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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第三章「冒険者の国・魔の山」

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第二十八話「小説の真実」

 レイは夢を見た。

 日本にいる頃の、高校に通っていた頃の夢を。


 アシュレイとステラに両手を握られながら眠っていた彼は、ゆっくりと目を開ける。

 そして、日本にいた時のことを思い出していた。


 彼は関東の地方都市に住んでいた。

 彼の育った家は平凡な家庭で、地方公務員の物静かな父と陽気な母、そして、姉が一人に弟が二人の四人兄弟の二番目。体が小さく、運動が苦手なことがコンプレックスだが、大きなトラブルもなく、平和に過ごしていた。

 消極的な性格であったが、親友と呼べる友人がいた。その友人は社交性があり、性格的には引っ込み思案で人見知りのする礼とは百八十度違うが、なぜか馬が合い、小学生ころから一緒に遊ぶことが多かった。

 その友人、成海龍司は絵に画いたような人気者だった。スポーツは万能で明るい性格とそのカリスマ性でクラスの中心人物になるような男だ。

 礼は龍司と常に一緒にいたため、小学校から高校までいじめを受けることなく、平穏な少年時代を過ごすことができた。

 高校に入ると、彼は初めて恋をした。それまでも憧れに似た感情を覚えたことはあったが、初めて見た瞬間から彼女のことが気になり、見る度に魅かれていくと感じたのは初めてのことだった。

 その女性、月宮瑠奈は、成績は常に上位にあり、更にスポーツも得意。特に弓道では一年生ながら地方大会で入賞するほどの腕前だった。

 そして、弓を引く凛とした姿はたちまち評判となり、学校のアイドル的な存在になっていた。

 礼もそんな彼女のファンの一人だった。

 彼は学業こそ優秀だったが、常に図書館で本を読んでいるようなインドア派であり、彼女との接点はクラスメイトというだけ。

 更に自分の容姿、特に百六十cmほどの身長にコンプレックスを感じており、彼女にアプローチすることを最初から諦めていた。


(雲の上の存在だったんだよな。見ているだけでも良かった。席が彼女の後ろになったときは後姿が見れると喜んだくらいだから……)


 そして、高校一年の夏休み、彼はファンタジー世界を舞台にしたライトノベルと呼ばれる分野の小説を書こうと考えた。

 憧れの女性、瑠奈を主人公にした小説を書き始めた彼は、トリニータスという世界で擬似的な恋愛をしていた。


(ルナを主人公にして、その脇役に自分を投影したんだ。そう、ライアンが僕のなりたかった姿。身長が高く、力も才能もある。性格的には、うじうじと悩む僕とは正反対の、熱くてさっぱりとした性格。そして、好きになったら何があっても想い続ける一途さ。そう、ライアンは龍司の姿に自分のなりたかった性格を反映したキャラだったんだ……実際に会ってみると、ちょっと単細胞な感じがして、一途というより周りが見えていないっていう感じなんだけど、それでもあの性格には憧れる。形振り構わず一人を愛し抜く。今考えると僕の理想とは少し違うような気がするけど……)


 礼はルナの物語を思い出していた。


(……彼女の父は魔族、母は人間。異種族である二人の間に奇跡的に子供が出来た。だが、保守的な魔族、鬼人族はその子供を忌み子として抹殺しようとした。本当は忌み子ではなく、“月の御子”と呼ばれる神の依り代だった……母は魔族の国から逃げ出し、冒険者の国に近い小さな村に逃げ込む。偶然、その村の猟師に助けられ、ルナが生まれた。母はその猟師の妻となり、ルナは猟師の娘として育っていく……だが、十歳の時に鬼人族に村が襲われ、彼女以外皆殺しに遭う。偶然、村を訪れた冒険者に助けられ、彼女は冒険者として生きていくことになった……ルナに神が降りてくると、世界に災厄が撒かれることになる……確かこういう設定だったはずだ)


 彼の小説“トリニータス・ムンドゥス”は、彼女が十六歳、冒険者として独り立ちしたときから物語は始まり、魔族の侵攻を迎えたところで中断していた。


(結構ハードな半生なんだよな……幼い時はいじめられ、知り合いは魔族に皆殺しに遭い、助けてくれた冒険者に失恋して、独り立ちしたんだ。その時、現れたのがライアン。そして、それは僕。僕がなりたかった姿、やりたかったこと……)


