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第六話「冒険者登録」

 朝食を済ませると、レイとアシュレイの二人は再び裏庭で訓練を始めた。


 しばらくすると、どこから持ってきたのか分からないが、アシュレイの手には二本の木剣が握られており、その一本を彼に投げてよこした。


「模擬戦をやってみないか?」と言いながら、既に彼女は構えを取っていた。


「相手にならないから、止めておくよ」と彼が断ると、


「軽く打ち合うだけだ。それにいざという時のことを考えたら、少しでも早く記憶を取り戻した方がいいんじゃないか。武人であることは間違いないんだから、訓練で思い出すかもしれないし……」


 彼はそんなことをしても無駄だと分かっていたが、やる気になっている彼女の姿を見て、


(記憶はともかく、これから先のことを考えれば、やっておいても無駄じゃない。へっぴり腰でもアシュレイは納得してくれるだろうし、今のうちに経験しておく方がいいかも……)


 彼は片手を上げて、了解したと伝えると、朝食前に習った構えを取った。


 最初のうちは、アシュレイが手加減してくれたため、何とか打ち合っていられたが、彼女がフェイントなどを織り交ぜてくると、すぐに手も足も出なくなる。

 それでも三十分ほど手合わせした頃、彼は体が反応するままに剣を繰り出すことにしたため、動きに切れが出始めてきた。


(何とかなりそうな気がする。まあ、アシュレイが手加減してくれているからだろうけど、護身くらいには使えるかもしれない)


 一時間ほど模擬戦で汗を流し、休憩を取る。

 彼女は汗を拭きながら、「どうだ、何か思い出せそうか?」と尋ねてくるが、彼は荒い息の中、首を横に振り、「まだ何も……」とだけ答える。


 アシュレイは、彼を見ながら、


(本当にどういう素性なのか? 僅か一、二時間の訓練で並の傭兵程度の腕にはなっている。この先どうするつもりかは分からないが、この街に慣れるまで付き合ってやってもいいな……)


 一方、レイの方は昨夜考えた、これからの身の振り方について、彼女にどう切り出そうか悩んでいる。


(いきなり訓練を始めてしまったから、話すタイミングを失った。ここで切り出してみようかな)


 彼は思いたった時に話してしまおうと、唐突に話をし始めた。


「相談があるんだけどいいかな。実は昨夜考えたんだけど、これからの……」


 彼はこれからどうやって生活の糧を得るべきか、冒険者になる選択肢は正しいのか、それ以外の方法はないのかということを彼女に相談していく。

 彼女は少し考えた後、


「そうだな、レイの考えている通り、冒険者になるのが一番確実だろう。商人はギルドに入るのが難しいし、職人になるほどの技術もないのだろう。男爵のところに仕官するという手もないではないが、恐らく無理だろう」


「男爵のところが無理っていうのは?」


「男爵はああ見えても慎重な性格だ。昨日も“今夜歓待したい”と言っただけで、晩餐の時も今後の話をしていない。昨日のように突然、人を殺し始めたら止めようがないという“危ない”男を、長期に亘って世話をしようとするつもりはないのだろう。だから、謝礼という形で金を渡してきたのだろうな」


 その言葉を聞き、彼は絶句する。


(危ない男……僕が……客観的に見ればそうかもしれないけど、面と向かって言われるとかなり凹む……確かに金で解決したようにも見える……可愛い娘に悪い虫が付かないようにということも考えているかもしれないけど……)


