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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第三章「冒険者の国・魔の山」

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第四十二話「ルナの帰還」

 十二月十八日の夕方。


 ルナたちはベテラン冒険者のパーティと、密かに警護しているルークスの獣人部隊に守られ、無事にペリクリトルに帰還した。


 彼女らは帰還の報告を行うため、ギルド総本部に向かった。

 ヘーゼルが報告を始めると、伝令のビリーの疑惑も報告され、報告を受けていた職員は事の重大さに気付き、すぐに情報課にそのことを伝えた。

 情報課のロイドが駆けつけ、ヘーゼルらから詳しく事情を聞いていった。


「……つまり、このビリーがおかしな命令を伝えたってことなんだな。ビリー、何か言いたいことはあるか?」


 縄を掛けられているビリーは、必死に自分の無実を訴える。だが、ランダルの命令を曲解したことについて問うと、途端に口調がしどろもどろになり、ロイドは更に疑いを強めていった。

 ロイドはヘーゼルと、もう一組のパーティのリーダー、ハワードに軽く頭を下げ、


「疲れているところで悪いんだが、ランダルさんと参謀のレイに話をしてくる。もう少しだけ、待っていてくれないか」


 彼はそれだけ言うと、すぐにランダルの部屋に向かった。

 魔族の傀儡(くぐつ)のことを知らないヘーゼルたちは、なぜこれほど警戒するのか、全く理解できなかった。


「確かにランダルさんがどういう風に伝令に命令したかを確認するのは判るんだけど、それにしても、情報課があんなに必死になっているのは少し意外ね。何かあるのかしらね」


 隣にいるハワードは肩を竦め、「さあな。確かにロイドさんの顔はいつも以上に真剣だったが」と首を傾げていた。


 そんなことを話していると、ロイドと共にランダルとレイ、そして護衛としてステラが付き従っていた。

 ルナの顔を見たレイは、傍から見ても判るほど安堵の表情を浮かべていた。そのことに気付いたヘーゼルは、意外そうな顔をする。


(確かにルナのことを心配していたけど、今回はそれほど危険じゃない任務のはずよ。それなのに奇跡的に助かったとでも言いたいほど、ホッとした表情を見せたわ。どうしてなんだろう?)


 ヘーゼルがそんなことを考えている間に、ランダルがビリーを尋問し始めていた。


「俺の命令は“全パーティを引き揚げさせること”だ。理由も言ったはずだな。出来るだけ早く戦力を集中させたいと。それなのになぜ二組ずつ何ていう面倒なことを言ったんだ?」


 彼の問いにビリーの目が泳ぎ始める。そして、ボソボソと言う感じで、


「えっと、俺は……敵にばれないように少しずつ引き揚げさせろって……だから、二組ずつ……」


 ビリーはしどろもどろの説明をランダルに始めた。だが、すぐに辻褄が合わなくなり、黙り込んでしまう。ランダルはどうやって尋問しようかとレイに視線を向けた。

 彼が後ろを振り返ると、知らないうちにラスペードが部屋に入っていたようで、興味深げにビリーを眺めていた。

 そして、ランダルの視線に気付くと、


「つい先ほど魔道具が完成してね。被験者がいなくて、困っていたのだよ」


「出来たのですか?」


 ランダルの問いにラスペードが頷き、


「この男で試してもいいかね。なに、この実験に危険は無いよ。失敗すれば、何も判らないだけ。成功すれば、傀儡かどうかが判る。アークライト君がいるから、検証も出来るしね」


