表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第三章「冒険者の国・魔の山」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

174/396

第三十八話「尋問」

 十二月十六日午前八時前。


 魔族に傀儡くぐつにされたカースティのパーティメンバーの魔法を解除し、尋問を終えたレイは部屋を後にした。

 少し疲れを感じていたが、ちょうどその時、午前八時の鐘が聞こえてきた。

 鐘の音でルークスの農民兵たちのことを思い出し、急いでギルド総本部の外に出て行く。


 レイがアシュレイ、ステラを伴って本部前出ると、そこに農民兵たちが揃っていた。やや歪な隊形だが、一応軍隊らしく整列しているように見える。

 道行く人たちは、その粗末な装備に失笑しているが、農民兵たちは一切気にしていなかった。彼らは行く先々で同じような目で見られていたため、そのような視線には慣れていたのだ。

 レイが彼らの前に立つと、一斉とは言い難いが、全員が片膝をついて彼に敬意を表した。

 責任者のアンガスが大きな声を張り上げる。


「アークライト様! フィスカル村派遣隊二百二名、皆、揃っております! ご命令を!」


 決して軍隊らしい報告とは言えないが、それでも彼らに出来る限りの誠意を込めていた。

 レイはその対応に気恥ずかしさを感じ、「全員、立ってください!」と叫ぶ。そして、全員が立ち上がると、彼らの仕事を説明していった。


「今日から街の防衛施設の強化を手伝ってもらいます。今日は外壁の強化と物見台の建設です。北地区の東側で作業を行っていますので、そこで現場の責任者の方に仕事の内容を……」


(実戦経験も無さそうだし、農民ばかりのようだから、穴を掘ったり、建物を補強したりといった作業の方が得意だろう。それにこれなら、危険は少ないし、街の人たちの手伝い程度なら、迷惑を掛けることはないだろう)


 彼は農民兵たちの装備を見て、実戦には耐えられないと考え、防衛施設の建設と罠の設置に使うことにしたのだ。しかし、農民兵たちのやせ細った体では土木工事でも役に立たないだろうと、あまり期待していない。

 彼は農民兵たちの先頭に立ち、今日の作業現場に案内する。


 北地区の東部では外壁の補強工事と、物見台の建設が始まっていた。

 レイは現場責任者に会い、農民兵たちに仕事を割り振るように依頼した。

 現場責任者はやせ細った農民兵を見て、僅かに苦笑いを浮かべて首を振るが、すぐに作業の説明を始めた。


「外壁に横木を打ち付けるんだ。その後、ここにある土を塗ってくれ。土はきれいに塗る必要はねぇが、塗り残しは作るなよ……」


 現場責任者の指示で、農民兵たちは作業場に散っていく。

 レイは不安を感じながらも、責任者に頭を下げる。


「すみませんが、よろしく頼みます。もし、何かトラブルが起きたら、私を呼んでください。お願いします」


 責任者は軽く手を上げて、それに応えていた。



 北地区から総本部に戻ると、入口でロイドが待ち構えていた。


「やはり娼婦はいなかった。だが、カースティともう一人の女は確保したぞ。何でも南地区で噂をばら撒いていたっていう話だ」


 レイはその噂が気になり、「どんな噂なんですか?」と尋ねる。

 ロイドは少し声を潜め、


「何でもギルド本部が魔族と内通しているとかで、自分たちの身の安全と引き換えに、ペリクリトルを引き渡すつもりだとかなんとか。冷静に考えれば分かるような程度の低い話なんだが、結構な数がその話を聞いているようだな」


 レイは魔族が搦め手を使ってくることに驚いていた。


(まさか、情報操作までやってくるとは……いい加減な話だけど、ちょっとした証拠を捏造すれば、皆、信じてしまうだろうな。今はナーバスになっている人が多いから、こういう悪い情報ほど信じてしまうんだ……このままじゃ、罠どころの話じゃない。何とかしないと……)


 彼は急いでランダルの部屋に向かった。


 既にロイドの話を聞いていたランダルは、苦虫を噛み潰したような表情で彼を待っていた。


「どうしたらいいんだ? カースティが魔族の手下だと説明すれば、本部に対する疑念は晴れるだろう。だが、魔族の手の者が入り込んでいると公表すれば、街の連中に疑心暗鬼が生まれるだろう。だからと言って、何もせずに手をこまねいていれば、本部の信用を失うかもしれん……」


 ランダルが苦悩に顔を歪めて、そう言うと、レイは明るい声で打開策があると断言した。


「それほど悲観する必要はないですよ。要はギルドが信用されればいいだけですから。本部の要人が逃げ出さないと示せばいいだけです」


 ランダルは具体的にどうすべきか分からず、首を振って説明を求めた。


「すまん、具体的にはどうすればいいんだ? 俺にはどうしたらいいのかさっぱり分からん」


 レイはさも簡単なことだとでも言うように、笑顔で説明していく。


「ランダルさんはいいとして、ギルド長や他の役職者の方は街の人にあまり馴染みがないですよね。ですから、忙しいでしょうけど、できるだけ街に出るように進言してください。特にギルド長には外壁の補強現場や脱出する市民たちの見送りなど、積極的に住民に声を掛けるように言ってください」


