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買い物をしよう

 村に来た行商人の馬車は全部で6台だ。

 その内、先頭を走っていた1台は護衛達の輸送用兼、囮兼、予備となっていて商品は積まれていないようだ。


 俺がどの馬車から見ようかと周囲を見回すと、近くの馬車の前でルーティが商品を眺めているのが目に入った。

 店主はいないようだが、ルーティは何を買うつもりなのだろうか?

 聞いてみようと思いながら近付いたところで、馬車から店主と思わしき男が出てきてルーティに声を抑え気味に話かける。


「先生。今回のブツを確認させて頂きましたが、相変わらず素晴らしい出来でした。あれなら先方も満足してくれるでしょう」

「そうですか。なら良かったです」

「ではこちらが代金となります。あと次回作への要望を纏めた紙も入ってますのでそちらは後で確認してください」

「はい、わかりました。無理そうなら明日の出発までに言いますね」


 ルーティが店主から封筒を受け取った。粘土細工を売ったお金なのだろう。

 しかしルーティは先生と呼ばれているのか。恥ずかしがって見せてくれないが、それほどまでに凄い物を作っているのだろうか。


「それで先生、何か買っていかれますか?」

「そうですね。とりあえずここにある石鹸を全部ください」

「はい? ぜ、全部……ですか?」

「全部です。1種類ずつとかじゃなくて、全部纏めて買います」


 ルーティが超大人買いをして店主が困惑していた。

 洗髪用と身体用の石鹸を木箱ごと買い取ろうとしているが、正気なのだろうか。


「そ、そうですか。ウチは商売なのでありがたいですが……。でも今までは使う機会が少ないからと匂いを嗅ぐだけだったのに、何かあったんですか?」

「最近この村では毎日お風呂に入れるようになったんです。場合によっては朝からでも昼からでも好きなときに入れます。なので石鹸はいくらあっても大丈夫なんです。むしろこれだけじゃ2ヶ月持たないかもしれませんね。次回はこれの倍ぐらいは持って来てください。あ、でも量さえあればなんでも良いんじゃないんで、なるべく同じ種類のは避けて匂いとかメーカーが別のを用意してきてくださいね。種類は多ければ多いだけいいです。泡立ちとか指通りとかいろいろ試してみたいので」

「わ、わかりました。でもその……、それだと石鹸だけでブツの売り上げを使ってしまいますけど、食材とかは買わなくて良いんですか?」

「何言ってるんですか。食材は無くてもいざとなればどうにでもなります。でもお風呂に入るときに石鹸がなかったら死活問題じゃないですか」


 いや、逆だと思う。ルーティは完全に正気を失っているようだ。

 多分だけど、今までは滅多にお風呂に入れないから買いたい石鹸を買わずに我慢してフラストレーションを溜めていたのだろう。それが急に開放されたせいで、その反動と喜びで冷静さを失っているのだ。

