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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第一章「湖の国・丘の町」

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第四十七話「王都へ。そして、その先の街へ」

 五月十一日

 アトリー男爵はカッセラ司教が退出した後、冒険者ギルドのソロウ支部長を呼び出していた。


「急な呼び出しですまんな。光神教との話し合いが終わったが、まだ問題が残っておる。その相談をしたい」


 ソロウ支部長はすぐにレイのことだと気付く。


「レイのことですな。閣下はどのようにお考えなのですか」


「うむ。この街から出た方が彼のためではないかと考えておる。今回の光神教とのトラブル、そして、ならず者どもの拠点を潰したことも……厄介な奴らに目を付けられている可能性が高い。彼がここにいても良いことはないだろう」


 男爵の言った意味を理解したソロウは、自らレイに話すことを決断する。


「彼は儂と娘の命の恩人だ。頼む、出来る限りのことはしてやってくれ」


 男爵はそう言うと、自分でも彼のためにできることがないか、考えていた。




 冒険者ギルドのモルトン支部長のユアン・ソロウは、レイにどう伝えるべきか、悩んでいた。


(彼に落ち度があるわけではない。折角ここにも馴染んできたというのに……だが、閣下のおっしゃることも一理ある。ここにいてはまたトラブルに巻き込まれる可能性がある……)


 その時、彼に来客があると連絡が入る。

 すぐに、七十代半ばの人間の男と、十代後半の獣人の女が支部長室に案内された。


 男性は小柄だが姿勢の良い白髪の老紳士で、深い緑のシャツに茶色のベストを着こなした町の名士といった趣がある。

 女性のほうは小柄な獣人で、銀色の短い頭髪から灰色の狼の耳が覗いている。透き通るような白い肌と通った鼻筋、大きな瞳が印象的な美少女だが、青み掛かった灰色の瞳にはどのような感情も見られず、人形のような印象が強い。腰のベルトに二本の短剣を吊るしているが、防具は着けているように見えない。更に首に巻かれた黒いスカーフがちぐはぐさを増長している。


 老紳士が支部長に右手を差し出しながら、


「ユアン君、いや、ソロウ支部長殿。久しぶりだね」


「ユアンで結構ですよ。それより、お元気そうで何よりです。デオダード殿」


 ソロウは苦笑しながら、握手を返すと、話題を変えるように「そちらの女性は?」と、デオダードに不釣り合いな獣人の女性について尋ねる。

 デオダードはソロウが何を言いたいのか理解し、苦笑しながら、


「愛人ではないぞ。ただの護衛じゃよ」


 そして、「ステラ、挨拶をしなさい」というと、ステラと呼ばれた女性は小さく「ステラです」とだけ、言った後、すぐに後ろに下がる。


 ソロウに面会に来たのは、ロリス・デオダードという引退した商人で、ソロウが昔世話になった人物だった。


「でも、珍しいですね。アウレラ――海沿いにある商業都市国家――で悠々自適の生活をされていると思っていましたよ」


「いや、ラウルス――サルトゥース王国の王都――に用事があっての。気分転換に旅でもと思ったわけじゃ」


 一頻り昔話をした後、尊敬する人生の先達に、レイのことを相談することにした。

 デオダードは腕を組んで考え、ゆっくりと話し始める。


「なるほどのぉ……私も男爵様と同じ意見じゃな。それに若いうちは世界をいろいろ見てみるのもいいことじゃ」


「やはりそうですか……判りました。彼にそう話します」


 デオダードは更に少し考えた後、


「しかし、そのレイ君というのは面白そうじゃな。一度会わせて貰えんか。気に入れば、儂の護衛ということで、一度アウレラに連れていってもいい」


「判りました。今日中に話をしておきます。デオダード殿には明日にでも」


 デオダードは支部長室を出て行き、支部長はすぐにレイに使いを出した。



 レイとアシュレイの二人は、傭兵ギルドから銀鈴亭に戻ったところでソロウ支部長からの伝言を受け取った。

 二人は何の話だろうと、首を捻りながら、すぐにギルドに向かった。


 ソロウ支部長は二人が到着すると、単刀直入に二人にこの街に居ない方がいいという話を始める。

 レイは神妙に、アシュレイは怒りの表情でその話を聞いていく。

 支部長の話が終わったところで、アシュレイが支部長に噛み付く様に声を上げた。


「おかしいのではないか! レイは被害者だ。その被害者が街から逃げ出さねばならぬというのは……」


 支部長はその言葉に静かに答えていく。


「その通りだな。だが、閣下のおっしゃることも一理ある。ならず者どもの行方が判らん以上、ここにいるのはレイのためにならん。光神教もそうだ。次の神官長がどのような人物か判らん以上、ほとぼりが冷めるまで待つのは悪い話ではない」


 納得がいかないアシュレイが、「しかし、それでは……」と、更に言い募ろうとした時、レイが身を乗り出すアシュレイを押さえ、話し始めた。


「判りました。確かに闇討ちを気にしながら、依頼を受けるのはいいことじゃないですね。護衛の依頼を受ければ、依頼者の方に迷惑を掛けそうですし、討伐依頼を受けて森に入っても、いつも以上に気にしなくてはいけないですから」