 ランダルはレイの言葉の意図が全く分からない。


「そんなことで疑いが晴れるのか? 逃げ出す前にいい顔をしていると思われないか?」


 レイは首を大きく横に振り、更に明るい声で答える。


「大丈夫ですよ。街の人がどうして、そんな出鱈目な噂を信じたくなるのか。それはギルドという組織より、顔も見たことがない、偉い方たちが信じられないだけなんです。笑顔を見せて、明るい声を聞かせて、肩でも叩いていけば、意外と信じられるものなんです」


 ランダルは未だに信じられないが、「そんなものなのか」と呟いていた。


「じゃ、こう考えて見てください。ランダルさんは傭兵ですよね。傭兵は誰のために戦いますか?」


 ランダルは「そりゃ、自分と雇い主のためだろう」と不思議そうな顔で答える。

 レイは「いいえ」と首を横に振り、真剣な表情で話し始める。


「僕は経験の少ない未熟な傭兵ですが、これだけは分かっています。傭兵が戦うのは、本当に命懸けで戦うのは、仲間のため、守るべき家族のためなんです。死を覚悟するほどの戦闘のとき、酒を飲んで一緒に騒いだ仲間を守ろうと思ったことはありませんか? 怪我をして倒れている戦友のために剣を振るったことはありませんか?」


 ランダルは目を見開き、そして、大きく頷いた。

 レイはそれに笑顔で頷き返す。


「だから、ギルド長が自分たちの戦友だと認識してもらえればいいんです。理想論かもしれません。ですが、自分たちと共に戦う仲間だと思ってもらえば、変な噂を信じることは少ないと思います」


「そうだな。お前の言いたいことは分かった。ギルド長たちには街の連中に顔を見せるように言っておく。元々、街を守ろうとしている連中に顔を見せねぇのがいけねぇんだ。確かにお前の言うとおりだ……」


 ランダルは腑に落ちたのか、急に明るい表情になる。


「俺もできるだけ、街の連中に顔を見せることにしよう。今から、ギルド長にそのことを具申するが、その間にカースティの尋問を頼む。傀儡の魔法を解除すると尋問ができなくなるが、解除する前なら出来るはずだ。お前は治癒師でもある。お前が立ち会えば、無駄に死ぬことも無いだろう」


 そう言うと、ランダルはレイの肩をぽんと叩いて、部屋を出て行った。

 そして、レイたちはロイドの案内で、カースティの監禁されている部屋に向かった。

 その途中、ロイドが捕えたカースティたちのことを簡単に説明していく。


「カースティと治癒師のメイジーだ。どちらもロープで拘束してあるが、治癒師のメイジーは魔法を使われると厄介だから、猿轡をしてある。外してもいいが、魔法は使わせるな」


 部屋に入ると、二人の女性が縛られていた。

 カースティは三十歳くらいで、ややきつい目付きだが、整った顔立ちの槍術士。もう一人の女性、治癒師のメイジーは、カースティとは逆に背が低く、普段なら垂れ目の愛嬌のある顔立ちなのだろうが、今は目を吊り上げ、レイたちを威嚇していた。


 二人とも防具は外され、背中を見えるようにシャツも半ば脱がされており、肩から胸に掛けて肌が露出し、妙な艶めかしさがあった。更に縛られたロープのせいで胸の谷間が強調され、レイはその姿に顔を赤くして目を逸らしていた。

 レイはその赤い顔を誤魔化すように「ラスペード先生は?」と尋ねた。


「ラスペード教授はあれから魔道具の改造に掛かりきりだ。声を掛けたが、怒鳴られて話にならんかった」


 レイはくすりと笑い、「呼び方があるんです」と言って、ロイドに耳打ちをする。

 ロイドはこくりと頷き、ラスペードを呼びにいった。

 後ろで見ていたアシュレイが、「何を言ったんだ?」と尋ねる。

 レイは笑いだしそうになるのを堪えながら、答えていく。


「今から傀儡の魔法が掛かった被験者に、魔族が聞かれたくない質問を投げかけるという実験(・・)をすると言えばいいと言ったんだ。多分、飛んでくると思うよ……」


 レイの言ったとおり、ラスペードはカースティを監禁している部屋に飛び込んできた。


「どういう風にやるのかね! 被験者が死ぬ可能性があるが、どうやって防ぐつもりかね!……」


 立て続けに質問を吐き出し、少し落ち着いたので、レイが話し始める。

 アシュレイとステラ、ロイドの三人はラスペードの様子にあっけに取られ、更に落ち着いているレイの姿に感心していた。


「ロイドさんか先生に尋問してもらい、何かあれば僕が治癒魔法を掛けるんです。それでも危なそうなら、傀儡の魔道具を素早く抜き取ります」


 興奮が冷めたラスペードはそれに頷くが、何か思いついたのか、その考えを披露する。


「今思いついたのだがね。魔道具を抜き取りながら、尋問をしてはどうだろう? 魔道具が被験者の魔力に直接影響しているとすれば、抜き取りの途中の浮き上がった状態なら、傀儡の影響は限定的なのではないだろうか……」


