表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/35

仕事を探す 中編

 メルディを仲間に加えてアボガボ湖を目指すことになったが一つ疑問がある。魚の足のままで歩けるのだろうか。


「このままでも歩けます。でも、もの凄く遅いので人の足に変化させるです」

「ああ、メルディも人の足にできるんだ」

「はいです。でも少し時間がかかるので待ってて欲しいです」


 メルディは足を両手でマッサージするように擦りながら呪文を唱える。

 いや、よくよく聞いてみたら呪文ではなく「人の足になれー」と呟いているだけだった。


 20秒ほどするとメルディの足がほんのりと光りだした。さらに30秒ほど続けていると光りが少しずつ強くなってきた。

 それから1分経過。俺達3人は体育座りで並んで座り、メルディを見守っていた。

 さらに3分が経過した。足の光も強くなっているが、まだかかるのだろうか。そう思っていたらメルディの足が一際大きく輝き、光が収まると人の足に変化していた。


「ふーっ。できましたです!」

「あ、うん。お疲れ様。結構時間がかかるんだね」

「すみませんです。お姉ちゃん達なら10秒ぐらいで終わるですが、メルはまだ慣れていないので時間がかかるです」


 メルディの話によると足を魚に戻すのは簡単にできるそうだ。ウェンディなら2秒ほどで、メルディでも10秒ほどらしい。

 人の足に変化させる回数制限などはなく、1度変えると半日ぐらいはそのままでいられるらしい。


 しかし、そんな話よりももっと気になっている重要な問題があった。

 メルディは人の足になっても無警戒で座っているので、とてもヤバイことになっている。主に俺の下半身が。

 さすがにこれは直視するわけにもいかず、持っていたタオルを腰に巻いてもらった。ピュティはすぐに泥だらけになるからと出発前にルーティから渡された物だが許してくれるだろう。

 しかしタオルを巻いてもらったのはいいが、そのタオルが微妙に小さくてギリギリで隠せているか隠せていないかといった具合になっている。それが逆にもの凄くエロくて、チラリズムって大事だなと改めて思った。


「お兄ちゃん、そろそろ出発しよー? ほら、立って!」

「待って、ピュティ! すでにってる、じゃなかった。もう3分! いや、2分だけ待って!」


 ピュティが俺の手を引っ張って立ち上がらせようとするが、いま立ち上がるのは非常にマズイ。なんとかして鎮めないと。

 素数か。素数を数えればいいのか。でも素数ってなんだ。数学は苦手なんだけど。


「レン、そういうときはグレンダの裸でも妄想すればいいの」

「おぅふ……」


 リッテの一言により、下半身の怒張が一瞬で治まった。




「なんか様子がヘンじゃないか?」

「ほんとだね」

「倒れてるみたいに見えるの」


 アボガボ湖に到着し、丘の上からいつもの砂浜を見てみると何やら様子がおかしい。

 10人ほどの人魚が砂浜に寝かされ、その周りを別の人魚が慌しく行きかっている。他にも、寝てはいないが岩に寄りかかってグッタリとしていたり、座った状態で苦しそうに息をしている人魚が何人かいる。