 支部長はレイの言葉にホッとしたような表情になる。


「そう言って貰えると閣下もお気持ちが軽くなるだろう。かなり気にされておったからな」


 未だ納得がいかない表情のアシュレイだったが、レイの表情を見て、矛を収めた。そして、今後のことを彼に確認していた。


「しかし、レイ。これからどうするつもりだ?」


「それは、今夜にでもゆっくり考えようよ。今のところ当ては全くないけどね」


 レイは肩を竦めるような仕草の後、にこりと笑う。


「そのことなのだが、ちょうど、私の知り合い、恩人と言ってもいい人がこの街にやってきたのだ。その人が君たちを護衛に雇ってもよいと言って下さっている。明日にでも一度会ってみないか?」


 二人は支部長の言葉に頷き、緑蛇竜の魔晶石代三百Cを受け取った後、支部長室を後にした。

 残された支部長は、


(本当に気持ちのいい青年なんだがな。惜しい……いずれ戻ってきてほしいものだ)




 翌日、五月十二日。

 二人は彼らを雇いたいという元商人、ロリス・デオダードと面会した。

 レイのデオダードの第一印象は、


(大商人って聞いていたけど、気さくそうな人だな。どこかの街の名士っていう雰囲気もあるし、商人としてバリバリやっていたっていう感じがしない)


 そして、デオダードの後ろにいる獣人、銀色の髪から狼の耳――銀色に近い灰色で先端だけが真っ白な耳――を覗かせ、耳と同じ銀色に近い灰色の太い尾を持つ、やや小柄な少女については、


(後ろの獣人の女の子は本当に護衛なんだろうか? あんまり強そうじゃないな)


 彼女の装備は腰に五十cm程度の短剣ショートソードを二本吊るし、ベルトにも投擲ナイフを数本差している。防具類は着けていないように見えるが、衣服の下から時折チェインの擦れるジャリという音が微かに聞こえてくる。


 デオダードは商業都市アウレラ出身の商人で、三人の息子たちに商会を譲った後、時々、旅をしている。今回はサルトゥースの王都、ラウルスに行ってきた帰りだと言う。


「行きは急いでおったから海路を使ったのじゃが、帰りはのんびり帰ろうと陸路にしたのじゃ」


 レイはこの世界でも、旅を楽しむ人が居るんだと感心していた。


「ところでレイ君、アシュレイ君。君たちは、これから何かしなければならんことがあるのかな?」


 質問の意図が判らず、二人は顔を見合わせる。そして、レイが代表して、


「特にありませんが?」


「そうか……ならば、儂の旅の供としてアウレラに行かんか。泉の都フォンス、冒険者の街ペリクリトル、学者たちの溜まり場ドクトゥス、そして商人の街、自由の街アウレラ。どうじゃ、心躍る旅程だと思わんか。うん?」


 デオダードは子供のように目を輝かせながら、それらの街の話をしていく。

 レイは元より、旅の多い傭兵のアシュレイですら、その話に引き込まれていった。


(そのうちペリクリトルには行こうと思っていたし、ドクトゥスも……デオダードさんと一緒なら楽しそうだ……急ぐ必要のない旅っていうのも面白いかもしれない)


 レイはアシュレイに「どうする?」と確認を取ると、彼女も「いいのではないか」と乗り気になっている。


「判りました。喜んでお受けします」


 彼の言葉にデオダードの顔はほころび、出発は四日後の五月十五日と決まった。

 今日中に傭兵ギルドに指名依頼を出すことになり、二人は明日、依頼を受託すると告げ、旅の準備を始めることとなった。



 二人はこれからのことを相談し始める。


「旅の準備って言っても、ほとんど荷物はないし、何を準備したらいいんだろう?」


「特にいつもの護衛と同じでいい。だが、当分、この街には戻って来られないから、世話になったものたちに挨拶はしておく必要はあるな」


「そうだね。エステルさん、バートさん、シャビィさん、男爵様、カトラー支部長とソロウ支部長。結構いっぱいいるね。たった一月ちょっとしかいなかったのに」



 その日、銀鈴亭のレスターとビアンカに四日後に出発し、当分戻ってこないことを話す。

 娘のアニーを抱きながら、ビアンカは少し寂しそうにしていた。


「そう……じゃあ、ちょっとの間、お別れね。こんな商売だから結構慣れているつもりなんだけど、アシュレイは妹みたいに思っていたから、ちょっと寂しいわ……でも、また、いつか帰ってくるんでしょ。今度は子供を連れてらっしゃいね。ふふふ」


 理解できず首を傾げるアシュレイと、意味を理解し真っ赤になるレイを無視して、娘に話しかけていた。


「アニーもお友達が欲しいわよね」


「うん!」


 アシュレイはようやく理解できたのか、火が吹き出そうなほど真っ赤な顔になり、


「ビ、ビアンカ! からかうな! そ、そんな……わ、私とレイは……」


「あら、あなたたちは一緒になるんじゃないの? 子供はいつできるか判らないわよ。ちゃんと計画的に作りなさいね。ふふふ……本当にアシュレイをからかうのは楽しいわ」


 レイはここで何かしゃべると薮蛇だと、口を噤む。そして、自分が父親になる可能性があるということを初めて自覚した。


(子供か……そうだよな。避妊なんてしていないんだから、出来てもおかしくはないんだよな……僕が父親? 無理だよ、僕には……)


