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ポルドワ村の店

 ミリアの案内でポルドワ村の家具屋へやって来た。

 家具屋といっているが、そこは大きな倉庫に大小様々な家具が乱雑に並べてあるだけだった。

 なんでも店の奥が家具を作る工房になっているらしく、職人達が作った品をそのまま展示しているだけのようだ。

 ここに置いてある家具はそのまま購入することもできるが、サイズなどが気に入らない場合はオーダーメイドで作り直してくれるらしい。

 ベッドやタンスといった家具の他に鉄製の金庫や布製の布団、あとは釘やトンカチなどの工具にクワやカマといった農具も売っていた。

 家具屋というよりもホームセンターといったほうが俺にはしっくりくる。



「レンさん、ちょっとあそこを見ていきましょう!」


 ルーティが意気揚々と向かって行ったのは、確認するまでもなく風呂用品のコーナーだった。

 いくら風呂好きとはいえ、桶やタオルを眺めて楽しいのだろうか?

 と思っていたら、ルーティのお目当ては風呂釜だった。


「う~ん、こっちの丸型の肌触りも良いですけど、長円型は足が伸ばせるので捨てがたいですね」


 ルーティは古美術品を目の前にした鑑定士のごとく、風呂釜の1つ1つを裏までじっくりと観察している。

 最近ちょっとキャラが壊れすぎじゃないですかね?


「ご主人様。これ欲しい」


 俺が哀愁を感じながらルーティの背中を見つめていると、フィオーネが俗に言うスケベ椅子を持って来た。

 どういった意図があるのかは聞かなかったが、こっちはこっちでキャラがブレないのをどうにかして欲しい。



 ルーティを風呂用品コーナーに残して、次は玩具コーナーにやってきた。

 ピュティや妖精達が大喜びで飛びついたが、凄くほっこりする。

 玩具コーナーは積み木やけん玉や独楽といった木製の玩具を中心に、前にピュティ達と遊んだボールなども売っている。

 小さな滑り台なんかもあるけど、これも注文すれば大きな物を作ってもらえるのだろうか。


「あれ? これってもしかして雀牌?」


 玩具コーナーの中で麻雀牌を見つけた。

 描かれてある絵柄が微妙に違うというか地球の物と比べて簡略化されているが、牌の種類や数は同じだ。

 地球にあった物とよく似た物を見かけることは時々あるが、ここまでそっくりな物を見るのは珍しい。


「そういえばお兄ちゃんが来てから麻雀をやってないね。今度やる?」

「えっ、ピュティって麻雀打てるの?」

「村で一番強いのはグレンダで、その次がピュティだよー。この2人には絶対に勝てないのー」

「でも前に村で大会をやったときはもうちょっとでピュティが勝ちそうだったよー。グレンダも危なかったって言ってたー」

「惜しかったよねー」


 ピュティは相変わらずピュティだった。なんなのこの幼女。恐ろしい。


「ご主人様、これ欲しい」


 俺がピュティに戦慄していると、フィオーネが大人の玩具を持って来た。魔力電池でプルプル振動するらしい。

 どうしてそんな物まで売ってるんですかね? って、子供達に使い方を教えようとするんじゃありません!

 俺がルーティに説教されることになるんだから!



