男の買い物
最後の馬車へやってきた。
いくつか店の外に商品が並べてあるが、基本は馬車の中で買い物をするタイプのようだ。
外に並べてあるのは酒や加工された食料が中心のようだが、ここは食べ物関係の店なのだろうか。
「おう、らっしゃい! 兄ちゃんが噂の新人か!」
俺に気付いた店主がやって来た。鬼人族の中年で、頭がスキンヘッドなのでかなり厳つい。
「カーッ! それにしてもようやくこの村にも男が住み着いたか。ホールドのヤツは顔を見せようともしないし、毎回暇でしょうがなかったんだよ」
「ホールドさんとは知り合いで?」
「知り合いも何も、アイツはオレっちの息子だぜ。ほら、角の形がそっくりだろ?」
なるほど、わからん。
しかし今朝からホールドさんを見かけていないと思っていたら、父親に会いたくないからどこかに隠れているのだろうか。親父さんの方は邪険にしている雰囲気ではないが、俺が口を出す問題でもないだろう。
「ところで、ここって何屋になるんですか?」
「ここは見ての通り、男の店だぜ!」
だからわからんて。
「ええっと……、男性向けの店ってことですか?」
「そんな感じだな! 男なら思わず欲しくなる商品を多数取り揃えているぜ。でもよ、この村って女だらけだろ? 商隊だから一緒にこの村まで来ちゃいるが、いつも暇で仕方なかったんだよ。兄ちゃんが来てくれて助かったぜ」
親父さんのテンションが暑苦しいぐらいに高い。客が来たのが相当嬉しいみたいだ。でも男向けの店なら俺も初めからここに来れば早かったかもしれない。
「外に置いてあるのは酒と食料だけですか?」
「そうだな。酒とそのツマミ。あとこっちのは冒険に出るときに便利な携帯食料だな」
「なるほど。じゃあ馬車の中の商品を見せてもらっても良いですか?」
「もちろんだ! 隅から隅までじっくりと見てってくれ」
親父さんに先導される形で馬車に上がる。そこには雑貨や装飾品や服の他に、武器や鎧に小さな家具まであった。
しかし、それらの品のデザインにはどれも一定の法則がある。
雑貨や装飾品はドクロや十字架があしらわれているのがほとんどで、服にはチェーンやベルトが多数取り付けてある。
目だけを隠すやたらと尖ったやマスクや、漆黒のマント。包帯に使用用途のなさそうなコレクション用の鍵などが置いてるのを見て確信した。ここは男の店というより厨二の店だ。
「どうでい、お宝の山だろ?」
「え、ええ。そうですね」
正直、俺にその趣味はないが、でもデザインをある程度気にしなければ俺が欲しかった物がいくつかある。
まず時計。目覚まし機能の付いた据え置きの時計と、外出時用の腕時計や懐中時計なんかもある。
目覚まし時計はちょうど欲しかったし、村の外に採取に出るときにも時間がわかるように腕時計や懐中時計があれば便利だろう。
次にウェストポーチ。これも大小様々な物があるので採取に出るときに持って行けばかなり便利だ。
あとは帽子にライターや単眼鏡なんかも持っているといないでは安心感が違う。
「おっ? おおおおおおっ! 銃だ! 銃がある!」
順番に場車内を見ていき、武器コーナーに差し掛かったところで銃を発見した。しかもリボルバータイプ。これはむちゃくちゃ欲しい。看板に偽り無しだ。
「お、兄ちゃんは銃を知ってるのか。オレっちはデカイ得物を振り回す方が好きだが、確かに人間の兄ちゃんにはそっちのが合ってるかもしれねーな」
どうやらちゃんとした武器のようだ。
弾に魔法が付与されていて、発砲した弾が着弾と同時に魔法を発動させるらしい。これなら護身用武器として最高ではなかろうか。
「うわ、120万バルシもするんですか。しかも弾が1発2500から3000バルシって……」
問題があるとすれば予想以上にお高いことだ。いや、魔法が付与されているのなら当然なのだろうか。
「あー、それはかなり安物だぞ。王都の専門店に行きゃ、その10倍ぐらいの値段の銃がごまんとあるしな」
「マジですか……」
今の俺の所持金ではとても手が出ない。でも頑張ってお金を貯めて、いずれは買おう。
銃は手が出せないので、とりあえず今買える物を買うことにした。
先ほど欲しいと思った商品に加え、ペンライトのような魔道具もあったのでそれも購入する。
あと欲しかった物といえば……。
「そうだ親父さん。この店って本は置いてないんですか?」