 アシュレイもビアンカの言葉に戸惑っていた。


(確かにその通りだ……だが、私が母になるなど、全く想像がつかない。そもそも”妻”になることすら、考えていなかったのだからな……しかし、フォンスで団長(親父殿)に会ったら血の雨が降るかもしれない……何か考えておかねば……)



 二人はレスターとビアンカ、アニーと別れ、エステルの診療院に向かった。

 二人はエステルに街を出ることを話していく。


「そう、残念ね。折角、弟子ができたと思ったのに……でも、あなたたちはこの街にいるより、いろいろなところを回っていろいろな物を見た方がいいわ。私もいつまでこの街にいるか判らないけど、また、どこかで逢いましょう。意外と世間は狭いもの。それにアウレラから先はまだ何も考えていないんでしょう。ここを通ることもあるかもしれないしね」


 二人が診療院を出て行った後、


(私も久しぶりに旅に出ようかしら……そうね、それも面白いかも……)


 その後、バート、シャビィにも挨拶をしていく。

 バートからは、たまには遊びに来いと言われ、思いっきり肩を叩かれた。

 シャビィからは、元気でやれよと声を掛けられた後、レイにだけ聞こえるように、


「フォンスでは気を付けろよ。アシュレイの親父さんに殺されないようにな」


 真剣な表情で付け加えられた。だが、すぐにシャビィは爆笑し、その話が聞こえていないアシュレイが怪訝そうな顔をしていた。


(前にも言われたけど、本当に怖い親父さんなんだろうか? ラクスで一番強い人って話だけど、冗談だよね……なんかフォンスを通ると思うだけでブルーになってきた……)



 そして、ブルーノ・アトリー男爵にも別れを告げにいった。

 玄関で執事のエドワードから、


「お別れとお伺いしましたが、残念です。御館様、お嬢様をお助け頂いたお礼も満足にできておりませんのに……」


 どこで仕入れてきたのか、既にレイたちが街を出るという話を知っていた。

 レイは相変わらず凄い人だなと思ったが、礼儀正しく、再会を楽しみにしているという言葉を述べ、男爵の執務室に案内されていった。


 男爵の執務室にはブルーノ・アトリー男爵と娘のオリアーナが待っていた。

 挨拶を交わした後、


「此度は済まなかったな。君のおかげでモルトンの暗部を白日の下に晒せた。命を救われ、街をきれいにしてくれたのに、街を去らねばならんとは。残念だ」


 オリアーナは久しぶりに会えたレイが街を去ると聞き、泣いていたようだ。

 赤い目をした彼女は、


「いつ戻ってきてくださるのでしょうか? 戻ってきてくださるんでしょう?」


 縋るような表情で語りかけられたレイは、


「いつ戻って来られるかは正直、判りません。何十年も先かもしれませんし……」


 その言葉にオリアーナは涙をこぼす。

 男爵はこれで忘れてくれればいいがと思っているが、表情に出さない。

 レイも泣いている少女に、どう声を掛けていいのか判らないため、黙っている。


 気まずい空気が執務室に流れていく。

 男爵はその空気を変えるため、唐突に話題を変えてきた。


「もし、フォンスで困ったことがあれば、護泉騎士団の副団長シーヴァー・グラッドストーン殿に会いに行きなさい。この紹介状があれば悪いようにはしないはずだ」


 レイは男爵が便宜を図ってくれることに感謝し、紹介状を受け取った。


(護泉騎士団って確かフォンスを守るラクス最強の軍隊だったよな。わざわざ僕のために……今回は通過するだけだから使うこともないだろうけど、やっぱり男爵様は好い人だよ)



 慌しく出発の準備をしていると、時間はあっという間に過ぎていった。


 五月十五日の朝。

 レイはレスター、ビアンカに見送られながら、一ヵ月半過ごした宿に別れを告げた。

 少しセンチメンタルな気持ちになり、涙がこぼれそうになる。だが、彼にはこれからの旅への希望の方が大きかった。


(ようやくこの世界にも慣れてきた。でも、まだまだ知らないことが多い。いろいろなことを知るために、もっとこの世界を見てみたい。そして、なぜ僕がここに来たのかも……)


 彼は隣に立つアシュレイに「行こうか!」と力強く声を掛け、坂を駆け下りていった。



第一章がようやく終わりました。

文庫本1冊程度(10万文字強)のつもりが、2冊分以上(28万文字)になってしまいました。

モルトンの街での騒動は、これで一応の区切りは付けてみたつもりです(伏線などは別ですが……)。

ですが、自分で読んでみても中途半端な感じは否めません。感想など頂けると今後の参考になるかと思いますので、お暇な方はよろしくお願いします。


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