 さすがに生活費の全てをつぎ込んで石鹸だけを買うのはやりすぎだと思うが、口を出すのは止めておこう。店主も笑顔で対応しているから問題ないはずだ。

 ルーティにはお世話になってるし、食材が足りなければ俺が稼げば良いだけだ。風呂も1日に何度でも沸かそう。

 そう、これは恩返しだ。決してルーティの目が血走っていて恐いからじゃないぞ。店主の口元が恐怖で引き攣っているように見えるのも気のせいだぞ。きっと。

 あ、そんな助けを求めるような目でこっちを見ないでください。俺は無関係ですから。



 ルーティに見つかる前に退散し、隣の馬車へとやってきた。

 その馬車の店主は妙齢の女性で、女性店員も2人いる。そして買い物客は総勢18人の人魚達という女の園が出来上がっていた。

 何を売っているのか遠目で確認してみたところ、アクセサリーや宝石にネイルやスキンケア用品、化粧品やスイーツに花まで売っている。

 アクセサリーや宝石は問題ない。ネイルとスキンケア用品はまだ良いとしよう。スイーツと花もまだ理解できる。

 でも人魚が化粧品を買ってどうするのだろう。水中で使っても水が汚れるだけだと思うのだが。

 ウェンディにこそっと聞いてみようかと思ったら、そのウェンディも嬉しそうに化粧品を買い込んでいた。なんだか水の差すのも悪いのでまた今度にしよう。

 決してあの女の園の中に入っていく勇気がないわけではない。



 気を取り直して次の馬車へとやってきた。

 すでに2つの馬車で買い物をするのを諦めているのだが、どういうことなのだろうか。

 なので今度こそ普通に買い物ができそうな馬車へとやってきた。商隊リーダーのクリンツさんの店だ。ここなら大丈夫だろう。


「おや、レンタロウ。まだ何も買ってないんかえ?」

「あー、まだいろいろと見て回ってるとこなんで」


 そこには先客のグレンダさんがいた。でもグレンダさんは常識人だから安心だ。


「そうかいそうかい。時間はあるんじゃ、ゆっくり見て回るとええ。でもここはレンタロウが買うような物はないと思うがのう」

「そうなんですか。ここは何を扱っている店になるんですか?」

「クリンツおじさんの店は主に素材の取引所よ。大婆様、薬と素材を持ってきました」


 いつの間にか大荷物を抱えたミューが後ろに居た。


「おお、ご苦労さん。クリンツ、確認しとくれ」

「わかりました。おや、今回は数が多いですな」

「最近は材料が手に入るようになったからの」


 クリンツさんとその執事がミューの持ってきた薬品の本数を数える。

 いろいろな種類の薬があるが、その中でもやたらと本数が多いのが1種類あった。


「あの緑色のは何の薬ですか?」

「マジックポーションじゃよ。飲めばたちどころに魔力が回復するぞえ。なんならレンタロウにも作ってやろうか? 1本8000バルシは頂くが」

「えっ。マジックポーションってそんなにするんですか?」

「8000だとほぼ原価の値段ですな。大婆様の作る薬は品質が最高なので、都で買えば1本15000は超えますぞ」

「そんなにっ!?」


 でもマジックポーションさえあればスキルや魔法が連発できると考えれば、それくらいの値段でも妥当なのだろうか。


「ああ、クリンツや。そっちの素材袋にはドランペルカズラが入っておる。開けるときは慎重にの」

「なんと、カズラまで売っていただけるので? 助かりますがよろしいんですかな?」


 よく見なくても昨日俺が採取したドランペルカズラだった。そういえばグレンダさんは行商人にも売れると言っていたがこの事だったのか。

 というか採取してきた本人の目の前で転売ってどうなんだろう。いや、別に構わないけど。


「さっき材料が手に入るようになったと言ったじゃろ。このレンタロウが最近は村の周辺で素材を採取してきてくれるんじゃよ」

「なるほど。そういうことでしたか。カズラのエキスを欲しがる人はいくらでもいますし、今後はウチの商会にも卸していただけると助かります」

「わかりました。頑張って採ってきます」


 グレンダさんの話からマジックポーションの材料としても使われているみたいだし、ドランペルカズラって素材として有能なんだな。

 調合に重宝するからと1つ約1万で買い取ってくれるんだし、それだけの価値があるってことか。



 クリンツさんの店を後にして次の馬車にやってきた。

 グレンダさんとミューは嬉々として素材を物色していたが、俺は粉や草や虫の死骸を見ても楽しくなったので仕方ない。

 というか半分以上の馬車を見たのに未だに買った物は皆無である。行商人が来ると聞いて期待していただけにちょっと悲しい。


 4つ目の馬車は車内がそのまま店になっているようだ。ピンク色の車体にヒラヒラした布がこれでもかというぐらいに付けてあるが、一体何屋なのだろうか?

