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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第三章「冒険者の国・魔の山」

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第三十一話「作戦会議」

 十二月十五日。

 レイはステラと共にペリクリトルの街の調査に向かい、アシュレイは情報課のロイドからルナたちの情報を入手するため、ギルド総本部に向かった。

 レイたちは魔族が侵攻してくるであろう東側から街を見ていく。


(この辺りは住宅地なんだろうか? 北側は商業地区だし、南側は冒険者たちの街。東は冒険者たち相手の住民が多く住んでいるっていう感じだな。木造二階建ての住宅が密集しているから、避難させるのは早めにしておかないと、パニックになりそうだ……)


 彼は筆記用具を取り出し、建物の高さや街の路地の幅などをメモしていく。


 東地区から南地区に回ると、宿や武器屋などが多くなり、建物自体が大きくなっていく。


(この辺りは建物が大きくてしっかりしているな。さすがに石造りの建物はないな……)


 商業地区である西地区、北地区と回っていく。

 西地区の南側には派手な看板の飲み屋街風になっている。だが、レイには普通の飲み屋街とは違うように思えていた。


(飲み屋街にしては、開放感がないんだよな。窓の造りも違うし……)


 そして、街の中を歩いていくに従い、この街の意味が判ってきた。

 数人の扇情的な衣装を身に纏った若い女性とすれ違ったからだ。


(もしかして……ここは歓楽街、いや、色街ってやつ?)


 奥に入ると、まだ営業中の娼館があり、前を通る彼に娼婦が声を掛けてくる。彼は顔を赤らめながら、色街を早足で抜けていった。

 レイはステラの表情を盗み見たが、彼女の表情はまったく変わりなく、逆に彼の顔が赤いことについて心配そうに尋ねてきた。


「お顔が赤いようですが、お加減でも悪いのでしょうか?」


 彼は「何でもないから」と誤魔化しながら、更に早足で歩いていく。


 西地区の北側から北地区に掛けては、建物も立派で倉庫らしい大きな建物も多く建っている。道幅も荷馬車の取り回しが楽なように広くなっており、普段なら多くの荷馬車が行き交っているのだろう。


(道幅が広い分、人通りが少ないと寒々しい感じすらするな。全地区を見たけど、まだ三万人以上の人が残っているんだ。気分の問題もあるのかもしれないけど、思った以上に人が減っている気がするな)


 街の造りを見終わったレイは、街の外壁沿いを見ていく。

 外から見たとおり、街の外壁は高さ四mほどの先端を尖らせた丸太を打ち込んだだけの簡単な造りで、身長三mを超えるオーガが体当たりを掛ければ簡単に破壊されそうに見える。

 ランダルの指示で、横木を打ち付け強化はしてあるが、それでも石造りの城壁の防御力には遠く及ばない。

 そして、外壁を見て行くうちに、外壁と最も近い家屋との間隔が二mほどしかないことが気になっていた。


(しかし、外壁ギリギリまで家が建っているな。そのうち、この外壁も取り壊されて街が広がるんだろうけど、これじゃ、街を守るのに邪魔になるんじゃないのか……)


 ふと、上を見上げ、そこであることに気付いた。

 最外郭の家屋はすべて平屋建てで、二階建ては一軒もない。更に隣の家の屋根との間隔も狭く、長屋のような造りになっている。


(うん? そうか、屋根の上にロングスピアを持った兵士を配置すれば、屋根の上から乗り越えてきた敵を突き落とすことができる。後ろの二階建ての家から矢を射掛ければ、一応防御施設としての用をなすということか……)


 だが、この作りの問題点にも気づいていた。


(……外壁に張り付かれたら攻撃手段どころか、発見する手段もない。何ヶ所から同時に上がって来られれば、屋根の上は移動が難しそうだから、役に立たないような気がするな……)


 レイは街の中を見ながら、住民のことを考えていた。


(ここの住民たちもこの街を愛しているんだろうな。アッシュがフォンス――ラクス王国の王都――を愛しているように、自分たちの国を、街を自分たちの手で守ろうとしている……僕にはその感覚がよく判らない。日本が外国から攻められたらどうしようかなんて、真剣に考えたことはなかったし、考えるような教育も受けていない。天災で自分の街が壊れたら悲しいとは思うけど、積極的に守るかといわれれば、多分逃げ出すよな……)


