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異世界到着

 森だ。

 意識が戻った瞬間に認識したのは森の中にいるということだった。

 天使に唆されて異世界転移をすることにして、足元の魔法陣が光ったと思ったら森の中で寝転んでいた。


 ゆっくりと身体を起こして辺りを見回してみる。前後左右どこを見ても木だらけだった。どの木も幹が太く背も高い。

 木々の隙間から辛うじて空は見えているが、日光は遮られて昼間だというのに薄暗い。


『もっしもーし! 聞こえるー?』

「うおぁ、ビックリした!」


 感慨にふける間もなく突然天使の声が脳内に響き渡った。これが念話か。


『オッケー、聞こえてるみたいね。無事に到着もしたみたいだし、さっすがアタシ!』

「お前、失敗したらどうするつもりだったんだよ!」

『えー、失敗しても別次元に飛ばされるだけでアタシには害がないし。それに成功したんだからいいじゃない。男が終わったことでグチグチ言わないでよねー』


 このクソ天使。次に会ったときは絶対に殴る。


「というかお前、なんかキャラというか口調が変わってないか?」

『え? だって異世界に送りさえすればこっちのもんだし、もう猫かぶる必要はないでしょ?』

「あっ、うん。薄々はそうだと感じてたけどな。それで俺はこの後どうすれば良いんだ? なんか森の中にいるんだが」

『それなんだけど、村の近くに転送するつもりだったのにアンタが転移直前に暴れたせいで座標が少しズレちゃったみたい。まぁ1時間も歩けば村に着く距離だから問題ないでしょ』


 暴れたのはお前が不安を煽るようなことを言ったせいだけどな。でも1時間ならギリギリ許容範囲か。


『そこから西に向かえば村があるから。じゃ、後は頑張って生きてねー』

「ちょ、待て待て待てっ! なに勝手に会話を終了させようとしてんの!? ちゃんとアフターサポートしろよ!」

『えー、面倒くさいなー。もうすぐアニメの放送時間なんだけどー』


 この野郎、最初からアフターサポートなんてする気ゼロだったな……!


「わかった、じゃあせめて俺のスキルってのがどうなってるのかだけ説明しろ」

『んもー、しょうがないわね。【アナライズ】っと』


 天使が渋々といった様子で何かしている。名称的に分析系のスキルか?


『え~っと、アンタのスキルは【水の領域】だって』

「どういうスキルなんだ?」

『水……というか液体を操る能力みたいね』

「なるほど。どうやって使うんだ?」

『んー、直接やってみた方が早いわね。いまアンタが向いてる方に進むと川があるみたいだからそこまで行ってみて』

「わかった」


 地面に落ちていた初心者セットの麻袋を担いで歩く。


 数分歩いたところでせせらぎが聞こえ、小川が見えた。

 川幅は5メートルにも満たず、流れは緩やかで澄みきった水は川底まで鮮明に確認できる。

 大自然の美しい景色にちょっとだけテンションが上がった。


「川に着いたぞ」

『あー、はいはい。それじゃ説明するから川に手を入れてみて』


 麻袋を地面に置いて川べりまで行き、言われた通りに川に手を浸す。かなり冷たいが気持ち良い。


『あとはその水を掴んで持ち上げるイメージをしながら手を上げてみなさい』

「掴んで持ち上げる。こうか? ……お、おおおおおおっ! できた!」


 一握り分の水が俺の手に吸い付くように川から持ち上がる。

 これが水を操る力か。


『水に触っていない状態でも操れるみたいだから、距離とか水量とかは自分で実際にやって確かめてみなさい。何事も練習あるのみね』

「えっ、これだけ?」

『あとはー、あ、温度も操れるみたいよ。持ち上げてる水に熱湯になれって念じてみて』

「熱湯に……。あっつぅうううううう! 解除! 解除!」


 水が熱湯に変わって手で触れていた部分が酷いことになった。慌てて水を操るのを止めると川に手を突っ込んで冷やす。火傷はしていないようだ。


『バカねー。ちゃんと手から離した状態でやりなさいよ。触ってなくても操れるってさっき教えてあげたでしょ』

「そういえばそうだったな……」


 もう1度試してみよう。今度は水をそのまま浮かばせるイメージをする。イメージ通りに川からサッカボールほどの大きさの水が浮かび上がった。

 次にその水に熱湯になれと念じる。次第に水の中に気泡が現れ、湯気も出てきた。最初にやったときよりも熱湯になる速度が遅いけど、手で直接触れているほうが操作しやすいのか?


