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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第一章「湖の国・丘の町」

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第十七話「傭兵登録そして特訓」

 翌朝、まだ雨は残るものの、雲の切れ間から時折日の光が差し込み、思ったより明るい朝を迎えた。

 いつもの時間に目が覚めるものの、外はまだ雨が残り、朝の訓練は行えない。

 アシュレイも昨日より顔色もよく、ほとんど普段通りに戻っているように見えるが、レイにはいつものような覇気はないように見えた。

 彼は今日から決闘までの僅かな時間をどう使うか考えた結果、訓練と実戦、魔法の練習というオーソドックスなものしか思いつかなかった。

 そして、対人戦の訓練をどう進めるべきか、悩んでいた。


(今日は訓練、対人戦の訓練をやりたい。アシュレイにやり方を相談するか……)


 朝食後、レイはアシュレイに対人戦の訓練について、どうすべきか相談する。


「訓練、特に対人戦の訓練をやりたいんだけど、どうしたらいい?」


 アシュレイは自分との訓練では不十分なのかと、


「私とやればいいだろう。私では不満か?」


「そうじゃないんだけど……セロンって、アシュレイと違って、スピード系なんだろう? できれば似たような人と手合わせをして、感触を掴んでおきたいんだ。アシュレイに不満なんてないよ」


「そ、そうか……そうだな。なら、傭兵ギルドに登録するのが、手っ取り早い。ギルドでは訓練の支援もやっているから、軽装の剣士との戦い方も教えてくれるはずだ」


「やっぱり、傭兵になるしかないか……好むと好まざるとに関わらず、決闘っていう対人戦をやるんだから、なってもいいんだが……」


 どうも煮え切らないレイの態度に、


「レイは傭兵になるのが、嫌なのか? この前も断っていたが」


 彼は頭を掻きながら、どう答えようかと迷うように、


「何って言ったらいいんだろう……どうも、人を殺すっていうのが……うまく言えないな」


(人を殺してはいけないという教育を受け、建前上は軍隊を持たない国に育ったからなぁ。どうしても、人を殺すっていう行為を職業にするのは抵抗があるんだよな……傭兵として育ったアシュレイには言えないことだけど……そうは言っても、僕もこれから人を傷付ける、いや、人を殺すために戦うことになる。奇麗事を言っている場合じゃない……)


「今日の午前中に登録に行って来るよ。アシュレイはどうする?」


「私も付いていこう。恐らくその方が早く済むだろう」


 二人は装備を整え、小雨が降る街に出て行った。


 傭兵ギルドに着き、すぐに傭兵として登録を行う。

 既に冒険者ギルドのオーブを持っているため、基本情報の登録は不要であり、すぐに第十級傭兵として登録された。

 そして、ギルド裏手にある小さな体育館ほどの建物に向かった。

 その建物はギルドの訓練場になっており、二十m×三十mほどの大きさで、中では傭兵たちが熱心に訓練を行っていた。


(傭兵って言うと何か無頼な感じがして、訓練なんかしないっていうイメージなんだけど、やはり自分の命が掛かるから、真面目に訓練をしているんだ)


 二人は訓練場の中に入っていき、アシュレイに教えてもらった師範らしき四十代の獣人にレイは声を掛ける。

 その獣人は、腰には細身のサーベルを差しており、引き締まった体に革製の鎧を着けていた。よく見ると、狼人らしく、大きな獣耳を頭につけ、フサフサとした尾を持っていた。だが、振り向いたその顔は厳しく、その鋭い眼光にレイは思わずたじろいでしまう。


