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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第一章「湖の国・丘の町」

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第二十九話「護衛」

 アザロ司教との対決の翌日。

 レイとアシュレイは、いつもよりかなり早く起き、昨日受け付けておいた護衛依頼のため、オービルという商人の店に向かった。


 オービルの店の前には既に依頼を受けた傭兵たちがいた。

 四人の男女、人間の男二人に獣人――狼か犬系――の女二人が荷馬車の準備が終わるのを座って待っている。その中でリーダー格と見られる、二十代半ばの人間の男性が立ち上がった。

 その男――ロッシュ――は革鎧に身を包み、長弓を装備した弓術士で、アシュレイの姿を見て笑いながら右手を出してきた。


「今回はアシュレイも入るのか。よろしく頼む。そっちは?」


「よろしく頼む。こいつはレイ、私の……連れだ。腕は確かだが、護衛の経験がない。迷惑掛けるかもしれないが、よろしく頼む」


 彼女はややはにかんだような表情で、レイを紹介しながら頭を下げる。

 ロッシュは、アシュレイのその態度にレイが誰なのか思い出した。


「こいつが、あの(・・)レイか。武勇伝は聞いているぞ」


 少しだけ意地の悪い笑みを浮かべ、レイに右手を差し出す。

 レイは「よろしくお願いします」と頭を下げ、握手をしながら、彼の言葉について考えていた。


(武勇伝って、セロンのことを言っているのか? いや、アッシュのことだろうな。あの顔は……)


 他の三人、ロッシュと同じ年くらいの人間の男性のウーゴ――金属鎧に長剣と盾を装備している――と、獣人の女性、ヴィエリとカルディナの二人を紹介される。

 ウーゴは、ロッシュとコンビを組むことが多い六級の傭兵で、無口な男だった。

 ヴィエリは、アシュレイと同じ年くらいの二十代半ばに見える犬の獣人で、革鎧に短剣と投擲剣を腰に差している。レトリーバー系の垂れた耳が頭髪からのぞき、太い尾が揺れている。彼女も六級の傭兵で、主に斥候として働く。

 カルディナもヴィエリと同じく犬の獣人で、革鎧に短槍と短剣を装備している。彼女はヴィエリと同じくらいの年齢で見た目はよく似ている。レイは後で知ったのだが、二人は姉妹だということだった。