「アナタ達って面白い集団ね。見ていて飽きないわ」


 ピュティ達を玩具コーナーに残し、次のコーナーに向かっている途中でミリアにしみじみと呟かれた。

 俺はいたって普通なのに周りがボケまくるせいなので甚だ遺憾である。


「次は……、ペット用品コーナー?」


 次のコーナーでは小さな檻や小屋、犬猫が使うような食器を売っていた。どう見てもペット用品である。

 嫌な予感がしてフィオーネを見ると、すでにペット用品を物色していた。つい先ほどまで俺の横を歩いていたはずなのに。


「ご主人様、これとかどうかな?」


 フィオーネがチェーンの付いた首輪を持って来た。

 とても良く似合いそうだ。絶対に言わないけど。


「さっきから気になってたんだけど、ご主人様ってもしかして……」

「うん。私はご主人様のペット」


 フィオーネの返答を聞いて、ミリアが汚物を見るような目で俺を見た。


「人の趣味にとやかく言うつもりはないけど、サイテーね」

「いや、それはフィオーネが勝手に言っているだけで、俺の趣味とかじゃないから!」


 自ら首輪をはめて檻に入ろうとするフィオーネを止めながら、必死に弁明した。



 家具屋を一通り見て回ったが、結局買った物はピュティの玩具が数点だけだった。

 しかも玩具は買ったというよりも、ピュティにお姉ちゃんと呼ばれて気を良くしたミリアがルーティの反対を押し切って買い与えただけである。

 俺はいくつかデザインの気に入った家具があったので、ミリアに「お姉ちゃん買って」と強請ったら「殴るわよ」と言われながら蹴られた。

 仕方ないのでまたお金が貯まったら買い替えを検討しよう。なんだかんだで全然貯まらないけど。


「ミリアお姉ちゃん、次はどこに行くの?」

「そうね、すぐ近くに武器屋があるからそこに案内してあげるわ!」


 テンションが上がりっぱなしのミリアに武器屋に案内された。

 先ほどのホームセンターのような家具屋に比べれば個人商店といった感じの佇まいだが、こちらも武器を打つ工房が一緒になっているのでそれなりに大きい。

 店内には剣や斧や槍といった多種多様な武器が整然と並べてあるが、どうやら銃は置いてないようだ。

 ちょっと期待していたので残念である。


「というか、武器屋に案内されても俺達って武器を持って戦わないから見る物がないんだけど?」

「あらそうなの? でも村人以外が見るお店って、家具屋と武器屋と防具屋しかないのよね」


 それなら武器屋じゃなくて防具屋に案内してもらおうとしたところで、店の奥からガラスが割れるような音と怒声が聞こえてきた。


「バカヤロウ! 何やってんだ!」

「うわわわわ、すまねぇ! 親父!」

「謝って済む問題か!」


 何かあったのだろうかと店の奥へ見に行くと、5人のドワーフが割れた小さな壺の前で頭を抱えていた。


「うわっ! その壺って『神樹の霊水』が入ってた壺じゃない!」

「おう、ミリアか。アッシュのバカが引っ掛けて壺を落として割りやがったんだ。街からの特注品を打たなきゃならねぇんだが、霊水の予備ってあったか?」

「無茶言わないでよ、おじさん。貴重な物なのに」

「だよなぁ……。クッソ! ちゃんと周りを見て歩け、このバカ息子!」


 事情はよくわからないが、壺を割って中に入っていた水を溢したのだろうか?


「神樹の霊水って何?」

「さぁ? 私も聞いたことがありません」


 ルーティやフィオーネですら知らないようだ。

 なのでミリアに聞いてみたところ、神樹と呼ばれている魔力を宿した木の樹液らしい。

 例えば剣を打つ際にその樹液を使うことにより魔力を宿した剣、つまり魔剣や魔法剣と呼ばれる剣を人工的に作ることができるそうだ。


「う~ん、多少ならなんとかできるかもしれません」


 そう断ってから工房内に入らせてもらい、濡れた地面に手を付く。

 実はチートスキルの【水の領域】にもいくつか欠点がある。その一つが魔力を帯びた水にはスキルが効き難いという点だ。

 前にグレンダさんの手伝いをしていたときに、マジックポーションを操ろうとしたら上手くいかなかった。どうやらマジックポーションが帯びている魔力と俺の魔力が相殺し合ってしまうようだった。

 目を瞑り、神経を集中させる。地面から水を吸い出すイメージを明確にしてから【水の領域】を発動させた。


「お、おおおお! それは溢したはずの霊水か!?」

「えっと、何かこれを入れる物はありますか?」


 差し出された器に地面から吸い出した霊水を移す。気を抜くとそのまま地面に落としそうで大変だった。


「半分ぐらいになってると思いますけど、これで足りますか?」

「いや、3割ぐらいしか減っておらんようだ。ありがとう、助かったぞ!」


 ドワーフ達から口々にお礼を言われた。

 ただ、水を溢した張本人であるはずの一番若そうなドワーフには嫌々といった感じでお礼を言われた。

 俺が周りから褒め称えられたので面白くないのだろうか?


「何か礼をせねばならんな……。そうじゃ、武器をお礼に渡そう。店内にある物から1本選んでくれ」

「いや、俺は武器とか握ったことすらないのでくれると言われましても……」

「まぁそう言わずに何か貰ってくれ! そうじゃないと、オレ達の気が収まらん」


 そこまで言うのならと店内を見て回ることにした。何か安くて邪魔にならなさそうな物でも受け取れば問題ないだろう。

 と思っていたのだが、どの武器も柄や握りに装飾やら細工がしっかりとしてあってそれなりのお値段だった。

 しかもいくつか魔剣や魔法剣も置いてあって1千万バルシを超えていたりするのだが、これが欲しいと言ったら本当にくれるのだろうか。


「ところで、魔剣と魔法剣ってどう違うの?」

「魔剣っていうのは剣に魔力を込めると切れ味が増したりとか、剣自体に何かしら変化がある物ね。魔法剣っていうのは剣に魔力を込めると剣に付与されている魔法が発動する物よ」