 ラスペードの考えは魔道具が不完全にしか効かない状態なら、記憶が残ったまま、なおかつ傀儡の効果も限定的になるのではないかというもので、この状態なら、自ら命を絶つ可能性が減るというものだった。


 レイは不安ながらも、それもあり得ると考えた。


「分かりました。先生がカースティさんを見ているときに、僕が魔道具を引き揚げますので、その間にロイドさんが尋問してください」


 ロイドが「どのくらい尋問に時間を掛けられるんだ?」と確認する。


「割と魔力を使うので、五分が限界だと思います」



 レイがカースティの後ろに回り、背中に手を翳す。そして、ラスペードとロイドに目で合図を送ってから、ゆっくりと魔力を流し込んでいく。

 ラスペードが頷くのを確認してから、ロイドはカースティに対する尋問を開始した。


「オットーたちから大体の事情は聞いている。お前が単独で街の外に行ったのは、魔族に情報を伝えるためだな」


 カースティは額に脂汗を浮かべて「ち、違う」と呟く。

 ラスペードがレイに「もう少し引抜いてくれたまえ」と命じる。

 レイは小さく頷き、更に左手に魔力を集中させる。

 ロイドが「魔族にはあったのか?」と問うと、苦しそうな表情だが、首を縦に振った。

 ラスペードは「そのままで維持してくれたまえ」と呟くが、彼の関心はカースティの表情にあった。


(面白い。今、魔族の魔法が解けつつあるのだ。見ているだけでも興味は尽きない……うん? もしかしたら、あの魔道具は魂を縛るだけではないのかもしれん。擬似的な魂を乗り移させるものかもしれないな……もしそうなら、この被験者には今、二つの魂があるということか。実に興味深い……)


 その間にもロイドの尋問は続いていた。


「魔族にはいつ情報を伝えたのだ?」


「昨日の昼過ぎ、午後二時の鐘を聞いた後……」


「何を伝えた?」


「“御子”の行き先……予定……」


「御子とは誰のことだ?」


「……ルナという弓術士……」


「魔族は他に何か言っていなかったか?」


「……街の防衛計画を破綻させろ。だが、できるだけ住民は残しておけ……白の魔術師を排除しろ……明日の夜、娼館に誘い出せ……」


「白の魔術師とは誰だ?」


「……レイ・アークライト……」


 ロイドの尋問で分かったことは、ルナが“御子”であること、ルナの行き先、予定を翼魔に伝えたこと、街の防衛計画を邪魔するため、噂を流したこと、更にはレイを排除しようとオットーたちが潜伏していた娼館に罠を張ろうとしていたということだった。


 そして、今夜、街に火を放って、街を混乱させようとしていたことも判明した。

 レイの表情が険しくなり、アシュレイからラスペードとロイドに尋問の終了が告げられる。


「レイが限界のようだ。教授、ロイド殿、これで終わりにしてもらいたい」


 ロイドが頷き、ラスペードが最後に質問をした。


「お前の魂と魔族の魂は繋がっているのか? 繋がっているなら、魔族の考えていることを教えたまえ」


「……分からない。だが、月魔族は御子を……うっ! うわぁぁぁ!」


 突然、カースティが血を吐き、大声で叫び始めた。


「アークライト君! すぐに魔道具を抜き取りたまえ! 魔力があれば治癒魔法を掛けるんだ!」


 レイは傀儡の魔道具を一気に抜き取った。

 カースティは呻き声を上げたまま、血の泡を口から零し、白目を剥いて気絶していた。

 レイは荒い息でカースティに治癒魔法を掛けていく。


「大いなる生命の源水の神(フォンス)よ。清浄なる精霊の力により、の傷を癒したまえ。我は代償に命の力を捧げん。治癒の力(ヒール)


 彼は内科系の異常だと考え、水属性の治癒魔法の呪文を唱える。

 カースティの胸から上を青い光が覆っていく。

 だが、彼には治癒魔法が間に合ったのか判断が付かない。

 なぜなら、彼女の呼吸は浅く、意識はなお失ったままで、徐々に顔から血の気が引いているように見えたからだ。

 ラスペードはレイの治療の様子を見ながら、今の状況について考えていた。


(事実をしゃべるだけなら、何も問題はなかった。だが、魔族の考えを類推させようとした途端、拒絶反応が出た。より強力な処置がされていたのか、それとも、魔族が遠隔で処分しに来たのか……確認するにはもう一人の被験者を使うしかあるない。うまくいけば、魔族の謎の一端が明らかになるかもしれん……)


 もう一度、レイが治癒魔法を掛けると、カースティの呼吸が落ち着いてきた。

 レイは彼女の状態が急変した状況を思い出し、最後の質問がキーになったのではないかと考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