


「マジックポーションは操れないのよね?」

「うん。マジックポーションはそれ自体が魔力の塊みたいな物だから、不可能だったかな」

「それって、マジックポーションを沸騰させることもできないの?」

「どうだろう? 無理だとは思うけど、もしかしたら触った状態ならいけるかもしれない」

「なら早速試してみましょ」


 ミューに渡されたマジックポーションを、少量手のひらに乗せる。【水の領域】を発動させてお湯になれと念じたみた。


「……あー、うん。触っている状態ならいけるみたいだけど、これなら火にかけて沸かした方が圧倒的に早い。そのくせ魔力消費はかなり大きいかな」

「なるほどね。ならマジックポーションを水で薄めたらどうなるのかしら?」


 ミューはビーカーにマジックポーションを注ぎ、それと同じ量の水を入れてからガラス棒でかき回した。

 準備ができたところで俺が【水の領域】を発動させて、ビーカーの中の液体に浮かぶように念じる。

 ビーカーの中に入っていた液体は全て浮かび上がったが、これも魔力消費が激しい。

 水と油のように混ざらない液体ならまた結果は違っただろうが、水と混ざって効果が薄まるマジックポーションの場合は薄まった分だけ【水の領域】が有効のようだ。


「ちなみにそれを分離させることってできないの?」

「水とマジックポーションに? 基本的に俺がイメージできないことは不可能かな」

「そう。逆に言えばイメージさえできれば可能かもしれないのね」

「そうだけど。でもそれをイメージするのは難しいかなぁ」


 液体を分離させるとか全くイメージがわかない。

 混ざった塩と砂糖を舐めて、しょっぱい部分が塩で甘い部分が砂糖だと主張するとんちのようにはいかないのだ。


「レンって、土から水を吸い出すことも出来るのよね?」

「前に実験したときは地面に零した水の8割ぐらいを吸い出せたかな。今なら慣れたし魔力も上がってるからもう少しいけるかもしれないけど」

「じゃあ、魔力を宿した土に普通の水を染み込ませたらどうなるのかしら?」

「そんな物まであるの?」


 ミューが砂鉄とよく似た深紫色の砂を取り出した。

 貴族などはこの砂を漆喰や粘土に混ぜて家を建てたり、ドワーフ達は防具を作る際に使用したりするらしい。そうすることで魔法耐性を備えた屋敷や防具になるそうだ。

 次にミューはビーカーで100mlの水を量ると、その深紫色の砂に染み込ませてから俺に差し出した。

 いつもの要領で【水の領域】を発動させると、特に問題ないく吸い出すことができた。


「ん~っと、吸い出せた水は85mlぐらいね。つまり水自体が魔力を帯びていなければ問題ないのね」

「みたいだね。これは俺も知らなかったよ」

「ふふん。実験してみて良かったでしょ?」


 なんだか少し悔しいが同意せざるを得ない。スキルを使いこなすには、そのスキルに関する知識が些細なことでも必要なのだ。


「あとはそうね……。そうだ、これを試していなかったわ」


