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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第一章「湖の国・丘の町」

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第二十八話「絡み合う糸」

 男爵邸での対決も済み、レイとアシュレイは屋敷を後にした。

 最終的にアザロ司教は光の神殿に厳重に軟禁し、面会及び神殿外に出る場合は、男爵の許可が必要となった。

 バッサーニ司祭はアザロ司教を”無声の部屋――闇属性魔法を付与された声が出せない特殊な部屋――”に閉じ込めた。この部屋は通常、瞑想の場なのだが、懲罰にも用いられる。今回はアザロの魔法を警戒し、呪文の詠唱が行えないこの部屋を軟禁場所にしたのだった。


 実行犯二人は余罪を取り調べの上、その罪状に応じた罰が与えられる。それまでは守備隊にある牢に収監されることになった。

 バッサーニ司祭以外の光神教関係者は、アザロ司教の暴走ということで罰は与えられなかったが、当面の布教活動は自粛するように言い渡されていた。

 レイは釈然としない表情で、


「結局、解決したって事かな?」


 アシュレイは厳しい口調で、


「少なくとも”墓荒しの調査”に関しては解決したな。だが、レイ。今回の件は少しやり過ぎだぞ。相手があの司教(狂信者)でなければ、かなり危険だった。大きな組織を侮らない方がいい」


 彼女が自分のことを心配してくれていると判っている彼は、素直に頷く。


「そうだね。いい教訓だったと思うよ。セロンの件も今回の件も。昔はこんなことに関わったことなんか無かったのにな……」


「しかし、なぜあんな無茶をしたのだ? 確かにヘイルズ神官長たちに対する光神教のやり方は気に入らないが、あんな無茶をするほど、闇の神殿と関わっていたわけでもない」


「うん。アザロ司教がアッシュのことを悪く言っただろ。あれで”ぶちっ”と切れて……」


 アシュレイは予想もしない言葉に、顔が一気に紅潮していく。


「そ、そうか……私もレイのことを悪く言われたら、ああなるかもしれないな」


 二人はそんなことを話しながら、闇の神殿に戻っていった。

 闇の神殿に着くと、心配顔のヘイルズ神官長が迎えてくれた。事の顛末を説明すると、ホッとしたような表情で頷いていた。


「今回は本当にありがとうございました。お二人のおかげで、これから静かに過ごせそうです。依頼の完了については、討伐の完了ということで署名しておきます」


 二人は神殿を後にし、冒険者ギルドに向かった。

 完了報告を行い、報酬の二百(クローナ)を受け取る。


 まだ、正午にもなっていないが、昨日の夜の疲れもあり、今日は依頼を受けないことにした。

 今回の件で”調査”はこりごりと感じたアシュレイは、


「調査は当分受けたくない。短期間の護衛を受けてはどうだ? 急ぎの商人の護衛なら野営もある。他の傭兵がいるが、揉めることも無いだろう」


と、明日からはシンプルな護衛の依頼を受けることを提案してきた。


「そうだね。護衛ってやったことがないから、丁度いいかも。それにしようか」


 レイも合意し、護衛の依頼を探すため、傭兵ギルドに向かった。


 その道すがら、レイは光神教のことが気になり、アシュレイに尋ねていた。


「神殿の神官を罷免できないって男爵様が言っていたけど、どういうこと?」


「詳しくは知らないが、神官たちは各神殿の総本山である大神殿から派遣されてくる。確か……」


 アシュレイの話は、昔、どこかの領主が勝手に神官を任免して、私腹を肥やしたことがあり、それに怒った大神殿が神官の派遣を取止めた。そのため、祭祀や行事が滞り、更に田舎では神官が治癒師を兼ねているため、その領内は各地で大混乱に陥った。それを憂慮した王は大神殿に対し、神官の任免に口は出さない、その代わり、一定以上の規模の街には、必ず一定の能力を持った神官を派遣するという協定を結んだ。

 その話を聞き、レイは納得した。


(カノッサの屈辱ではないけど、それに近いことがあったんだ。神の力が実在するこの世界では中世ヨーロッパより、切実なんだろうな。木の神殿なら農業に関係するし、水の神殿なら飲み水に関係する。能力がある神官がいるかいないかで、大きな影響が出そうだな)


「ところで、ここからルークスの聖都までどのくらい時間が掛かるんだろう?」


「そうだな。フォンス(ラクスの王都)、ペリクリトル(冒険者の国)を経由して、商都アウレラから海路を行くから、早馬でも片道で一ヶ月は掛かるのではないか?」


「一ヶ月か……往復で二ヶ月以上。それまで何事もなければいいけど……」


 レイは、アザロ司教が二ヶ月以上も大人しくしているとは思えず、何か仕掛けてくるのではないかと不安になる。


(バッサーニ司祭がうまくやってくれることを期待しよう。アトリー男爵も手を打ってくれるだろうし、何とかなるだろう……)