「そうか……じゃ、冒険者になるのが、選択肢的にはベターということだね。冒険者になるにはギルドで登録が必要なんだっけ?」


「そうだ。少しは思い出したのか? この街にはギルド支部があるから、いつでも登録できるはずだ。昼からでも行ってみるか?」


 彼は頷き、「よろしくお願いします」と頭を下げる。


 再び、訓練を始めようとした時、執事のエドワードが現れた。


「レイ様、アシュレイ様。傭兵ギルドのカトラー支部長がお見えになりました。魔晶石をお持ちになり、御館様の執務室においで下さいませんでしょうか」


 二人はすぐに頷き、部屋に戻ってから、すぐに男爵の執務室に向かった。



 男爵の執務室は屋敷の一階の奥にあり、既に男爵と眼光の鋭い中年男性がソファに掛けていた。

 男爵は二人にも席に着くように言い、紹介を始めた。


「カトラー支部長だ。こちらがレイ殿、アシュレイについては知っているな」


 カトラー支部長は頷いたあと、自らも名を名乗る。そして、レイを品定めするように見つめる。

 男爵はアシュレイの方を見て軽く頷くと、彼女は革袋に入った魔晶石をテーブルの上に取り出し、昨日の襲撃について説明を始めた。


「ラウルスの都を出てから、ソヴィニーの街に着くまでは何事ありませんでした。ソヴィニーの街で閣下直属の騎士たちが急に病に倒れ、已む無くギルドで護衛を雇いました。魔晶石で確認いただければ分かることですが、十名の傭兵は六級、中堅どころの男たちでした。ソヴィニーの街を出て二日目、サルトゥースとラクスの国境の森で、彼らは五名の騎士に奇襲を掛け、すべて殺害したのです。その直後に盗賊十二名が現れ、閣下を亡き者にしようとしました。彼が現れなければ私を含め、全滅していたでしょう……」


 彼女の話が終わると、支部長は三〇cm四方の木の箱を取り出し、男爵に断ったうえで、魔晶石をその箱に入れる。

 すると、箱の中央から空中に光の板が現れ、そこに文字が浮かんでいく。


「うむ。ティアゴ・アルバレ、三十歳、六級傭兵……この色は……確かに契約違反、言葉飾っても仕方ありませんな、裏切りを行っておりますな……」


 次々と支部長は魔晶石の情報を確認していく。次第に苦虫をかみつぶしたような表情になっていき、顔が上気していくのが分かる。

 そして、すべての情報を確認した後に、突然立ち上がり、頭を深々と下げ、謝罪の言葉を口にした。


「誠に申し訳ありませんでした。今回の件は傭兵ギルドの失態、ラウルスにあるサルトゥース本部とフォルティス――傭兵の国――にある総本部に至急連絡します。背後関係なども徹底的に洗い出し、関係するものが判明すれば、傭兵ギルドが懸賞金を掛けてでも見付けだします。護衛任務で裏切りを行ったなど十年ぶりです。ギルドの威信に賭けて必ずご納得いただけるように致します」


 支部長は更に、


「閣下への賠償につきましては、総本部の判断ですが、とりあえず、契約金の十倍、十万クローナをお支払い致します。もちろん、ソヴィニーの支部長は厳罰を下されるでしょうが、当面はこれでご寛恕頂きたい」


 そして、アシュレイの方を向き、


「今回は済まなかった。君も被害者だから、追って賠償金を渡すことになるだろう」


 最後にレイの方を向いて、


「レイ殿。今回、貴殿がおられなければ、長年築いてきた傭兵ギルドの信用を完全に失うところだった。貴殿にも謝礼をさせて頂く。本当に感謝している」


 レイはこの展開について行けず、「謝礼ですか?」と言っただけで、どう答えたらよいのか分からなかった。


「可能な限り希望に沿うよう努力させて頂く。何か希望はおありか?」


 レイは、アシュレイの方を見て助けを求める。

 彼女は、軽く頷くと、


「支部長、彼は記憶を失っているそうだ。もう少し状況がはっきりしてからでも構わないだろうか」


 カトラー支部長は、「了解した。後日でも構わない」と肯いた後、アシュレイに向かい、


「魔晶石はこちらで預からせてもらう。盗賊の懸賞金、装備類や魔晶石の買い取り分は、当方から渡すことでも構わないか」


 彼女が頷くと、男爵と支部長はまだ話があるとのことで、二人は退出することになった。



 部屋の外に出たレイは、「あれでよかった?」とアシュレイに聞いた後、


「謝礼の話はどうしたらいいんだろう? 普通は現金を貰うのかな」


「そうだな。レイの場合は現金が一番いいだろうな……」


 アシュレイの話では、傭兵の場合、ギルドが持っている珍しい武具などを譲ってもらうか、傭兵の国フォルティスの永住権を要求するという手もあるそうだが、彼の場合、武具は十分な物を持っているし、傭兵でもないため、永住権は不要だ。

