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行商人が来る

 村の南西の端には小さな公民館のような建物がある。

 何の建物だろうと思っていたら、1階は宴会場で2階は宿泊施設となっていた。


 その建物は現在、手の空いている村人総出で清掃作業が行われている。

 明日、行商人一行がこの施設を利用するからだそうだ。

 なんでも日本で言うところの偶数月の1日に南からの行商人が、奇数月の1日には西からの行商人がやって来て、村で商売と1泊をしてから帰っていくそうだ。

 てっきり毎月同じ行商人が来ているのだと思っていたが、そうではないようだ。つまり行商人に欲しい物を取り寄せてもらう場合、2ヶ月先になるということなので注意が必要だろう。


 明日からは偶数月に当てはまる月になるので、南からの行商人が来るようだ。

 南からの行商人はメンバーの多数が魔族や魔人族で構成されていて、服や嗜好品のような物を中心に取り扱っているらしい。

 グレンダさんの店には置いてないような物が沢山あるらしいので、非常に楽しみだ。



 そして翌日。俺は寝不足だった。

 まさか行商人が来るのが楽しみすぎて夜に寝れなくなるとか思わなかった。遠足前の小学生か。

 でも朝食を食べながらルーティもどこか眠たそうにしているのでセーフだと思いたい。


「ルーティが眠そうにしてるなんて珍しいわね。何かあったの?」

「今日納品する予定の粘土細工の最終チェックをしてたら少し気になるところがあって、徹夜で修正してたんですよ」

「そう。あまり無理はしないようにね」

「はい。次からはもうちょっと早めに完成させるようにします」


 子供なのは俺だけでした。勝手に仲間だと思ってすみません。


 朝食の後はルーティの畑の手伝いだ。人参は無事に発芽したので、雑草が生えていないかと害虫がいないかのチェックを2人で手分けをして行った。



 行商人はいつも昼を過ぎてから来るらしいので、それまではいつも通りに過ごす。とはいえ、俺はいつも昼過ぎから採取に出かけていたので今日は休みだ。

 今頃になって眠くなってきたから昼寝でもしようかな。でも寝過ごしたら意味がないし。誰かに行商人が到着したら起こしてくれるように頼んでおくか。そういえば目覚まし時計が欲しかったんだ。それこそ行商人が売っていないだろうか。


「あーっ! お兄さーん!」


 考え事をしながら歩いているとメルディの声が聞こえた。振り向いた俺の腹に柔らかいモノが飛びついてくる。


「お久しぶりです!」

「おおっ、とっと。久しぶりというか3日前ぶりだけど。元気にしてたかい?」

「はいです! お兄さん、全然遊びに来てくれないので寂しかったです」


 往復で1時間もかからない距離とはいえ、さすがにアボガボ湖まで毎日遊びに行けるほど暇でもない。メルディと最後に会ったのは3日前に魚を買いに行ったとき以来だ。

 メルディはメルディで1人で集落の外に出ないようにウェンディから厳重注意を受けたらしいので、村まで来たのはこれが初めてだ。


「レンさん、こんにちわ」

「うん、こんにちわ。今日は遊びに来た……、って感じでもなさそうだね」


 メルディとウェンディの他に20人ほどの人魚がいて、大きな荷車を押してきていた。荷車いっぱいに木箱などを積んでいるのでかなり重そうだ。

 今日の人魚達はちゃんと服を着ている。上はそれぞれの趣味があるのかバラバラだが、下は全員がスカートだ。

 前にグレンダさんのところに薬代を払いに来たウェンディとバッタリ会って、そのときも服を着ていたので聞いてみたら集落から離れるときは人魚も服を着るそうだ。

 なんでも人魚としても興味のない男に裸を見られるのは嫌だかららしい。

 それなら前にホールドさんが湖に行ったときも裸のままだったが、ホールドさんにも興味あるのかと聞いてみたら鼻で笑われた。


「人魚と鬼人族でも子供はデキますが、ほぼ確実に鬼人族として生まれてくるので大半の人魚は鬼人族には興味ありません。まぁあの人には裸を見られても平気というよりも、男として認識できないので見られても気にならないだけですけど」