「ところでこれ、熱湯になったからってどんなメリットがあるんだ?」

『え? そうねぇ……。いつでもカップラーメンが食べられるとか?』

「この世界にもカップ麺なんてあるのか」

『ないわね』


 ないのかよ。意味ないじゃないか。


「お前、チートスキルが当たるようにしてくれるって言ってたけど、これ本当にチートなのか?」

『レアリティ表記は星5ってなってるから間違いなくチート級のはずよ。操作系のスキルはイメージが重要なの。使用者のイメージがそのままスキルに反映されるんだからね。要はそのスキルもアンタの使い方でチートスキルになるし、ただのお茶汲みスキルにもなるってだけよ』


 言っている意味はわかるが少し釈然としない。チートと言うならもっとこうド派手な感じの使っただけで勝ちが確定するぐらいのが欲しかった。


「ってあれ? なんか少し体がダルいんだけど」


 まさか風邪を引いたとか? 異世界に来たばかりなのに。


『ああ、それは魔力が枯渇する前兆よ』

「え? これだけで俺の魔力って枯渇しかけてるのか?」


 数回水を操ってお湯を沸かしただけなのに、燃費が悪すぎじゃないか?


『ん~っと、そうね……。簡単に説明すると、今のアンタはRPGのゲーム開始直後でレベル1の魔法使いだと思いなさい。にも関わらず初級魔法をすっ飛ばしていきなり上級魔法を使ってたらMPなんてすぐにスッカラカンになっちゃうでしょ?』

「ああ、なるほど。つまりレベル上げみたいなのをしないといけないのか」

『そゆこと。何度もスキルを使ってれば自然と魔力保有量も上がるわよ』

「魔力が枯渇したらどうなるんだ?」

『死にはしないけど倦怠感がどんどん酷くなっていって、場合によっては意識を失ったりするわね』

「魔力を回復させる手段は?」

『体力を回復させるのと同じ方法で大丈夫よ。ご飯食べたり寝たりして休息を取れば自然と回復するわ』


 なるほど。スキルの練習をしてみたかったけど、それならまずは村に行ったほうが良いか。


『あっ』

「おいなんだ、その不安になるような呟きは」

『いや、早くそこから離れた方が良いわよ?』

「はぁ? なんでいきな……り……」


 川を挟んだ正面の森から見たことのない生き物が出てきた。

 体長は間違いなく2メートルを超えている。もしかしたら3メートルはあるんじゃなかろうか。

 鋭く伸びた牙と鋭利な爪。強靭な肉体は黒い体毛の上からでもはっきりとわかる。一言で表すならグリズリーとサーベルタイガーを掛け合わせたようた生物だ。

 なるほど、これが魔物か。しかし想定していたよりもかなり凶悪な見た目だ。戦っても勝てる気が全くしない。

 あ、目が合った瞬間に嬉しそうに口の端をつり上げた。ごちそうを見つけてラッキーって顔だ。


「うわあああああああああああっ!」


 後ろを向いて一目散に走る。って、咆哮を上げながら追いかけてきてるんですけど!?


「ちょおおおっ!? おい、天使! なんだよアレは!」

『何って見たまんま魔物じゃない。しかもアレってネームドモンスターみたいね。レアよ、レア。初っ端からネームドに当たるなんてアンタ運が良いわね』

「やかましいわ! ってか、なんでそんなヤバそうな魔物がいるんだよ!? ここって魔物が少ない地域なんだろ!?」

『え? …………ああ~、うん。魔物が少ない地域で間違いないわよ。その代わり1匹1匹が他の地域とは比べ物にならないぐらい極悪だけど』

「アホかあああああああああああっ!」


 魔物が少なくて安全な地域って言ったつもりだったのに、実際には超危険スポットだった。


「やば……、ちょっと走っただけで……、息切れしてきたんだけど……、ほんとに身体能力って、強化されてんのか……」

『失礼ね、ちゃんと底上げしてあげたわよ。元が低すぎてほとんど変わらなかったけど』

「詐欺じゃねーか!」


 このクソ天使、どれだけ人のことを騙してるんだ!


『おっといけない、もうオープニング始まっちゃってるじゃない。じゃあアタシはアニメ見るから今日はもう切るわね。明日まだ生きてたら村までナビしてあげるわ。じゃーねー』

「ちょ! おい待て! 切るな!」


 天使からの交信が途絶えた。次会ったときは絶対にタダじゃおかないからな!


 いや、そんなことよりもまずは魔物をどうにかしないとダメだ。ちょっとずつ追いつかれている。

 戦って勝てる気はしないが、あのクマタイガーの胃袋に入るのも嫌だ。


「しめた、川だ!」


 目の前に先ほどよりも大きめの川が見えた。

 川に沿って全力疾走をしながら【水の領域】を発動させる。川から湯船1杯分ぐらいの水が浮かび上がり、走る俺の横をフワフワと着いて来る。

 よし、動きながらでもスキルは使えるな。あとはこの水でどうやって攻撃するかだが……。

 やはり熱湯か。水に熱湯になるように、いや沸騰するように念じる。

 この世界の気圧が地球と同じなのかはわからないが、俺の中のイメージで沸騰といえば100℃だから多分それぐらいの温度になるはず!


 横に浮かんでいた水がボコボコと泡立ち蒸気を放つようになった。

 よし、これならいける!

