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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第二章「湖の国・泉の都」

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第十話「傭兵と暗殺者」

 ステラの装備の話などで、あっという間に三十分が過ぎていった。

 ギルドの職員が現れ、裏にある訓練場の地下に案内される。


(モルトンで、僕が中鬼オークと戦ったところと、ほとんど一緒だな)


 地下に降りると二十m四方の闘技場が現れる。


小鬼ゴブリンと戦ってもらう。高レベルだと聞いたから、安いゴブリンにしておいた」


(レベル四十三だから、そこらのベテラン傭兵と同じくらいの強さはある。確かにオークでもゴブリンでも相手にならないことには変わりないな)


 今から行われることについて、アシュレイがステラに説明していく。黙って聞いていたステラだったが、ここでゴブリンと戦ってもらうと言われた時、初めて質問した。


「そのゴブリンをどうすればよいのでしょうか? 手合わせのように傷つけないようにするのでしょうか?」


 アシュレイが「手加減なしで殺すのだ」というと、小さく頷く。


 闘技場の中央にステラは歩いていく。

 彼女の正面にある扉が開かれ、身長百五十cmに満たない小柄な人影が飛び出してきた。

 その姿は、短い手足に突き出た腹、額には小さな角が生え、青黒いような緑色の皮膚をした醜い姿だった。

 ゴブリンの手には棍棒らしき木の棒があり、それを振り回しながら、ステラに向かっていく。

 ステラはゴブリンが目の前に近づくまで構えもせず、じっとその姿を見ている。


 ゴブリンは棍棒のレンジに入ったと思ったのか、棍棒を野球のバットのように後ろに大きく引き、ステラに叩きつけようと一気に振り抜いてきた。棍棒は大きく弧を描いて、ステラに迫っていく。

 ステラは棍棒が当たる直前で横にステップし、ゴブリンの視界から消えた。

 棍棒に体を持っていかれ、ふらつくゴブリンは彼女を見失ってしまった。

 キョロキョロと左右を見るゴブリンの真後ろに、ステラは立っていた。

 そして、いつの間に抜いていたのか、短剣をゴブリンの首の後ろに突き刺す。


 ステラはすぐに後ろに飛び退き、初めて剣を構えた。

 ゴブリンは、そのステラの姿を見ることなく、悲鳴どころか声すら上げることができなかった。そして、血飛沫を上げることなく、静かに倒れていった。


 その戦いを見ていた、レイ、アシュレイ、ギルド職員の三人は声を失った。


(速いとは思っていたけど、これほどとは。それにあの躊躇いが全くない攻撃。剣士というより暗殺者アサシンみたいだ……)


(声を上げさせず、血の臭いも残さない……噂に聞くルークスの暗殺部隊の技のようだな。確かに強いが、”うち”の傭兵たちに受け入れられるのだろうか……)


 ギルド職員が最初に我に返り、合格なので受付で待っているようにと指示を出す。

 レイとアシュレイはその言葉にようやく我に返り、ステラを迎えに行った。


「お見事! ステラ。本当に強いなあ」


 その言葉にステラは静かに頭を下げている。


(ステラのしっぽが少し揺れているな。喜んでいるのな)


 レイはそう思ったが、薄暗い地下闘技場では彼女の表情が良く見えない。だが、少しでも感情が表せるようにと、精一杯の笑顔でステラを褒めていた。


 無邪気に褒めるレイの横で、アシュレイはどうすべきか悩んでいた。


(今のような戦い方を続ければ、噂が立つかもしれない。ルークスの獣人部隊の話は半ば伝説。あまり広まると好奇の目に晒され、居辛くなるかも知れない……正当な剣術を覚えさせた方がステラのためかも知れんな)