「へー、そういうことか」

「ちなみにこのお店で売っている武器のほとんどは魔剣に近い類の武器なのよ。ポルポテル山で採掘できる鉱石が関係しててね。魔導武器って聞いたことある?」

「いや、聞いたことないな」


 ミリアは一番近くにあった剣を1本手に取ると、その刀身を見るように言ってきた。

 よく観察してみると、刀身にはルーン文字と呼ばれる特殊な文字が掘ってある。これが魔導武器の特徴なのだろうか。


「そういうこと。魔導武器も魔力を込めることによって武器の切れ味が増したり、刀身が炎を帯びたりするの。掘ってあるルーン文字によって効果が変わるんだけどね」

「へー。でも魔剣や魔法剣よりだいぶ安いみたいだけど?」

「魔導武器には魔剣にない欠点があるのよ。例えばその剣で硬い敵を切ったときに、書かれているルーン文字が削れたりしたら魔導武器としての効力を失ったり。あとは魔剣よりも多く魔力を消費したりとかね」

「なるほどね。魔剣の量産型ってところなんだ」


 ミリアに武器の説明をしてもらいながら店内を回っていると、店の隅に変わった武器が置いてあるのを見つけた。

 見た目は普通のナイフなのだが、その刀身が真っ黒だ。

 そして他の武器と違いルーン文字が掘られていないし、柄や握りに装飾や細工も施されていない無骨なナイフだ。

 手に持ってみると、今まで俺が採取に使っていたナイフよりも少し大きめでズッシリとした重さがある。


「ミリアさん、これは?」

「えっ……。そ、それ? それは見ての通りただのナイフよ。余計な装飾や細工をしない変わりに武器本来の性能を追求した品ね」

「へー。何か特徴とかあるの?」

「特徴は何もないわね。そもそもそれの素材のダグバール鋼が魔力を弾く性質を持っているから何も付与できないの。ただし黒ミスリルって言われるぐらい硬い素材だから、刃が欠けたりするようなことは滅多にないわよ」


 なるほど。素材が良いおかげなのだろうか、周りの武器と比べてかなり小さいただのナイフなのに値段はほぼ同じぐらいだ。

 俺は横に置いてあった鞘にそのナイフを収めると、店主のところへ持って行く。


「あの、もし頂けるのでしたらコレが良いんですけど」

「お、おう。それか? オレは全然構わないが、その……、なんだ。それはただのナイフだぞ? 魔導武器とか、なんならそっちの魔剣とかでも構わないんだぞ?」

「いえ、俺は魔導武器とかよりも、ただのナイフの方が良いので。装飾や細工のないシンプルなやつの方が使いやすいですし」

「い……、い……、い、いいい、いやったあああああああああああ!」


 突然後ろからミリアの叫び声が聞こえた。何事かと振り返るとミリアが飛び跳ねながら大喜びしている。


「アンタ! いえ、レンだったかしら? わかってる! そうよね、やっぱり武器には余計な装飾や細工やルーン文字なんて不要よね! 見たでしょ、おじさん! 私の打った武器でもちゃんと売れたわよ! これで爺ちゃんを見返せるわ!」


 どうやらこのナイフはミリアが作った物だったようだ。

 正確に言うと買ったのではなく貰ったのだが、俺が自分でこれが欲しいと選んだのだから買ったのと同義とも言えるだろう。

 どうやら知らずにミリアのはじめてを貰った……、ではなく初めての客になってしまったようだ。


「ちょっと、レン! ここにしゃがみなさい!」

「え? あ、うん」


 ミリアにしゃがむように言われた。もしかしてこれはホッペにチューとかいう展開だろうか。ルーティ達が見ているが、してもらわないのは勿体無い。

 なので何も意味がわかっていませんといった風に装いながらその場にしゃがんだ。


「よしよし。イイ子、イイ子」


 チューかと思っていたら、頭を撫でられただけだった。ちくせう。


「ああああああああっ!? 何やってんだよ、ミリア!」


 今度は工房の方から叫び声が聞こえてきた。次々となんなの一体。

 若干面倒に思いながらそちらを向くと、先ほど壺を割って怒られていた若いドワーフがこちらに向かって駆けて来た。


「おい、オマエ! どういうつもりだ!」

「えっ、俺?」

「オレだってまだミリアに頭を撫でてもらったことがなかったんだぞ!」


 いや、そんな親父にもぶたれたことがないみたいに言われても。


「何言ってるのよ。アッシュは私が頭を撫でるようなことをしたことがないじゃない」

「だからって、会ったばかりのコイツの頭を撫でることないだろう!?」


 なんでこの少年はそんなに怒っているのだろう?

 あ、見た目は中学生ぐらいの少年だけど、ドワーフだから年上の可能性もあるのか。


「ただ頭を撫でただけでそんな大袈裟な……」

「た、だ、頭、を、撫、で、た、だ、け、だと!?」


 アッシュに信じられないモノを見たという目をされた。もしかしたら種族的なタブーに触れてしまったのかもしれない。


「ミリアに頭をナデナデしてもらっておきながら、それをただ撫でただけとか言いやがって……! 仮にも恩人だがもう許せねぇ! おい、オマエ! このオレとミリアを賭けて勝負しろ!」

「…………え? どういうこと?」


 なぜかアッシュに勝負を申し込まれた。

 しかもミリアを賭けて。

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