 無理やり不安を心の中に封じ込め、傭兵ギルドに入っていった。


 今回は野営を行う必要がある護衛依頼を受けるつもりだった。

 受付近くの掲示板で、小規模で数日単位の依頼を探すと、モルトンから街道を南に進んだところにあるレザムという街までの商人の護衛依頼を見付けた。


 レザムはモルトンから大体八十五km。途中、バラスター、ブリーマーという村を経由するが、急ぎの商人の場合、バラスターとブリーマーの間で野営をして二日に短縮することがある。

 野営地は見晴らしのよい草原だが、魔物や盗賊に襲われる危険は否定できない。

 だが、小規模な輸送は盗賊もうまみが少ないため、あまり興味を示さず、魔物についても定期的に討伐されているため、危険はそれほど大きくないとのことだった。


 今回は三台の荷馬車に六人の商人たちという小規模な輸送で、募集されている護衛の人数は六名だった。既に四名が決まっているようで、残りの二人の枠にレイとアシュレイが入った形になる。

 アシュレイは受付で既に受け付けた傭兵たちの情報を聞き、


「このメンバーなら問題ない。何度か一緒に護衛をやったことがあるからな。レイが初めて護衛を経験するには丁度いいメンバーだろう」


 アシュレイは、既に受け付けた傭兵のロッシュについて、何度も護衛を一緒にやったことがあり、信頼できると太鼓判を押す。

 レイもアシュレイの判断を信頼しているので、すぐに受付にいく。

 受付から、明日の午前六時にオービルという商人のところに集合だと告げられる。

 保存食など必要な物資を買いに行ってから、宿に帰っていった。




 元四級冒険者セロン・グリーブスはモルトンの街から、王都フォンスに護送されようとしていた。

 オーブを取り上げられ、代わりに拘束用の首輪――奴隷に付ける物と同じ物――を付けられ、更に檻ごと馬車に乗せられる。


(何でこうなった? 俺はこのまま戦闘奴隷にされるのか? その前にフォンスで洗いざらい吐かされ、奴ら――マフィア――に裏切り者として、殺されるのか? どうしたらいい?……どうしようもないのか……)


 セロンは数日前の生気溢れる顔から、一気に力のない老けた顔になっていた。彼はガタガタと揺れる馬車に乗せられ、街道を運ばれていく。


 ラクス王国は湖と森に覆われた美しい王国だが、その分、街道は森の中を通ることが多い。その湖や池、更に丘を迂回するため、街道はかなり曲がりくねっている。

 そのため、街道が森に入ると見通しが利かず、魔物や盗賊に襲われる危険が常にあった。

 今回の護送では、隊長はモルトンの守備隊の騎士だが、護衛として傭兵が雇われていた。

 護衛の人数は、守備隊から騎士を含め五名、傭兵が十名とかなりの規模であり、アトリー男爵としては万全を期して王都に送り出していた。


 出発から四日後、深い森に入ったとき、その護送部隊は正体不明の武装集団に襲撃された。

 護送部隊、特に前回の男爵の護衛で裏切り者を出した傭兵たちは、その汚名を晴らすべく、奮戦した。だが、倍以上の四十名近い敵に奇襲を掛けられ、主導権を失った彼らは、守備隊もろとも三十分ほどで殲滅されてしまう。

 隊長の騎士も奮戦するが、手傷を負わされ、捕らえられてしまった。

 襲撃者の一人が馬車に近づき、セロンに声を掛ける。


「これで借りは返したぞ。もう少し待っていろ」


 その男は騎士に向かって、


「セロンの首輪を外してもらおう。貴様が外す権限を持っていることは判っている。拷問を加えてもいいが、素直に従った方が身のためだぞ」


 その言葉に騎士は戦慄するが、部下たちが死んだ今、自分だけが助かるとは思えず、断固として拒否した。

 今回、王都で尋問を行うため、首輪の管理者が王都にも必要になる。そのため、引継をする管理者がその騎士だった。

 万全を期すなら、管理者は別に移動するべきだが、護衛を分散させることになることと、セロンを奪還する動きがあるとは思っていなかったことから、今回の体制となった。

 男爵を始め、守備隊の面々は、セロンの口封じに襲われることはあっても、奪還に来るとは思っていなかった。


 襲撃者の執拗な拷問を受け、守備隊の騎士はセロンの首輪を外してしまった。

 そして、拷問で死に掛けている騎士に止めを刺した襲撃者たちは、セロンを伴って、いずこかヘ消えていった。




 ザンブロッタ・アザロは、光の神殿の無声の部屋と呼ばれる小部屋に軟禁されていた。

 虚ろな目で壁を見ながら、小部屋にある寝台に腰を掛けて、思いに耽っていた。


(神よ! なぜ私をお見捨てになるのか……私は神の国を作るため、すべてを捧げてきた……私の何が……)


