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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第一章「湖の国・丘の町」

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第四十六話「顛末」

 五月十日。

 光神教のザンブロッタ・アザロ司教は、絶望と失意の中にいた。


(私はどこで誤ったのか。何を誤ったのか……神の国を建設するという名誉ある仕事に携われ、何も見えなくなっていたのか……バッサーニが言った、”自分の考えを神の御意思と思い込んだ”というのは真なのだろうか? いや、私には神の声が聞こえていた。常に神と共にあった……)


 そこまで考えたところで、治癒魔法が使えなかったという事実を思い出す。


(だが、神は私に力を与えては下さらなかった……私が最も必要とする時に……私のどこが神の御意思に沿っていなかったのだろうか?……私を導いて下さった大司教猊下は、私が正しいと……もしや猊下も……)


 無声の部屋から連れ出され、カッセラ司教との面会が始まる。後ろにはバッサーニ司祭が控えているが、特に何の表情も表していない。

 カッセラは興奮気味に男爵から脅しがあったことを話していく。


「此度の失態、我が教団に対してどう責任を取るつもりか! 男爵は、ラクス全土、いや、連合王国全土での布教活動を制限すると脅してきおったぞ!」


「あのような者の言、聞く必要はない。神の御心に沿えば、すべては良き方向に向かう」


「たわけ! その御心に沿うておらんと申しておるのじゃ! 貴様は世俗を軽視しすぎる。そのせいでどれだけ苦労しておると思っておるのだ!」


(神の御心に沿うておらんか……そうかもしれぬ)


「貴様が行ったことをすべて男爵に話せ。そして、神の御意思ではなく、自分の考えだったと告白しろ。すべては自分の責任だと」


 アザロは無表情でカッセラを見つめ、


「判った。すべてを話そう。そして、すべての罪を被ろう。それが神に見棄てられし、私にできる最後のこと……」


 あっさりと了承され、カッセラは一気に毒気を抜かれてしまう。


「そ、そうか。それでよい。では守備隊の騎士を連れてくる。すべて包み隠さず話すのだぞ」


 カッセラはそう言うとアザロの下を立ち去る。

 残されたバッサーニは、


(失意で自暴自棄になったのか? それにしては達観したような感じも受ける。神に見棄てられたといっていたが、どのようなことがあったのだろうか……)


 バッサーニはアザロに声を掛けることなく、守備隊の騎士たちを待っていた。



 アザロはすべてを告白した。

 闇の神殿を陥れようとしたこと、レイ・アークライトを暗殺しようとしたこと、そして、更に重要な事実を打ち明けていた。


 彼はブルーノ・アトリー男爵を謀殺しようとしたと告白する。

 男爵の弟、オージアス・アトリーから情報を得て、裏社会のならず者たちを雇うための資金を出したと。

 その事実が知らされると、直ちに男爵の下に伝令が出された。


 男爵はその知らせを聞き、「オージアスが……やはり……」と呟いた後、「直ちにオージアス・アトリーを拘束せよ!」と騎士たちに命じていた。





 オージアス・アトリーは、レイ・アークライトの暗殺が失敗したという事実について考えていた。


(失敗したか……口ほどにもないな。二度も続けて失敗するとは……だが、奴は意識不明の状態で発見されたと聞いた。ならば、最低限の目的は達成できただろう。さて、今後、どのような手を打っていくべきか……)


 バタバタという足音と怒鳴り声が、彼の思考を妨げる。

 彼が「騒がしいな。何事だ?」と独り言を言った直後、総支配人室の扉が乱暴に開かれる。

 そこには完全武装の兵士たちが立っていた。


「オージアス・アトリー。アトリー男爵閣下暗殺未遂容疑で逮捕する」


「何のことだ! 言いがかりだ! 証拠を! 証拠を見せてくれ!」


 狼狽した彼は、普段の落ち着いた紳士という仮面を脱ぎ去り、喚きだす。


「アザロ神官長がすべてを告白した。お前が実行犯へ情報を提供し、更に資金の一部も提供しておったとな。すべてを吐いてもらうぞ。覚悟しておけ」


 それを聞いたオージアスは力なく跪き、嗚咽を漏らし始めていた。




 五月中旬のある日。

 黒衣の男とカーラの店に居た女は、サルトゥース国内に逃げ込み、ある酒場で二人は会っていた。


「今回の失態、どうするつもりだ?」


 黒衣の男がそう話しかけると、


「失態? 何のこと? 今回の件で十万(クローナ)以上も儲けたのよ。”道具”を少しばかり失ったけど、それだけのこと。半年もすれば元通りにして見せるわ」


「確かにな……で、レイとかいう小僧はどうするつもりなのだ?」


「あんたはどうしたいんだい? あんたの命の恩人、セロンを殺したんだ。その落とし前をつけるんじゃないのかい?」


「借りは返した。これ以上、セロンに関わるつもりはなかった」


「そうかい。私らも同じさ。”お客さん”が捕まっちまったからね。これ以上、どうこうする義理はないわ。ふふふ……」


 二人は暗い笑い声を上げたあと、夜の町の中に消えていった。





 逮捕されたオージアス・アトリーは、徹底的に調べられ、数々の不正が明らかになる。アトリー男爵は弟であるオージアスを処刑することに決め、モルトンの広場で公開処刑を行った。


