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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第二章「湖の国・泉の都」

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第二十三話「訓練」


 本部に戻ってきたレイたちは、昼食を近くの食堂でとり、午後からの訓練に参加することにした。


「ところで、どこで訓練をやっているんだ? 街の中?」


「いや、街の南門を出た先にジナック河がある。その河原が訓練場になっている」


 フォンスの南側にはジナック湖を水源とするジナック河という川が流れている。

 河自体はそれほどの水量があるわけではないが、大雨が降ると、周辺の水が流れ込むため、河川敷自体はかなり広い。

 放牧や畑などに使われることもあるが、石の多い所は農地に向かないため、放置されており、騎士団や傭兵団の訓練場として使われている。


 マーカット傭兵団に割り当てられた訓練場は、南門から三kmほど南に下ったところにある。三人は馬でそこに向かっていく。


 昼時ということもあり、街道は比較的空いており、三人は馬を駆けさせていた。

 レイは、アシュレイとステラを置き去りにし、自由に馬を駆っていく。そして、頭の中では、愛馬の名前を考えていた。


(この馬を選んだのは正解だったな。頭はいいし、力強い。名前を考えてやろう……葦毛の軍馬と言えば、リー将軍の”トラベラー”だよな……これから一緒に旅をする仲間だし、安直だけど、トラベラーにしよう。まさか、自分の馬にこの名前を付けるとは思わなかったなぁ)


 レイは自分の小説を書くネタを探すため、よくネットサーフィンをしていた。そして、古代から近世までの戦争関係の情報も良く集めていたため、南北戦争の名将、ロバート・E・リー将軍の名馬のことを知っており、いつか自分の小説にでてくる馬に、その名前を使おうと思っていた。



 それほど飛ばしたわけではないが、僅か三kmということもあり、すぐに訓練場が見えてくる。

 五番隊の他にも訓練を行っている隊があるようで、五十人近い人数の傭兵たちが、河原を駆け回っていた。


 更に近づいていくと、ゼンガの巨体が見え、二番隊が訓練を行っていることが判った。



 小さな馬場もあり、そこに馬を放つと、三人は隊長のヴァレリアに向かって、到着の報告を行う。


「アシュレイ・マーカット以下三名。訓練への参加を希望します!」


 ヴァレリアはジロリと睨み、


「ご苦労、とりあえずそこで見学しておけ!」



 訓練は班――五人で一斑を作り、五班で隊を作るのがマーカット傭兵団の標準編成。ただし、隊が定員を満たしていることは稀である――ごとに行われ、二班で模擬戦を行ったり、隊形を入替える訓練を行ったりしている。


 レイは何をやっているのかさっぱり判らず、アシュレイに解説を頼んでいた。


「五人で一つの班を作る。その班ごとに動くのだが、あそこは一つの班が二つの班に攻められる模擬戦をやっている。その向こうは飛び道具に対する訓練だ。盾で矢を避けながら、遮へい物を使って接近していく。その向こうは……」


(これを僕がやるのか? まず、何をしたらいいのか覚えないと、連携なんてできないぞ。五人で一班ということは僕たちに二人入るのか? それともバラバラになるのか?……)


 彼は思っていた以上に、激しく難しい訓練に戸惑いを隠せなかった。

 二十分ほど見ていたが、自分がどう動けばいいのか、さっぱり判らなかった。


 ヴァレリアが休憩の号令を掛けると、傭兵たちはその場に座り込んでしまう。


(うわぁ、みんな座り込んでしまったよ。それだけ厳しい訓練っていうことなのか?)


 ヴァレリアが三人に近づき、


「今日は顔合わせみたいなものだ。三人は模擬戦をやってもらう。ノーマ、ハル! こっちに来な!」


 昨日、ステラに酒を注ごうとしていた、若い人間の男のハル――長剣と盾を持った剣術士――と、二十代半ばの人間の女性のノーマ――短めのスピアを持つ槍術士――が走ってきた。


「ご苦労。二人はアッシュたちと班を組め。この後は、私の班との模擬戦だ。判ったな」


「「はい、アシュレイ殿と班を組み、模擬戦を行います!」」


 二人の復唱はピタリと合っていた。


 レイたちは近くにある訓練用の武器を手に取り、ノーマとハルに合流した。


「よろしく頼む。特にレイとステラは初めての訓練だ。動きは私が指示を出すが、構わないか?」


「「はい!」」


「レイ、ステラ。私の指示で動いてくれ。隊形は私が中央、左隣にハル、その左にレイ、右はノーマ、ステラは私の合図で相手の後ろに回り込め。ノーマとハルは私と連携出来るな。レイ、お前は無理に連携しようと考えなくてもいい。前にいる相手を狙ってくれ。ステラ、これは殺し合いじゃないからな。投擲剣はなしだ……」


