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プレゼント

 保護したケセララピはそのままピュティの誕生日プレゼントにすることで満場一致した。

 ケセララピも嫌がったり逃げ出そうとする様子もないので問題ないだろう。


 アボガボ湖に戻り、ウェンディから改めてカニを3匹購入した。


「ではさっき捕まえたザリガニをオマケしておきますね」

「う、うん。ありがとう……」


 ザリガニをオマケしてもらったけど、ルーティがどういう反応をするのかがわからない。

 フィオーネとリッテが特に何も言わないから、この辺りではザリガニを食べるのは普通なのだろうか。


「お兄さん、ピュティちゃんに『誕生日おめでとう』と伝えておいてください」

「うん、了解。ピュティの誕生日プレゼント探しをメルディが手伝ってくれたこともちゃんと伝えておくよ」

「はいです! あ、それとは別件でお兄さんにお願いがあるです」

「ん? なんだろう」

「また今度、お兄さんのお家にお泊りに行っても良いですか? それで前みたいに朝まで一緒に遊びたいです」


 メルディがいきなり特大の爆弾を投下して、横で聞いていたフィオーネとリッテとウェンディの目が一気に険しくなった。

 確かに口止めとか一切してなかったけど、このタイミングとは。

 村長が聞いていないときだったと考えれば、むしろ今で良かったのだろうか。


「ご主人様、詳しく」

「いや、前にメルディがルーティの家に泊まる予定だったんだけど、そのときにルーティが風邪を引いたからピュティと一緒にウチに泊まったんだよ。それで3人でボールを使って遊んでたんだけど、ついゲームが盛り上がって徹夜しちゃってね!」