 生気のない顔で壁を見つめていたが、突然、立ち上がる。


(こ、これは試練! 神は私を試しておられる! この試練を乗り越え、神の御心に沿うべく、あの悪魔の手先どもをこの世から消し去らなければならぬ……)


 アザロは濁った目で自らの指を見つめていた。


(魔法陣があれば、呪文を詠唱しなくともこの部屋から出ることが出来る。魔法陣を作れれば……)


 彼は自らの指を傷付け、扉に近づいていった。そして、その滴る血で扉に魔法陣を描き始めた。


 バッサーニ司祭はアザロの監視を強めるように部下である助祭たちに指示していた。だが、魔法が使えないアザロはただの貧相な男であると、助祭たちは考え、食事を差し入れる時も彼の様子をそれほど気にしていなかった。

 そして、死角である扉の内側に魔法陣が描かれつつあることなど、夢にも思っていなかった。




 ブルーノ・アトリー男爵はアザロ司教を軟禁し、大神殿に告発したことで、本件は終わったと考えていた。

 彼にとって光神教は頭の痛い問題ではあったものの、それほど優先度が高い案件でもなく、彼の関心は自らの暗殺計画を誰が企図したかということだった。


(儂を殺めて利益を受けるものは二人か。一人はあの狂信者、アザロだ。奴は儂が布教の邪魔をしていると思い込んでいたからな。この際に尋問しても良かったのだが、証拠がなさすぎる。どちらにしても奴は既に無力。それに傭兵たちとの接点が少なすぎる……)


 そしてもう一人のことを考えていた。


(もう一人はオージアスか……)


 オージアス・アトリーはブルーノ・アトリーの腹違いの弟で、モルトンの街に本拠を持つアトリー商会――アトリー男爵の実家に当たる――の総支配人である。

 但し、総支配人と言っても実権は男爵が握っており、完全に肩書きだけの存在だ。

 男爵と異なり、見た目は落ち着いた紳士に見え、名士として振舞っていれば、何も問題ないのだが、能力は劣るくせに野心だけが大きい厄介者と男爵は思っている。


(オージアスが絡んでいる可能性は否定できんな。だが、オージアスではあのような計画は立てられん。狂信者とオージアス、この他にまだいるはずだ。可能性があるのはならず者たちか……セロンが王都で情報を漏らせば、一気に解決するかもしれないが、楽観視はできん)


 更に考えを進めていく。


(オージアスが儂に関する情報を、アザロが金を、ならず者たち――マフィア――が暴力を用意する。これはありうる構図だ。だが、この三者の繋がりがよく判らんな。オージアスでも自分の命が掛かっておれば簡単には尻尾を掴ませまい。きっかけとなる”何か”が起これば、状況が一気に変わる可能性はあるが……)


 男爵はオージアスの監視を強めることに留め、マフィアについては王都の調査結果を待つつもりでいた。




 オージアス・アトリーは街の噂を聞き、焦りを感じていた。


(レイ・アークライトという男をオリアーナの婿に迎えようとしているだと……兄上の命の恩人であり、武術の腕もある。更に兄上が嫌う光神教のアザロ司教を、弁舌で失脚させたと聞いた……もし本当なら、私がアトリー家の実権を握る障害になるだろう……)


 ブルーノ・アトリー男爵はレイを迎え入れるつもりはなかったが、長女のオリアーナは命の恩人であり、穏やかな性格のレイに恋心を抱いていた。

 オリアーナ本人はそのことを隠しているつもりだったが、使用人たちには周知の事実となりつつあった。

 オージアスは男爵家の情報を、使用人を通じて密かに入手しており、オリアーナとレイの結婚の話は噂話として、彼の耳に入っていた。


(レイ・アークライト……これ以上噂が広まる前に排除すべきだ……だが、どうする? 兄上を襲わせた傭兵たちすら一蹴された。奴らの力だけでは危ういかもしれぬ……奴の知恵を借りるか……)


 オージアス・アトリーは一人モルトンの街に出ていった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「まだ、正午にもなっていないが、昨日の夜の疲れもあり、今日は依頼を受けないことにした。」 と納得したようですが、その脚でギルドに行き、受付で依頼を受けています。?
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