 アシュレイが次々と指示を出していく。


(やっぱり、傭兵の娘だ。出す指示が的確だ。ヴァレリアさんは四級だって言っていた。普通にやれば、ボロ負けになるのは判っている。どこまでやれるか確認するしかない)


「レイ、負けるつもりで行くなよ。勝ちに行くぞ」


「えっ? 無理だろう? 相手はヴァレリアさん、いや、隊長なんだから」


「戦場で相手を選べるか? どんな強い相手でも五人いれば対抗しようはある。まあ、父上ほど力の差があれば無理だがな。そんなことより、心構えの問題なのだ。最初から負けると思えば、必ず負けるものなのだ」


「りょ、了解。全力でいくよ」


 戸惑うレイに、ハルがニコニコしながら、


「レイさん、全力でいくって言っても、魔法は無しにしてくださいよ。団長に勝った魔法を使われたら、訓練になりませんから」


 アシュレイとノーマが笑い出し、レイも釣られて笑いだしてしまった。


(ちょっと緊張が解れたよ。ハルはムードメーカーなのかな?……よし! これで全力で行ける……)



 十分間の休憩が終わり、ヴァレリアが新たな指示を出していく。

 そして、レイたちの班とヴァレリアの班が十mくらいの距離を挟んで向かい合った。


「アッシュ、手加減なしで行くよ。どの程度の腕になったか見せて貰おう。レイ、魔法を使ってもいいぞ。まあ、使えるものならな」


 ヴァレリアの合図で模擬戦が開始される。


 ヴァレリアの班は、中央に両手剣のヴァレリア、左隣に片手剣を使うドゥーガル、右隣にもう一人片手剣を使う女剣術士、残りの二人は共に男の槍術士で、やや後ろに下がり、前衛の間から攻撃するつもりのようだ。

 アシュレイはヴァレリアの言葉に戸惑うレイを見て、


「レイ、挑発に乗るな。魔法は無しだ。無くても勝てる! 行くぞ!」


 アシュレイの合図で向かってくるヴァレリアたちを迎え撃つ。

 アシュレイは、レイとハルに「二人で隊長の右隣を潰せ!」と命じ、ヴァレリアと斬り結び始めた。


 ヴァレリアの剣はアシュレイの剣と同じように、膂力を生かした剛剣タイプで、二人の木剣が打ち合わさるたびに、木の硬いカーンという高い音が河原に響いていく。


 ノーマは正面に立つ副隊長のドゥーガルを接近させまいと、必死に槍を繰り出していく。


 レイはハルとの連携は考えず、前にいる女剣術士の更に右側に出ようとするが、後ろにいた槍術士が繰り出す槍のため、うまく回り込めない。


(自由に動けないと、こんなに戦いにくいんだ。なら、正面から叩き潰す!)


 レイは回り込むのを諦め、ハルに「盾を使わせないようにしてくれ!」と叫び、連続で突きを繰り出していく。

 女剣術士は焦ることなく、剣と盾でレイの突きを捌いていくが、ハルの攻撃が加わると、次第に押され気味に後退っていった。


 レイはその動きに合わせるように前に出るが、それは相手の罠だった。

 彼が前に出ると、女剣術士の両脇から二本の槍が繰り出されてくる。更に剣術士の攻撃まで加わり、レイは前に出すぎたことを後悔するが、攻撃を捌くのに必死で、引くことすらままならない状況に追い込まれていた。


(やられた! 後ろにハルがいる。左にずれるしかないけど、敵もそれは承知しているはず……一か八か、前に出るか……)


 レイがそう考えていた刹那の間に、彼の左横をステラが駆け抜けていった。


 ステラは剣術士の攻撃をかわすと、そのまま槍術士の後ろに回り込む。


 標的になった槍術士は狭い隙間から槍を繰り出していたため、すぐに引き戻すことができない。槍を取り回そうと、もがく槍術士の腕をステラの木剣が強かに打ち据えていった。

 腕を打ち据えられた槍術士は槍を取り落とし、後ろに下がっていく。


 ステラはなおも後ろに回り込み、ヴァレリアを狙おうとしていた。



 アシュレイとヴァレリアは中央で木剣を打ち合っていた。


(アッシュも少しは強くなったようね。前より切れはあるわ。でも、それだけ。私に対抗するには十年早い)


 アシュレイも自分の限界に気付いていた。


(やはりヴァル姉は強い。隙が見出せない。望みはステラの動きだが、いきなり模擬戦では期待薄だろう)


 ヴァレリアは一気に勝負を決めるべく、前に出ようとした。その時、自分の右横で槍を取り落とす音が耳に入った。


(何? ステラちゃんか……拙いわね。ドゥーガルに期待して、アッシュを倒しにいくしかないわ……)



 ステラはアシュレイが押されていると見ると、ヴァレリアの後ろに回りこむが、どこから現れたのか、ドゥーガルの剣に行く手を阻まれてしまった。


(この人も強い。投擲剣を使えれば何とかなるのだけど……)