 レイ・アークライトを襲撃した実行犯のうち、弓術士のジェスロー他二名は、余罪を追及された上、オージアスと同様に処刑された。


 実行犯以外のマフィアたちの行方は依然不明のままで、アトリー男爵は数ヵ月後、捕らえることを諦める。但し、治安維持のための予算を大幅に増加し、犯罪者の一斉検挙を行った。その結果、街にいる無法者たちを一掃することには成功していた。




 五月十一日。

 ザンブロッタ・アザロはカッセラ司教と共にモルトンの街を去っていった。

 彼は出発から八日後の五月十九日、フォンスの手前の街、ノックディの街でその生涯を終えた。

 アザロが食を絶ち、自ら命を絶ったと噂されたが、同行していたカッセラ司教は、右腕、両脚を切断された影響と報告していた。

 本件は、光神教本部であるパクスルーメンの大神殿にも報告されたが、特に処分などは発表されず、有耶無耶の内に処理されていった。




 五月十日。

 ギルドで討伐報告を終えたレイとアシュレイの二人は、常宿である銀鈴亭に帰ってきた。

 銀鈴亭の女将ビアンカは、二人の無事な姿を見て、涙を流さんばかりの表情で出迎えてくれた。


「本当に心配したのよ。本当に無茶ばかりして……でも、本当に良かったわ。今日はご馳走を出してあげるわ」


 厨房からレスターが顔を出し、「何か食いたい物はあるか」と無愛想に聞く。

 二人はいつもと変わらぬ彼の姿を見て、ようやく日常に戻れそうだと笑っていた。



 五月十一日。

 まだ、体調が回復し切れていないレイは、宿で休養を取っていた。

 朝食後、のんびりとした時間を過ごしていると、ラットレー村のキアラン村長と数人の男たちが彼を訪問してきたと伝えられる。

 すぐに通された村長は、元気そうなレイとアシュレイを見て相好を崩すが、すぐに頭を深く下げた。


「アシュレイさん、レイさんに無理なお願いをした上に、こんなことになって……本当に申し訳ない」


 レイは、「今回は村長さんのせいじゃないですから」と笑っている。

 アシュレイも、「今回のことは運が悪かっただけだ。気にしなくていい」と言った後、他に用事があるのではないかと訪問の理由を尋ねた。

 村長はすぐに後ろの男たちに指示を出し、


蛇竜サーペントの皮を剥いで持ってきました。それとお二人を襲った、ならず者たちの装備も持ってきました」


 男たちが装備類と、緑色の光沢のある皮革を丸めたものを数本持ってきた。


「蛇竜の肉は、村が買い取らせて貰いました。相場が判らんので、とりあえず二百C用意しましたが、不足ならおっしゃってください」


 レイは、蛇竜の肉が食べられるということに驚き、アシュレイも、「私も食べられると言う話は初めて聞いた」と同様に驚く。

 レイはわざわざ皮を剥ぎ、装備類まで持ってきてくれたラットレー村の人たちに、それ以上要求するつもりは無かった。そして、了承を伝えるため大きく頷いていた。

 大量の装備類と蛇竜の皮を見た彼は、「これって、どうしたらいいと思う?」とアシュレイに尋ねる。


「装備類は傭兵ギルドで引き取ってもらおう。蛇竜の皮は防具に使えるのだが、この街では加工が難しいのではないか。冒険者ギルドに持ち込むより、商業ギルドにでも持ち込むほうが良いかもしれんな」


「防具に出来るか……アッシュの壊れた防具の代わりを作るのに使えないかな?」


「フォンスにでも行けば知り合いがいるが、ここではな……」


 二人は装備類を売りに行くことに決める。

 そして、村長にわざわざ持って来てくれたことに礼を言うと、


「あの報酬で蛇竜を退治してもらえたんですよ。このくらいでは全くお返しにはなっていませんよ」


 と、逆に恐縮されてしまった。


 装備類を傭兵ギルドまで運んでもらい、査定を頼むと、セロンを含め十人の襲撃者の装備は七百Cと査定される。

 レイの魔法でズタズタにされた防具が多く、買取価格はかなり安い。


「お前の魔法は凄いな、本当に。革鎧が補修できないほど壊されるとは……」


 アシュレイの正直な感想に、レイは苦笑いを浮かべ、その価格で引き取りを頼んだ。


 そして、傭兵ギルドである話が耳に入ってきた。


「アザロがフォンスに護送されていくそうだ。その後はルークスまで運ぶそうだが、かなり弱っていたそうだぜ。狂った神官もああなると哀れだね……」


「男爵様の弟、オージアスが捕まったそうだ。何でも男爵様を暗殺しようとしたって話だ。あの紳士がねぇ。人は見かけに寄らんものだ……」


 それを聞いたレイは、


(これで平和な日々がやってくる。少し生き急いだ気もするから、明日からはもう少し地に足をつけた暮らしをしていこう。まずは魔法の勉強かな。それとも剣の訓練かな。どちらにしてもゆっくりと無理せず……)


 彼は隣に立つアシュレイに、「さて、帰ろうか」と声を掛け、我が家である銀鈴亭に戻っていった。




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