「あのぉ、ここで訓練をお願いしたいんですが……」


「うん? 何だお前は?」


 その獣人は彼を胡散臭そうに見た後、横にいるアシュレイに気付く。


「アシュレイじゃねぇか。何か大変だったらしいな。もう大丈夫なのか」


「ああ、すっかり大丈夫だ。シャビィ、こいつに稽古をつけてやってくれないか」


 シャビィと呼ばれた獣人は、レイを見ながら、


「それは構わんが、こいつは一体誰なんだ? ああ、噂のお前の“男”か……“鉄壁”のアシュレイを落とした“強者つわもの”か……こいつが、ふははっ……うわっ!」


 シャビィが笑っている鼻先に、アシュレイが剣を突きつける。


「シャビィ、そのでかい耳が飾り物でなければ、私の言ったことは聞こえているはずだな。それともその耳は飾りか? 何なら今すぐ斬り落としてやってもいいぞ。どうする?」


 彼女が鋭い目付きで睨みながらそう言うと、シャビィは無理に笑いながら、話題を変える。


「じょ、冗談だ。で、普通にサーベルを教えればいいのか?」


「いや、サーベル相手の訓練をやって欲しい。聞いていないか、あのセロンが決闘をやるのを」


 彼女がそう言うと、シャビィは思い出したというように、


「あっ! そいつが”レイ”とかいう奴か。セロンに食って掛かって、決闘を受けたっていう……」


 そして、二人が自分を指名した理由に思い当たり、


「なるほど、判ったぜ、アシュレイ。納得するまで付き合ってやる。俺もあいつが嫌いだからな。あいつは俺たち(傭兵)を見下してやがる……」


 アシュレイはニヤリと笑って、「頼む」とだけいい、レイは未だにビビリながら、「よろしくお願いします」と頭を下げる。


 レイが壁に掛けてある先を丸めた槍を手にすると、シャビィは簡単な解説を加えながら、稽古をつけ始めた。


「サーベルやシミターはスピードが命だ。サーベルは主に”突く”攻撃だが、シミターは”斬る”攻撃になる。セロンはシミターでも斬るだけじゃなく、突きを入れてもくる。まあ、その辺は出来るだけ、それらしくやってやるぜ。スピードで負ける気はせんが、攻撃の正確性では奴の方がかなり上だ。その辺はよく理解しておけよ」


 そんなことをしゃべりながら、サーベルの模擬剣で攻撃を加えていく。

 バックステップ、サイドステップなどを織り交ぜ、目まぐるしく動き回るため、レイは攻撃の糸口が掴めない。

 シャビィの動きは、爆発的な直線的動きと、流れるような曲線的な動きが混じり、レイはシャビィの動きが予想できず、全くついていけない。


(こんなに厄介なのか! 今なら、リザードマンが直線的で動きが読みやすいっていうのがよく判る。そうか、僕の腕がまだまだ未熟だから、アシュレイは動きの単調なリザードマン、岩猪、キノコの魔物(フォングス)巨大蛙ジャイアントトードなんかを相手に選んでくれたんだ。今まで、自分の実力すら把握していなかったってことか……)


 その日は午前中一杯、シャビィの訓練を行うが、レイは一本も有効な攻撃を入れることが出来なかった。


 一方、相手をしたシャビィは、最初、”こいつがヒドラを倒しただと。間違いじゃないのか”と考えていたが、一時間、二時間と訓練を重ねるうちに、スポンジが水を吸うようなレイの学習能力に驚いていた。


(こいつは……アシュレイが入れ込むのも判らんでもないな。さすがに十日やそこらではあのセロンに勝てるレベルにはならんだろうが、いい線までいくかも知れん。それに何か隠し玉を持っていそうだしな)


 訓練の途中、アシュレイがいなくなったところで、レイは気になっていたことをシャビィに聞いた。


「さっきの“鉄壁”のアシュレイって、どういう意味なんですか?」


 その問いにシャビィはにやりと笑いながら、


「何となくは判っているんだろ? それとも本当に判らないのか?」


 レイがはにかんだ顔で判っているという表情をすると、シャビィは楽しそうに説明をしていく。


アシュレイ(あいつ)が有名な傭兵団の団長の一人娘っていうのは知っているな。有名な話なんだが、その親父っていうのが、一人娘っていうこともあるんだろうが、大層あいつのことを可愛がってな。あいつに近づく男はいちいち親父の訓練(しごき)を受けなくちゃならなかったそうだ。訓練っていうのは名ばかりで、ほとんど半殺しにされるそうで、あいつが団にいる時には男は誰も近寄ってこなかったそうだ」


