アルラウネの生態?
フィオーネの朝は早い。
アルラウネの習性で、東の空が白みはじめると自然と目が覚める。
のそのそとベッドから這い出るとまずは鏡で身だしなみを整える。髪を梳かし、頭の花が寝ている間に潰れていないかチェックする。
陽が昇る頃になると自室を出て外に向かう。このとき、隣の部屋で寝ているご主人様と呼び慕う人物を起こしてしまわないように静かに移動しなければならない。
玄関から外に出るとそのまま太陽の光を全身で浴び、たっぷり1時間ほど光合成をして1日の活力を蓄える。
なので曇りや雨の日は少し元気が出ないが、本日は快晴なのですこぶる良好だ。
日課の光合成を終えるのはいつも朝の5時半頃。
この時間にこの村で起きているのはフィオーネだけだ。ルーティですら起きるのは7時を過ぎてからである。
アルラウネの集落に住んでいた頃なら朝食の準備でも始めるところだが、そんなことは後回しで良い。今はそれよりももっと重要なことがあるからだ。
家の中へ戻ると、足音を立てないように注意をしながら階段を上る。先ほどよりも慎重に廊下を進むと自分にあてがわれた部屋の隣、ご主人様の部屋に物音一つさせずに侵入した。
ゆっくりとベッドに近付き、寝ているご主人様の顔を観察する。幸せそうな寝顔だ。見ているこちらまで幸せな気分になってくる。
つい夢中になって30分も見つめてしまった。
寝顔を堪能した後は布団の中に潜り込む。ご主人様の匂いが充満していた。
ご主人様はもの凄く良い匂いがする。思わずこのまま既成事実を作ってしまいたくなるほどだ。
しかし、あの女との約束があるのでそこはグッと我慢した。面倒だが仕方がない。
妖精は本来なら個々は非力で群れると厄介な種族だが、中には高い魔力を有している者もいる。
おそらくあの女は親持ち――親から産まれた妖精――で、あれだけのサイズに成長しているのなら自分よりも数段は格上の相手だ。逆らえない。
布団の中で何度も深呼吸をして満足すると、今度はご主人様の左腕に頭を乗せる。
このまま抱きつくのはセーフだろうか。個人的には余裕でセーフだと思うが、あの女は年を食ってる割には初心なのでアウトと言いそうだ。
前に服を脱いで誘惑しようとしたのがバレて、露骨な態度で誘うのも手を出したと見なすと釘を刺されたぐらいだし。
仕方がないのでご主人様の右手を取って、自分の胸に誘導した。
サイズは普通だが形とハリには自信がある。あの女の今にも垂れてきそうな無駄にデカイだけの胸よりも気に入ってもらえるはずだ。
今日こそ手を出してもらえますようにと願いながら、フィオーネはご主人様が起きるまで寝たフリを続けた。
※ ※ ※
朝、俺は左腕の痺れを感じて目が覚めた。確認するまでもなくフィオーネが俺の腕を枕代わりにして眠っていた。
フィオーネが村に住むようになって数日経ったが、毎朝起きると俺の横でフィオーネが寝ている。
いつか我慢できずに襲い掛かってしまいそうなので勘弁して欲しい。
初日に身体でお礼をすると俺のことを押し倒してきたフィオーネが相手なのだから手を出しても良いんじゃと思うが、そうはいかない理由がある。
村長が男女交際に厳しいから恐いのだ。
エッチなのはイケナイと思いますとかいう思想なのだろうか。本人は毎日エロい格好で色気を振り撒いてるくせに。解せぬ。
最初はフィオーネがウチに住むことに村長は大反対していた。家はいくつも余っているのだからそこに住みなさいと。
するとフィオーネは俺の家の軒先に犬小屋を建ててそこに住もうとした。自分はペットなので一軒家などおこがましいと。
さすがにそこまで酷い扱いはできないとウチの空いている部屋に住まわせることにした。俺の必死の説得に村長も最終的には折れた。
ただしその際に「わたくしはレン様のことを信じています。きっと間違いなど起こさないでしょう。ですが万が一にもレン様からフィオーネに手を出した場合は…………、もぎます」と真顔で言われた。
絶対に俺からは手を出さないと心に誓った。
左腕が痛いのでフィオーネを起こそうとしたところで重大な事実に気付いた。俺の右手がフィオーネの胸を鷲掴みにしている。
何このラブコメ漫画みたいな展開。ナイス俺の右手。
いやいや、そうではない。気付いたのなら早く手を離さないと。勿体無いとか微塵も思ってないから。
「フィ、フィオーネさ~ん。朝ですよ~?」
小声で話掛けてみたが、フィオーネは起きる気配がない。少しくらい揉んでもバレないんじゃなかろうか?