 というよくわからない持論を主張された。人魚の価値観は未だに謎である。


 人魚がスカートを履いているのにも理由があった。ズボンだと不意に魚の足に戻ったときにズボンが破けてしまうからだ。しかも生地が厚いと足に食い込んでかなり痛いらしい。

 そんな理由から人魚はスカートしか履かず、当然のようにパンツを履いていなかった。わざわざスカートを捲くって見せてくれたので確認済みだ。

 ついでにその光景を目撃していた妖精達から村長に告げ口され、なぜか正座で説教をされることになった。



「今日は行商人が来る日ですからね。私達も一緒に取り引きさせてもらってるんですよ」

「ああ、前に言ってた魔力珠ってやつはここで売ってるんだ」

「そうなんです。といっても魔力珠の収穫はもう少し先なので、今回は魚の干物とカニだけですけど」


 仕事を探してたときに、ウェンディ達は普段どんな仕事をしているのか聞いてみたことがある。

 そのときに教えてもらったのが魔力珠というモノで、これはいわゆる真珠の養殖業だった。

 貝の中に原珠を入れて貝を育てると、魔力珠と呼ばれる魔力を保存できる珠が採れるそうだ。この魔力珠は地球でいうところの電池のような物の材料になる。

 ウェンディ達の仕事はそれがメイン産業で、その横でついでにカニの養殖もしていた。何度か頂いたあのカニはウェンディ達が育てたものだ。

 あとは空いた時間に湖で漁もしているらしい。



「あっ! メルちゃんだ!」

「ピュティちゃんです!」


 ウェンディと話をしているとルーティ達がやってきた。そしてメルディが一瞬にしてピュティや妖精達に取り囲まれる。


「いらっしゃい! 遊びに来たの?」

「はいです。ウェンディお姉ちゃん達に連れて来てもらったです」

「じゃあ、あたしが村を案内してあげる!」


 メルディは村の子供達とすっかり仲が良くなったようだ。見ていて微笑ましい。


「ウェンディお姉ちゃん、行って来ていいですか?」

「ええもちろん。でも村の外には出ちゃダメよ」

「はいです!」


 子供達が一丸となって歩いて行くのを見送ってから俺達も南門の方へと移動した。思っていたよりもウェンディ達と話し込んでいたようで、そろそろ行商人が到着する時間らしい。



「行商人の馬車が見えたよー」


 高い位置にまで飛んで遠くを見ていた小妖精が降りて来て、そう教えてくれた。そしてそのまま村長達を呼びに飛んで行く。

 しばらくすると南門の向こうから馬車が走って来るのが見えた。1台だけかと思っていたら、編隊を組んでいる。


「随分と多いんだね」

「馬車ですか? いつも6台か7台ぐらいですよ。カニカマの収穫時期ですと、持ち帰る用にもう2台ほど追加されますけど」


 なるほど。それなら品揃えにも期待できそうだ。問題は手持ちのお金だけで足りるかどうかだが。

 俺が財布の中身の心配をしていると村長達もやって来た。


 そして馬車がゆっくりと減速をしながら村に到着した。

 2トントラック以上の大きさの馬車が6台も村の広場に整列する様は壮観である。そしてなにより驚いたのは馬だ。この世界の馬は足が6本あるようだ。


 前から2番目を走っていた一際豪奢な装飾の施された馬車から執事服を着た初老の男性が降りてきた。背中にコウモリのような羽が生えているが、あれが魔族なのだろうか。

 そしてそのすぐ後から恰幅の良い男性も降りてきた。人間と変わらない見た目をしているが、人間ではないのだろう。

 恰幅の良い男性は初老の執事を伴って村長の前まで歩いて行くと、丁寧に挨拶をした。


「お久しぶりです。皆さんお変わりないですか?」

「ええ。村の住人が1人増えているから後で紹介するわ。今回もよろしくね」

「はい、こちらこそ。お世話になります」


 男性の合図でそれぞれの馬車から人が降りて店の準備を始めた。馬車がそのまま店舗になっていたり、馬車の前に台や箱を並べたりなどそれぞれ違いがある。


 ルーティやウェンディ達はまずは商品を買い取ってもらうのか、持参していた物を持ってそれぞれ目的の馬車へと向かっていった。

 俺も馬車の方へ向かおうとしたところで、先ほどの恰幅の良い男性と話をしていた村長に呼ばれた。

 そういえば俺のことを紹介すると言っていたっけ。


「行商隊のリーダーを任されているクリンツ・オブラハイトです」

「どうも、レンタロウ・ミズモリです」


 リーダーさんとペコペコと頭を下げ合う。ついでに名刺まで貰ってしまった。


「レンタロウ。こやつはワシの弟の孫なんじゃ。何か必要な物があればなんでも頼むがええぞ」


 近くに居たグレンダさんがそう教えてくれた。リーダーなのにやたら腰の低い人だと思っていたら、そういうことか。

 ということはこの人も魔女、いや男性なので魔人と呼ばれる種族なのだろう。


 後ろに居た執事さんとも挨拶をしていると、先頭を走っていた馬車から武装をした5人の男女が出てきてこちらに歩いてくる。


「村長様、我々は先に宿で休ませて頂いても構いませんか?」

「ええ。準備はできているから、いつも通り好きに使って頂戴」

「ありがとうございます」


 村長と話をした女性を先頭に、昨日俺達が掃除した施設の方へと歩いていく。

 先頭の女性は狼のような耳を生やしていたが、あれは獣人か。後はやたらと背の高い男性と毛むくじゃらの男性、鬼人族の女性と下半身がヘビの女性だ。

 こっちもジロジロと見てしまったが、向こうも俺のことをやたらと見ていた。やはり人間は珍しいようだ。


「今のは護衛の人達ですか?」

「はい。私共の商会で雇っている専属の護衛団のメンバーです。全員が腕利きなのでこの辺りに出る魔物相手にも引けを取りませんよ」

「それは凄い」


 プロの戦闘集団か。

 冒険者になどなる気はないが、やはりああいうのは格好良いなと思う。


 挨拶も済ませたのでそれぞれの馬車を見て回ることにした。

 まずはどこから行こうかな。

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