 ここで一旦話をきり、更に人の悪そうな笑みを浮かべて、


「で、あいつがこの街にやってきてからの話だ。当然、この街には“怖い”親父さんはいねぇ。あいつは男っぽいところはあるが、結構いい女だろ。セロンを始め、結構な人数の男が言い寄ったそうだ。だが、あいつはそういう経験が無ぇ。だから、それがどういう意味なのか判っちゃいなかったんだな。どんなにいい男に言い寄られても、全くの朴念仁で、それでついたあだ名が“鉄壁”っていうんだ。傭兵や冒険者の間じゃ有名な話で、誰があいつを落とすかで賭けになっているんだぞ」


 レイはもちろんシャビィも知らないことだが、アシュレイのいた傭兵団には女傭兵も少なからずいた。享楽的な女傭兵たちと交流していたにも関わらず、アシュレイがその手の話の知識が無いのは、その女傭兵たちですら、団長に怯えていたからだ。

 普段の団長、ハミッシュは豪放磊落、気前も良く、面倒見のいい理想的な傭兵団長なのだが、こと娘のことになると、途端に別人のようになる。

 そのことを知る女傭兵たちも、アシュレイに生理の時の対応などの必要な知識を教えるほかは、不必要な話は一切しなかった。

 そのため、傭兵団という“鋼鉄製の箱”に入った箱入り娘、アシュレイが出来上がったのだった。


 レイはシャビィの話が、何となく想像通りだったので納得し、訓練に戻ろうとしたが、シャビィは更に付け加えていく。


「なあ、気をつけろよ。あいつの親父、ハミッシュはラクスでも指折りの傭兵だ。あいつに手を出したら……」


 そこまで話したところで、アシュレイが戻ってきた。


「何を話していたんだ?」


 熱心に話すシャビィを遠目に見たため、そう聞いてくるが、シャビィはその話題に触れるのはまずいと慌てている。

 レイは咄嗟に、


「い、いや、セロンのことをね。さっき、シャビィさんもセロンが嫌いって言っていたから、何でなんだろうって。それに冒険者たちでも評価が分かれているみたいで、一方的に嫌われているだけじゃなさそうだから……ね、シャビィさん」


「ああ、セロンの野郎は自分を祭り上げてくれる奴には結構面倒見がいい。だから、若い連中はセロンを信奉する奴も結構いる。だが、ある程度実力が付いた奴らは、口だけのセロンを相手にしねぇ。それに何故かは知らんが、奴も傭兵を嫌っているみたいで、傭兵の間じゃ、奴の評判は最悪なんだっていう話をしていたんだ。な、レイ」


 二人の芝居染みた棒読みに、アシュレイは胡散臭げな目を向けるが、レイの訓練が再開されるとそのことを忘れていった。


 シャビィは、レイとアシュレイの関係を考えながら、さっきの話を思い出していた。


(あぶねぇ、あぶねぇ。今までのアシュレイなら、話を聞かれても多分何も問題ないと思うが、レイ(やつ)のおかげで、ちょっと色気づいたからなぁ。あんな話でもぶちぎれたかもしれねぇ。まあ、それはそれで面白そうなんだがな……)