 3人の問い詰めるような視線にビビり、早口で一気に説明した。

 時系列は違っているが、嘘は言っていない。やましい気持ちはあったが実際にやましいことはしていないので問題ないだろう。


「そういうことですか。妹に先を越されたのかと思いました」


 どうやら納得してもらえたらしい。

 と言うかウェンディは俺がメルディに手を出したのか心配してたんじゃなくて、メルディに先を越されたのかと心配していたようだ。さすが人魚の貞操概念。


「お泊りしちゃダメですか?」

「あーいや、大丈夫だよ。また機会があったら遊びにおいで」

「はいです。楽しみにしてますです!」


 フィオーネもいるし、メルディが泊まりに来ても村長は怒らないだろう。多分。


「メルディだけだと不公平なので、そのときは私も一緒にお泊りさせてくださいね。メルディと一緒に大人の遊びなんていかがですか?」


 と思っていたのに、ウェンディにとんでもないことを耳打ちされた。

 姉妹相手に大人の遊びとか、ぜひともやってみたい。村の誰かにバレたら死亡確定だけど。


「レン、どうかしたの?」

「い、いや。なんでもない。ポルドワ村にも寄らないといけないし、そろそろ帰ろうか」


 フィオーネとリッテが疑わしそうな目を向けてくるので会話を打ち切った。

 勿体無いことをしたとか思っていない。なぜならウェンディの誘いを断ったわけじゃないから。



 アボガボ湖を後にして、その足でポルドワ村へやってきた。

 ミリアに話を聞くためにポルドワ村の村長邸を目指して歩いていると、俺の姿を見たドワーフ達からひっきりなしに挨拶される。


「噂には聞いていたけど、レンがドワーフ達に大人気なの」

「ご主人様なら当然」


 我慢比べ勝負の顛末は妖精の里で一時期話題になっていたので、リッテも知っているようだ。

 でもどうしてフィオーネが誇らしげにしているのだろう。


「あそこでレンを拝んでいる人がいるの」

「拝むのだけは止めてくれってお願いしてるんだけどね……」


 一過性のものだとは思うけど、動物園のパンダになったような気分だ。ちょっと居心地が悪い。


 村長邸の呼び鈴を鳴らしてしばらくすると、いつもの家政婦さんが出てきた。


「あらまぁ、【泥酔無双チャンピオン】じゃないですか。ギルダス村長にご用ですか?」

「いえ、ミリアさんに用があるんですけど、居ますか?」

「つい先程戻られたところですよ。少々お待ちくださいね」


 家政婦さんが家の中に入って行くと、リッテが首を傾げた。


「泥酔無双?」

「ポルドワ村で一番酔わない人に贈られる称号なんだってさ」


 俺はこの村の者じゃないからいらないと断ったのに、ギルダスさんに無理やり贈り付けられてしまった。

 おかげで今の家政婦さんみたいに俺のことを泥酔無双と呼ぶ人がいるのでとても恥ずかしい。


「お待たせ、レン。何の用かしら?」


 実際には待たされることなくミリアが家の中から出てきた。ドタドタと走る音が聞こえたので、急いで出てきてくれたのだろうか。


「ミリアさんがケセララピの飼い方を知ってるって聞いたから、教えてもらおうと思って」

「ええ、それは知ってるけど。白いケセララピなんて珍しい子を見つけたわね」


 リッテに抱かれたままのケセララピをミリアがしげしげと観察する。


「白って珍しいの?」

「主に山の上にある洞窟に住んでいる動物だから、保護色の黒や茶色や灰色が普通ね。白や桃色もいるとは聞いていたけど。ちょっと抱かせてもらっても良い?」


 ケセララピを受け取ったミリアはそのまま全身くまなく撫で回す。モフモフを堪能しているのかと思ったが、どうやら触診しているようだ。


「やたら大人しいけど、弱ったりケガとかはしていないみたいね。この子どうしたの?」

「アボガボ湖の近くの林に入っていたら、木の上から下りられなくなってたところを見つけてね」

「アボガボ湖の近くで? おかしいわね、なんでそんなところにいたのかしら。ポルポテル山にもケセララピは生息しているけど、人を恐れるから普通は山から下りてこないのに」