いや待て。今ならまだ事故で誤魔化せるが、寝ているフィオーネの胸を揉んだことが村長にバレると本当にもがれてしまうかもしれない。
だからここは事故で済ませられるように2揉み。いや、3揉みぐらいなら……。
俺が苦悩をしていると、頭上で目覚まし時計が大きな音を鳴り響かせた。
「うわあっ、ビックリしたー!」
突然のことに驚いて飛び起きてしまった。すると俺の腕を枕にしていたフィオーネも当然起きる。
「……ちっ。おはようございます、ご主人様」
「お、おはよう、フィオーネ」
「じゃあ、先にルーティのところに行ってる」
起き上がったフィオーネは挨拶を済ませると、眠気を感じている様子もなくそのまま部屋を出ていった。
どうやら胸を触っていたことはバレていないようだ。危なかった。主に俺の理性と下半身が。
フィオーネは家事が得意なので家のことを任せることにした。
食事は毎日三食ルーティと一緒に作っている。
前にルーティが風邪を引いたときは、わざわざミューとホールドさんに交代で作りに来てもらったので料理が出来る人が増えるのは助かる。
俺も日本にいた頃なら多少はやっていたが、この世界では日本になかった調理器具や調味料があるので本当に簡単なものしか作れないし。
朝食が終わると畑の世話だ。最初はルーティの畑だったのだが、最近では俺とルーティの畑という認識になっている。
フィオーネはここでも大活躍だ。土の栄養状態や作物の発育具合などが触ればわかるらしいので、長年やっているルーティよりも頼りになる。
ただ本人は芋や根菜よりもキャベツやホウレン草のような緑色の葉物が好物らしく、次からはそちらも植えてみようということになった。
そして虫が大の苦手で、イモムシやアブラムシのような害虫を見ると悲鳴を上げながら逃げ出す。ミミズは平気で触っているのに。
むしろミミズを見つけると若干うっとりとした目で触っているのは気のせいだと思いたい。
昼食の後、俺が採取に出かけている間にフィオーネは家で掃除や洗濯をしてくれる。
俺はつい掃除や洗濯はサボり気味になってしまうので非常に助かっている。が、いつか掃除中に地下室に隠している本が見つかってしまうのではないかと内心ヒヤヒヤしている。
なので露骨になりすぎないようにさり気なく、「地下室は閉じ込められる危険があるから1人で掃除しなくても良いよ」と言っておいた。
言った後で逆にルーティと2人掛かりで掃除されたりするんじゃないかと心配するハメになった。
帰ったら机の上に本が積まれてたらどうしよう。
それとは別に、天気が良い日などはフィオーネも採取に付いて来るときがある。
ドランペルカズラの毒液は少量なら肌に直接かかっても平気な程度に耐性はあるが、溶解液にはめっぽう弱いらしい。
なのでカズラ以外の植物の採取を任せてみたが、俺とは比べ物にならないぐらい知識が豊富なのであっと言う間に素材袋いっぱいにしていた。
普段は放置していたような花や草がかなり高値で売れると聞いて、ちょっとショックを受けたのは内緒だ。
フィオーネの困るところは人目を憚らずにベタベタとくっ付いてくるところだ。
「ご主人様、あーん」
夕食の席で、フィオーネが一口サイズのジャガイモを俺に差し出してきた。
「レ、レン様! あ、あーん……!」
「お兄ちゃん、あーん!」
「むぐぅっ!」
俺が反応に困っていると村長とピュティが面白がってフィオーネの真似をし、そのまま3人で俺の口に食べ物を押し込んできた。
必死で口いっぱいの食べ物を租借する俺の横で3人はなぜかハイタッチを交わしている。窒息死させる作戦なのだろうか。
「レンさん、食事は行儀良く食べてください。ピュティが真似してるじゃないですか」
なぜかルーティに怒られた。
というか最近よくルーティに説教される。主に原因を作っているのは村長とフィオーネなのに。
「レンさんがしっかりしてくれれば、あの2人のいいように振り回されることもなくなるんです。嫌なことは嫌とちゃんと断ってください」
「あっはい。すみません……」
理不尽じゃなかろうか。
あ、いえ、なんでもないです。毎日美味しいご飯をありがとうございます。
そうだ、食べ終わったらお風呂を沸かしますね。
今日は熱めの44度ぐらいの気分?
わかりました。ではそのようにいたします。
この村における俺のヒエラルキーは最下層である。
※ ※ ※
夜、ご主人様がお風呂から上がると、入れ替わるようにフィオーネがお風呂に向かう。
アルラウネなのでお風呂はあまり好きではないが、ご主人様の残り湯なら喜んで入ることができる。
それにいつ我慢できなくなったご主人様が自分のことを押し倒してくるのかもわからないのだ。身体はいつも清潔にしておくべきだろう。
入念に身体を洗ってから湯船に浸かる。熱い温度が苦手だと言った自分のために、ご主人様がわざわざぬるめの温度にまで下げてくれていたようだ。
本当に優しくて良い人だと思う。後は性欲に忠実になってくれれば完璧なのに。
お風呂から上がると時刻はそろそろ21時。アルラウネの自分にとっては深夜に近い時間帯だ。
居間で妖精達とボードゲームに興じていたご主人様に就寝の挨拶を告げて自室に戻る。
妖精さえいなければお風呂上りという理由を付けて裸でご主人様に挨拶できたのにそうはいかなかった。やはりあの妖精達はあの女の差し金か。
悔しいがご主人様とあの女をくっ付けて、おこぼれを頂戴する方が早いのだろうか。
今日も手を出してもらえなかったことを残念に思いながら、パジャマを脱いでからベッドに横になる。
これならご主人様が夜這いに来てくれたときに手を煩わせることもない。
明日はどんな方法でご主人様をその気にさせようかと考えつつ、フィオーネは眠りに落ちていった。
今回で10万字を超えました。
いつも読みにきてくださっている方、ありがとうございます。
ついでに今回は試験的に目線変更をさせてみました。
上手くいってるのかどうかは書いている本人にはわからないんですけどね!




