夢
辺り一面、花だった。
青、赤、黄、緑、白。色とりどりの花々が咲いていた。
綺麗だとは思えない。思わない。女が言ったのだ。いや、叫んだの方が正しいかもしれない。
「花に狩られてはならぬ。」
「花に誘われてはならぬ。」
「花に魅せられてはならぬ。」
どういう意味か分からない。命令される言われはない。
「ならぬ、ならぬぞ。」
俺が決める。何が『ならぬ。』なのか。
「 」
聞こえない。聞こえない。聞かない。聞かない。
だが、口の動きで分かってしまった。知ってしまった。女の心を。
た
す
け
て
そこでいつも目が覚める。
「・・・さん?榊さん?」
「あ・・・?あぁすいません。」
「気分でも優れませんか?何か飲み物でも・・・」
「いえ、大丈夫です。」
「ならいいのですが。」
孝弘はいつの間にかボーっとしてしまっていた。夢に囚われ、現から逃げていた。その間に母屋へと到着した。
「ここです。」
そう言って美時が重く威圧感漂う扉を開けた。
「なっ・・・!」
「人魚の木乃伊。不老不死の美しいまま生きる海の女神。」
そのままだった。皮膚はハリのある肌色。紅を纏う唇。だが下半身は魚の尾鰭。光に反射し青、紫と怪しげに光っていた。何より孝弘が驚いたのは、人魚の顔―。
夢に出てきた女だ。「ならぬ。」と叫ぶあの女。
「お前はっ・・・」
「海神。」
喋ろうとする孝弘を美時が遮る。
「ワダツミ・・・?」
「我達が神社が御祀りするは海神ぞ。」
急に喋り方を変えた美時に、孝弘は動揺する。
「まだ分からぬか?我はそこの人魚ぞ。そっちが本体で、魂替えでこっちの体に移っておる。その体では何かと不便でな。」
「・・・頭が混乱しているのですが。」
「これだから人間は・・・我が人魚だということまでは分かるか?」
「そこが理解できん。」
「口に気をつけよ。我は少なくとも貴様より二千年は永く生きておる。」
「・・・失礼致した。」
「うむ。まあ信じよと言っても無理であろうな。それは後々見ることになる。」
何やら面倒なことに巻き込まれそうだ、孝弘はそう思った。
続