 まどろみの中で彼はこの世界のことを考えていた。


(この世界は何なのだろう? 僕はなぜこの世界のことを書いたんだろう。僕がこの世界を作った? それはあり得ない。僕が気付かない間に誰かがこの世界のことを伝えた?……それなら、あり得るかもしれないな。潜在意識のようなものにトリニータスのことを刷り込まれる。それを僕は自分で考え付いたことだと思ってしまう……)


 そこでルナのことを思い出す。


(ルナが月宮さんなら、日本の高校生がこの世界に転生したことになる。月宮さんがなぜ選ばれ、僕がなぜそのことを知ったんだろう? 月宮さんがその存在に選ばれ、たまたま僕も選ばれた。でも、なぜ僕が?……もしかして……もしかしたら、逆かもしれない。僕が小説に書いたから、この世界のことを僕に刷り込んだ存在がそれに気付いて、月宮さんを呼んだのかも……僕の心を弄っている存在なら、そんなことをできてもおかしくはない……絶対にないとは言えないんだ……)


 レイはその考えに愕然とする。


(……だとしたら、僕が書いた小説の被害者かもしれない。ルナの波乱万丈の半生は僕が考えたものだ。もし、そのレールの上に彼女が載せられたのだとしたら、僕はとんでもないことをしたのかもしれない……もちろん、そんなことがあるとは思っていなかった。普通なら絶対ありえない話だから……でも、もし万が一、僕のせいなら、この先に起こることを防ぐ義務が僕にはある。考え過ぎかもしれない。でも、可能性を否定できないなら、僕は彼女に対して責任を取る必要がある……)


 レイはそこで腹を括った。


(ルナ、いや、月宮さんに対して責任があるかは判らない。僕のような平凡な男の考えで、彼女に迷惑を掛けたというのは自意識過剰かもしれない。多分、そうなんだろう……それでも、僕は自分にやれることをやるしかないんだ! ペリクリトルに行こう。そして、ルナに、月宮さんにすべてを話そう。そして、彼女を魔族から守る。今僕にできることを全力でやるしかない……)


 そして、手を握りながら寝ているアシュレイとステラを交互に見つめる。


(今、僕にとってこの二人が家族だ。この二人を巻き込みたくない……もし、魔族の侵攻が始まれば、ペリクリトルは蹂躙される。それもオーガという強力な魔物に。そして、ペリクリトルにいる女性は魔物の“製造”道具にされる。この二人をそんな目に遭わせたくない。今回は僕だけで十分だ……)



 レイが目覚めた後、ステラ、アシュレイと目覚める。

 そして、レイが落ち着きを取り戻していることに二人は安堵する。


「落ち着いたようだな。一時はどうなるかと心配したが……元に戻ったのなら、それでいい」


「はい。元に戻ってさえ頂ければ、何も問題はありません」


 嬉しそうに笑う二人に、「心配掛けてごめん」と謝った後、レイは自分の考えを話し始めた。


「多分、すべてを思い出したんだと思う。まず、ルナについてなんだけど……」


 彼はルナが自分と同じ学校に通っていた同級生であり、彼女に恋心を抱いていたこと、彼女を自分の小説の主人公としたこと、その小説で彼女に試練を与えてしまったかもしれないことなどを話していく。


「……多分、僕の考えすぎなんだと思う。僕の小説が世界に影響するなんてありえないとも思っている。でも、万が一、僕のせいなら……ううん、僕のせいじゃなくても、月宮さんに、ルナに話しておかないといけないと思うんだ。少なくとも彼女が魔族に攫われると、大変なことになる。とんでもない災厄がこの世界を襲うかもしれないんだ。だから、僕はペリクリトルに行く。そして、彼女に話し、街を守る手伝いをする」


 二人は最後まで黙って話を聞いていた。

 聞き終わった後も、自分の理解の範疇を超えた話が多く、頭の中が整理できないため、言葉が出てこなかった。

 しばらくすると、アシュレイが口を開いた。


「ペリクリトルに向かうのだな。そう決めたのだな」


 アシュレイの搾り出すような問いに、レイは吹っ切れた表情で首を縦に振る。

 彼女はステラの方を見ながら、


「では、私もお前とともにペリクリトルに行く。もちろん、ステラもだ」


 ステラが嬉しそうに頷くが、レイは少し悲しそうな顔で首を横に振った。


「今回は一人で行く。ラスペード先生の話を聞いただろう。ペリクリトルが魔族に占領されれば、どうなるか。僕にとって大切な二人が魔族に……お願いだ。僕一人で行かせてくれ」


