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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第二章「湖の国・泉の都」

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第十一話「油断」

 ステラの戦い方についての話し合いを終え、あとは寝るだけになった。

 レイは二人の女性と同室というシチュエーションになかなか寝付けなかった。


(アッシュと二人だけだったら、良かったんだけどな……アッシュは意外と固いから、護衛を受けると、宿でも”仕事中だ”の一言で、相手をしてくれないからなぁ……いつになったら二人っきりになれるんだろう?)


 そして、これからのことを考え、更に悶々としていく。


(ここからフォンスまでは百四十kmくらい。護衛じゃなく、自分たちだけなら四日間くらいで着ける……今日は五月二十四日だから、遅くとも今月中にはアッシュのお父さんに会うことになるんだ……モークリーさんも知っているし、他の傭兵仲間も知っているくらいの有名人……しかも国内最強って言われるほどの猛者。その人がアッシュのことを溺愛しているんだよなあ……はぁぁ、溜め息しか出てこない。逃げ出したいな……)


 そして、ステラのことに思考が流れていく。


(今のままで、いいとは思わない。それに投げ出すわけにもいかない。でも、このまま、一緒にいてもいいのか? この三人の変な関係を続けることが、彼女のためになるのか?)


 何度も寝返りを打ち、更に思考は回っていく。


(僕がここにいる理由は? ここに来た理由は? 今のところ、それを見つけようという切羽詰った想いが僕の中にはない。誰の意志、誰の意図なのかは判らないけど、偶然、この世界に来たということは考えられない。自分が書いた小説の世界に入り込むなんて、都合が良すぎてあり得ない。もし、別の世界にトリップするなら、普通はもっと違う世界だろう。誰かが僕をここへ呼んだ。それは間違いない……)


 天井を見つめながら、元の世界のこと、自分のことを考えていた。


(こっちに来て既に二ヶ月近い日数が経っている。でも、この体は僕のものじゃない。もしかしたら、意識だけがこっちに飛んで、元の体は普通に暮らしているのかもしれない……いや、元の世界と同じ時間の流れかどうかも判らない……今、僕の本当の体はどうなっているんだろう? 植物人間状態で病院に寝ているのだろうか?)


 レイは自分の思考の渦に飲み込まれ、更に眠れなくなっていた。



 アシュレイも寝付けていなかった。

 レイがごろごろと寝返りを打っていることも判っていた。


(レイも眠れないのか。何を考えているのだ……フォンスに向かうのが、不安なのだろうか? それともステラのこと……駄目だ、どうしても彼女のことを意識してしまう。レイは私のことを見てくれている。そのことは言葉にもしてもらっている。だが……)


 彼女も自分たちのことを考えていた。


(ステラを含めた三人でフォンスに戻る。それはいい。だが、その後は私が言ったような、ステラが傭兵として独り立ちし、レイと二人で旅をする、そんな展開になるのだろうか?)


 アシュレイも天井を見つめたまま、自分の思考の渦に飲み込まれていた。



 ステラは二人の呼吸から、二人とも眠れていないと判っていた。


(お二人とも寝付けない。なぜなのだろう?)


 そして、レイという男のことを考え始めていた。


(レイ様は私に何を求めているのですか? 私はこれからどう生きていけばいいのですか?……駄目。また、考えてしまった。里では考え過ぎるなと何度も言われたのに……レイ様とアシュレイ様と共に過ごす、これにどういう意味があるの?)


 ステラは里で覚えた自己暗示を思い出し、自分に眠るよう言い聞かせ、静かに眠りに落ちていった。



 翌朝、眠い目を擦りながら、レイとアシュレイが目覚める。

 ステラは既に目覚めていたが、彼らの眠りを妨げないよう、二人が起き出すタイミングを待っていた。


 朝食までにいつもの日課の鍛錬を行う。

 昨夜の話し合いで決まったように、レイとステラが片手剣の手合わせを始めるが、スキルの差が大きく、レイはステラの動きに全くついて行けない。ステラも、アシュレイから、レイの動きをよく見るようにと言われ、いつもよりぎこちない動きになっている。

 その姿を見たアシュレイは、最初からはうまくいかないものだなと思っていた。


 一時間ほど体を動かし、朝食を取った後、ステラの装備を揃えに街に出て行った。

 防具屋ではアシュレイの独壇場で、ステラに合う防具を次々と選んでいく。調整も済ませたところで、まだ午前十時頃。次の街に行く時間も充分にある。


「出発前にモークリーさんに挨拶をしてこようか」


 レイの提案でモークリーに別れの挨拶を言いに行くが、忙しい彼は商会にはいなかった。


「残念だけど、仕方が無いな。それじゃ、出発するか」


(この街でもいろいろあったな。デオダードさんのこと、ステラのこと。これからもいろいろあるだろうけど、フォンスでは何が起こるんだろう?)


