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17.愛の輪廻

目を覚ますと、見覚えのある白い天井が視界に入った。

「――沙月!!」

鋭い声と共に誰かが駆け寄ってくる。

「ママ・・・?」

呟くと彼女は安堵の息を漏らした。

「良かった・・・本当に良かった・・・」

「・・・ごめんね、ママ」

また危ないことをしてごめん。沙陽を死なせてごめん。本当の娘じゃなくてごめん。

色々な意味が含まれていたが、その言葉に母は首を振った。

「いいのよ。沙月が無事だっただけで幸せだわ」

それから4年が過ぎて、またふたりの誕生日がやってきた。

「――生まれてきてくれて、ありがとう」

右手がからっぽになっても、母の儀式は変わりなく行われていた。

「――生きていてくれて、ありがとう」

沙月は母の左手をぎゅっと握る。

「・・・ねえ、ママ」

「なに?」

「わたしが本当の娘じゃないって言ったら・・・どうする?」

しばしの沈黙の後、母は言った。


「――分かっていたわ、そんなこと」


「え・・・?」

「どういう理屈かは知らないけど・・・私はあなたたちの母親なのよ?分からないわけ、ないじゃない」

母はそう言って笑う。

「確信を持ったのはあの子が沙陽の振りをし始めた頃かしらね。沙月はもう少しかかったけれど」

そんなに前から分かっていたのに。

「どうして、何も言わなかったの・・・?」

「3人目と4人目の娘が出来た、そういう風に思うことにしたの。あなたたちは沙陽と沙月ではないけれど、もう私にとっては本当の娘なのよ。だから――」

母は手を離すと、沙月をそっと抱き締めた。


「――ふたりの代わりに生まれてきてくれて、ありがとう」


「――ふたりの分まで生きていてくれて、ありがとう」


それが、母の本当の儀式。

「ねえ、あなたの本当の名前は何というの?」

「“そら”。爽やかな空で、爽空」

「じゃあ、あの子の名前は?」

「“よう”。翼と羽で、翼羽」

「そう・・・とても、いい名前ね」

母はそう言って爽空の髪を撫でる。

「ねえ・・・爽空。来年もきっと、またこうして一緒に過ごしましょうね・・・」

「うん・・・大丈夫だよ、来年もちゃんと一緒に居るから・・・」

囁く声は震えていた。応える声も震えていた。

それでも母子はまた一つ、小さな約束を交わす。


――闇の中母は独り、冷たくなっていく娘の身体をいつまでも抱き締めていた。





●●●





目を覚ますと、海色の瞳が優しく覗き込んでいた。

「――お目覚めですか?」

「うん・・・ただいま」

「お帰りなさいませ、お嬢」

爽空はゆっくりと身体を起こす。まだ身体は本調子でないようだ。

「どうでしたか、向こうの世界は?」「帰ってよかった、本当に。ママにまた会えたから」

「そうですか」

すっかり大人になった修は、仁によく似た穏やかな微笑みを浮かべた。

「・・・ねえ、修くん。あのとき言ってくれたこと、覚えてる?」

「あのとき、とは?」

修が首を傾げる。


『仁さんはちゃんと想ってるよ、修くんのこと。たとえ血が繋がっていなくても修くんは大事にされてる。それってすごくいいなって思うんだ・・・わたしは、そうじゃないから』

両親の愛を感じられなくて心底自分に嫌気が差していたあのとき、彼はこう言ったのだ。

『お嬢には俺がいます。俺が一生あなたを守ります』


「ああ・・・」

修は懐かしそうに目を細める。

「ねえ、修くん」

爽空はその海色の瞳をじっと見つめた。

「わたしはやっぱり、ちゃんとは愛されてなかったんだと思う。向こうでママと暮らして分かったの」

両親が大事にしていたのはどこまでいっても夫婦の関係で、爽空は二の次でしかなかった。向こうの母のように一身に愛そうとはしてくれなかった。

「そんなことはないですよ。お嬢はちゃんと大事にされていました。10年前お嬢が眠りにつかれたときも大変気に病まれて、そのまま二人ともお亡くなりになられたほどですから」

修は目を伏せる。そのことを申し訳なく思っているのは今も変わらないらしい。

「おそらく、ご両親の仲睦まじさと比べるからそうお感じになるのだと思いますよ」

「そう・・・かな」

「ええ。ですがそれでも愛されていない、と思われるなら――」

頬に修の右手が触れる。


「――お嬢には俺がいます。俺が一生、あなたを愛します」


修の右手を雫が伝った。

「・・・修くん」

次から次へと溢れる涙を修が拭ってくれる。

「あなたの傍にはあいつがいるから、俺なんて必要ないかもしれないけど」

「そんなこと・・・そんなこと、ないよ」

「だからどうか――最期の人生を、俺と生きてくれませんか」


例え世界が変わっても、前世の記憶が失われても、本能に――魂に刻まれた愛は消えない。

だから人は繰り返す。何度生まれ変わっても誰かを愛そうとする。


――大丈夫。その手を取って・・・


聞こえる。

胸の奥で羽ばたく、暖かな翼の音が。


爽空は修の右手を握って、頷いた。


「はい――」


そうしてまた、輪廻は続いていく。




――数十年後、世界で最も壮大でくだらない姉弟喧嘩が一時休戦に落ち着いたとかなんとか。




END




中二病だなぁ・・・という感想ですね、現在。いろいろ設定考えるのは楽しかったですけど。中二の頃は全てを「なんとなく」で済ませていたところの辻褄を合わせていく作業でした。

例によってというかなんというか、中二時代に書いたものを書き直したものです。ほぼ原型を留めていませんが。

相違点を挙げたらきりがないのですが、最も違うのは修に関する設定です。爽空との絆を強くするため元々は翼羽が好きだったのを爽空に変更して書きました。しかし翼羽との関係はただの主従関係では表せないので、兄弟という新たな関係を結んでもらっています。

仁と海の話は完全に蛇足というか、沙月と母の別れの直後に書いたものです。どこにいれるべきか分からないけどとりあえず書いておこうと思いまして・・・入れなきゃ良かったかな、と考えています。読者の想像に任せる部分って必要かなぁと思うんですよね。でもラストでいきなり「兄妹なんだ☆」なんて言われても「はあ?」ってなるんじゃないかと思いまして。一応伏線は張ったつもりなんですが。


要するに、人は何度でも同じことをする生き物だ、という話です。

生まれ変わったらこうなりたいとか考えても、結局は似たような運命を辿るんじゃないかなって。それこそ魂に刻まれていると思うんです。自分がどう生きていくかって。愛ってそれが如実に表れるんじゃないでしょうか・・・なんて、まあ綺麗事ですが。

でもまあ、お話の中でくらい本気で言いたいじゃないですか。「生まれ変わってもまたあなたを好きになる」って。クサいですけど、文章でならそのくらい言ったっていいじゃないですか。


・・・とまあ、自分でもよくわかんなくなってきたのでやめましょう。高校生に愛は語れないよなぁ・・・と実感したこの頃です。


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