 受付に戻ると、すぐに九級への昇級の手続きが行われた。



 傭兵ギルドからデオダード商会に戻り、宿を探すため、街に出て行く。

 商会を出るとき、モークリーに世話になったと伝えると、


「こちらこそ、大旦那様のご遺志を汲んで頂き、ありがとうございました。ところで、これからどうなさるおつもりですか?」


「明日にでもフォンスに向けて、出発しようと思っています。フォンスにはアッシュの実家もありますし、そこで、これからのことをゆっくり考えようかと」


 モークリーは、アシュレイの姓であるマーカットと実家という言葉を聞き、


「もしやアシュレイ様は、レッドアームズの……失礼しましたマーカット団長のご家族の方でしょうか?」


 アシュレイがハミッシュ・マーカットの娘だと答えると、


「そうでしたか! これは失礼いたしました」


 モークリーは少し興奮気味になり、「高名なマーカット団長のご令嬢であったとは……」と呟いている。

 アシュレイは少し表情を硬くする。

 三人はモークリーに別れの挨拶をして、宿を探しに行った。



「アッシュのお父さんって、有名人なんだ。それにしても”レッドアームズ”って何のこと?」


 無邪気に聞くレイの言葉に、少し機嫌を悪くしたのか、ぶっきら棒に答えていく。


「ああ、親父殿(団長)は、ラクスではかなり有名だからな。レッドアームズについては実家で聞け。誰でも知っている話だ」


(あれ? 何か気に触ることでも……もしかして、アッシュが独立したのも親父さんから離れるため? よく考えたら、超有名人の子供なんだよな。子供の時からマーカット団長の娘って言われていたのかも……)


「アッシュ、気に触ったんなら、謝るよ。ちょっと軽率だった。本当にごめん」


 レイはアシュレイの前に回り、頭を深々と下げる。


「気にしていない……いや、私の方こそ済まなかった。レイには判らない話なのにな……」


(そうだ。レイには関係のない話だ。私がマーカット傭兵団、”レッドアームズ”の団長の一人娘であることは……やはり、この話になるとやはり心が落ち着かん。モルトンほど離れていれば、団の話になっても冷静でいられたのだが……)


 二人の後ろを歩く、ステラはその様子を見るものの、特に何も言わず付いていくだけだった。



 宿はデオダードと泊まった高級ホテルではなく、傭兵ギルドで教えてもらった傭兵御用達のリーズナブルな宿にした。

 フロントで「三人部屋ですか? それとも一人部屋を三部屋ですか?」と聞かれる。

 何も考えていなかったレイは、「ちょっと待っていて下さい」と言って、アシュレイとステラと相談を始めた。


「どうする? 一人部屋三部屋にするか、二人部屋と一人部屋にするかだよね」


「そうだな。私としては……ふ、二人部屋と一人部屋の方がいい……」


 アシュレイが少しどもりながら、二人部屋と一人部屋を提案する。

 ステラは何を話しているのか、判っておらず、何も言わない。


「でも、それだとステラだけが一人になるよ。二人部屋にアッシュとステラが泊る?」


「そ、それはないだろう。と、当然、私とレイが二人部屋で……」


 アシュレイがそこまで言った時、ステラの姿が目に入った。


(そうだな。”ステラだけ”が一人というのは……少なくと”今日”は一人にすべきではないな)


今日(・・)は三人部屋でどうだろうか。明日は明日でまた考えればいい」


(四人部屋で一緒だったんだから、気にすることはないんだけど、女二人に男一人っていうシチュエーションがどうも……ハーレム系に抵抗のない人なら、いいシチュエーションなんだろうけど、元々女性関係が皆無だったからな……アッシュだけで十分なんだけど……ステラにそれは言えないし、溜め息が出る……でも、よく考えたら、これって所謂、”リア充”って奴なのか……)


「……そうだね。そうしようか。今日は相談したいこともあるし、ちょうどいい……」


 三人部屋を借りることにし、まだ午後四時頃と早い時間であったため、三人で裏庭に行き、訓練で汗を流す。

 夕食を取った後、三人で今後のことについて話し合うことにした。


 レイは考えることが多いなと思い、「一つずつ考えていこう」と提案する。


「まずは明日からどうするか、かな? フォンスに行くのは決定でいいよね」


 アシュレイは頷くが、ステラは黙って聞いているだけで、反応を示さない。

 レイがステラもそれでいいかと聞くと、ステラはレイたちについていくだけなので、どのような決定でも従うと答える。その言葉にレイは苦笑いを浮かべるが、話を進めることにした。