 あまりに難しい要求をすると、ギルドの心証が悪くなるから、ギルドが提示する金額の現金で手を打っておく方が無難だろうとのことだった。

 彼女の予想では、一万(クローナ)は固いだろうとのことだった。


(一万C……一千万円!?……男爵から貰った二千Cと合わせれば、二、三年は生きていける。その間に帰る方法を探しだせば……)


 ここで彼は、ただの高校生にすぎなかった自分に、この世界で生きていけるのかという疑問に突き当たる。


(今の中途半端な知識では誰かに金をだまし取られるかもしれない。アシュレイの好意に甘えるのもなんだけど、生きていける自信が持てるまで、付き合ってもらいたいな)


 傭兵ギルドには後日、現金での謝礼を希望すると伝えることにし、彼らは街に繰り出すことにした。


 まず、身分証明を手に入れるため、冒険者ギルドのモルトン支部に向かった。

 モルトンの街は標高百m弱くらいの丘にある。街の周りは高さ五mほどの壁で囲まれ、南側には田園地帯が広がり、北側には大きな湖が、東西には深い森に挟まれている。

 ギルド支部は街の南側にある正門付近の比較的低い土地にあり、そこは商業地区になっているのか、荷物を積んだ馬車が多く行き来していた。


 ギルド支部は街にある建物と同じように、オレンジ色の屋根に白い壁の三階建ての建物で、正午前のこの時間でも人の出入は比較的多い。

 レイは初めて見る冒険者ギルドに胸を高鳴らせていた。


(ファンタジー世界の定番、冒険者ギルド……こんな状況でも興奮してしまうよ)


 建物の中は明るく、木製のカウンターとテーブルが数台置いてあり、数名の冒険者らしき男女――人間、エルフ、犬か狼の獣人――が、カウンターの向こうの受付の女性と話をしている。


 レイが中に入り、キョロキョロしていると、受付嬢、冒険者たちの視線が彼に集中する。

 彼らは真っ白なプレートメイルを身に付け、金属製の槍を手に持つ騎士風の男に違和感を覚えたようだった。

 アシュレイはその雰囲気を感じ、レイに「キョロキョロするな」と注意した後、すぐに空いている受付カウンターに向かった。

 カウンターの奥には、明るい金髪の二十代前半と思しき女性が営業スマイルを浮かべ、「今日はどのようなご用件でしょうか?」と尋ねてきた。


 受付嬢と顔見知りであるアシュレイが対応し、


「彼の登録を頼みたい。記憶を失った上、オーブも持っていない。初期登録ということでお願いしたい」


「身元の保証はどなたがされるのでしょうか? アシュレイ様でよろしいですか?」


 アシュレイは「ああ、それで構わない」と頷き、受付嬢はレイの方に向かって、


「私はエセル・ワドラーと申します。それでは早速手続きを進めさせていただきます。登録料は五(クローナ)必要ですが、ギルドが立て替えることもできます。お支払いは可能ですか?」


「大丈夫です」と答え、金貨を一枚手渡す。エセルは無造作に金貨で支払う彼の行動に、一瞬目を丸くするが、すぐに釣りを渡し、手続きを再開した。


「まず、ここに必要事項を記入して頂く必要があるのですが、代筆は必要ですか?」


 レイは自分がこの世界の文字を読めることに初めて気付いて驚き、呆然とする。


(何で文字が読めるんだろう? 話せる時点で不思議だったけど、文字はもっと不思議だ。アルファベットっぽい文字で、何となく英語の文法に近いけど、全く知らない言語だし……)


 呆けている彼を見て、受付嬢=エセルはもう一度代筆は必要かと尋ね、彼も我に返り、「いりません」とだけ答えた。

 必要事項は、名前、年齢、種族、出身地などで、彼は分かる範囲で記入していく。


(名前は“レイ”、年齢は十八歳でいいのかな? 種族は……人間だよな? 出身地は……記憶喪失だから空欄でもいいのかな)