「ん? そりゃ当然あるぞ。いろいろなニーズに応えれるように幅広く揃えてあるくらいだ」
「へぇー、じゃあちょっと見せてもらえます?」
「おう、いいぜ。しっかし、この村に住んでても本がいるんだな。って、そりゃそうか。たまにはそいうのも見たくなるか」
親父さんに店の奥に案内された。
一番欲しい本は魔物の図鑑やこの世界のことがわかるような資料集だが、地図帳や歴史書なんかも読んでおきたい。
あとは寝る前に読めるような物語性のある本などもいくつか置いてないだろうか。
「いま王都で一番売れている念写本はこれだな」
親父さんに渡された本の表紙には、若くてとても可愛らしい女の子がV字水着を着てグラビアポーズで写っていた。
頭には小さな角、背中にはコウモリのような羽、お尻には細長い尻尾。表紙に書かれている文字から、この女の子はサキュバスアイドルのプリムちゃんというらしい。
パラパラと捲って中を拝見させて頂くと、どうやら念写本とは日本で言うところの写真集だった。写真と代わり映えしないような解像度だが、念写とはスキルか魔法の一種なのだろうか。
そしてこの本、表紙のV字水着を着ているのは最初の数ページだけで、ほぼ全編にわたって素っ裸である。さらにモザイクは必要とされていないのか、それともそういう概念は存在しないのか、局部がモロ見えだ。
しかし少し考えてみればわかることだった。男の店というぐらいだし、置いてある本も男に喜ばれる本に決まっている。
でも外には冒険者用の携帯食料なんかが置いてあったのだから、そういう関係の本があっても良いのではなかろうか。
よし、ひとまず確認が先だ。
「親父さん、この本はおいくらで?」
「そいつは2700バルシだな」
「買います。あと他にこういった本は?」
「おう、いろいろあるぞ」
さすが幅広く揃えていると言うだけのことはあった。
プリムちゃんの本をバックナンバーを合わせて4冊、モデルがエルフの女性の本を3冊、人魚の本を1冊、獣人の本を2冊、ドワーフの本を1冊。合計で11冊を購入した。
実は少しだけお金が足りず、泣く泣くどれか1冊諦めようかと悩んでいたら親父さんが割り引きしてくれたので助かった。ありがとうございます。
今回は買えなかったけど、ラミアとかハーピーとかアルラウネとかついでに人間の本なども興味あるので、次までに資金を貯めておきます。
あとこの世界、児ポ法というものはどうなっているのだろうか。
若いエルフやドワーフの本なんかは完全にロリ本である。参考資料として1冊ずつ買ったけど。うん、あくまで参考資料として。
人間の年齢だと成人しているからセーフってそれで良いのだろうか。
でもさすがに小妖精の本はダメだろうと思って買わなかった。実は村の小妖精達もまだあまり区別ができていないので、あの子達までそういう目で見てしまいそうだし。
あ、そういえば図鑑とか資料集は置いてないのか聞きそびれてた。
まぁいいや。どうせ買うお金無いし。
「ところで親父さん。本を買ったのは良いんですけど、家に持って帰るまでに人に見られると非常にマズイことになる予感がするんで、夜になってから取りに来てもいいですか?」
「はっはっは、こういうのは堂々としてる方が逆にバレないんだよ。見えないようにしてやるから普通に買い物しましたーって顔して帰りゃ大丈夫だって」
親父さんは本11冊を纏めて布で包むと厚紙で出来た箱――わかりやすく言うとダンボールのような物――の底に入れる。そしてその上から俺が他に買った商品などを入れてくれた。
「よし、これで良いだろ。それじゃ、ありがとな!」
親父さんに見送られて馬車を出た。言われた通り普通に買い物をした風を装いながら少し早足で自宅を目指す。
「あら、レン様。お買い物は終わりですか?」
「あー、はい。家に帰るとこでした」
丁度メリッサさんの馬車から出てきた村長と出くわしてしまった。手提げ紙袋を持っているので買い物が終わったところなのだろう。
「そうですか。大きな荷物を抱えてますけど、何か良いものはありました?」
「いやー、思っていた以上に品揃えが豊富だったのでいろいろ買ってしまいましたよ。時計とかポシェットとか」
「なるほど。ご満足いただけたようで何よりです。引き止めても悪いですし、一旦失礼しますね。また後ほど」