 最後に大きく頭を下げて、彼は懇願した。

 その言葉に「レイ様は何も判っていません!」とステラが大きな声を上げた。


「私もアシュレイ様もあなたが大切なんです。あなたが行くなら一緒に行きます。どんな危険なところでも……どうか、連れて行ってください。お願いします……」


「ステラの言うとおりだ。お前は何も判っていない。お前が死ぬかもしれないのに私が安全な場所で大人しくしていられると思うか?」


 そして、彼の手を取り、


「ミリース谷のことを思い出せ。あの時、ステラが中鬼族の指揮官を襲撃に行った時、お前はどうした? 父上に何を言った? よく考えてみろ。残されたほうのこと」


 レイはその言葉に頬を打たれたように目を見開く。


(そうだ。あの時、僕はハミッシュさんに酷いことを言うほど逆上したんだ。仲間が死地に向かったのに何もできないと絶望して……今回は僕が無茶をしようとしているんだ。残される二人のことを考えていなかった。でも、三人とも死ぬ必要はない。二人は僕がいなくても大丈夫だ……)


 レイがそのことに気付き、「ごめん。でも……」と言いかけたとき、ステラがおもむろに口を開いた。


「私は何があってもついて行きます。一人で行かれても構いません。ですが、私は必ずあなたの後を追いかけます」


 そして、にこりと笑い、「それなら、一緒に行っても同じではないですか」と付け加える。

 アシュレイはステラの言葉に笑顔を見せ、


「ステラの言うとおりだ。ミリース谷とは違うのだ。私もステラもお前を追いかければいいだけのことだ。レイ、そういうことだ、諦めて連れて行け」


 彼は「でも……」と言った後、泣き笑いのような表情で二人に微笑みかける。


「ごめん。二人の気持ちを考えていなかったよ。一緒に行こう。もし、危なくなっても三人なら何とか出来そうだし」


 三人は固く手を取り合い、笑顔を見せていた。


 食堂で朝食を取っていると、ジニーが下りてきた。

 三人が装備に身を固めていることに気付き、


「どうしたの? 今日も魔物の討伐に行くつもり?」


 レイは「ペリクリトルに戻ります。街の防衛に手を貸すことにしました」と晴れやかな笑顔を見せる。

 ジニーは昨夜の様子と違うことに気付くが、それよりも危険が迫るペリクリトルになぜ戻るつもりなのかが気になっていた。


「危険なんでしょう? こう言ってはなんだけど、あなたたちが凄腕の傭兵だって知っているわ。でも、たった三人じゃ大して役に立たないわよ。それなら、安全なところにいた方が……」


 レイが答える前にアシュレイが話し始めた。


「判っているつもりだ。だが、私とステラはともかく、レイは一人でも役に立つ。何せ、ミリース谷の“白き軍師”殿だぞ。こいつは戦いになると途端に知恵が回るようになる。ランダル殿のいい相談相手になれるはずだ」


「アッシュ、今のはちょっと酷いんじゃないか。闘いにならないと知恵が回らないようにしか聞こえないぞ」


 レイが少しむくれた顔でそう言うと、アシュレイとステラが笑い出した。レイはむくれている振りをしていたが、すぐに釣られて笑い出してしまった。

 ジニーはその姿を見て、


(何か吹っ切れたようね。この人たちなら、何とかしそうな気がするわ)


 一頻り笑った後、レイは真剣な表情でジニーに話し始めた。


「ジニーさんにお願いがあるんです。オーガの話を冒険者ギルドと傭兵ギルド、商業ギルドに流して欲しいんです。既に情報は来ていると思うんですが、実際に街の状況を見た人が話した方がいいと思うので」


「判ったわ。情報を流せばいいのね。それだけかしら?」


「学院で魔物使い(モンスターテイム)の研究をしている先生を捕まえて、操られている魔物にどう対処していいか聞いておいてください。何でもいいんです。情報があれば手紙を送ってください。お願いします」


「判ったわ。私はここにいればいいのね」


「はい。ペリクリトルに若い女性が行くのは危険ですから……」


 ジニーは「気を使ってくれているのね。ありがとう」と言って、その場を離れる。


(本当に優しい子ね。魔物の召喚の話を知っているから、私がペリクリトルに行かないように気を使ってくれている。あの二人くらい強ければ、私も惚れたかもしれないわ。年下だし、結構可愛いしね……)


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