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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第二章「湖の国・泉の都」

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第十二話「野盗」

 クロイックの街に向け、馬を進めていくと、ステラの言っていた五人組にすれ違う。

 五人は二十代後半から四十代前半くらいの男たちで、傭兵か冒険者のような出で立ちをしている。そして、レイたちがすれ違う時に声を掛けてきた。


「忘れ物でもしたのか?」


 レイたちはその声を無視して、進もうとした。すると、一人の男が後ろから更に声を掛けてくる。


「おいおい、人が話しかけているんだ。無視することはないだろうが?」


 その言葉も無視して、三人が馬を進めていくと、激高したような口調に変える。そして、馬を返し、彼らの前に立ち塞がった。


「お高く止まってんじゃねぇぞ! 若造どもはこれだからいけねぇ。先輩を無視するとはいい度胸だぜ。なあ、ちょっとつら貸せや」


 レイはその芝居臭い物言いに、盗賊の一味であると確信を持ち始めていた。


(胡散臭すぎる……自分たちをならず者だと宣伝しているようなものじゃないか……)


 アシュレイが男たちを睨みつけながら、「邪魔だ! どけ!」と声を上げる。

 レイも「そっちも急いでいるんじゃないのか? こんな時間だし」と、鬱陶しそうに話し掛ける。

 一人の男が偉そうな口調で、


「急いではいるがな、教育がなってねぇ若造どもを見ると、躾けてやらなければならんと思うんだ。いいから、ちょっと(つら)を貸せ」


 五人いた男たちのうち、一人の男が横をすり抜けていく。そして、四人の男たちが道を塞ぐように、レイたちを取り囲んでいった。

 レイはすり抜けていった男を見ながら、どこに行くんだと考えていた。


「済みませんが、急いでクロイックに戻らないといけないんですよ。邪魔だからどいてもらえませんか?」


 レイがそう言うと、「邪魔だからどけだと!」と更に怒りを露わにしていく。

 レイたちは男たちの横を強引に通ろうとするが、四人は道を塞いでいく。


 レイと男たちのやりとりを眺めながら、アシュレイも盗賊の一味だと確信していった。


(ここまでわざとらしいと疑うまでもないな……こいつらは間違いなく盗賊の一味。いつ襲い掛かってきてもおかしくはないだろう……先に脅しを掛けてみるか……)