「すみません。出身地を思い出せないので、空欄でもいいですか」


「申し訳ありません。先に説明しておけばよかったですね。すべて空欄でも魔晶石から情報が取り出せるので、書ける範囲で書いていただければ問題ありません……」


 彼女の説明では、用紙に書く情報はオーブで誰でも見ることが出来る情報になるため、家名を知られたくなければ、ファーストネームのみ書くだけでも問題ないとのことだった。


(先に言ってほしかったな……確かにそんな設定だったような気もするけど……)


 記入用紙の最後に「ギルドの規約に違反する行為は行わないと誓約する」との文字があり、そこに自筆でサインを行う。


(これで規約違反を行うと魔晶石に記録が残るようになるんだよな。確か、一般のオーブの作成時も同じような文言があるという設定だったはずだ……)


 身分証明発行時にその国の法律を守るという誓約をする必要があるため、重大な犯罪行為を行えば、魔晶石に記録が残る仕組みとなっている。


 必要事項を記入した紙を渡すと、「魔晶石の情報を抽出します。私に付いて来ていただけますか」と言って、別室に案内される。

 別室には、高さ三m、幅一・五m、奥行き一mほどの木製の箱があり、その中に入る必要があると説明される。

 彼は恐る恐るその中に入ると、蓋を閉められ、真っ暗な箱の中に閉じ込められた。

 五秒ほど待っていると、色とりどりのレーザー光線のような光が彼の体を走査していき、三十秒ほどで唐突に終わる。

 そして蓋が開けられ、エセルから「お疲れ様でした」と労いの言葉を掛けられる。


「三十分ほどでオーブは完成しますが、腕輪タイプの物でよろしいでしょうか?」


 特に問題がないので、「それでお願いします」と答え、この後、どうすればいいのかを尋ねた。


「オーブができるまで、ギルドの説明をさせていただきます。アシュレイ様のところに戻りますので、付いてきていただけますか」


 元のカウンターに戻ると、エセルはギルドの説明を始めた。


「冒険者ギルドは総本部がペリクリトルにあり、トリア大陸の様々なところに支部がございます……」


 彼女の説明を要約すると、冒険者ギルドは冒険者の互助組織である。

 ギルドが取り扱うのは魔物、魔獣、害獣などの駆除、薬草や鉱石などの採取などで、護衛については傭兵ギルドが取り扱っているため、冒険者ギルドでは取り扱わない。

 ギルドでは、依頼者からの様々な依頼を冒険者に斡旋したり、採取した薬草や魔物の部位などの買取をしたりしている。

 依頼料の二割がギルドの手数料、三割が税金となっているが、最初から割り引いた金額が報酬として、依頼票に記載されている。


 依頼に失敗した場合は、報酬の倍額――依頼者が支払う金額と同額――をギルドに支払う必要がある。

 また、年間の報酬額が千クローナ=約百万円に達しない場合は、不足分をギルドに支払う必要がある。支払えなければ除名されるが、これは税金の支払いをギルドが代行しているため、税金逃れに使われないための処置である。ちなみにラクス王国では、冒険者および傭兵以外の市民は、収入の五割近くを税金として徴収されており、冒険者は税的には優遇されていることになる。


 冒険者には一級から十級の十段階の階級があるが、階級によって受けられる依頼が制限されることはない。階級は冒険者の実績を示すだけであり、複数人で受ける場合の目安として使われるものであり、十級の者が一級相当の依頼を受けてもよい。


 冒険者は国境を自由に行き来できるため、犯罪行為に手を染めた場合は即刻除名される。

 ギルド加入時の契約を破る行為、例えば故意に殺人、強盗を犯す、契約違反を故意に行うなどの行為を行うとオーブにその情報が残るため、オーブを確認すれば犯罪を隠すことはできない。


(魔晶石にしても、オーブにしても、無茶苦茶な設定だよ。自分が犯罪を行ったと思えば、それが第三者に分かるシステムなんだから……ある意味、思想を管理しているみたいなもんだよ。自分が対象になるとちょっと嫌な気になるな……)