 彼はいくつか気付いた点をメモし、ギルド総本部に向かった。

 午前十一時頃、ギルド総本部でアシュレイと合流した。


「ヘーゼルのパーティの居場所が判ったぞ。やはりリッカデールだ。村の周りの警戒が任務だそうだが、あと五日は戻ってこない予定だそうだ」


(リッカデールか。確か魔物狩りの拠点なんだよな。城塞都市ほどじゃないけど、防御力も高い。でも、森に入れば、いつ魔族の手が伸びるかもしれない。それにしても、今まで手を出されていないのが奇跡的な気がする……ペリクリトル侵攻に合わせて何かするつもりなんだろうか? どちらにしても、派遣している冒険者たちはペリクリトルに引き揚げさせるように進言するつもりだし……)


 レイはアシュレイに「ありがとう」と礼を言い、ランダルの部屋に向かう。

 入口で訪問を告げると、すぐに部屋の中に通された。

 中にはドクトゥスのティリア魔術学院の教授リオネル・ラスペードの姿もあった。

 レイはラスペードに軽く会釈し、「結局来てしまいました」と苦笑いを浮かべる。


 ランダルは昨日よりは少し余裕のある表情で彼を迎え入れた。


「何か思いついたか」


「一応は……まず、僕の考えたことをお話しします……」


 ランダル、ラスペード、そして、ランダルの部下の防衛部隊の指揮官数名が席に着く。

 どうやらレイの到着を待って、作戦会議を開くつもりでいたようだ。

 ランダルがレイたちのことを紹介していく。


「見ての通り、マーカット傭兵団(レッドアームズ)の傭兵たちだ。若いがミリース谷で活躍した猛者でもある。アシュレイ・マーカットは“赤腕ハミッシュ”の娘、ステラは“鎧通しのアル”、アルベリック・オージェが認めた斥候(スカウト)だ。そして、このレイ・アークライトだが……」


 ここでランダルは全員を見回したあと、レイに視線を止め、


「稀代の魔術師にして槍の名手……」


 ここで言葉を切り、芝居掛かった仕草で、


「……そして、ミリース谷のうたに聞く“白き軍師”殿なのだ」


 指揮官たちはその言葉に驚き、目を丸くする。そして、“こんなに若いのか”という呟きが漏れる。


「魔族の情報を持ってきてくれたのもこの三人だ。特にレイは魔族の侵攻を一ヶ月以上も前から警告していたのだ。我々に聞く耳があれば、もう少し違った展開になったかもしれん。今回、俺はレイを参謀役として俺の傍に置くことに決めた。これは決定事項だ」


 ランダルは部下たちにそう宣言した後、作戦会議を始めた。


「それじゃ、始めるとするか。レイ、まずはお前の考えを聞かせてくれ」


 レイはランダルの過大な評価に顔を赤くしながら、


「僕の、いえ、私の考えを話す前に現状について認識を合わせたいと思います。まず、魔族の戦力ですが、オーガが最低三百、オークとゴブリンが数千ずつですから、少なくとも三千以上はいるでしょう。それに私たちがティセク村近くで見た翼魔がいる可能性があります。ここまではいいでしょうか?」


 全員が頷くのを確認し、話を進めていく。


「次に彼らの目的ですが、これは今のところ不明です。ですが、ペリクリトル周辺にいると考えるならば、考えられる目的はこのペリクリトルの占領でしょう。言いにくいですが、ペリクリトルにいる女性を使って、魔物を生み出そうとしている可能性があります」


 ここで四十歳くらいの男が発言を求めてきた。ランダルが頷くと、


「その情報はラスペード教授から聞いているが、真なのだろうか? 真だとして、魔族はこの守りにくいペリクリトルを拠点にするのだろうか?」


 レイはラスペードに軽く頷き、話を振る。


「女性の体を使って魔物を生み出すというのは事実だ。魔術師ギルドでは、ラクス王国の東で実際に孕まされた女性の死体を確認している。但し、詳細についてはまったく不明だ」