 レイは午後に一旦、いつもの森に行って魔法の練習を行い、午後三時頃、再び傭兵ギルドで訓練をこなしていく。

 魔法の練習に付き合ったアシュレイは、見たこともない魔法に驚き、これなら勝機はあると、目を輝かせていた。


 レイはそれから毎日、その日課をこなしていった。


 五日目には、シャビィに加え、アシュレイにも同時に攻撃してもらう訓練に変えていた。

 彼は”勝つ”ための戦術ではなく、”生き残る”ための戦術に重きを置き、二人の攻撃をどう捌くかに注力していく。


 シミターは“斬る”ことが主体で、重装甲の敵に対しては効果的な攻撃は加えにくいという特徴がある。

 セロンほどの技量があれば、鎧の隙間を斬り裂くことで、十分に対応できるが、基本的には金属鎧を斬り裂くことはできない。

 彼の考えた戦術は、彼の鎧:ニクスウェスティスの、通常の鎧より防御力が高いことを最大限生かすというものだ。

 彼の鎧はフルプレートではないが、胴体と二の腕、太もも、脛はほぼ完全に覆われており、露出する部分は、顔の他は首、肘、膝などの可動部分に限られる。

 もちろん、腕を上げれば、脇が晒されるし、肩当にも隙間はある。だが、槍で突くことに専念する限り、露出する部分はかなり少ない。

 彼はセロンのすべての攻撃を、避けるか、槍で受けきることは、不可能だと考えていた。

 それならば、この頑丈な鎧で受ければ、“叩きつける”攻撃が少ない曲刀シミターなら、ダメージをほとんど無くせると考えた。


 そこで、シャビィとアシュレイの二人の攻撃を槍で捌きながら、捌ききれないと判断した攻撃については、鎧の装甲部分で受けるという訓練を始めた。

 その訓練の初日は鎧で受けきれず、何度も腕や首に斬撃が入り、その度に痛みに転げ回ることになる。

 その姿は、半人前がボロボロに叩きのめされる姿に似ており、端から見れば滑稽で、周りにいる傭兵たちは、“何をやっているんだ?”、“あの程度の動きでセロンに戦いを挑むのか”などと笑っていた。


 だが、アシュレイとシャビィの二人は最初に彼の考えを聞いた時、その柔軟な考えに驚きを隠せなかった。

 実際に戦場に立ったことのある傭兵、それもベテランの傭兵なら、あえて鎧で受けることもある。

 だが、普通は鎧の防御力を信頼しきれず、回避できなくても、武器や盾で受ける選択をすることがほとんどだ。また、鎧の耐久性の問題もあり、鎧で受けることを前提とする戦術というのは、普通は考えつかない。


 その訓練の初日である五日目は、さすがに受けきれずにいたが、翌日の六日目からは、ほとんど鎧で受けることが出来るようになっていた。

 シャビィのサーベルの軽い攻撃では、ほとんどダメージが入らないが、アシュレイの大型の両手剣では、鎧の上からでもダメージは通る。

 そのため、翌日以降も体中にあざを作り、人に見られない場所で何度も治癒魔法を掛けていた。

 その何度も立ち上がるレイの姿に、傭兵たちも徐々に考え方を改めていった。

 彼らにはニクスウェスティスの防御力は判らず、レイが根性で立ち上がっているようにしか見えなかったからだが、師範であるシャビィと手練てだれとして知られるアシュレイの二人の攻撃を受け続けても、なお立ち上がる姿に、感動すら覚える者もいたようだった。


 七日目、二人からの攻撃を捌くまでには至らないが、致命的なダメージを防ぐことはできるようになる。まだ、自分から攻撃を掛けるには至らない。

 八日目、シャビィとの一対一の訓練に戻すと、彼の動きは数日前からは考えられないほど、“きれ”が増していた。夕方にはシャビィに五本に一本は入れられる程度まで、槍の腕を上がっていた。

 シャビィはここに至り、彼に勝機があると思い始めていた。


(俺のサーベルのスキルは、セロンには及ばんが、レベルは四十五、その俺にこの短時間で、ここまで迫るとは。こいつの槍術のレベルは恐らく三十を超えているだろう。こいつの鎧の防御力があれば、うまくすればセロンに勝てる。だが、まだ何かが足りない気がする……)


 レイは訓練の痛みに泣きそうになりながら、八日間の訓練を終えた。


(シャビィさんのサーベルは刃を落としただけの金属製の棒だし、アシュレイの木剣は重量があるしで、そんな物で殴られれば痛いに決まっている。でも、これをやっておかないと魔法が失敗した時に手詰まりになってしまう。それに今後のことを考えたら、やっておいて損は無い。そうとでも思わないと、Mでもない僕にはきつすぎる……それにしてもニクスウェスティスって丈夫だよな。全然傷がついていないし、どうなっているんだろう?)


 彼の知らないことだが、彼の鎧、ニクスウェスティスには重量軽減、防御力強化の他に、簡易な自動修復機能も付与されていた。大きく破損しなければ、表面の傷程度は着用者の魔力を使って自動的に修理される仕様だ。

 この機能は彼の武器、アルブムコルヌにも付与されているが、詳しい性能を知らない彼はそのことに気付いていなかった。

 この技術はドワーフの名工だけが可能としている技術で一般的ではなかった。彼の小説でも“一応”設定は考えられていたが、彼はその細かい設定自体を忘れており、ただ丈夫な鎧との印象しかなかった。


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