「最初から人懐っこかったし、特殊な固体なんじゃない?」

「んん~。そういうものなのかしら?」


 ミリアはどこか納得のいかない顔をしていたが、それ以上は考えても無駄と悟ったようだ。


「それで飼い方を知りたいってことは、この子はレンが飼うつもりなの?」

「いや、元はピュティのペットを探して林に入っていたらこの子を見つけたんだけど――」


 ペット探しの経緯をミリアに説明したら、ピュティの誕生日なら先に言えと怒られた。

 別に黙っていたのではなく、言うタイミングがなかっただけなのに。解せぬ。


 ケセララピは葉っぱや野菜や果物を好んで食べるらしい。魚や肉を食べることもあるが、好き嫌いの固体差が大きいので実際に与えてみないとわからないそうだ。

 与えてはいけない物はネギ類にイカやチョコレートなど、ネコと同じだった。


 ついでにウチの子も見せてあげると、ミリアが飼っている黒いケセララピを連れて来た。

 いきなりケンカしたりしないだろうかと心配したが、お互いにキュイキュイと鳴きながら鼻をひくひくさせるだけだった。


「そういえばポルドワ村でケセララピを飼っている人って多いの?」

「いいえ、今は私だけよ。2年ぐらい前に山でケガをして動けなくなってたこの子を見つけてね。治療してあげたらすっかり懐かれちゃって、そのまま飼ってるの」

「なるほど。知能は高いって聞いたけど、助けてあげたらちゃんと理解するんだね」


 ミリアに飼い方をレクチャーしてもらいながら家具屋で必要な物を購入する。

 寝るときはケージに入れたりもするらしいが、それだけ懐いているのなら必要ないだろう言われた。

 首輪は試着させようとしたら嫌がっているような気がしたので、着けなくてもいいか。

 結局買った物は食器が2点とトイレシートにチモシーだけだった。シートとチモシーは定期的にポルドワ村に来て購入する必要がありそうだ。

 ちなみに今回の支払いはミリア持ちだった。ピュティへの誕生日プレゼントを用意できなかったからその代わりらしい。

 相変わらずミリアはピュティにメロメロのようだ。



 買い物を済ませ、妖精の里に帰ってきた。

 先にルーティの許可を取ったほうが良いかと思っていたら、俺達の帰りが少し遅いのでルーティとピュティが西門の近くまで迎えに来てくれていた。


「レンさん、遅かったですね。何かあったんですか?」

「ごめん、ピュティの誕生日プレゼントを用意してたら遅くなっちゃって」

「はい、ピュティ。これは私とレンとフィオーネと人魚達からの誕生日プレゼント」

「わーっ! なにこれ動物!? フワフワのモコモコだー!」


 ケセララピを渡されたピュティが大はしゃぎでこねくり回している。

 大人しくされるがままに撫で回されているが、もうちょっと手加減してあげて欲しい。


「あれってもしかしてケセララピですか?」

「うん、たまたま見つけてね。前にピュティがペットを欲しがっていたからどうかなって思って。ルーティがダメっていうならウチで面倒を見るつもりだけど」

「レンさんは卑怯です。ピュティがあんなに喜んでるのに、ダメだなんて言えるわけないじゃないですか」

「あはは、ごめん。世話は俺も手伝うからさ」


 ルーティは少し困ったような表情をしているが、反対する気はないようだ。

 ちょっと不安だったので一安心。


「お兄ちゃん、この子のお名前はなんて言うの!?」

「それはケセララピっていう動物だよ。名前はまだ付けてないから、ピュティが付けてあげるといいよ」

「うん! じゃあお名前を考えるね!」


 家に向かいながら、俺は一つ思い出したことがあった。


「そういえばルーティ、カニを買ったらウェンディがザリガニをオマケしてくれたんだけど」

「ザ、ザリガニですか……」


 ルーティが顔を引き攣らせた。

 その反応を見て、俺はちょっとだけホッとする。


「くれるって言ってるから断れなくて。俺は食べたことないんだけど、やっぱりルーティも食べないの?」

「私も食べたことはないですね。エビとカニは平気なんですが、ザリガニはどうも食べる気にはならなくて」

「わかる。凄くよくわかる」


 妙なところでルーティと意気投合してしまった。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん。この子って男の子なの? 女の子なの?」

「えっ。そういえばどっちなんだろう?」

「メスだと思う」


 俺が答えに困っていると、フィオーネがメスと断定した。触って確認でもしたのだろうか。


「なんでわかるの?」

「最初に会った時にご主人様の匂いに反応してた。妙に懐いてるのもご主人様の匂いが気に入っているからだと思う」

「マジか……」


 フィオーネの言うことが正しいとしたら、俺はやっぱり変なフェロモンでも垂れ流しているのだろうか。しかも動物にまで有効とは……。


「女の子かー。それならねー、んーっと……。ミルク! この子の名前はミルクでどうかな?」

「ミルクか。良いんじゃないかな」

「良いと思う」

「良い名前なの」

「じゃあ、その子の名前はミルクにしましょう。ピュティ、飼ってもいいけどちゃんと自分で面倒を見ないとダメよ?」

「うん!」


 ミルクも自分の名前が気に入ったのか、キュイキュイと鳴いている。

 村に新しい仲間が増えて、これでまた少し賑やかになりそうだ。



 ちなみにその日の夕食時、カニ料理の横にさりげなく並べられていたザリガニのソテーは村長とフィオーネが美味しそうに食べていた。

 ザリガニを食べないのかと聞かれた俺とルーティとピュティはカニがあるからとやんわりと断った。

 どうやら種族的に人魚と妖精とアルラウネはザリガニを平気で食べるようだ。

 他の種族はどうなのか、機会があったら聞いてみようと思った。

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