「何かあったみたいです! ウェンディお姉ちゃーん!」


 メルディが慌てて丘を駆け降り、ウェンディの元へと走って行く。俺達もその後に続いた。

 ウェンディは幸いにも無事だったのか、こちらに気付くとメルディに駆け寄る。


「メルディ! どこに行ってたの? 心配してたのよ。ああ、それよりもアナタは平気? 気分が悪くなったり身体の調子がおかしくなっていたりしない?」

「心配かけてゴメンです。メルはなんともないです」


 ウェンディはメルディの無事を確認して、ホッと安心したように胸を撫で下ろす。それから俺の方に向き直した。


「レンさん、妹がお世話になったみたいですね。ご迷惑をおかけしたりしませんでしたか?」

「いや、それは大丈夫だけど。それより何があったの?」

「どうやら食中毒みたいでして……。グレンダ先生に診てもらおうと、妖精の里まで走れる者がいないか探していたところです」


 集団食中毒か。腹を壊す程度ならまだなんとかなるが、フグ毒のようなモノだった場合は命にかかわるな。


「なら俺が走って呼んでくるよ」

「レンさん、良いんですか?」

「うん。俺も持久力には自信はないけど、人魚の誰かが走るよりは早いと思うから」

「ありがとうございます。すみませんが、お願いします」


 ピュティとリッテにはここで待っているようにお願いすると、素直に頷いてくれた。

 こういうとき、せめて自転車でもあれば良いのにと思うが無い物を欲しがっていても仕方がない。

 皆に見送られ、俺はいま歩いて来た道を走って戻った。




「グレンダさん! いますか!?」


 グレンダさんの店に着くなり俺は大声で叫んだ。

 大急ぎで戻って来た俺を目撃した妖精達が、そのただならぬ雰囲気に野次馬のよう集まってくる。


「おーおー、どうした? そんなに慌てて」


 母屋から驚いたように出てきたグレンダさんに、ウェンディの集落で集団食中毒らしき症状が発生していることを伝えた。


「わかった、すぐに準備しよう。誰か、すまんがシェルルーナにこの事を伝えておくれ。レンタロウはしばらくそこで休んでおくんじゃ」


 グレンダさんが慌てた様子で母屋へと入っていき、2人の小妖精が村長のところへ飛んで行った。

 俺は店の外へ出るとそのまま地面にへたり込む。アボガボ湖からここまで、徒歩で25分ほどかかる距離をずっと走ってきたのでヘトヘトだ。

 というかグレンダさんはあの距離を走れるのだろうか?



 その疑問はすぐにやって来た村長により解消された。

 村長が荷車を手配したと言うのでなんだろうと思っていると、リアカーを引きながらホールドさんがやって来た。

 そして大きな荷物を抱えたグレンダさんとミューが出てきた思ったらリアカーに荷物を積み込み、空いたスペースにグレンダさんとミューと俺まで乗せられた。


「シェルルーナや、ちと行ってくるぞえ」

「ええ、行ってらっしゃい。さすがに全員が村を空けるわけにはいかないから留守番してるけど、遅くなるようなら迎えに行くから連絡して頂戴」

「そうさな。できるだけ夕方までには帰ってくるさね」

「よし。それじゃあ皆、飛ばすからしっかり掴まっててくれよ」


 ホールドさんは宣言すると同時に凄い勢いで走り出した。

 大きな荷物と3人も人を乗せた荷車を引いているのに、俺が全力で走っているときよりも速いかもしれない。

 なんでも鬼人族は種族の固有スキルで1日1回10分限定で、それこそ鬼のような力を発揮することができるそうだ。



 ガタガタと跳ねてかなり乗り心地の悪い荷車に揺られること約10分。アボガボ湖に着いた。

 ホールドさんがグレンダさんをおんぶし、俺とミューで荷物を持って海岸へと降りる。いち早く気付いたウェンディに迎えられた。

 ピュティ、リッテ、メルディの3人は俺のところへ駆けてくる。


「症状を訴えておるのは何人じゃ?」

「症状が重く意識を失ったり朦朧としている者が14人。症状が軽く吐き気や頭痛、眩暈を起こしている者は22人です」


 挨拶もそこそこにグレンダさん診察を開始した。

 俺が村に向かう前よりも人数が増えているなと思っていたら、湖の中の家で倒れていた者達がいたらしい。


「食べ物による中毒症状じゃな。おそらく処理が足らんかったんじゃろうて」

「やはりですか。その……、みんなは助かるのでしょうか?」

「解毒剤さえ飲ませれば大丈夫じゃが、少し問題があってのう……。ミユキや、カズラのエキスは足りそうかえ?」

「ううん、ダメ。元から少なくなってたのに、この前、村長に頼まれて腰痛の薬を作ったときにほとんど使っちゃったから……」


 おい止めてくれ。薬の材料が足りないのはわかった。でもその材料が足りない原因が村長に腰痛の薬を作ったからって、それ俺のせいじゃん。


「困ったのう。今から採りに行くのも大変じゃしのう……」

「あの、その足りない材料ってこの辺りで採れるモノなんですか?」

「うむ。足りないのはドランペルカズラの体液じゃ。村の東の森にならなんぼでも生えておるが、あれは採取するのが一苦労でのう」


 グレンダさんの言葉に、俺とピュティとリッテとメルディの4人は顔を見合わせた。なんてタイムリーな出来事。


「ここに来る途中の林でドランペルカズラを見かけたんで、俺がちょっと行って採ってきます」

「なんと、こっちの方にまで生息域が伸びておるのか。アレは増えすぎると厄介極まりないから困るのう」

「大婆様、その話は後にしてください。それよりもレン、さっき大婆様が言ったけど、ドランペルカズラは採取するのが大変なのよ。なんせ蔦を切ったら毒液を撒き散らすんだから」