 ステラは強敵との一騎打ちを強要されてしまった。



 ドゥーガルはステラが後ろに回り込んだのを見て、自分が対応するしかないと考えた。


(ノーマを一旦押し込む。その隙に下がれば、後ろに対応出来る。隊長も横を簡単には抜けさせまい)


 彼は自分の前にいるノーマに一気に攻勢を掛け、彼女の足を止める。再び、攻勢が来ると構えるノーマを無視して、一気に後ろに下がっていった。


 ノーマはやられたという表情をするが、ヴァレリアのすぐ横を通り抜けるわけにも行かず、アシュレイと共にヴァレリアを攻撃しようか、迂回してドゥーガルを追おうか、逡巡してしまった。その一瞬の逡巡が、この模擬戦の勝敗を決定付けた。



 ヴァレリアはアシュレイとの勝負を決めるべく、上段からの斬撃を雨のように降り注いでいく。

 アシュレイは、ヴァレリアの意図は読めたが、有効な対抗策を思い付けず、後手に回る。そして、最初の数回の攻撃を捌いたところで、すぐに限界を迎えてしまった。

 彼女はヴァレリアの容赦ない一撃を腕に受け、剣を取り落としていた。



 レイはステラが槍術士の一人を倒したことに勇気付けられ、ハルと二人で一気に攻勢に出て行く。

 ハルはレイの指示に従い、自分の防御と女剣術士への牽制に努めていた。

 レイは、僅かに出来た隙を見つけ、剣術士の脇に向けて、槍を突きだす。

 その突きは、鎧の繋ぎ目に当り、彼女は脇を押さえて倒れこんでいった。


(よし、行ける!)


 レイがそう思ったとき、横にいたハルが盾を弾き飛ばされ、次の瞬間、後ろに吹き飛んでいった。


 彼の前には、アシュレイとノーマを倒したヴァレリアの姿があった。


(こっちはステラと僕だけか……拙いぞ……)



 ステラはドゥーガルと打ち合っていたが、のらりくらりと防御に徹する副隊長に梃子摺っている。


(アシュレイ様はすでに敗れている。レイ様は……状況が判らない……一旦、距離を取るべきだけど、難しい……)



 その時、レイはヴァレリアともう一人の槍術士の攻撃を必死に捌いていた。


(ヴァレリアさんの攻撃がきつい。何とか槍で近づけないようにしているけど、それも限界だな。この槍使いが鬱陶しい。先にこっちを倒さないと、完全に追い詰められてしまう……もう、連携は気にしなくていいし、自由に動いて霍乱するしかないな)


 彼はヴァレリアの鋭い斬撃を何とか槍で弾き、その隙を突いて繰り出されてきた槍を、彼の分厚い胸甲で受け止める。そして、槍で突き飛ばされるかのように後ろに跳び、更に数m後方に下がって立ち止まった。


 彼はニヤリと笑い、左手を槍から放して、ヴァレリアたちの方に突き出した。


「魔法だ! 急げ!」


 ヴァレリアは、レイが魔法を使うと思い、僅かに焦った。そして、横にいる槍術士と共に一気に距離を詰めていった。


 レイは心の中で”掛かった!”と叫び、すぐに左手を戻し、槍術士に向けて槍を繰り出す。

 魔法を警戒していた槍術士は、その急激な状況変化に反応が遅れ、レイの繰り出した突きを、もろに腹部に食らい転倒した。


「やるじゃない、レイ! 魔法を囮にするとはね。でも、二度は効かないよ!」


 ヴァレリアがペロリと唇を舐め、ニヤリと笑ってレイに斬りかかっていく。

 アシュレイが受けたものと同じ、雨霰と降り注ぐ斬撃に、彼は次第に押されていく。


(速いし、重い。受けきれない……僕のフェイントが効くとも思えないし、どうする?)


 追い詰められた彼は、彼女の斬撃を逃れるため、苦し紛れに右に跳ぶ。


 ヴァレリアはその動きを待っていた。


(甘いわ! それを待っていたのよ……)


 彼女はレイが苦し紛れに逃れようとすると読んでいた。彼が右に跳んだ直後、その無防備な左腕に剣を叩き付けた。


 レイの”グァ!”という悲鳴と共に、彼は地面に叩き付けられていた。


(痛ぇ! 何が、何が起きたんだ? 全く判らなかった……)


 左腕を押さえ、呆然とする彼をヴァレリアは、勝者の笑みを浮かべて見下ろしていた。


「苦し紛れに逃げれば、必ず隙が出来るんだ。逃げたけりゃ、逆に攻勢を掛けてからにすべきだぞ」


 レイは、自分の腕に治癒の魔法を掛けてから、ゆっくりと立ち上がった。



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