「どいてもらおうか。それとも物盗りの仲間か? 何なら力ずくでも構わんぞ」


 アシュレイは睨みながら剣を引き抜いた。

 それに合わせて、レイも槍を少し持ち上げ、戦う構えを見せる。


 男たちはアシュレイの気迫に押され、顔を見合わせていた。そして、目で何か合図をしたかと思うと、少しだけ道を開けていく。


「物騒なことを言うなよ。判った。通してやるよ。これだから今の若いやつは……」


 レイはその隙間に抜けようと、馬を進めた。


 彼がその隙間に入ったタイミングで、男たちが一斉に襲い掛かっていく。


 最初に抜けようとしたレイは両側から襲われ、なすすべもなく、彼の馬に剣が突き立てられてしまった。彼の馬はその痛みに棒立ちとなり、レイは馬から放り出されてしまった。


「「レイ(レイ様)!」」


 アシュレイとステラの叫びが重なる。


 ステラは叫びながら、投擲剣を二人の男に投げつけていた。

 彼女の投げた二本の投擲剣は、一本は右の男の喉に、もう一本はその横にいた男の右腕に突き刺さっていた。

 二人の男は「「アァ!」」と呻き声を上げて落馬する。

 ステラの躊躇いのない素早い対応に、残りの二人も戸惑いを隠せない。


 アシュレイは、男たちのその隙を見逃さなかった。

 彼女は自分に近い方の男を、上段から斬り裂こうと、鐙に体重を掛け、両手で剣を握り直して叩きつけていた。

 ステラの攻撃で動きが止まっていたその男は、避ける間もなく革鎧ごと斬られ、悲鳴を上げながら。馬から落ちていく。


 残った一人は、不利を悟り、馬首を巡らし逃げていこうとした。

 逃げ出した男が、助かったと思った時、彼の首の後ろに衝撃が走った。

 その男は首の後ろに手をやろうとするが、すぐに体が言うことを効かなくなり、ずり落ちるように落馬していく。その首にはステラの投擲剣が突き刺さっていた。



 落馬したレイは、腰を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。


「酷い目に遭った……」


 レイが倒れた馬を見ると、馬は首に受けた傷から血を流して死んでいた。


「馬は……かわいそうなことをしたな……一人いなくなっていたから、本格的にヤバいかもしれないな。荷物を積み替えて、さっさとクロイックに帰ろう」


 レイは自分の荷物を盗賊の馬に付け替えていく。その間にアシュレイが右腕に傷を負った男を尋問していた。


「なぜ、私たちを狙った? 正直に話せば見逃してやってもいい」


 その男は黙ったまま、何もしゃべらない。


「腕の痛みで喋れないようだな。この男は用済みだ。処分してしまうか」


 アシュレイの凄みを利かせたその言葉に盗賊は、命乞いを始めた。


「た、助けてくれ! 話す、何でも話すから……」


「では、なぜ私たちを狙った? 仲間は何人いる? どこで待ち伏せしようとした?」


 アシュレイが剣を突き付けると、


「デオダードの関係者と聞いた。あれだけの大商人だ。結構な金を持っていたはず。それを頂こうと思ったんだ……仲間は二十人、この先の森で待ち伏せを……」


 その時、後ろから馬蹄の微かな響きが聞こえてきた。それに最初に気付いたステラが警告を発した。


「レイ様、アシュレイ様、馬が……十頭以上の馬が近づいてきます」


 二人にもすぐに馬蹄の響きが聞こえてきた。


「くそ! こんなに近いとは……レイ、まだか! 早くしろ、逃げるぞ!」


 だが、後ろから来る盗賊たちが見えた時には、二百mほどしか離れておらず、更にもの凄い勢いで馬を駆り、こちらに突き進んでいた。


 アシュレイはひらりと馬を降り、「間に合わない。ここで迎え撃つぞ!」と叫ぶ。

 レイは槍を拾い上げ、街道脇の丘に登っていき、ステラも馬から飛び降り、レイについていく。


「アッシュ! “花火”の魔法を使うぞ。ステラ! 大きな音がするから、耳を塞げ!」


 レイはドラメニー湖で使った花火の魔法を、準備し始めていた。


 迫ってくる盗賊たちは、全部で十五、六人。

 一団となって進む盗賊たちは皆、馬に乗っており、もの凄い勢い近づいてくる。


(先頭にうまくタイミングを合わせられれば、馬がパニックを起こすはずだ……もう少し……よし、今だ!)


 盗賊たちの先頭が五十mほどに接近してきたところで、狙いを定め、そして魔法を放った。

 レイの手から小さな火の玉が飛び出していき、ヒュルヒュルという音をさせて、盗賊たちに向かって飛んでいく。



 盗賊の頭目はその魔法を見て、「魔術師だと!」と魔術師がいたことに驚くが、すぐにその頼りない火の玉を見て魔法を失敗したと確信する。


「へっ、しくじりやがったぞ! 大したことはねぇ! 突っ込め!」


 盗賊たちは頭目の声に、更に馬たちを駆っていく。



 レイの放った魔法が、螺旋を描くように飛んでいき、盗賊たちの目の前に来た時に突然、爆発する。

 ドーンという腹に響くような大音響と共に、眩い閃光が広がっていく。全力で駆けていた馬たちは、その音と光に一斉に棒立ちになり、数頭の馬が背中から倒れ込んでいった。

 倒れた馬に乗っていた盗賊たちは、馬から振り落とされた衝撃で、すぐに立ち上がることができない。

 半数の盗賊は何とか馬を鎮め、再びレイたちに向かってくる。

 その顔には先ほどまでの余裕は感じられず、怒りの表情に変わっていた。



 レイはとりあえず半数に減らせたことに安堵したが、まだ、七、八人いるため、少しでも数を減らそうと考えた。


(馬を脅すのが一番確実だろう。それには火が一番いいはずだ!)


「アッシュ、ステラ! 魔法で数を減らす! 援護して!」


「「おう(はい)!」」


 レイはパニックから立ち直りつつある盗賊に向け、炎の玉を投げつける。


 今度の炎の玉は直径が二十cmほどあり、花火の魔法よりかなり速い速度で飛んでいく。そして、その炎の玉は、落馬を免れた七、八人の集団の先頭の馬に向かっていた。

 飛んでくる炎の玉の標的になった馬はパニックを起こし、炎の玉を避けようと騎手を無視して急に方向を変える。その急激な方向転換により、右後ろを走る馬が巻き込まれ、二頭はもつれ合うように転倒していった。


(あと五人! 近いな。光の矢で一人に攻撃をした後は、すぐに接近戦になる……)


 レイは光の矢を一人の盗賊に撃ち込み、槍を構えてアシュレイの横に立つ。


「ステラ! 隙を突いて奴らを撹乱しろ! アッシュと僕で浮き足立った所を殲滅する!」


 ステラは黙って頷き、街道脇の草叢に身を潜めていった。




 盗賊たちは接近戦に持ち込めば魔法は使えないと、落馬する仲間を無視して突っ込んでいく。


「近づいちまえば、こっちのもんだ! 後ろから頭たちもすぐに来るぞ!」


「「おう!」」


 四人の男が大声でわめき散らしながら、レイたちの前に駆け込んでくる。その後ろには最初の落馬から立ち直った七人ほどの盗賊が走っているのが見えていた。

 レイはその様子を見て、焦りを感じていた。


(四人に時間を掛けると不味い。どの程度の腕なのか判らないけど、早く無力化しないと、数で圧倒される)