「いや、俺は毒耐性があるからその毒も効かないんだ。すでに実証済みだから問題ないよ」

「なにそれ、アンタなんかいろいろズルくない? 同士だと思っていたのに。まぁいいわ、そういうことならこっちで調合の準備を進めておくから、カズラを採ってきて頂戴」


 グレンダさんから採取時の注意などを一通り教えてもらい、ドランペルカズラを入れるための袋を渡された。

 メルディと出会った場所まで走って行こうとしたら、ホールドさんにリアカーで運んでもらえることになった。鬼人族としての身体強化スキルは使えないが、俺1人ならリアカーに乗せて走って往復するだけの体力は残っているらしい。

 それなりに休んで体力はある程度回復していたが、俺が走るより早そうなのでお願いすることにした。




「それじゃ少し離れててください」

「了解。何かあったら呼んでくれ」


 ドランペルカズラは先ほどとほぼ同じ位置にあった。少しだけ移動しているが、天使が知能はあると言っていたので動くのだろう。

 本体から生える蔦を全て切り、溶解液は飛び散らないように凍らせてから捨てる。袋は内側が防水になっているので本体を入れても体液が漏れることはない。蔦も大きいものは回収して袋に入れ、これで採取完了だ。

 俺の服に飛び散った汁が付着していないか確認してから、離れて見ていたホールドさんのところに戻った。


「終わりましたよ」

「驚いた。本当にあの毒液に触れても平気なんだね。せっかくキミが毒にやられて酩酊状態になったら手厚く看病してあげようと思っていたのに」


 なぜか手厚く看病のところを強調して言われた。

 それもいつもの冗談なんですよね? えっ、なんで目を逸らすんですか? こっち見て冗談って言ってくださいよ。




「ミュー、採って来たよ」

「本当にそのまま採取してきたのね。それって普通は防護服とマスクを着用して、それでもたまに毒にやられる人がいるくらいなのに」

「レンタロウや。すまんがそのまま袋を持っていておくれ。ワシらじゃ取り扱いに注意せな毒にやられてしまうかもしれんからな」


 グレンダさんとミューは小さな釜で紫色の液体をぐつぐつと煮込んでいた。凄く魔女っぽくてちょっと感動だ。

 ミューが釜をかき混ぜ、そこにグレンダさんが材料を次々と入れていく。俺は指示された通りにカズラのエキスを抽出し、それを釜に入れた。


 調合が終わると【水の領域】を使って薬の温度を一気に下げる。普通は自然に温度が下がるのを待つか釜のまま氷水に漬けるが、スキルで冷ましても問題ないらしい。

 薬の温度が下がるにつれて紫色だった液体は透明になっていった。これで完成だそうだ。


 出来上がった解毒剤をウェンディ達が症状を訴えている者達に飲ませていく。

 口を閉じて気を失っている者には口移しで飲ませていたが、半裸の女の子同士がキスをしている光景にまた少し反応してしまった。




「皆さん、本当にありがとうございました」

「なに、困ったときはお互い様じゃて」

「診察代と解毒剤の代金は、また後日改めてそちらにお伺いします」


 集落を代表してウェンディが俺達に頭を下げていた。


「あの、ところで今回の食中毒って何が原因だったんですか?」


 俺は一番気になっていたことを聞いてみた。原因がわかっていなければ再発の危険性もある。


「うむ。原因になった食べ物はリリェドじゃな」

「リリェド?」


 全く聞いたことがない食べ物だ。自動翻訳が反応していないことから、地球にはない食べ物なのだろう。


「トリュフのように地中に生えるキノコです。凄く良い匂いのするキノコでして、私たち人魚の大好物なんです」

「あっ! ウェンディお姉ちゃん達が最近食べたいって言ってたキノコはそれだったですか!」

「あら。メルディにはまだ教えていなかったのに聞かれちゃってたのね」

「どうしてメルちゃんには内緒にしてるの?」

「若い人魚がリリェドを食べると、今回のように中毒症状を起こしてしまうの。食べても大丈夫な年齢になるとリリェドの匂いを嗅ぎ取れるようになるのから、匂いに反応しなかったメルディにはまだ黙っていたのよ」