 ミューはテーブルの上に置いてあった袋に水を入れると、その口を捻ってから紐で縛る。

 俺が普段、採取したドランペルカズラを入れている素材袋を小さくしたような袋だ。


「それは?」

「これは中に入っている液体を保護するための袋ね。簡単に説明すると魔力を帯びた袋かしら。中身はただの水だけど、周りを魔力で覆われた状態だとどうなるのかの実験ね」

「なるほどね。やってみるよ」


 ミューが持つ袋の中に入っている水に沸騰するように念じてみる。

 しばらく続けたが、手応えを全く感じないのでミューに中身の確認をしてもらった。


「特に温度は変わっていないみたいね。ただの水のままだわ」

「つまり、魔力を遮断されると俺のスキルは通じなくなるのか」


 これはかなり有益な情報だ。覚えておこう。


「誰かおるかー! って、おお! ミューとレンがおったのじゃ」

「お邪魔するの」


 不意に店と繋がっている出入り口から大妖精のリッテとルーリーが入ってきた。

 店に用事があってやって来たのに、誰もいなかったから母屋に呼びにきたのだろう。


「あ、いらっしゃい。ごめんね、今ちょっと実験中だったの」

「実験?」


 ミューの実験という単語に、2人揃って1歩後ずさる。

 やっぱりそういう反応になるよね。


「何よ、その失礼な反応。今回はレンのスキルを検証していただけだから、うちにしては凄くマトモな実験よ」


 自分で言っていれば世話ないと思う。

 2人も今回は安全と判断したのか、警戒を解いた。


「2人は買い物?」

「いんや、納品なのじゃ」

「今回のはかなり良い出来なの」


 そう言って2人はそれぞれが抱えていた一升瓶をテーブルの上に置いた。

 中に液体が入っているけど、なんだろう?


「これは?」

「『貴族殺し』じゃ」

「げっ、なにその物騒な薬品。というか貴族に恨みでもあるの?」

「違うの。貴族殺しは商品名なの。他には妖精酒とか、カニカマ酒って呼ばれているの」

「ああ、お酒なんだ」


 妖精はフェアラルマーナの木限定で花から蜜を採取できるらしい。

 その妖精が集めた蜜を使って作られたお酒はかなり美味な上に、万能薬やエリクサーの材料にもなる霊酒となる。

 日本では酒は百薬の長と言われているが、この貴族殺しはまさにその通りのようだ。


 そんな大変貴重で有り難いお酒に何故そんな物騒な名前が付いているのかというと、昔はこの妖精酒を奪い合って各地で王侯貴族が血みどろの戦いを繰り広げたからだそうだ。

 そんな由来があるほどのお酒を、こんな無造作にテーブルの上に置いておいて良いのだろうか。


「ちなみにそのお酒、王都に一升瓶で持って行けば2000万バルシで売れるわよ」

「うげっ! そんなにするの!?」

「昔はオークションに出せばそれ1本で5000万バルシは超えていたらしいの。でも最近は供給率が上がった上に、医学も進歩したから値打ちが下がってきてるの。バブルがはじけたの」