 ラスペードの話が終わると、レイが代わって話し始める。


「ここを永久的な拠点とするつもりはないかもしれません。ですが、ペリクリトルはこの辺りで最大の都市です。更に北のカルドベック、西のオートン、南のソーンブローはすべて城塞都市。大兵力をもって、この三都市を占領しておけば、各国の援軍がペリクリトルに向かったとしても、そう簡単にはペリクリトルにたどり着けないでしょう」


 そして、魔族の戦力の補強について言及していく。


「先生のおっしゃるとおり、魔族の魔物“製造”にどの程度の期間が必要なのかは判りません。ですが、ラクス王国のチュロック砦では、数人の魔物使い(モンスターテイマー)が三千のオークを操っていました。奇襲の効果を考えると、それほど長い時間を掛けたとは思えません。実際、我々が最初にオーガと遭遇してから、僅か三ヶ月で砦に奇襲を掛けてきたのです。人口の少ない辺境でそれが可能だったのです。これだけの大人口を抱える都市なら、更に早く戦力を整えることができるでしょう」


 ランダルを始め、全員が彼の言葉に聞き入っていた。


「もし、ペリクリトルではなく別の村や街が標的と考えると、彼らの行動は辻褄が合いません。敵の戦力ならグズグズせずに村を襲えばあっという間に蹂躙できるからです。城塞都市である、カルドベックやソーンブローを襲うことも考えにくいと思います。ここペリクリトルを放置したまま攻撃すれば、城を攻撃している間にペリクリトルの戦力に後ろから襲いかかられるわけですから」


 指揮官たちにはイメージしやすいのか、全員が頷いている。


「現在、各国からラクス王国へ援軍が送られています。この援軍は雪に閉ざされた辺境にいます。更に各国とも更なる大規模な援軍を編成するには、かなり時間を要するでしょう。つまり、現時点でここペリクリトルに大規模な援軍が派遣される可能性は低いということです。もちろん、魔族側もこのことが判っていますから、まずは、最大の戦力であるペリクリトルを叩き、じっくりと城塞都市を落としていくのではないでしょうか」


 全員が頷くのを見てから、ごくりと唾を飲み込み、話を続けていく。


「敵は我々に一度だけ痕跡を見せました。では、なぜ敵は十日もの間、姿を現さないのでしょうか? これについては情報が少ないため、かなり無理な推論になります……敵はこちらの戦力を分散させようとしているのではないかと思われます」


 レイの話についていけないのか、ランダルを始め、指揮官たちは少し首を傾げていた。


「こちらの冒険者は集団戦より斥候や偵察が得意です。一度いることを示してから、姿を消せば、大規模な調査をすると簡単に推測できます。魔族は固まって行動できますが、偵察に出た冒険者たちは当然、森の中に分散していきます。これだけ広い森なら、数百単位で斥候を出すことは容易に想像できますし、引き揚げの命令を瞬時に伝える手段がありませんから、その隙を突けば敵は有利に攻撃を掛けられるでしょう」


 ランダルが「ということは、俺たちは敵に乗せられたということか?」と苦い表情で尋ねる。


「そうかもしれません。今のところ、この街を守る戦力の二割程度は斥候に出ています。これについてはすぐに引き揚げさせるべきだと思います」


 三十代後半の男が反論する。


「しかし、敵情を探るのは兵法の基本。敵の位置も戦力も判らず、戦いに入るのは無謀ではないか?」


 レイは「一般的にはおっしゃるとおりかと思います」と答える。


「ですが、今回に限っていえば、敵の戦力は最低でも我々より強力です。そして、彼らはどこかの拠点を攻撃しようとしている。リッカデールとそこに行くまでの村々が標的だったとして、我々の戦力では敵を阻止できません。少なくともペリクリトルを空にするわけにはいきませんから、現有戦力の半数を回すのが限界ではないでしょうか?」