 護衛同士の顔合わせも済ませ、二人は依頼主である商人のオービルに会いにいった。

 オービルは三十代半ばの日に焼けた顔が印象的で、商人というより温厚そうな農夫のような感じがする人間の男性だ。

 簡単な挨拶を済ませると、護衛たちはオービルが用意した馬に跨る。全員が騎乗したのを確認したオービルは、出発の合図を出す。


 午前六時半頃、彼らはモルトンの街を出発した。

 ヴィエリとカルディナの二人が先頭をロッシュとウーゴの二人が殿に付き、レイとアシュレイの二人は一台目と二台目の荷馬車の間に配された。

 この六人の中で一番の手練てだれはアシュレイなのだが、護衛の経験がないレイとコンビを組ませるため、最も対応が容易な中央部に配されたようだ。


 街道を東に向かい、二時間ほどで初めての依頼、リザードマン討伐を行ったラットレー村に到着する。

 ここで小休止し、再び街道を進むと、道は緩やかに南に方向を変えていく。

 三時間ほど進むと、丘の上にある小さな村、リニー村に到着した。


「ここで昼食をとる。護衛は交代で荷馬車についてくれ。御者は馬の世話をしてから飯に行ってくれ」


 オービルの指示が飛ぶ。

 ロッシュは休憩を二班に分け、レイとアシュレイはロッシュと同じ班になった。

 三人は最初に食事を取ることにし、村の宿屋兼食堂に入っていった。


「ここは豚肉料理がうまいんだ。ちょっと割高だが、今日の夜は野営だから、ここでうまい物を食っておいたほうがいいぞ」


 ロッシュのアドバイスを聞き、レイはポークソテーのような豚肉料理を頼む。

 出てきた料理は、ちょっと甘めの少し癖のあるソースが掛かった厚切りの豚のバラ肉で、パン――黒パンのような香りのパン――と一緒に食べていく。

 淡水魚の料理が名物のラクスだが、その肉料理の味は十分満足いくものだった。

 料理を食べ終わったレイは、ロッシュに話しかける。


「ロッシュさん、本当においしかったです」


 ロッシュは自分が褒められたように胸を張り、「そうだろう。ここに来たら必ず食うんだ」と言った後、気になっていることをストレートに口に出した。


「そのしゃべり方は何とかならないか? 堅苦しくていけねぇ」


 レイは、「すみません」と謝った後、


「普通にしゃべっているつもりなんですが……」


「まあいい。傭兵をやっていくなら、もう少し砕けた口調の方がいいんじゃないかと思っただけだ。アシュレイもそう思うだろ?」


 ロッシュもそれほど気にしているようではなく、ただレイがこのメンバーで浮かないか、心配しているだけのようだった。

 話を振られたアシュレイは、「ああ、そうだな」と頷くが


「レイはこういうしゃべり方が普通のところで育ったみたいなんだ。記憶がないからよく判らないがな」


 ロッシュは何か聞きたそうだったが、過去を詮索しないことがマナーの傭兵であるため、「そうか。まあ、気にしないでくれ」と言っただけで、特にそれ以上聞いてこなかった。


 アシュレイは何かを思い出したかのように笑いながら、


「だが、レイには注意したほうがいいぞ。こいつは突然弁舌が冴えるからな」


 レイは恥ずかしそうに顔を赤らめ、光神教のアザロ司教を告発したことを知っているロッシュは、その話と今の仕草のギャップから、声を上げて笑っていた。


 食堂から出て、ウーゴたちと交代する。

 天気は良く、四月後半の柔らかな風を受けながら、馬の世話をしていく。


 一時間ほどの休憩を終え、リニー村を出発していった。


 午後も三時頃にバラスターの村で小休止を入れ、更に街道を南下していく。

 街道は次第に深い森に入っていき、傾いていく日の光は徐々に地表に届かなくなっていく。

 午後六時頃、目的の野営地に到着した。

 日はほとんど落ちそうで、森の中は薄暗かったが、直径五十mほど小さな草原は、まだ完全に暗闇に包まれていなかった。

 商人たちは荷馬車を降り、野営準備を始める。

 御者の一人が馬を外し、水場である小川に連れて行く。他の者は焚き火の準備などを手際よく進めていく。

 傭兵たちもヴィエリとカルディナの姉妹が斥候に出て、ロッシュが商人たちを護衛し、ウーゴは御者と共に馬の世話をしている。

 レイは特に明確な指示がなくても、手際よく仕事を進める姿に見惚れてしまうが、自分が何をしていいのか判らず、アシュレイの方を見る。


「僕たちは何をしたらいいんだろう?」


「そうだな。薪拾いと水汲みだな。ロッシュに一言言ったら、森に入るぞ」


 ロッシュにそのことを伝え、薄暗くなった森に入っていく。

 森は白樺のような木と楢のような木が混在し、薪になる木の枝は多く落ちていた。

 だが、レイにはどの枝がいいのかよく判らない。


「どんなの拾ったら良いんだ?」


「知らないか? そうか……”ガス”とかいうもので簡単に火が使える生活をしていたと言っていたな……すまない、忘れていた……乾いていて硬く重そうな物が長く燃えてくれる。軽いものは最初の焚き付けに使えるからある程度あっても構わない。とにかく、できるだけ濡れていない物を選んでくれ」


「いや、良いんだ。でも、誰でも知っていると思うことも教えて欲しい。もちろん、判らなければ、こっちから訊くけどね」


 二人は二十分ほど薪拾いを行い、十分な量を確保し、野営地に戻っていった。

 辺りはすっかり暗くなり、灯りの魔道具が荷馬車などに取り付けられ、明るさを確保していた。


「明かりを点けても大丈夫なのか? 魔物とかが寄って来ない?」


「大丈夫だ。というか、暗闇の中でも鼻の利く魔物は寄って来る。暗闇の中で戦える亜人ならともかく、我々人間は暗闇の中では戦えない。それなら出来るだけ死角を作らないよう明るくしておく方が安全なのだ」


 彼は「なるほど」と頷き、納得した。そして持っていた薪を焚き火の傍に置いていった。

 そして、桶のようなバケツを持ち、暗い小川に水を汲みに行った。



 野営の準備が終わった頃、ロッシュから夜間の警備について、説明があった。


「明日は朝五時に起床して、六時には出発する。不寝番の順番だが、最初にアシュレイとレイ、次が俺とウーゴ、最後がヴィエリとカルディナで行く。何か質問は?」


 誰からも質問は無かった。


 商人たちが夕食の準備を終え、肉の入ったスープと固いパンが配られる。

 肉のスープは、そのままでは塩味がやや濃いものの、パンをちぎって入れて食べると、移動で疲れた体には丁度いい味付けになる。

 食事を終え、片付けが終わった頃には、夜はかなり更けていた。

 商人たちは荷馬車の御者台や荷台に潜り込み、すぐにいびきが聞こえてくる。

 ロッシュたちも焚き火からやや離れた位置で、マントに包まり横になる。

 レイはその行動に疑問を感じ、迷惑にならないよう小声で、


「どうして焚き火の近くで寝ないんだ? ここの方が暖かいのに」


「灯りの魔道具で我々は丸見えだ。もし、弓や魔法で攻撃できる盗賊が襲ってきたらどうなる? 一箇所に固まっていたら、一気に殲滅されるかもしれない。商人たちが荷馬車にもぐりこむのも同じだ。魔法はともかく、矢なら防げるからな」