 レイはクロイックの街を抜ける時、いろいろなことが頭に浮かんでいた。そして、一緒に馬を進める二人の女性に目を向ける。


(アッシュとステラ。両手に花なんだよな……二人とも僕より強いけど……はあ、早く強くなりたい……)




 宿の入口を見張っていた男は、レイたちが街に繰り出したのを見て、ゆっくりとした歩調で後をつけていく。

 途中で二度ほど別の男と代わりながら、防具屋、デオダード商会に入るのを見ていた。


(このまま出発しそうだな。頭に伝えなければ……間に合うか……)


 その男は早足でその場を立ち去っていった。

 ステラは何気なく、その男を見ていたが、特に注意を払うことはなかった。




 立ち去って行った男は、一軒の家に入っていく。

 中には十数人の武装した男たちが、車座になって座っていた。


「お頭、奴らが動き出しましたぜ。南に向かって出発しました」


 お頭と呼ばれた四十代の髭面の男は、ニヤリと不気味な笑みを浮かべ、


「よし、手筈通り、いつもの森で待ち伏せるぞ。目立たねぇよう二、三人ずつで向かえ! お前らは奴らの後をつけろ。森までは気付かれるな。判ったな」


 男たちは一人ずつ家を出ていく。最後に残った頭目は、厭らしい笑みを浮かべていた。


(女二人に若造が一人。デオダード商会のあの支店長が、下にも置かねぇって感じで対応してたって話だ。受け取った遺産は千や二千ってことはねぇ。少なくとも一万、いや、一人一万の三万は持っているはずだ……本当においしい獲物だぜ……それに女は上玉だって言うじゃねぇか。くっくっ、楽しみだぜ……)




 レイたちの出発した時間は、午前十時と中途半端な時間であり、街道は比較的空いていた。

 次の街まで約三十km。

 護衛をすることもなく、自分たちのペースでいけば、休憩を入れても五時間ほどで着く。


 二時間ほど進むと、周りは緩やかな丘陵地帯に変わっていった。


(この辺りもいい景色だな。本当にきれいな国だよ。まあ、冬は厳しいって話だけど……冬は冬で白銀の世界できれいなんだろうな……)


 レイは緊張感もなく、のんびりと周りの風景を楽しんでいた。


 ステラは、自分たちをつけてくる一団に気付いていた。だが、特に目立った行動を取らなかったことと、レイたちから特に指示がなかったため放置していた。

 丘陵地帯に入り、その一団がゆっくりと近づいて来ていることに、ステラは気付く。ここに至って、ようやくレイたちに警告を発した。


「レイ様、アシュレイ様。百mくらい後ろにいる五人組が、私たちをつけているようです」


 レイとアシュレイの二人はそのことに驚く。


「いつからつけてきているんだ? 何が目的なんだろう?」


「クロイックの街を出て、少し経った頃だと思います。最初は二人だったのですが、途中で一人ずつ合流していき、少し前に五人になりました」


 アシュレイは少し考えた後、一つの結論に達した。


「デオダード商会を出たところから、つけてきているのかもしれんな。デオダード殿の関係者と思われているのかも……遺産を奪おうと考えているのかもしれん」


 レイは更に驚き、信じられないと言う顔になる。


「でも、どう見ても傭兵に見えるだろう。僕たちは。それを襲うって、そんなことを考えるのかな?」


「そうだな。だが、葬儀に来た者なら、私たちがデオダード殿の親族だと思ってもおかしくはないだろう。商会の従業員たちの態度を見ればな」


 レイは葬儀の時の様子を思い出していた。


(確かに親族に対する扱いだったよな。でも、それだけで勘違いするのか? いや、少なくとも六万(クローナ)の現金は持っている。狙うだけの価値はあるか……それにクロイックには城壁が無い。誰でも出入りできる。つまり、盗賊が入り込んでも判らないというわけか……それにしても、もっと早く教えて欲しかったな……)


「どうする? 五人だけなら、僕たちでも十分に勝算はある。時間を稼げば人は必ず通るからね」


 レイがそう言うと、アシュレイが首を横に振る。


「どこかに本隊がいるはずだ。奴らは私たちの監視役だろう……この先に小さな森がいくつかあったはずだ。そこに潜んでいる仲間がいるかもしれん。いしゆみで馬を殺されれば、逃げるに逃げられなくなるしな。それを狙っているのかも……」


「先に手を出すわけにもいかないし……どうする、アッシュ?」


「そうだな。一つはクロイックに戻ると言う選択肢だ。二つ目は一気に馬を走らせて、森を掛け抜ける。三つ目は、どこか休憩を取るふりをして奴らを誘き寄せる。その三手くらいだろう」


「どのくらいの待ち伏せがあると思う?」


「それは判らんな。弓や弩が多ければ、それほど人数はいらん。足止めして矢で射殺せばいい。まあ、それでも十人は下らんと思うがな」


「最低十五人か……クロイックに戻るのが一番安全だな。明日、どこかの商隊に紛れ込むか、近くを一緒に進めばいいだろうし」


「だが、それを見込んで後ろで待ち伏せを掛ける可能性もあるぞ」


(どうする? 安全に行くなら、クロイックに戻るのが一番だろう。だけど、それでは次の機会を与えることになるな……相手の戦力が判らないのが辛い……)


「戻ろう。三人で戦える相手か判らないし、明日にでも大きめの商隊の護衛に紛れ込めば、手出しはしてこないだろうし……」


 アシュレイもレイの案に賛成し、「そうだな。後ろの方が、まだましかもしれん」と言って、馬首を返す。

 レイもステラも同じように馬首を返し、クロイックの街に戻り始めた。




 レイたちをつけてきた男たちは、三人がクロイックに戻ろうとしていることに悪態をついていた。


「くそっ! 気付きやがったか……こんな距離で、なんで気付けるんだ?」


「本当にそうだぜ。もうちょいで頭たちが待ち伏せしているところに嵌り込んだのによ!」


「仕方がねぇ。時間稼ぎをする。お前は頭に知らせろ」


 五人は馬を進めながら、足止め方法を確認していく。


「話し掛けて時間を稼ぐ。それでも駄目なら、男の馬を狙え。判ったな」


 男たちはにやにやと笑いながら、三人に向かっていく。

 自分たちの方に向かってくる白い鎧を着た男が、自分たちに金と女を運んでくる愚かな生贄にしか、見えていなかった。


ようやく(ちょっとだけ)話が進みます。

もう少し、サクサク進めた方がいいのかもしれませんね。

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