 ああ、それでメルディはキノコのこと知らなかったのか。


「でも間違って食べないように教えておいた方がいいんじゃ?」

「それがリリェドってもの凄く美味なんですよ。毒があるとわかっていても食べたくなるぐらいに。なので食べれない年齢の子に見つからないように食べているんです。美味しいと教えると食べたがるでしょうから」


 なるほど。子供って大人が酒を飲んでいたら飲みたがったりするからな。地中にあって匂いがわからないと見つけられないのなら、黙っていたほうが安全なのか。


「それだと今回症状を発症したのは、まだ食べちゃダメな年齢の子達?」

「いえ、もう食べても大丈夫な年齢の者でした。ただ、きちんと調理しないと大人でも中毒を起こしてしまうんです。今回は処理が甘かったようで比較的若い子達が中毒になったみたいですね。そろそろ収穫の時期なのはわかっていたのですが、私が見ていないときに食べたみたいで……。監督不届きでした」


 ウェンディがまた深々と頭を下げる。しかし全員の食事を監視しているわけでもないだろうし、勝手に食べてしまったのなら仕方がないだろう。


「そのリリェドって、どこに生えているの?」

「この辺りの林や森の中よ。先ほども言ったように地中にだけど」


 ウェンディの答えを聞いてピュティが不思議そうに俺を見上げる。


「あれ? お兄ちゃんは森や林に生えるキノコじゃないって言ってなかったっけ?」

「…………………………」


 うわああああああっ、言った! はっきりと言い切ってた!

 この世界のことはまだよくわかってないとはいえ、思いっきり勘違いしてたよ! 恥ずかしい!


 両手両膝を着いて落ち込む俺の横で、同じ勘違いをしたリッテが両手で顔を隠しながらしゃがみ込んでいた。わずかに見えるほっぺたが真っ赤に染まっている。


「レン、このことは皆には絶対にナイショにするの……」

「そりゃもちろん。というか、言える訳ないし……」


 リッテと妙な連帯感が生まれた。でもしばらくはこのことを思い出して1人で悶えそうである。



「さて、あまり遅くなるとシェルルーナが心配するじゃろうし。そろそろ帰るかのう」


 俺達が帰る準備をしていると、お土産にと人魚達が沢山の魚を持って来てくれた。この前食べた大きなカニも5杯あり、ピュティが小躍りしている。


「お兄さん、ありがとうございましたです! メルだけじゃなくて、皆のことも助けてくれるなんて絵本の王子様みたいです!」

「ああいや、そんな大したことはしていないから」


 メルディからキラキラとした目でお礼を言われてちょっと気恥ずかしい。

 それより人魚も絵本を読むのか。トランプがあるくらいだから紙や絵本があっても不思議ではないが、水中で読めるのだろうか?


「メルディ、一つ聞いて良いかしら?」

「なんですか、ウェンディお姉ちゃん」

「あなたもレンさんに助けてもらったの?」

「はいです! 林の中でドランペルカズラに捕まってたとこをお兄さんに助けてもらったです。メルはもう少しで食べられてしまうところだったので、お兄さんはメルの命の恩人……、あっ」

「そう、レンさんには本当に感謝してもし足りないぐらいね。で、その話をもうちょっと詳しく聞かせてくれるかしら?」


 ウェンディの顔が鬼のような形相になった。

 泣きながら正座するメルディの代わりに俺が出会ったときの経緯を教え、ウェンディのためにしようとしたことだからキツく怒らないであげて欲しいとなんとか説得した。



 おかげで村に帰るのが遅くなり、今度は俺が村長に正座させられることになった。



後編の内容は予想しやすいと思います

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