出会い
「ここには人魚がいるっていう噂があると聞きまして。」
「それでわざわざ来たんですか?」
「はい。」
ここは京都府某市の明鏡神社。この神社には人魚の木乃伊がある。ほかにも龍の尾鰭とか空想の神獣の一部が保管されている。だが、本物かどうかは定かではない。そこは賛否両論が飛び交う所だ。
「東京オカルト雑誌・・・榊 孝弘さん、で読み方はあっています?」
「はい。」
大きめの眼鏡をかけ、左目に眼帯を付けた男。これこそ孝弘である。スーツは所々着崩れており、スーツを着慣れていないのが見て取れた。眼鏡から覗く瞳の色は、日本人ではないかのように青。髪は左側の髪を固め、右側を無造作にばら撒いたという感じで、接待もあまりしないということも一目で分かる。
「私は明鏡神社の巫女をやってます。皆守 美時と申します。」
漆黒の凛とした長い髪を結いあげ、巫女の姿をして微笑む、美時と名乗る女。目は切れ長で、どこか刀を思い出させるほど。鼻筋は真っ直ぐ通っていて、唇は厚く短い。所謂『絶世の美女』。どこかこの世の者ではないかのように思わせる。名前に美しいという文字が入っていてもおかしくない。
「皆守さん。その人魚の木乃伊など、見せてはくれませんか?」
「・・・」
美時は何かを考えるように顎に手を当てた。その後。
「・・・榊さん。まずお祓いを受けていただきますが、よろしいですね?」
強く念を押され、孝弘は何も言えなかった。それ以上に美時の目が真剣で、ただならぬ気配に何も言えない。
お祓いを受け、木乃伊などが祀ってある離れの母屋へと向かった。庭は日本庭園に相応しく、高々と雄々しく伸びる松、地面を静かに彩る小石、どんと威圧感を放つ岩、庭を横切る小さな川の潺。孝弘はその美しさに魅せられ、目も心も奪われてしまっていた。ふいに美時が振り返る。
「この程度の物に目を奪われようとは・・・随分と目が肥えていないようで。」
「はは・・・辛口ですね。東京にいると目が腐ってくるもんですよ。そう・・・腐って・・・」
「・・・それは誰もがそうですよ。神に仕える私でさえも、ね。」
「それは・・・」
「美時、その男は誰や。」
美時の言った言葉の意味が理解できず、聞き返そうとするが、それを男の声が阻止した。
「神主。こちら東京からお越しになったオカルト雑誌の記者の榊さんです。」
「ほぉ・・・オカルト雑誌・・・」
神主と呼ばれたこの男は、呼び名通り明鏡神社の神主、皆守 忠美。書いて字の如く、とても顔立ちの美しい男だ。どこか、いやかなり、美時に似ている。
「兄です。」
「やっぱり・・・」
「似とりますかな?」
「はい、物凄く。」
「よく言われます。」
「儂こんなに目付き悪ないで。まあ、写真バシバシ撮って貰って、御賽銭がたくさん入るようお願いしますわ。」
陽気に笑いながらとんでもないことを口にする所、やはり似ている。
「勿論です。」
「ゆっくりしてきぃや。」
それだけ言うと、忠美は踵を返した。
続