 その焦りを感じたのか、アシュレイが冷静な声でレイに指示を出していく。


「レイ、先頭の奴らは止めを刺さなくてもいい。私が合図をしたら、後ろに下がれ。後から来るやつらを魔法で攻撃してくれ」


 アシュレイの声に冷静さを取り戻した彼は、すぐに笑顔を見せ、


「了解! アッシュも無理するなよ。ステラがいるんだ。ステラを計算に入れておけよ!」


 アシュレイが剣を上げて、了解の仕草をする。


 四人の盗賊は、三人が剣を、一人が槍を持っていた。

 剣術士がレイたちの前に立ち塞がるように広がると、槍術士が横に回り込んでいく。

 レイは回り込む槍術士を相手に選び、自ら突っ込んでいった。



(囲まれると面倒だ。一人減らせばかなり楽になる)


 アシュレイも囲まれる前に一人でも減らしておこうと、左端の剣術士に向かっていった。



 ステラは草叢に隠れ、静かに盗賊たちの後ろに回っていく。

 アシュレイが左端の盗賊と剣を交え始めたところで、ステラは草叢から立ち上がり、真中の男の首に投擲剣を投げつける。

 ヒュッという音と共に、投擲剣はその男の首に突き刺さり、男は虚ろな目をして、ゆっくりと前に倒れていった。


 右端にいた盗賊は、突然倒れた仲間の姿に驚き、「誰だ!」と叫んで、後ろを振り返った。

 彼が目にしたのは、灰色の目をした狼の獣人の少女が二本の短剣を構え、自分に向かってくる姿だった。


「何だと! くそっ!」


 その男は、ステラの姿を見て、慌てて剣を振りかぶる。だが、剣を構えたときには、彼女の短剣が、彼の右脇腹と左太ももを深く斬り裂いていた。


「あわっ!」と悲鳴を上げ、その男は血飛沫を上げて倒れていく。男が倒れる前に、ステラはその横を通り過ぎていた。



 アシュレイは真中の男が倒れた姿を見て、ステラの攻撃だと直感した。


(ステラか! よし、いける!)


 アシュレイは、自分の前に立つ盗賊が、仲間に気を取られると確信し、急激に左にステップし、その盗賊の視界から消えた。

 その盗賊は、一瞬の隙を突かれ、視界から消えたアシュレイに驚き、盗賊は思わず足を止めてしまった。

 男が慌てて横を見ると、アシュレイは彼の真横に立っていた。

 アシュレイは「貰った!」という声を上げるが、冷静さは失っていなかった。

 彼女は、その盗賊に確実にダメージを与えるため、胴鎧の隙間を狙っていた。剣を突き出すと脇腹に深々と突き刺さり、その男は大きな悲鳴を上げて、ステラの投擲剣で殺された男の上に倒れ込んでいった。


「ステラ、助かったぞ! だが、まだ敵が多い。油断するな!」


 ステラはその時、レイに向かった槍術士に向かっていた。

 だが、仲間三人が瞬殺され、戦意を失った槍術士はレイの槍に防具ごと貫かれ、絶命していた。


「アッシュ、ステラ、けがはない?」


「「大丈夫だ(です)!」」


 二人から返事を受けたレイは、まだ向かってくる敵に向け、魔法を準備し始めた。


(七人か……三人が弓術士だ。向かってくる四人は、あと十秒くらいでここに着いてしまう。四人はアッシュたちに任せ、弓術士を攻撃する方がいいな……)


 レイは光の連弩の魔法を準備し始める。

 向かってきた盗賊たちはアシュレイとステラが足止めし、その間に五発の光の矢を完成させた。


 弓術士たちは二十mほど離れたところで、街道から丘に入り、レイたちの側面に移動していく。

 その弓術士たちに、レイの光の矢が襲い掛かっていく。

 回避することが可能な距離であり、狙われた男は横に飛ぶように回避する。だが、レイの追尾する光の矢は、軌道を変え、一人目の弓術士が胸を貫いていた。


「何だ! あの魔法は!」


 驚く二人の弓術士に向け、レイは残りの四発の矢を次々と撃ち込んでいく。

 たったひとりの魔術師に魔法を連射されたため、二人の弓術士はパニックに陥っていた。


「聞いていないぞ! こんなこと! こんな魔術師がいるなんて……」


「何だこの魔法は! 追いかけてくる! 助けてくれ……」


 二人の弓術士に二発ずつの光の矢を命中させ、レイは周りを見渡していた。


(後ろにまだ二人いるな。弓は持っていない。なら、前の三人を先に倒しておいた方がいい……)


 彼がそう思ってアシュレイたちの方を見ると、ステラが一人目の男を刺殺し、アシュレイが一人の男の両腕を斬り飛ばしていた。


(出番が無さそうだな。後ろの奴らを倒しに行くか……それにしても二人は強いな……なんか僕は後衛の魔術師役みたいだな……)



投稿開始から、二か月が経過しました。

今後とも応援よろしくお願いします。

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