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忘れ物を回収する

 夜、なぜか恒例となりつつある天使の愚痴を聞かされている最中にふと思い出したことを聞いてみた。


「そういえば最初に貰った初心者セットって何が入ってたんだっけ? 確か食料と水と……、あとはマジックポーション?」

『えーっと、3日分の食料と水でしょ。それから地図や野営道具と、オマケでスタミナポーションとマジックポーションを1本ずつ入れてあげてたわよ』

「食料って簡単に腐るようなやつか?」

『そんな訳ないでしょ。携帯性、保存性、栄養面の3つを兼ね揃えたカ○リーメイトよ。ちゃんと飽きないようにプレーン、チーズ、チョコ、フルーツ、メープルの5種類を入れておいてあげたわ』


 3日分の食料が入っている割りに袋が軽かった気がしていたけど、そういうことか。5箱で3日は量が少なすぎだと思う。

 しかしホームシックというわけではないが、久しぶりに日本の物が食べたい。無いのなら諦めもつくが、あるのなら食べたくなる。

 問題はそれがある場所が東の森という点だが……。


「なぁ、明日ちょっと東の森まで初心者セットを取りに行きたいんだけど、手伝ってくれないか?」

『えー。明日は久々の非番だから撮り溜めしてたアニメを消化しようと思ってたんだけど』

「そう言わずに頼むよ。お前が見ててくれないとダメなんだよ」

『えっ……。そ、そこまで言うんならしょうがないわね! 少しだけなら付き合ってあげるわ』



 という訳で翌日の昼過ぎ。

 天使を呼び出してから俺は東の森へと足を踏み入れた。

 村に住むようになってから初めて東の森に入るのでかなり緊張しているが、天使が見てくれているので魔物に襲われる心配はほぼないだろう。

 いや、ほんと頼みますよ、天使さん。


『え~っと、それじゃあマップを……って、あれ? レンタローだけ今日はやたらと感度が良いわね。何かヘンな物でも食べた?』

「は? 昼飯なら食べたけどいつもと通りのご飯だったぞ」

『ん~、なんだろう。【アナライズ】っと。……ああ、【天翼の護り】を身に着けているのね。ふふん、なかなか殊勝な心掛けじゃない』


 天翼の護りを身に着けると聞いて俺も合点がいった。前に村長にもらったアクセサリーのことだ。

 天使の加護が得られると言っていたが、本当に効果があるのか。


「これ着けてたら、何かメリットでもあるのか?」

「簡単に説明すると、アタシからレンタローに干渉しやすくなるわね。マップの表示範囲が普段より5メートルぐらい広がっていたりとか」

「普段が50メートルだっけ? ってことは1割り増しか」

「まぁマップは本来の天使の能力じゃないからそんなものね。あ、それよりもすぐ近くに一角タヌキがいるわよ」


 一角タヌキはこの世界のどこにでも生息している下級の魔物だ。

 俺でも簡単に倒せるぐらい弱いが、角は調合の材料になるし肉はそこそこ美味しいという、とても有り難い存在だ。

 ちなみに、前に一角タヌキを持ち帰ったときは遠巻きに見ている俺の目の前でルーティが手際よく捌いてくれた。慣れもあるのだろうけど、ルーティは見た目に似合わずとても逞しい。

 天使に正確な場所を聞き、一角タヌキに気付かれないように近付く。【水の領域】を使い、尖らせた氷を首筋に飛ばして1撃で仕留めた。

 角を切り落とし、血抜きをしてから念のために持って来ていた素材袋に放り込む。村からそう離れていないので一度帰ろうかと思ったが、天使に急かされてそのまま森の奥を目指した。初心者セットを置いてきた場所の座標は記録してあるので迷うことはないそうだ。