「あ、はい。ではまた夕飯のときに」
内心冷や汗をかきながら村長をやり過ごす。
危ない。村長って嘘を感知するスキルを持っているから、下手に詮索されるのは非常にヤバイ。
「ああ、そういえばレン様。一つ言い忘れていたのですが」
「な、なんでしょう?」
「お風呂なのですが、今日晩は宿の方もお願いしてもよろしいですか? 商隊の皆さんにはいつもはお湯を提供していたのですが、宿にもお風呂はあるので入っていただこうかと思いまして」
「それは大丈夫ですよ。昨日、掃除してたときに浴室はルーティが念入りに洗っていましたので、最初からそのつもりでしたし」
ルーティは今日晩は宿の風呂を利用するみたいだ。
一度この広いお風呂に入ってみたかったと言いながら、嬉々として女性用の浴室を磨いていた。男性用はその半分にも満たない時間で掃除を終えていたのに。
「そうですか。ではお手数をおかけしますが、よろしくお願いしますね」
村長は今度こそ去って行った。
心臓はバクバクとは早鐘を打っていたが、どうやらバレずに済んだようだ。
無事に家に辿り着いた。
途中で人魚ご一行に囲まれたときはかなり焦ったが、咄嗟にアクセサリーや化粧のことを褒めたら上機嫌になって俺の買った物には一切触れてこなかった。
事前に敵情視察をしておいて本当に良かった。
「あ、お兄ちゃん! お帰りなさーい」
「お邪魔してますです!」
「「「「「 おかえりー! 」」」」」
家の玄関扉を開けたらピュティとメルディと沢山の妖精達がいた。
「い、いらっしゃい。何……してたんだい?」
「メルちゃんにね、お兄ちゃんの家を案内してあげてたの!」
「案内してもらってたです!」
あ、これあかんやつや。
確かに家の鍵はいつも掛けずに開けっ放しにしてて、好きに入っても良いと言ってある。どうせ盗られて困るようなものはないし、イタズラはしてもそんなことをする子はいないからだ。
でもそのことをすっかり忘れてて、見られてはいけない本を大量に買ってきてしまった。これは相当厳重な場所に隠す必要がある。
いや、隠す云々の前に現状でもかなりタイミングが悪い。好奇心旺盛な子供達に荷物を抱えているところを見られたりすれば……。
「お兄ちゃん、お買い物してきたの? 何買ったの?」
やはりこうなった。
妖精達も口々に何を買ったのかと箱に興味を示している。
落ち着け、慌てるな。思考を停止するんじゃない。
冷静になって考えるんだ、逆転の一手を……!
無駄に脳内でポーズをキメながら必死に考えて、一つの手を思い付いた。
あそこならきっと安全なはずだ。
問題はどうやってこの子達に見られないように隠すかだが。
「あー……、そうだ! 皆、かくれんぼをしないか!? 俺が鬼をやるから、最後まで見つからなかった子には何か景品を出そうかな!」
突然の提案だったのにも関わらず、ピュティ達は全員が乗ってきた。
よし、いける!
「えーっと、じゃあ……。家の外に出るのはなしで。あと台所に隠れるのは危ないから、俺はそこからスタートにしようかな。台所で100を数えたら探しに行くから、それまでに隠れるんだぞー」
俺はそう宣言しつつ台所に移動する。ピュティ達は蜘蛛の子を散らすように隠れる場所を求めていなくなった。
ピュティ達の姿が見えなくなったのを確認すると同時に、俺は台所にある地下室の扉を開けた。
そう、この家には地下室がある。というよりも、この村の家には地下室が標準で備わっている。理由は食材を保存しておくためにだ。
そして妖精達は家主の許可なく地下室には絶対に入らない。理由は食材にはイタズラをしてはいけないと徹底してあるのと、万が一閉じ込められでもしたら危険だからだ。
俺の家の地下室には何も置いてないが、それでも妖精達は入ってこない。つまり地下室は俺の完全なるプライベート空間と化す。最初から焦る必要など全くなかったのだ。
紙箱の中から布に包まれた本を取り出すと、地下室の奥に隠す。すぐに上に戻ると扉を閉じて鍵を掛けた。
ミッションコンプリート。あとは夜になってからじっくりと楽しもう。
俺は久しぶりに時間が経つのをもどかしく思いながらも、ハイテンションでピュティ達とのかくれんぼを楽しんだ。
この後の展開は3パターン考えてあるのですが、どれにするかはまだ決めていません