 一通り説明を受けると、ちょうど三十分経ったのか、レイのオーブができてきた。

 オーブは幅三cmの腕輪で、直径一cmほどの黒く輝く宝石が付いている。


「レイ様のオーブが完成しました。中の情報を確認していただけますか?」


 エセルから手渡された腕輪を左手に装着し、彼女から説明を受ける。


「宝玉に向かって“表示”と念じて下さい。頭の中に情報が浮かんでくると思います……」


 言われたとおりに念じると、頭の中に情報が流れ込んできた。


 名前:レイ・アークライト

 年齢:十八歳

 種族:人族

 出身地:???

 階級:十級冒険者

 レベル:魔道槍術士 一

 スキル:剣術???……


(本当に頭の中に情報が見えるよ……レイ・アークライト? えっ! ペンネームがそのまま、本名?……そう言えば、昨夜はレベルやスキルだけを見て、名前を見ていなかった……)


 レイが小説を書いていたときのペンネームが「レイ・アークライト」だった。レイはそのまま、“アーク=Ark”は“聖遺物”から姓の“ひじり”を、ライトは“書く=Write”をもじって“Wright”とし、“作家:聖礼=Ray・Arkwright”というペンネームにした。

 それが、この世界の自分の本名になっていることに、彼は訳が分からなくなっていた。


(考えても分からないし、まあいいや。しかし、出身地が???なのは、日本人だからか? スキルも???だし……ところで、犯罪はどうやって分かるんだろう?)


「確認しました。本名は分かりましたけど、出身地が表示されていません。これでも大丈夫なんでしょうか?」


 彼が不安に思って、そう尋ねると、エセルはにこやかな笑顔で問題ないと太鼓判を押してくれた。


「はい、問題ありません。旅芸人の方なども出身地が表示されないこともありますし、特に問題はありません。階級は表示されていますか? もし、記憶を失くされる前にギルドに登録されていた場合、階級が上がっていることもありますので」


「十級です。以前は冒険者をやっていなかったようですね。ところで犯罪の話が出ましたが、どうやって分かるんですか?」


「罪の意識があれば、ある魔道具を翳すと色が変わります。熟練の方が確認されますと、色の具合で罪の大きさも分かるようです」


(なるほど。さっき、傭兵ギルドのカトラー支部長が使ったのがそうなんだな。しかし、これだけ簡単に犯罪が分かるのなら、昨日の傭兵たちの裏切りはなぜなんだろうか? 相当高い報酬を提示されたか、どこかに確実に匿ってもらえる場所、例えば、どこかの国が関与しているとかがなければ裏切りなんかできないはず……相当きな臭い事件に巻き込まれたのかも……)


 彼が昨日の傭兵の裏切りについて、考え込んでいると、アシュレイが、


「これで冒険者だな。早速、明日から依頼を受けるぞ。今日は必要な道具の買出しだ」


と、うれしそうにレイの肩を叩く。


 横にいた二十台半ばの男が、「十級かよ……どこの騎士様が落ちぶれたんだ?」と笑っている。その言葉を聞いたアシュレイが睨みながら、


「ほう、私の命の恩人にそれだけのことを言うおまえは何級だ? 五級傭兵で剣術士レベル四十の私を助けたレイを笑うんだから、さぞ強いのだろうな」


 彼女に凄まれた男は目を逸らしながら、「悪かったよ」と呟き、席を立ってギルドを出ていった。

 彼女は「不愉快な奴だ」と呟いた後、レイに向かって、「ギルドでの用事は済んだから、道具屋に行くぞ」と言って、足早にギルドを出て行く。


 置いて行かれそうなレイは、エセルに「ありがとうございました。これからもよろしくお願いします」と頭を下げ、彼女のあとを追った。


 残されたエセルは、


(凄い装備を持っているのにレベルが一。スキルもおかしな表示しかされないし……変わった人だわ。言葉遣いは丁寧だけど、騎士様という感じでもない……明日から面白そうね)


 明日からのことを考え、楽しくなりそうだと、営業スマイルではない本当の笑顔で彼らを見送った。

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