 天使に誘導されながら1時間ほど森の中を歩いた。

 改めて森の中を観察してみると、ドランペルカズラがそこかしらに生えていたり毒沼がボコボコと泡だっていたりとかなり危険な森だった。

 これ、【水の領域】を取得していなかったら初日に死んでいたかもしれない。

 でもこの世界に慣れた今となっては、帰りに少しだけ採取をしていこうかと思えるぐらいには余裕だ。



『正面の大きな木の向こう側が目的地ね』

「ああ、この木は見覚えがあるな。それじゃ、サクっと荷物を回収して……」


 大きな木を周りこむようにして歩いた先に、置き忘れていた初心者セットは確かにあった。ついでにその初心者セットに手を伸ばしかけた状態のクマッピーもいるが、どういうことなのだろう。

 向こうもすぐに俺に気付いてバッチリ目が合った。


(おい天使。なんかクマッピーがいるんだけど?)

『えっ? ……あっ。あー、原因がわかったわ。座標を記録していたマーカーが大きすぎて、その魔物のアイコンが下に隠れてたみたい。てへっ』

(アホかっ! お前、東の森のヌシだぞ!? どうすんだよ、これ!)

『いやー、アタシに聞かれましても。前に戦って追っ払ったんでしょ。今回もなんとかならない?』


 無茶を言うな、前回は運よく奇襲が成功してなんとかなったんだぞ。同じ手がもう一度通じるかもわからないのに。

 クマッピーから逃げようかと思ったところで気付いた。最初に遭遇したときは俺の姿を見て嬉しそうに襲ってきたクマッピーが、今回は驚いたような表情のまま固まっている。

 そして少しの間があってから後ろにゆっくりと下がり、身構えるようにして唸り声を上げた。


 もしかして俺のことを警戒している?

