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出来上がり ほんの一口だけ。

 宙に浮いているような、不思議な心地。

 その感覚に何故かとても安心できる。

 わたしはその空間の中で、ただただぼんやりと考える。

 わたしは何故幸せだったのだろう?

「明日からゴールデンウィークだから一緒にひなたぼっこしようねぇ~」

 不意に間の抜けた声が聞こえてきて振り返る。

 すると、そこにはいつかのようにひーがネコと話し込んでいた。

 あれ?わたしはさっきまで何をしていたのだろう?

 思い返せば、今日はゴールデンウィーク前日であることを思い出す。

 そうそう、さっきからひーの様子が変だったんだった。

 それで一人ぼーっと色々考えてたんだ。

 それにしてもおかしい。

 いつもならそろそろ『りん待ってぇ~』と尻尾でも振りながら駆け寄ってくるくらいの距離なのに、こっちに見向きもしない。

 正直、いつも通りでない事というのはかなり不気味だ。

 特にひーの場合は、他の人に感じるそれの三倍近く不気味だ。

 わたしはひーの傍へと駆け寄り、額に手を当てる。

「り、りん。なに?」とひーは目を丸くして驚いてるけど、熱がないことがわかると、

「なに?じゃない!さっきから気色悪い。熱はないみたいだし、なにか悪いものでも食べたの!?あんた昔よく拾い食いとかしてたから、今もやってんじゃないでしょうね!?」

 そう私は一気に思っている事を口に出す。

 不気味というより、心配になる。

 ひーがどこかへ行ってしまいそうで。

 ひーが居なくなってしまいそうで。

 何故か心配になってしまう。

 おかしい。今日のわたしは少し変だ。

 すると、目の前にいるひーはいつかのように「りんが私を置いて東京にいっちゃうから、少しでも一緒に居たかったのぉ~!」とお父さんそっくりな。というかお父さんそのものの声で言う。

「お父さん。気色悪い。」

そうわたしがボソリと言うと、ひーの後ろ側にある電柱から、お父さんが「あはは。冗談冗談」と笑いながら出て来る。

「おじさん、お久しぶりです」

 そうひーはお父さんに挨拶する。

「ひー君久しぶりだねぇ。元気にしてたかなぁ?」

 そうお父さんは嬉しそうに返す。

 わたしはこっそり「お父さんついて来てるなら、そう言ってよ。」とひーに耳打ちでぼやく。

「誰かに見られてる気はしてたけど、おじさんだなんて気がつかないよぉ。」

 こっそりとひーに不平を返され、私は「それもそっか」と言ってお父さんに抱きつく。

「それじゃあ、りん。ゴールデンウィーク明けにまた会おうね。」

 そう言ってひーは『テッテッテ』と自分の家へと駆けて行く。

「りん?ひー君はいいのかい?」

 そうお父さんが優しく聞いてくる。

 わたしはそれに迷いながらも『コクリ』と頷く。

「りんちゃん。幼馴染は大切にしないとダメよ?」

 お母さんが優しい笑顔でわたしにそう言うけど、何故かわたしは素直にひーのあとを追いかけられない。

「いいかい、りん。お父さんとお母さんはね。りんとひー君を見ているととっても嬉しいんだよ?」

「そうよ、りんちゃん達。本当に仲が良くて、むかしお父さんと遊んでいた頃を色々思い出すわ。」

 懐かしそうに言う二人。

 絶対に離れたくない二人。

 だってわたしは二人の娘だから

「りんちゃん?」

「りん?」

 お母さんとお父さんがわたしの名前を呼ぶ。

「りんちゃんはりんちゃんだから。幸せなのよ?」

「ひー君やあやね君や他にもいろんな人が居て。」

「そしてりんちゃんがりんちゃんだから幸せなの。」

「だけど。わたし。」

 二人の言葉にわたしは涙を流しながら『ずっと一緒にいたい』と駄々を捏ねようとする。

 だけど二人は首を横に振って。

「幼馴染は大切にしないとね?」

 そうやさしくわたしに言ってくれる。

 わたしはそれに『ボロボロ』と涙を流しながら『コクリ』と頷いた。

 だって。ひーが大事だから。

 お母さんとお父さんと同じくらいに大事だから。

 わたしは頷いた。

 そんなわたしの頭を二人は撫でてくれた。



「あ、りん。起こしちゃったぁ?」

 頭が『ボ~ッ』としている中、目の前にひーの顔がドアップで映る。

 そして温かくて優しい手が私の頭に置かれていた。

「おふぁよう。」

「おはよぉ。よかったらぁ、膝から頭どけてほしいな。痺れてきちゃって。」

 わたしの挨拶にひーは言いにくそうに返す。

「あ、ごめん。」と謝って起き上がり、時計を目で確認する。

 御通夜の途中に、彩お姉ちゃんから渡されたお母さんとお父さんからの手紙を読んでから3時間くらい経っていた。

 いつ寝ちゃったか思い出せないけど、痺れたなら途中で起こしてくれても良かったのになぁ。

 そう思いながらひーを見ていると、ひーはニコリと笑う。

「ありがと。」

 私がそうお礼を言うと、ひーはそれになんにも言わずに首を振ってくれる。

「ひー。ちょっと付き合って。」

「んぅ?いいよぉ。」

 わたしはひーの言葉を聞くと、そのまま部屋をあとにする。

 そしてロビーを通り抜けて、外へと出た。

 五月特有の澄んでいて澄み切れないような夜気がわたしを包む。

 空を見上げれば、綺麗な星々が煌いていた。

「りん?」

 後ろから聞こえたひーの声は、心配そうな『どうしたの?』と言いたげな声だった。

 だけど、それはわたしを大事にしてくれている、大好きでとても大切な人の声。

「ねぇ。ひー?」

「なぁに?」

 お母さん、お父さん。わたしは二人の娘で幸せでした。

「ずっと傍にいてくれる?」

「もちろん。」

 これからもわたしはきっと幸せです。

 だって、みんながいてくれるから。

 なによりひーが。大切な幼馴染が傍にいてくれるから。

 わたしはこれからも幸せです。

「ありがとう」

 そう口にすると、頬を温かいものが伝い落ちていく。

 ひーはそんなわたしの名前を呼んで、肩を抱いて頭を撫でてくれた。

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