「そうか……いろいろあるんだな。ところでどうして焚き火を点けたままにしておくんだ? 灯りはあるし、明日の朝、改めてつければいいと思うんだけど」


「一つは火を恐れる獣がいるためだ。もう一つは不寝番が暖を取るため。本当の理由は不寝番が寝ていないことを確認するためとも言われているがな」


「うん? どういうことだ?」


「定期的に薪をくべなければ火は消える。もし、火が消えていれば、不寝番が寝てしまった証拠になる。そういうことだ」


 レイは感心してアシュレイの話を聞いていく。

 彼女も子供のように興味深く聞く彼に説明するのが楽しく、あっという間に交代の時間になった。時間は計る道具がない――時計に似た魔道具は存在するが、高価で嵩張る――ため、星の動きで時間を計っている。

 ちなみにこのトリニータスにも月は存在する。地球の月と同じように満ち欠けがあり、三十日周期、つまり一ヶ月で満月から再び満月になる。


 二人はロッシュとウーゴを起こし、不寝番を交代し、マントに包まった。

 レイは初めての野宿ということで興奮しており、なかなか寝付けなかった。その澄んだ星空を見上げていた。


(きれいな星空だ。小学生の頃、プラネタリウムで見た星空のようだ……知っている星座は……北斗七星もオリオンもない……本当に異世界なんだな……)


 ぼんやりそんなことを考えていたが、十時間近く馬に揺られていた疲れが、彼を眠りに誘っていった。


 翌朝、不寝番をしていたヴィエリに起こされる。

 辺りは夜明けの少し前といった感じで、うっすらと明るくなっているが、森に近いからか、朝靄が立ち込めていた。

 レイは眠い目を擦りながら小川に行き、顔を洗ってから、森に用を足しに行った。

 森の中も靄が立ち込め、視界は二十mほどしかない。

 澄んだ冷たい空気が心地いい。


 野営地に戻ると、既に朝食の準備が始まっていた。

 朝食は昨日のスープと同じもので、スープ用の干し肉を使っているようだった。


 朝食を食べていると、突然、遠くから獣の鳴き声、「ウォーン、ウォーン」という狼の遠吠えのような鳴き声が聞こえてきた。


 護衛の傭兵たちは、狼の遠吠えを聞き、一斉に立ち上がる。

 そして、周囲を警戒するように武器を手に周りを見回していく。


「狼、この辺りなら森狼か……拙いな。いや、夜、襲われなかっただけましか……だが、この時期に、ここに森狼が出るなんてことは聞いたことがない……」


 アシュレイが独り言を呟いている。


「森狼? どの程度危険なんだ?」


「数によるが、普通は十五から二十頭くらいで襲ってくる。ただの獣なのだが、頭がよくて厄介な敵だ」


 森狼は体長一・五m程度で、魔物に分類される灰色狼に比べ一回り小さい。

 鋭い牙が最大の武器で、人間の腕くらいなら簡単に食い千切る。また、護衛に襲い掛かり、本隊が逃げ出すのを待ってから、馬を狙って落後者を作るなど、獣とは思えない行動を見せる。


 ロッシュは長弓を構えながら、オービルに指示を出していく。


「すぐに荷馬車に馬を。街道で襲われると厄介なので、この場で迎え撃つ。馬が暴れないように気をつけてくれ!」


 そして、護衛たちにも指示を出していく。


「カルディナとレイはオービルさんたちの護衛を。ヴィエリ、狼たちの様子を見てきてくれ。ウーゴとアシュレイは荷馬車と狼の間で迎え撃ってくれ」


 ヴィエリが狼の鳴き声のする方に走っていくが、すぐに森の中から狼たちが現れ、彼女は荷馬車のところに戻ってきた。

 現れた狼たちは二十頭ほどおり、グルルと唸り、灰色掛かった茶色い体を低くしながら、ゆっくりと近づいてくる。

 狼たちとの距離は約三十m。

 ウーゴとアシュレイが荷馬車から十mほど前に出て、迎え撃つ体勢を取っている。

 馬たちは狼の出現にパニックになり、暴れ始めるが、商人たちが必死に走り出すのを押さえていた。


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