ユウとタルト、ふたりで登校。(ユウ)
カーテンが開かれる音で目がさめた。
……んっ。普段は自分で開けてるのに……
目覚まし時計を見る。まだ朝の5時だ……
いつも起きてるのは6時半なのに……
そんなことを寝ぼけた頭で考えていると、
「オッハヨォ!!ユウくんオハヨォ!」
非常に元気な声。
僕はその声の主の方を向き、
「タルト、おはよう。」
朝の挨拶。
8年前、僕は父と母を失った。
小学校に入る前だった。
二人で買い物をしていてスーパーが火事になり
防火シャッターが誤作動し客を閉じ込めるかたちになったらしい。
いったいどうやればそんなに急に火が広がるのか今の僕には疑問だが、そんなの考えてもどうしようもないから……
「……イ、オーイ。オキテ、ユウくん」
……起きてるよ。
「早いよ、タルト……。まだ5時……。」
「ダッテ、イッショにいたいンダモン。」
タルトはニコニコしながらいった。
どうやらその仮面、タルトの感情に応じて動くらしい。
「そっか。」
悪い気はしなかった。むしろ嬉しい。
そうこうしてもまだ5時半、叔父さん達は起きていない。
時間があるのでタルトに色々質問することにした。
「ねぇ、なんでタルトはあんなところにいたの?」
タルトはすこし恥ずかしそうに、
「ジツは……」
と話しはじめた。
タルトを含め精霊達は、
昨日の夜に僕の住むN市の高校生以下の子供達に
それぞれ選んだ子のところにいく……となっていた。
しかし、タルトは精霊界で失敗ばかりだったため、
選ぶ権利を失った……らしい。
「つまり、僕ははずれ扱いか」
ふと声に出てしまった。
「ソンナコトナイ!ユウくんにアエテ、ボクウレシイヨ!」
タルトはフォロー(?)をしてくれた。
そうだね、ランダムとはいえ精霊が来てない子もいるわけだし。
「ア、アトネ……」
タルトは続ける。
どうも、精霊と契約を結ぶとなにかしら能力を得れるらしい。
まぁ、僕は能力なんてなくてもタルトと友達になれただけで……
っ、だからなにを考えてるんだ、僕は。
それで、タルトと契約をした僕が使える能力をきいたんだけど……
「エ、エットネ、イマのボクにはノウリョクがナンナノかワカラナイノ……ゴメンネ。」
……仕方ない、まぁ何かの拍子に出るかもだしね。
チッチと雀が鳴いている。
気がついたらもう6時を過ぎていた。
キッチンから何かを焼く音がきこえる。
叔母さんが料理を作っているようだ。
そろそろ起きるか。
「おはよう、サクラ叔母さん」
僕はキッチンに立つ日野サクラ……僕の叔母さん、に
朝の挨拶。
「おはよう、ユウくん。その子はお友達?」
……えっ?……
「ちょっ、えっ、なんのこと?」
僕はとぼけた。というか精霊だぞ、タルトが見えてる訳が……
「そこのカラフルな帽子被った子よー。フワフワ浮いてるけどマジシャン?素敵なお友達が増えたのねぇ。」
……タルトだ。それはタルトだ。マジか……タルト見えてるのか……
僕がなんて説明しようか戸惑っていると、それより速くタルトが、
「ボク、タルト!ユウくんのトモダチナンだヨォ!」
……あぁぁ、もう!確かにそうだけど不自然でしょ!突然友達となんで部屋から出てくるんだよ!
「あら、そうなのぉ。タルトくん、ユウくんと仲良くしてあげてねぇ。」
……なんだのみこみはやいな!止めるより流れたに乗った方がいいか。
僕は朝ごはんを食べ終えて、時計を見た。
7時23分。今日は僕の入っている『チュニ部』で8時に集まる予定で、学校までは歩いて20分くらいかかるから……余裕もってそろそろいくか。
「いってきまーす」
「いってらっしゃーい、二人とも気を付けるのよー。」
いつものようにいってきますをして、家を出た。叔父さんはまだ、起きていなかった。
……ん?二人?