 ランダルが「そうだな」と頷く。


「言い方はよくないですが、その村々が襲われれば、我々は助けようがないのです」


 最初に質問した指揮官が「それでは村を見棄てろというのか」と立ち上がる。


()は見棄てます。ですが、村人(・・)は見棄てません。村人を安全な城塞都市に避難させれば、人的な損害は回避できます」


 その指揮官は「うむ」と言って椅子に座りなおす。


「我々の戦力ではすべてを守ることはできません。更にいえば、このペリクリトルすら守れるかどうか判らないのです。であるなら、勝率を上げるため、可能な限り戦力の集中を図るべきだと思います」


 レイはそこで少し間を置く。

 ランダルがおもむろに口を開き、


「俺はレイの考えを支持する」


 その言葉に指揮官たちも、仕方がないという感じで賛同の声を上げた。


「戦力の集中については判った。だが、先ほどお前が言ったとおり、全冒険者を集めたとしても、俺たちの勝率は著しく低いはずだ。何か案はあるのか?」


「あるにはありますが……その前に魔族の密偵を炙り出さなければ、策が筒抜けになってしまいます」


 彼の言葉に「魔族の密偵だと!」と指揮官たちが色めき立つ。

 ラスペードが静かに話し始めた。


「アークライト君の言いたいことは、仮説の域を出ぬ話だ。魔族の魔物使い(モンスターテイム)の方法を人に利用すれば傀儡くぐつとできるという仮説だ。だが、この状況では仮説だからと言って放置することは甚だ危険だろう」


「先生のおっしゃるとおりです。私の考えでは既に傀儡が入り込んでいると考えます」


 ランダルが渋い顔をしながら、


「見当はついているのか?」


 レイは「はい」と頷き、突然話題を変える。


「数千を超える魔族軍の痕跡を追えないのはなぜでしょうか?」


 再び四十代の指揮官が「痕跡を追ったパーティが始末されてしまったからだろう」と答える。


「ですが、戻ってきたパーティのルートを見れば、行方不明のパーティの担当区域をカバーできているはずです、本隊そのものを見つけられなくても、少なくとも移動の痕跡に気付くはずです」


 一瞬、場が重い空気に支配される。その空気をランダルが破った。


「つまり、戻ってきた六つのパーティのいずれかが傀儡になっているというのだな」


「その可能性が高いということです。証拠はありませんが、見つけ出す方法は考えてあります」


「判った。だが、もし、その中に傀儡がいなかった場合はどうするのだ?」


「その時はそのまま策を実行します。その策についてですが……」


 レイはランダルたちに自らの考えた策を説明していく。


「……かなり大掛かりな策ですが、密偵さえいなければ、まず気付かれることはありません」


 ランダルはレイの策を聞き、しばらく言葉が出てこなかった。


「確かに有効だとは思うが……奴らがお前の言うとおり動くとは思えんが……そもそも実行できるのか……」


 レイはその問いに対して、


「判りません。光神教を含め、不安要素が多すぎますから、賭けの要素が大きいと思っています。ですが、すべての住民を避難させられないこの状況では、私にはこの手しか思いつきませんでした。採用するかしないかは司令のランダルさんと議会の方々の決断次第です。ですが、時間がないことだけは心に留めて置いてください」


 レイはそれだけ言うと、口を閉じる。

 沈黙が会議室を支配する。一分後、ランダルは重々しく口を開いた。


「俺はレイの策を採用しようと思う。意見を聞かせてくれ」


 指揮官たちは互いを見ながら、首を振っていたが、今まで発言しなかった一番若い男が口を開いた。


「私もアークライト殿の策に乗るべきだと思います。これ以上(・・)の策、いえ、これ以外(・・)の策を思いつかない以上、採用せざるを得ないのではないでしょうか」


 ランダルはその言葉で決断した。


「議会に諮るが、議会が反対しても防衛司令官の権限で、この策を実行する。諸君らはすぐに準備を始めてくれ。レイ、お前は魔族の傀儡の炙り出しを頼む。俺の権限を使ってもいい。大至急見つけ出してくれ」


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