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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第二章「湖の国・泉の都」

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第三十六話「ステラへの罰」

 ステラの処分を決めるため、ヴァレリアはハミッシュのところに相談にきていた。

 ハミッシュは聞くだけは聞いてやると一言言った後、黙って彼女の話を聞いていく。


「……ステラの行為には、明確な命令違反はありません。事前に受けた命令は、”自由に動いて撹乱しろ”ですから、レンツィ、ハルを見棄てて動いたとしても、それを理由に罰することはできません」


「そうだな。敵前逃亡というわけでもなく、より数の多い方に向かっている。レンツィ、ハルの二人が危機に陥ったという事実は覆らんが、それはあくまで結果論に過ぎん」


「はい。ですが、基本的にはアシュレイ及びレイの命じたことしか、ステラは聞きません。このことが我が隊、いえ、団全体に与える影響を考えると、処分が必要だと思うのです」


 ハミッシュは腕を組み、低く唸っている。

 横にいるアルベリックは、いつものような軽い感じで、首を傾げている。


「でもさ、それを理由に処分されるなら、僕なんか年中処分を受けることになるよ。ハミッシュのいうことすら聞かないんだからね。そんなにいけない事なのかな?」


「お前はいい。すでに認知されているからな。それにお前の行動が団全体の不利になったことは、ただの一度もない。だが、今回はそれとは違う。ステラの行動は二名の団員の命を危うくした。そして、その行動に正当な理由が無いことが問題なのだ」


「なるほどね。なら、話は簡単じゃない。ステラちゃんが団から抜ければいいだけだろ?」


「ステラはまだ正式な団員ではない。団から放逐すると言っても、そもそも正式に所属していないものを放逐はできんだろう」


「はあ、面倒だね。いっその事、ステラちゃんに罰を決めさせたら? ついでにアッシュとレイ君にも罰を与えたらいいんじゃないの」


 ハミッシュは口をポカンと開け、唖然とした表情になる。


「どうしてそういう考えになるのだ? 確かに原因を作った二人にも責任はあるが、直接命令したわけでもないのだぞ」


「だからさ、そう難しく考えなくてもいいんじゃないかって言っているんだよ。要は、皆が納得できたら、いいだけなんだろう?」


「確かにそうなんだが……ヴァレリア、どうする。今回、俺が処分を下すわけではない。お前の裁量になるが……」


 ヴァレリアは軽く頷き、


「アル兄の案はいいかもしれません。全員を集めた上で、今の話をします。その後、自分たちで罰を決めさせます。公式には罰を与えられませんが、皆が納得しなければ、帰りの道中が心配ですし……」




 すぐに全員が集められ、ヴァレリアが今回の件を説明していく。


「……というわけで、ステラの行為はレンツィ、ハルの二名の仲間の命を危うくした。だが、ステラは正式な団員ではない。また、明確な命令違反があったわけでもない。よって、団として、罰を与えることはしない」


 ヴァレリアが話し終えると、レンツィが立ち上がる。


「隊長はそれでいいのかい。団の規律を乱したんだ。それでお咎めなしってのは、おかしくないかい」


「ああ、引っ掛かるものはあるよ。だから、今回はステラ自らに罰を決めさせる。アシュレイ、レイも同様だ」


 傭兵たちは異例の処分に、皆、顔を見合わせていた。


「ステラ! お前は自分にどのような罰を科すのだ。アシュレイ、レイ、お前たちもどうするのだ」


 突然指名されたステラは、おどおどしながら立ち上がる。


「あ、あの、どうしたらいいのでしょうか? なぜ、アシュレイ様、レイ様まで罪に問われるのでしょうか? 私がいなくなれば、自害すれば、お二人は許していただけるのでしょうか?」


 小さな声でそう言うと、腰の投擲剣を取り出し、喉に突き刺そうとした。

 横にいたアシュレイが間一髪、その手を掴んだため、喉を薄く切っただけで済んだが、その傷口からは一筋の血が流れていた。


 傭兵たちは突然の展開に呆然としていた。


「ま、待て! そんなことは言っていないよ! 本当に何をするんだか……」


 ヴァレリアもその展開は予想外だったためか、声が裏返っていた。


「アッシュ! お前が考えな。ステラだと何をするか判らんからな」


 アシュレイは、ステラの腕を掴んだまま、「ステラ、落ち着け」と言った後、


「まず、私は班長から降格、一兵卒になる。そして、私、レイ、ステラの三人はフォンスに戻り次第、一ヶ月間、歩哨、その他の雑務を懲罰として行う」


「どうだい、みんな! これで納得するか!」


 ヴァレリアの声に了承の声が上がる。彼女が”これで終わりだ”と言おうと思った瞬間、ハルが立ち上がった。


「俺は納得できない!」


 ハルの言葉に傭兵たちはどよめく。

 だが、彼はそれを無視して、話を続ける


「アシュレイさんには、班長として最後まで責任を取ってもらいたい。そして、三人にはフォンスに戻ったら、俺と一緒(・・・・)に、団長とアルベリックさんの”扱き”を三日間受けてもらう。それで音を上げた者は、団から去ってもらう。それなら俺も納得できる」