僕は振り向いた。そこには無邪気な笑顔をしたピエ……
「ついてきたの!?」
思わず叫んだ。
「ダッテ、ズットイッショ。」
……うんまぁ、そうだけど。
「~♪」
タルトは気にしていないが、確かに学校には昨夜精霊と契約を交わした子がいるかもだけど。そこじゃない。
登校中、バンバン車とすれ違うんだけど、すごいこっちみてる。
そりゃそうだよね。浮いてるピエロだもんね。
もはやタルトはきかないだろうから、
「離れちゃダメだよ。」
それだけいって僕は手をつないだ。
精霊だけどその手はとてもあたたかく、すこし嬉しくなった。
『チュニ部』で、何から話そうかな。僕はすごく楽しみになった。
7時52分。学校についた。
僕は自分の2年2組の教室には向かわず、『チュニ部』の部室として提供されている、第2相談室に向かう。
『チュニ部』は3年生1人、2年生2人、1年生2人の5人で形成された部だ。
3年生
原田 進♀
2年生
僕
柄闇 露季♀
1年生
夢里 梨乃♀……
星野 芽妹♂
……とまぁ、こんな感じ。
細かい特徴はおいおい分かるとして……
『チュニ部』は部活としては、非常に、なんというか……
まぁ自由だ。目的としてかかげているのは楽しい中学生活を送ろう!という感じ。本当に自由だ。
部室。
中から話し声がきこえる、もう来てるのか。
僕はドアを開け、
「おは……」
「オッハヨォ!」
……この、説明する前にぃ……
僕がどうしようか戸惑う間もなく芽妹が、
「おはーっす、ユウ先輩。」
と挨拶。ちょっとまってそれは僕じゃない。
しかし立て続けに進先輩が、
「おぉ、きたかー。ユウちゃん。」
…………だから。ピエロと僕をなんで見間違える。
「あのー、二人とも?そっちは僕じゃぁ……」
「アナタだれです?」
……いや、まって誰。
「君は誰?」
僕は、そこで黄色ドレスを着て浮いている女の子に声をかけた。
「ワタクシはムース。精霊デスワ。」
「あー、そのこは俺と契約した精霊ちゃんだよー。かわいいっしょ。」
すかさず芽妹が繋げてきた。
確かに可愛い……タルトの方が可愛いけどな!
「ま、そういうこと。ちなみに私は精霊来なかったんだよなー。なんでだろーなー。」
先輩はそう言うが、タルトいわく基本向こうが選ぶらしいし、そのへんはやむを得ないだろう。
「さっきまで芽妹のムースちゃんから話きいててさ、精霊と契約結ぶと能力が使えるんっしょ?ユウちゃんなんの能力持ちなのさ。」
「ちなみに俺は風の能力なんですよー。風。ぴゅぴゅーって。」
教えてくれてありがたいが、芽妹にはきいてない。
「いやーっ、僕は……そのぅ……」
「ユウくんはネェ、ボクがワカラナイの……」
「あっタルトのせいじゃないんだよ!僕に素質がないだけだからね!」
……タルトは何も悪くない、ホントに僕の素質の問題だろう。
「……フムゥ、タルトクンはムノーというヤツデスワネ。」
「そんなことないよっ!タルトが無能なわけないだろ!」
つい強く言い過ぎてしまった。でも、昨夜あったばかりだけど、何故だかわからないけど、タルトを馬鹿にはされたくない。
「オット、ゴメンナサイ。口がスベッてしまったのデスワ。」
「いや、こっちこそゴメン。」
ムースが謝ってくれたので、こっちもすんなり謝ることができた。
「にしても遅いなぁ、あと二人。」
進先輩が、割り込む形で争いを止めてくれたので、この件は終了となった。
だか確かに遅い。もう8時半。朝の会は9時から始まるのに……
なーんて思っているとドアが開く音。そして、
「すまない。我の闇が暴走してしまってな……。遅れる形になってしまった。」
露季だ。相変わらず毎日中二病発病中なやつだ。
「ん……?なんだそこのピエロとお姫様は、浮いているぞ。」
さすがの露季も気になったか。
「精霊だよ。ピエロの方がタルト、僕の精霊。ドレスの方がムース、芽妹の精霊だ。」
と僕は教えた。どんな反応をするだろうか。
「何!?精霊だと!?そんなのずるいぞ我が同志!なぜユウとメイでそんな事が起きる!我の祈りが足りぬというのかッ……!」
忙しい奴だ。
「ハイワタクシ、ムースデスワ。」
「ボクはタルト!ユウくんのトモダチ!」
自己紹介してくれた。これなら信じてくれるだろう。
「ずるいぞ……。なぜ我の所には来ないのだ……。むぅ。」
珍しくいじけているようだ。
「それに、ユウ!なぜタルトとそんなにベトベトしてるんだ!我への当て付けか!」
眼帯をつけた左目に手をあてながら続けた。いいだろ別に、仲良いんだから。
そこに、
「遅れてすいません~。寝坊しちゃいました~。」
といいながら気だるそうに部室に入ってきたのは梨乃だ。
ようやく5人揃ったな。でも、あと15分で朝の会が始まってしまう。
「あー。ようやく5人揃ったけど……時間もないから続きは放課後にするかー。」
うん。進先輩の判断に賛成だ。
「そうっすねー。」
「色々聞きたいことはあるけど……そうですね。」
「我もその意見に賛成だ。」
「ミナサマとオハナシしたかったデスが……ホウカゴにオアズケデスワネ。」
「タノシミだナァ、ミンナとアツマルノ。」
皆も先輩の意見に賛成のようで、とりあえず続きは放課後ってことになった。