 というかこの馬車、遠目から魔物に見つかる心配とかしないのだろうか。あと、雨とか降っても大変なことになると思うのだが。

 とりあえず入ってみようと車体の後ろに取り付けられた階段を登り、入口のカーテンを開けたところで下着姿の村長と目が合った。


「あら? レン様もこちらでお買い物ですか。でもここは女性用の服が中心なので殿方が着れる服は少ないですよ」

「うわあああああっ! すみません!」


 俺は慌てて後ろを向いて謝る。そうかここは服屋だったのか。なら着替え中の村長がいてもおかしくはない。

 いや、冷静に分析してる場合じゃないけど。


「はい? 何かあり……。あっ。ああ、なるほど。……レン様、こちらを向いても大丈夫ですよ?」


 どうやら村長は怒っていないらしい。良かった。


「すみません、服屋だとは知らずぶふぅっ! なんでまだ服を着てないんですか!?」

「実はどれが良いか迷っていまして。良かったらレン様も一緒に選んでいただけませんか?」

「いや、そういう問題じゃなくてですね……」


 てっきり服を着たものだと思って、改めて振り向いたら村長はまだ下着姿のままだった。にも関わらず俺が見ているのに平然としている。

 確かにもっときわどい格好をしているのを何度も見たことはあるが、村長は下着姿を見られても恥ずかしくないのだろうか。

 それともウェンディがホールドさんに裸を見られても気にならないと言っていたように、俺は村長に男として見られていないのだろうか。ちょっとショックである。


「シェルルーナちゃ~ん。サイズ調整終わったよ~。って、あら? おおー、新顔さんだー。いらっしゃ~い」


 不意に馬車内の間仕切りのカーテンが開き、服を持った女性が出てきた。この店の店主だろうか。ふわふわとしたクセ毛と羊のような巻き角が特徴的だ。


「ちっ。これからってときに」

「村長、何か言いました?」

「いえ、何も言ってませんよ? メリッサ、この方がさっき言った新しい住人のレン様よ」

「メリッサだよ~。よろしくね~」


 おっとりとした喋り方をする人だ。村長並みの戦闘力と相まってとても母性を感じる。甘やかされたい。


「あ、そうだった。シェルルーナちゃん、これサイズ調整終わったから着てみて~」

「ええ、ありがとう。って、これ、ブラを付けたままだとダメなやつかしら?」

「ん~、付けてても構わないけど~、ブラが見えちゃうから見栄えは良くないかな~?」

「やっぱりそうよね」


 村長が俺と手に持った服の間で視線を彷徨わせる。


「ええと……。む、向こうで着替えてきますね」


 10秒ほど迷う素振りを見せてから村長がカーテンの向こうへ消えた。

 なるほど。俺に下着姿を見られるのは平気だが、さすがに脱ぐのは躊躇うらしい。むしろどうしてそんなに悩むのか謎である。



「お待たせしました。どうですか、レン様。似合ってますか?」

「死ぬほど似合ってます。というか俺が死にそうです」

「はい?」


 しばらくして着替え終わった村長が出てきた。その格好は一言でわかりやすく言うと、童貞を殺すセーターである。

 どうしてそんな服を売っているのか。これってメリッサさんがデザインした物なのだろうか。


「その……、似合ってはいるんですよね?」

「似合いすぎててヤバイです」


 主に俺の下半身が。


「そうですか。なら良かったです。メリッサ、この服は頂くわ」

「は~い、まいどありだよ~。あ、ついでにこっちのも着てみて~。自信作なの~」


 その後、しばらく村長のファッションショーに付き合わされた。

 逃げ出したかった前屈みにならないと動けない状態だったので仕方がない。

 というかメリッサさんは普通の服を着ているのに、売っている服はやたらと露出が高い物ばかりなのはどういうことなんですかね?

 妖精や人魚が好みそうなデザインに合わせた結果なのだろうか。

 でも少しだけあった男物の服もやたらと露出が高いのでそういうことでもなさそうだ。



 結局、メリッサさんの店でも俺は何も買わなかった。正確には買うものがなかっただが。

 ルーティはもう買い物を終えているかもしれないし、最初の店に戻ってみるべきだろうか。あの店には雑貨品がいろいろ置いてあったような気がする。


 いや、どうせなら先に全部の店を回ってみよう。

 そう思い、俺は最後の馬車へ行ってみることにした。


長くなってしまいそうだったので一旦切ります

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