 魔物との距離はおよそ15メートル。この距離なら外さない。


「くらえ!」


 真後ろから追いかけてきていた魔物に向かって、振り向きざまに熱湯をぶっかけた。

 魔物は突然飛んできた水に驚き急ブレーキをかけるがもう遅い。頭から煮えたぎる熱湯を浴びて咆哮を上げる。


「やったか!?」


 あ、ヤバイ。余計なことを言ってもうた。

 もうもうと立ち込める湯気の中から悠然と魔物が姿を現した。ひとっ風呂浴びてスッキリした顔だ。


「うっそだろおおおおおおおお!?」


 再び走り出した俺に先ほどと変わらずに追いかけてくる魔物。

 今のは人間なら全身火傷で致命傷レベルなんですけど!


 俺は再び走りながら【水の領域】を発動させるが、今度はバケツ1杯分ぐらいの水しか浮かばない。

 やばい、体がむちゃくちゃだるい。もう魔力が残ってないのか。

 今度はさっきよりももっと熱い水にしてみるか? 100℃と言わずに200℃とか300℃とか?

 いや、それも耐えられるかもしれないし、そもそもバケツ1杯分で足りるか?

 ここはあえて冷水……、そうだ! 氷なら!

 でも氷って液体じゃなくて固体だよな? 氷にした後も操れるのか?

 まぁいい、どうせこのままじゃ魔物に食われてお陀仏だ。試してみよう。


 フワフワと浮かんで着いて来る水に凍れと念じる。

 水が徐々に固まり氷となったが、そのまま俺の横に浮かんで着いて来る。成功だ。

 能力で凍らせた場合はそのまま操れるみたいだが、最初から氷だったら場合はどうなんだろう?

 気にはなるがそれは生き延びたら実験してみればいいことだ。今はこの氷を使ってあの魔物を倒す方法を考えないと。


 このまま氷をぶつけてもダメだ。まずは一度水に戻す。

 そして先端が尖るように念じながら再び凍らせる。イメージするのはツララだ。

 槍のように先端は鋭くなるように念じる。

 よし、いける!


 走るのを止めて振り返り、狙いを定める。同時に魔物が追ってくるのを止めて後ろ足だけで立ち上がり悠然を構えた。

 撃って来いってことか。

 狙うなら顔か心臓か? いや、回避されないように腹を狙おう。


「いけぇ!」


 ありったけの力を込めて氷を飛ばす。

 同時に魔物が短く咆哮を上げ、氷が粉々に砕け散った。


「なにそれ!? 口から衝撃波!?」


 氷が水に戻り、地面に吸い込まれる。

 やばい、身体に力が入らない。魔力が枯渇したか……。

 ヘタり込むようにその場に膝を付き、肩で息をする。身体中から汗が噴き出してきた。

 魔物は俺がもう動けないとわかったのか、涎を垂らしながらゆっくりと近付いてくる。

 川から水を引き寄せようと【水の領域】を発動させるが何も反応がない。万事休すか……。

 川沿いを走りながら逃げるんじゃなくて、川に入って戦っていれば良かったのだろうか。

 迫ってくる魔物が恐くて地面に目を向けて気付いた。


 地面に吸い込まれるってことは、汗って液体だよな?

 俺が触れている状態の水なら……、いけるんじゃないか?


 あの天使バカの言葉を思い出せ。

 操作系のスキルで重要なのはイメージだ。使用者のイメージがそのままスキルに反映される。このスキルがチートになるかどうかは俺次第だ。

 イメージするんだ。逆転の1手を。


 氷……、いや、凍らなくて良い。水のままでもいいから鋭くなれ。

 鋭く硬い針のようになればいい。そうだ、毒針だ。刺さっただけで死ぬ毒針だ。

 それをどこに刺すか? もちろん目だ。目に向かって飛んでいけ。


 魔物が目の前にきた。俺の息の根を止めようと右前足を持ち上げる。

 チャンスは今だ。

 飛べ。1滴でも良い。ぶっ刺せ。【水の領域】発動!


『グギャルアアアアアアアアアアアッ!』


 魔物が突然叫び声を上げ、左目を抑える。

 上手くいったようだ、ザマーミロ。

 ああ、でもさすがに刺さっただけで死ぬっていうのは無理だったか。片目を潰しただけだ。

 今の内に逃げれれば良かったけど体も動かないし、詰んだかな。


 俺が今度こそ死を覚悟したところで、魔物は雄叫びをあげながらそのまま来た方向へと走り出し姿が見えなくなった。

 しばらくへたり込んだまま動けなかったが、魔物は戻ってこない。

 あれ? 助かった……?

 でもいつ魔物が戻ってくるかわからないから別の場所に移動して……、ダメだ身体が言うことを聞かない。せめて森の木の影にでも隠れれば……。


 這うようにして森の中に入ると大きな木の幹に身体を預ける。

 お腹空いたなぁ。でも初心者セットは逃げるときに置いてきたから食べ物とか持ってないし。というかご飯を食べる力も残ってない。


 寝たらダメかな……。でももう眠くてしょうがないし……。

 少しだけ……、歩けるようになるまで……少しだけ横に……。


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