 ヴァレリアはニヤリと笑い、ハミッシュとアルベリックを見ていた。

 二人が頷くのを確認すると、


「ハル、自分の言ったことが判っているんだな。お前()音を上げたら、団から去らなければならないんだぞ。その覚悟があるんだな」


 ハルは大きく頷き、


「あります! 今回の件は自分の弱さが原因です。それでいいですね、レンツィさん」


 レンツィは表情を変えず、


「あんたがいいなら、あたしは構わんよ。だが、一つだけ言わせて貰う」


 彼女はステラを見据え、言葉を続けていく。


「あんたが約束通り、きちんと傭兵の仕事をこなすってのが、大前提だ。これからの行動次第だってことだ。判ったかい」


 ステラは投擲剣を握り締めたまま、


「判っています。これ以上、アシュレイ様、レイ様にご迷惑は掛けられません。約束したことは必ず守ります」


 その言葉にヴァレリアが大きく頷く。


「それではこの話はこれで終わりだ! ハル! お前は帰りの行程で特訓だ! このままでは三日どころか、一日すらもたん。ステラ、お前が相手をしてやれ」


「そんなぁ。隊長、俺はけが人なんですよぉ。そりゃないっすよ」


 ハルは情けない声でヴァレリアに取りすがる。その姿にヴァレリアが笑い始めると、その場は爆笑の渦に巻き込まれていった。


 レイはステラに治癒魔法を掛け、満足げにハルを見つめるアシュレイを見ていた。


(ハルは元に戻ったみたいだ。さっきまでとは全然違う。アッシュが何か言ったのか? 後で教えてもらおう……だけど、ハミッシュさんの”扱き”って、例の半殺しの目に遭うって言う奴か……帰るのが、憂鬱になってきたな……でも、それで、元の雰囲気に戻れるのなら、それは、それで良かったと思おう……)




 アシュレイはヴァレリアに呼ばれ、彼女の部屋にいた。


「ステラちゃんのことだけど、本当に大丈夫? ハルたち若い子はともかく、レンツィたち中堅クラスはまだ完全に認めたわけじゃないわよ。それに私もね」


「大丈夫です。レイがうまく説得してくれました。少なくとも任務中は、指揮命令系を無視することはありません」


「そう……判ったわ。それともう一つ。レンツィとハルは今のまま、五班に残すわよ。うまくやっていく自信がなければ、レンツィを班長にするけど、どうする?」


「うまくやって見せます。それに今、班長が変われば、レンツィへの風当たりが強くなりますから」


 ヴァレリアは少し目を細め、


(アッシュも、ちゃんと周りが見れるようになってきたじゃない。(レイ君)のおかげなのか、それともマーカット家の血なのか……とりあえず、この問題はこれでお仕舞いね)


「了解。あと、これは罰じゃないけど、頼みがあるの。明日、レイ君とステラちゃんを貸して欲しいんだけど」


 アシュレイは、訝しげに「理由は?」と尋ねる。


「明日、アル兄が偵察に出ることになったんだけどね、団長がレイ君とステラちゃんを付けてほしいって頼んできたのよ。明日は全員、休暇だって言った手前、確認させて欲しいって待ってもらっているのよ」


「父上が……私は行かなくてもいいのですか?」


「ご指名はレイ君とステラちゃんだけだったわ。アッシュのことも聞いたけど、”人には向き不向きがある”って言うだけで理由を教えてくれないんだよね。で、どうする?」


「私は構いません。二人も問題ないはず。ですが……いえ、何でもありません」


(父上は何を考えているのだ? アル兄が偵察に行くのはいい。ステラも役に立つだろう。だが、レイが役に立つとは思えん。それどころか、足を引張る可能性もある……これは直接聞いた方が早いな)


 アシュレイはヴァレリアの部屋を出ると、その足でハミッシュの部屋に向かった。

 ハミッシュは椅子に座り、アルベリックと酒を飲んでいた。

 アシュレイは単刀直入に、


「父上、レイとステラを貸して欲しいとのことですが、理由を教えて頂けませんか」


 ハミッシュは彼女に座らせ、


「そのことか。どうも気になってな、あの大鬼族のことが」


「それは判ります。ステラはともかく、レイを連れて行く理由を教えて欲しいのです」


 ハミッシュは真剣な表情で、


「理由はない。強いて言うなら、“勘”だ。何となく、レイを偵察に出したほうがいいという“勘”だ」


(勘か……父上がこういう顔をされるときは従った方がいい。だが、私も……)


「そうですか。ならば、私が同行してもよいでしょうか」


「駄目だ。今回はアル、レイ、ステラの三人に限定する。俺も行かん」


「それも、”勘”ですか?」


 ハミッシュは力強く「そうだ」と頷く。


「判りました……では、明日の集合時間と大まかな予定を確認させてください……」


 ハミッシュから、明日の朝八時にチュロックを出発し、東に向かってから北に回り、その後はアルベリックの指示に従うことが伝えられる。


「では、長くて明日一日、夜間の偵察は行わないということでレイたちに伝えます」


 アシュレイは、ハミッシュらに一礼し、部屋を出て行った。

 残された二人は、


「いいのかい、本当のことを言わなくても?」


 アルベリックの問いに、「構わん」と答え、黙って酒を飲み始める。


「まあ、何にしても必ず連れて帰ってくるから。まあ、レイ君はちょっと危ない橋を、渡ってもらうかもしれないけどね」


 アルベリックもそれだけ言うと、同じように酒を飲み始めた。




 アシュレイから翌日の偵察任務のことを聞き、レイは首を傾げる。


「ステラが行くのは判るけど、どうして僕なんだろうね?」


 聞かれたアシュレイも同様に首を傾げていた。


「そうなのだ。レイが行く意味が全く理解できない。だが、父上の戦場での勘は良く当たる。何か感じ取っているのかも知れん」


(アルベリックさんとステラがいれば、先手を取られることは無いだろう。でも、本当に偵察だけが目的なんだろうか? 何か違うような気もするんだけど……)



設定集の登場人物紹介更新しました。

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[気になる点] 「まず、私は班長から降格、一兵卒になる。そして、私、レイ、ステラの三人はフォンスに戻り次第、一ヶ月間、歩哨、その他の雑務を懲罰として行う」 ステラ、何も命令違反していないのに、こんな…
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