「フォンスでアッシュの実家にいく。これもいいよね。アッシュの実家でどうするかだけど。アッシュ、何か考えはある?」


「団長に頼んで、臨時の団員にしてもらおうかと思っている。うちの傭兵団は比較的大きな商隊の護衛を受けることが多い。それに参加させてもらえれば、皆に迷惑を掛けることは少ないだろう」


「なるほど。それで行こうか。じゃ、ステラの装備なんだけど、僕にはよく判らない。アッシュの意見を聞かせて欲しい」


 アシュレイはステラの短剣を借り、スラリと引き抜く。


「短剣はそれほど悪い物ではない。ここクロイックで買うより、フォンスで買った方がいい物が手に入るから、フォンスまではこの短剣で十分だ。ステラ、服を脱いでくれ」


 その言葉にレイが慌てる。


「こ、ここで脱ぐの? えっ!」


 アシュレイはレイの驚き方に呆れている。


「何を慌てている。チェインシャツを確認するだけだ」


 ステラが上着を脱ぐと、半そでTシャツのような形のチェインシャツが目に入る。その下には、うす茶色の毛織物のシャツを着ているが、体にフィットしており、女性らしい体の線がはっきりと判る。


(こうなると思ったんだよ。アッシュは気にしないみたいだけど、僕は気になる。それにしても、出るところは出ているし、くびれているところはくびれている。意外とスタイルがいいんだな、ステラ()……)


 レイは慌てながらも男の性で、ステラの体をしっかりと見ていた。

 アシュレイはそんな彼の思いに気付かず、話を続けていく。


「ほう、かなりの物だな。どこで買った物だ? アウレラか? デオダード殿は何かいっていなかったか?」


 レイには全く判らなかったが、かなりの品のようで、アシュレイは少し興奮気味になり、矢継ぎ早にステラに質問をしていく。


「いいえ、アルスです。ドワーフの店で作って頂いたもので、音が出ないように工夫がされていると」


「なるほど。確かにこの細工、ドワーフの、それもかなりの名工の手によるものだろう」


 アシュレイは鎖の繋ぎ目を指で確認していく。


「革の鎧を着けたことはあるか? その上に革の鎧を着たら問題は?」


「はい、里では革の鎧でしたから。このチェインシャツは軽いので、革鎧も軽めのものでしたら、問題はないと思います」


 アシュレイは腕を組んで、考えている。


(チェインシャツに胸当て、腰当て、肩当て、篭手、脛当て辺りが限界か。それでも十分防御力はある。足回りは……)


 彼女はステラのスピードを生かした戦闘スタイルを生かすため、どのような防具がいいのか、考えていた。


(何か楽しそうだな、アッシュは。こういうのが好きなんだろう。よく考えたら、僕以外は子供の時から戦闘訓練に明け暮れていたんだ……男女が逆なら、二人の騎士に守られるお姫様って役どころになるな、僕が……)