 ランダルは僅かに悩むが、魔道具の使用を許可した。

 ラスペードは懐から、筒形の灯りの魔道具を取り出した。

 何が起こるのか全く判らないヘーゼルは、「何をするんですか?」とランダルに尋ねるが、彼は「見ていれば判る。理由は後で説明する」と小さな声で答え、すぐに口を閉じた。


 ビリーはラスペードの姿に怯えたように視線を左右に泳がせ、「な、何をするんだ!」と必死に逃げようと暴れる。

 だが、ロープで縛り上げられた彼は、椅子から立ち上がるときに無様に転倒してしまう。

 ラスペードはその隙にビリーの背中に魔道具を向けた。

 ラスペードは後ろを振り返り、「ロイド君、灯りを消してくれたまえ」と言って、部屋の照明を消させる。

 暗闇の中、ラスペードの魔道具が光りだし、ビリーの背中を照らしていく。

 ビリーはバタバタと足を動かして暴れるが、すぐに職員たちに取り押さえられる。

 押さえ込まれたビリーの抗議の声が響く中、彼の背中に当たった光は、レイが使った魔法と同じように漏斗状に吸い込まれていった。


「この男は傀儡くぐつで間違いない。アークライト君、君に確認をしてもらいたいのだが」


 レイはラスペードの言葉に頷き、魔道具の光が消えたところで、同じように確認を行った。すぐにラスペードの魔道具と同じ結果が出た。


「オグバーン司令、この男は魔族の傀儡で間違いないようだね。さて、今日はアークライト君の魔力も十分にあることだし、魔族の秘密に関する尋問をしても構わないかね?」


 ラスペードは新しいおもちゃを与えられた子供のように、嬉々とした表情でそう確認する。

 ランダルはそれに答えず、レイの顔を見た。

 レイは一昨日尋問を行ったカースティのことを思い出し、苦々しい表情を浮かべる。

 カースティは昨日目を覚ましたが、精神に大きなダメージを負ったためか、小さな物音にも怯えるようになっていた。

 レイは尋問の必要性を考え、「危険そうならすぐに引抜きます」と言って、渋々了承した。


「ラスペード教授。許可はするが、この男の命を最優先してもらうぞ。それを確約できぬなら、レイに魔法を解除させる」


 ランダルが厳しい表情でそう言うが、ラスペードは嬉しそうな顔のまま、頷いていた。


 ヘーゼルたちは何が起こっているのか全く理解できない。

 意を決したヘーゼルが、「何が起こっているんですか? 説明してください」とランダルに訴えた。

 ランダルはすっかり忘れていたと頬を掻きながら、ヘーゼルらに説明していく。


「本来なら極秘事項なのだが、教授の魔道具も出来たことだし、説明しておこう。このビリーは魔族、月魔族という魔族に傀儡(くぐつ)にされている」


 彼女たちは傀儡という言葉に首を傾げる。


「要は魔族の操り人形になっているということだ。今から、その魔法を解除するのにあわせて尋問を行う」


 ヘーゼルは「操り人形……」と呟き、首を振っている。

 ランダルはそんな彼女たちに「……済まんが、一旦、部屋の外に出てくれんか」と頭を下げると、ヘーゼルたちは部屋から出て行き始める。


「ル、ルナだけは残って欲しいんだけど……」


 レイが前を通り過ぎようとしたルナに慌てて声を掛けた。

 彼女は立ち止まり、「私?」と聞き返す。


「恐らく君に関係する話が出てくると思うんだ。出来れば直接聞いて欲しいと思って……」


 呟くようにレイが答えると、ルナはランダルに目で確認する。ランダルも小さく頷き、彼女はやれやれと言った表情をヘーゼルたちに向けた。


「私が聞いた方がいいみたいだから……後でみんなには説明する」


 ヘーゼルたちはそれに頷き、部屋を出て行った。


 ラスペードは待ちきれないといった表情で、「もういいかね?」とレイたちを急かす。

 レイはやれやれという感じで「お待たせしました」と言って小さく頷いた。

 尋問はラスペードが傀儡の魔道具を引抜き、ランダルとレイが質問する形で進められることになった。


「確認すべき情報は、魔族の目的、種族の構成、傀儡の魔法の正体、傀儡の魔法の他に使える魔法、そして、翼魔の正体と召喚方法だ。出来るだけ多くの情報を聞いてくれたまえ」


 それだけ言うとラスペードはビリーの服をナイフで切り裂き、抜き取りの準備を行った。

 準備が終わると、彼は「引抜きを始める」と言って右手に魔力を集中させ始めた。

 ビリーの顔に苦悶の表情が浮かび、すぐにランダルが尋問を始めた。


「まず、お前を傀儡にした者の名を教えろ」


 ビリーは苦しげな表情で首を横に振るが、ラスペードが更に魔道具を引抜くと、掠れた声で「ヴァルマ……ニスカ様……月魔族の……」と答えた。


「ペリクリトル周辺にいる魔族の種類と数は」


「月魔族は一人……大鬼族が二百……中鬼族八百、小鬼族五百……」


 ランダルが「それ以上はいないのだな?」と言うと、ビリーは小さく頷く。

 続けて「魔物の数は?」と聞くと、


「翼魔が四、オーガが五百、オークとゴブリンが三千……この他に隷属化した魔物が少し……」


 その戦力にランダルは顔を顰めるが、次の質問に移っていく。


「そいつらは今どこにいる」


「……判らない。鬼人族は絶えず動いている……恐らくアクィラの麓近く……」


 ランダルは更に質問を続けていく。


「今回の侵攻の目的は? なぜ、ペリクリトルを狙う?」


「……一番の目的は月の御子の奪還。鬼人族は西への侵攻を考えている……それは我ら魔族の悲願……」


「魔族の悲願? まあいい。ルナが月の御子だそうだが、なぜ狙う? そもそも月の御子とは一体何なのだ?」


「月の御子は魔族に必要なお方……御子とは……禁忌だ。月魔族以外に明かすこと……うっ! 頭が……うわぁぁぁ!」


 突然、ビリーが苦しみ始める。レイはすぐに治癒魔法の呪文を唱え始めるが、ラスペードは魔道具の引抜きをせず、自ら尋問を始めた。


「翼魔をどうやって呼び出す? そもそも翼魔はどう言った存在なのだ?」


 ビリーは呻くだけで、それに答えることが出来ない。


「教授! すぐに魔道具を引抜いてくれ! これ以上はビリーの命が危うい!」


 ランダルの叫びにラスペードは渋々魔道具を引抜いた。

 ビリーは口と鼻から血を流して苦しんでいたが、レイの治癒魔法ですぐに意識を取り戻す。

 レイはカースティの症状を見たとき、尋問で脳にダメージを受けるのではないかと考えた。彼はビリーが苦しみ始めた時から、脳を中心に治癒魔法を掛け、そのおかげでビリーはすぐに意識を取り戻す。


(一応、考えていた通りになったけど、こんな危険な尋問には付き合いたくないよ)


 レイはビリーにもう一度治癒魔法を掛けてから、声を掛ける。


「大丈夫ですか? 気分が悪いとか、変な物が見えるとかはないですか?」


 ビリーは話しかけられても、すぐには反応できなかった。リッカデールに向かっていた自分の前に、なぜ街の防衛責任者であるランダルと、その参謀であるレイがいるのか判らなかったからだ。

 彼は絞り出すような声で「ここはどこだ」とレイに尋ねた。

 レイがペリクリトルのギルド総本部であると答えると、更に混乱する。

 レイは彼が魔族に傀儡にされていたこと、そして、リッカデールから戻ってきたことを話した。


「とりあえず、魔族の魔法は解除しましたから、もう大丈夫です」


 レイはそれだけ言って立ち上がった。


(しかし、この魔法は酷いな。人権というか人格を完全に無視している。確かに有効ではあるけど、この魔法を使う月魔族は人として信用できないな……)


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