 それでも1本2000万。2本あるので4000万である。

 そんなに価値のある物を見た目小学生ぐらいの女の子が手に抱えて歩いているとか、いくら村の中なら安全とはいえ凄い光景である。


「そういえばレンが普通のお酒を飲んだらどうなるのかしら?」

「えっ、何が?」

「ドランペルカズラの体液で簡単に酔わないんだから、お酒を飲んでも酔わないのかなって」

「ああ、俺も前にポルドワ村でそのことは考えたけど実際にはどうなんだろう。お酒って飲んだことないし」

「そう。なら飲んでみるしかないわね」


 ミューは貴族殺しを金庫に仕舞うと、台所から別の一升瓶とコップを4つ持ってきた。


「わらわ達の分のあるのか?」

「レンが他の人より酔わないのか実験するんだから、うちらも一緒に飲んで検証したほうがいいでしょ」

「それなら一緒に飲むの」


 俺はまだ飲むと言っていなかったのに、勝手に話が進行している。

 でも検証はしておきたい気もするし、黙って従っておくべきか。


「このお酒って度数はどれくらい?」

「村のお祭りの日とかに皆で飲むやつだから全然たいしたことないわよ。甘酒みたいな物だからピュティも飲んでるくらいだし」

「ふーん。なら平気か」


 それはむしろ酔うかどうかの実験に向いてないのではと思ったが、いきなりキツイ酒を飲んで実験するよりはマシだろう。


「1杯目はみんな一気に飲み干すのよ。それじゃ、カンパーイ!」


 ミューの音頭に合わせて酒を呷った。

 瞬間、咽喉が焼け付くように熱を持ち、鼻からアルコールが抜けていく。

 二口飲んだところでギブアップしそうになったが、他の3人は平気な顔をして飲んでいるので息を止めて一気に飲み干した。


「げほっ、げほっ。これ無茶苦茶キツイんだけど、本当にこんな物をピュティも飲んでるの?」

「えっ? こんなのジュースと変わらないでしょ?」

「おかわりじゃ!」

「私ももう1杯飲むの」


 俺の心臓はバクバクと早鐘を打ち、顔どころか全身がやたらと熱い。頭がクラクラして立っていることもままならず、その場に尻餅をついた。助けを求めて口を開いたが呂律が回らず、言葉になっていない呻きが漏れるだけだった。

 これはあきらかに酔っている症状だ。


 しかし目の前の3人は平然とした様子で2杯目を飲みだした。おかしい。何かがおかしい。

 何か違和感があるはずなのに、酔いで思考が纏まらない。

 ああ、そうか。3人とも顔が真っ赤だから俺と同じで酔っ払っているんだ。平然としているように見えるけど、目の焦点も合っていない。

 もしかしてあれ、無意識で動いているだけの状態なんだろうか。


 そこまで考えたところで、俺の意識はプッツリと途切れた。



「にゅふふふふ。なんだかとっても良い気分なの」

「およ? レンがあんなところで寝ておるのじゃ。 こらー、起きるのじゃー! 起きないと顔にラクガキするのじゃー!」

「な~に言ってるのよ、ルーリー。寝ている王子様を起こすなら、お姫様のあつーい口付けって相場が決まってるでしょ~」

「なら私がそれをやって起こすの。ん~っ」

「あーっ、ズルイのじゃ! 口付けならわらわがやるのじゃ!」

「ちょっと~、アンタ達はお姫様って感じじゃないでしょ~。ほらどきなさい、うちがやるから」

「ダメなの。私がチューするの」

「わらわがするのじゃー!」

「うちに譲りなさいってば~」


「ミユキや、今戻ったぞい。店にレンタロウの素材袋が置いてあったが……ありゃ?」

「あだっ! ちょっとグレンダ、急に立ち止まらないでよ。それでレン様は居たのって、ああああああああっ!? おどれら何やっとんじゃああああああああああああっ!」




 翌日、俺達4人は二日酔いで真っ青な顔をしながら村長から説教をされていた。

 もちろん正座である。頭がガンガンするのでかなりキツイ。


 昨日、ミューが俺達に飲ませた酒はお祭りのときに飲む酒ではなく、よく似た別の酒だったらしい。

 しかも普通の人はストレートではまず飲まないようなキツイお酒だったようで、あれを割らずに飲むのは酒豪のドワーフぐらいだと教えられた。


 俺以外の3人は1口飲んだ時点ですでに正気を失っていたらしく、昨日のことは全く覚えていないそうだ。

 俺も飲んですぐに気を失ったはずなのだが、村長が怒り心頭の様子なのでもしかして知らない間に何かやらかしたりしたのだろうか。


 とりあえず今回は二日酔いで俺達がかなり苦しそうにしているので説教以外のお咎めはなしとなったが、今後は昼過ぎから勝手に酒盛りをしないようにと約束させられた。

 酒盛りもだけど、今後は絶対にミューの実験には付き合わないと心に誓った。



 さらに翌日の夕食時。

 村長から晩酌に付き合えと誘われた。

 正直、酒には懲りていたので飲みたくなかったが、目で「わたくしのお酒が飲めないと?」と訴えかけてきていたので少しだけ付き合ってみた。


 結果、普通にコップ1杯で酔いが回った。俺のアルコール耐性は普通の人と変わらないようだ。

 よく考えれば【水の領域】のパッシブスキルは液体攻撃の無効化なので、酒を飲んでも攻撃されたことにならないのだろう。

 その辺りをきちんと判断してくれるあたり、【水の領域】はさすがだと思った。

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