 自分の知識、経験ではアシュレイの助けにはならないと、レイは二人を見ながら、関係ないことを考えていた。


「よし! 明日は午前中に革鎧を揃えにいく。フォンスで買い直すが、早く慣れた方がいいだろう。レイ! 聞いているか」


 別のことを考えていたレイはアシュレイの話を聞いていなかった。


「ごめん。明日、何をするって?」


「ステラの防具を揃えにいく。本格的な装備はフォンスで揃えるが、慣れるためにここで買っておこうと言ったのだ」


「了解。じゃあ、明日は午前中に防具を揃えて、余裕があったら次の街に出発するって感じかな?」


 アシュレイが頷き、明日の予定は確定した。


「後は明日からの部屋割りだ。一人部屋を三つ借りるのでどうかな?」


 レイはアシュレイに目配せし、一人部屋に二人で寝ればいいだろうと伝える。

 彼女も理解したようで、「そうだな。それがいいな」とその話を終わらせようとしたが、


「それではお二人をお守りできません。同じ部屋では駄目なのでしょうか?」


 ステラの一言で話は終わらせられなかった。


「僕もアッシュも宿の中なら、護衛はいらない。デオダードさんのような戦えない商人じゃなく、傭兵だから」


「では、私は何をしたら良いのでしょうか?」


「ゆっくり休めばいいよ。なあ、アッシュ?」


「そ、そうだな。クロイックからフォンスの間の街は、安全な街ばかりだ。宿の中はゆっくりと体を休めればいいだろう」


「体を休める……判りました。ですが、何かあればすぐに駆けつけます。ご安心下さい」


 ステラの真剣な眼差しに、二人は顔を見合わせ、一人部屋でも駄目かもしれないとがっくりと肩を落としていた。


「それくらいかな。決めておくことは?」


「いや、ステラに言っておかなければならないことがある」


 アシュレイがステラの正面に座り、話を始めた。


「お前の戦い方は、傭兵たちには受け入れられないかもしれない。今の戦い方をするなとは言わぬ。皆の前ではもう少し普通の戦い方、きちんと構えを取り、敵を斬り伏せるような戦い方を見せた方がよい」


 レイはアシュレイの言っている意味が判らなかった。

 ステラもその戦い方にどういう意味があるのか、判っていなかった。


「今日の戦い方じゃ駄目っていうこと? 確実に勝つために最善の方法を選んだように見えたんだけど……」


「アシュレイ様のおっしゃる意味がよく判りません。構えを取れば、敵に手の内を晒してしまいます。斬り伏せるように斬れば、返り血を浴びてしまいますし、確実に倒すことが出来ません。どうしたら良いのでしょうか?」


 アシュレイもうまく言葉に出来ないのか、少し唸っている。


「うむ、そうだな、どう言ったらいいのか……私は傭兵として生まれた。傭兵は生き残ることが第一だ。だから、どんな手を使っても生き残れと教えられる。だが、ステラの戦い方は、私の知っている傭兵の戦い方ではないのだ……」


「確かに何の躊躇いもなく殺しているようで、僕も暗殺者みたいだなと思ったけど、それがなんで駄目なんだ? 言っては悪いけど、正々堂々とか言いそうな正規の騎士ならともかく、生き残ることを第一に考える傭兵なら、問題ないんじゃないのか?」


 アシュレイはどう言っていいものか、言葉を区切るように説明していく。


「うまく言えんが、異質なのだ……人らしさを感じない“冷たさ”と言っていいのかもしれん。そう思えるのだ、ステラの戦い方は……悪いとは言っていない。命が掛かっていれば皆も認めてくれるはずだ。だが、どう言ったらいいのだろう……」


(アッシュは何を気にしているんだろう? もしかしたら、ステラが傭兵に溶け込むのに苦労するといいたいのか? アッシュは生まれながらの傭兵。だから、傭兵たちが考えることが判ると……特に実家の傭兵団の気質は一番判っているはずだし……)


「何となく判った。今の戦い方を訓練とかで見せると、傭兵たちに溶け込めないって言うこと?」


 レイの一言で、アシュレイもようやく腑に落ちた。


「そ、そうなのだ。実戦ではいい。だが、訓練であの戦い方を見せると、何か得体の知れないもののように思われてしまうのではないかと」


 ステラは二人の話を聞き、不安そうにしていたが、自分がどうしていいのか、全く判らない。ただ、二人に迷惑を掛けるかもしれないという不安だけが心の中に広がっていった。


「では、どうしたらいいのでしょうか? 私は別の戦い方を知りません。どうしたら……」


「そうだな……レイ、お前も長剣の腕を上げたいと言っていたな。ステラと訓練をすれば、ステラは普通の戦い方を覚えられるし、お前はいい訓練相手が得られる。どうだろう?」


「いい案だと思うよ。ステラ、明日からそれで行こう」


 レイは明るくそう言ったものの、自分がステラに教えられるのかと不安に思っていた。



 レイたちが宿に入るのを二人の男たちが見つめていた。


「お頭に伝えろ。奴らは宿に入ったと……」


 一人の男がゆっくりとその場を離れていく。

 残った男は何気ない仕草で宿の入口を見張っていた。



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