 よく見ると左目が開いてないし、前回傷を負わせたことで危険なヤツと捉えられているのだろうか。

 よし、それならここは強気に出て……、交渉できるか試してみよう。

 いや、チキンとか言うなし。前回は向こうが油断してたおかげで助かったようなものなんだぞ。


「待った、クマッピー! 俺に戦う意思はない!」


 俺が両手を広げて敵意がないことを示すとクマッピーの唸り声が止まった。もしかして言葉が通じるのだろうか。


「俺は前に置き忘れてた自分の荷物を取りに来ただけなんだ。そう、それ。そこに落ちているやつ」


 やはり言葉が通じている。知能高いな。でもそれなら交渉がしやすい。


「でだ。さっきここに来る前に仕留めた一角タヌキがあるんだが、これをやるから代わりにその荷物は返してくれないか?」


 クマッピーがこくこくと頷いて警戒を解く。交渉に応じてくれるようだ。

 なんだ良いヤツじゃないか。


「よし、じゃあタヌキはそっちに投げた方が良いか? 地面に置け? わかった、ここに置こう。ほら、置いたぞ。これはオマエの物だ。じゃあ荷物は返してもらうからな」


 俺はクマッピーから目を離さないように横歩きでゆっくりと初心者セットに近付く。クマッピーも同じように俺から目を離さずにタヌキの死骸に近付く。

 お互いにブツを回収すると、今度は揃って後ろ歩きで距離を開ける。十分に離れたところで後ろに振り返り、全速力で駆け出した。


「こっわあああああああああああっ!」


 俺は一目散に村まで逃げ帰った。




「あー、酷い目にあった……」


 自宅の居間に倒れ込むようにして寝そべる。

 天使は村に着く直前に悪びれた様子もなく交信を切った。もうアイツのいう事は絶対に信じない。


「とりあえず戦利品の確認をするか」


 俺はのそりと起き上がると初心者セットの袋を開ける。

 早速カロリーメ○トでも食べようかと思っていたら中身が空だった。しかも5箱全部。

 もしかしてクマッピーが食べたのだろうか。でも包装袋がちゃんと剥いてあるのに、そんなに器用なのだろうか。

 次に2本の空ビンが出てきた。スタミナポーションとマジックポーションが入っていたビンだと思うが、これもクマッピーが飲んだのだろうか。水も空っぽだ。

 地図は無事だった。これは後で見よう。他に袋の中に入っていたのは魔力電池タイプのカンテラ、レジャーシート、マッチに着火剤、ロープなどだ。


 一番底に入っていた寝袋を取り出すと、その中からなぜか人形が出てきた。木で出来たフィギュアのようなモノで、かなり精巧に作られている。

 なぜ天使はこんな物を初心者セットに入れていたんだろう。俺にはフィギュア収集の趣味はないし、見たこともないキャラだけど。アニメオタクの天使が間違えて自分の私物を混入したのだろうか?


 しげしげと観察をしていると不意に手に持っていたフィギュアが発光した。眩しくて思わず目を閉じる。

 その直後、結構デカい物体が俺の腹の上にドスンと落ちてきた。かなり痛い。

 何事かと目を開けると、見知らぬ女の子が俺に馬乗りになっていた。

 いや、見たことはあるか。さっきのフィギュアがそのまま女の子になっているようだ。

 見た目だけで言えば14歳前後。ルーティより下だがメルディよりは上といったところか。戦闘力も丁度2人の中間といったぐらいだ。服は薄く緑がかったワンピースを着ている。

 何より一番の特徴は長い緑色の髪で、髪の一部が蔦のようになっており頭に花がくっ付いている。よく似た髪なら前に行商人の親父さんが売っていた本でも見たことがあった。


「え~っと、キミはアルラウネかな?」

「うん。アルラウネのフィオーネ。よろしくお願いします、ご主人様」

「ああ、よろし、えっ? ご主人様?」

「じゃあ、早速……する?」


 突然フィオーネの服が消えた。なるほど、村長のドレスと同じで魔力で作った服だったのか。

 混乱した頭で変なことを分析していると、フィオーネは俺のズボンのベルトを外した。


「ちょっ! するってナニをする気なの!?」

「もちろん子作り。助けてくれたお礼。私、はじめてだけど頑張る」


 そのまま一気にズボンを剥ぎ取られた。はじめてと言う割りには手際が良い。

 いや、だから変なことを分析してる場合じゃない。このままだと俺のおしべがフィオーネのめしべに食べられてしまう。やったぜ。じゃなかった、急展開すぎて頭の処理が追いつかない。

 ああでも据え膳食わぬはなんとやらだし、もういっそ無抵抗で襲われてしま――。


「レン様ー。話し声が聞こえましたけど、もうお帰りになられているんで……すか……」


 フィオーネの手が俺のパンツに掛かったところで運悪く、いや、運良く村長がやってきた。しかも玄関からではなく縁側の方から顔を出したので居間の中が丸見えだ。


「あああああああああああっアンタ何やってんのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」


 村長が聞いたことがないぐらいの大声を上げながら、タックルするようにフィオーネを俺から引き剥がす。

 あとちょっとだったのに……って、だから違う。助かった。


「レン様! ご無事ですか!? あの女に汚されてませんか!? そうだ、今すぐわたくしの身体で消毒しますね!」

「は、はいいいいいいい!?」


 なぜか村長まで服を脱ぎ出した。

 身体で消毒って何なの!? ワクワクが止まらねぇ!


「村長さん何事ですか! って、ひゃああああああっ! ピュティは見ちゃいけません! あなた達も!」


 同じく縁側からやって来たルーティが、俺達の痴態をピュティや小妖精達の視線から必死で隠す。


「痛い。何するの。アナタこそご主人様から離れて」

「ご主人様!? レン様、どういうことですか! わたくしというものがありながら、この女はなんなんですか!?」


 収拾がつかなくなってきた。

 もういっそこのまま気絶した方が楽だろうかと、村長に首を絞められながら俺は天を仰いだ。


少し中途半端ですがゴールデンウィークで忙しいので一旦切ります。

続きはなるべく早めに頑張ります

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