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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第三章「冒険者の国・魔の山」

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第二十話「報告」

 ティセク村から何とかソーンブローに生還したレイたちは、宿に入ると食事もそこそこにベッドに倒れ込む。

 二日前にこの宿を出てから満足な休息も取れず、鍛えられているはずのアシュレイ、ステラですら疲労し切ってきた。

 特にレイは魔力をほぼ使い切り、体力、気力とも限界であった。ソーンブローまではアシュレイのフォローをしなければと気を張っていたが、宿に着いた途端、緊張の糸が切れ、装備を外しただけでベッドに倒れこむ。


 翌朝、三人はいつもより遅い時間に目覚め、のんびりと朝食を取っていた。


「この後、魔術師のジニーさんに会いに行こうと思うんだけど」


 レイの提案にアシュレイが首を傾げる。


「ジニーに会ってどうするのだ?」


「魔法陣の調査を依頼しにドクトゥスに行こうと思うんだ。なら、ドクトゥスに詳しいジニーさんに話を聞いておいた方がいいかなと思って」


 アシュレイとステラは彼がペリクリトルに残らず、約束通り別の街に移動してくれると聞いて顔を綻ばす。


「ジニーは疲れ切っていた。午前中は休みたいだろうから、午後に行った方がいいだろうな」


 レイもそれに頷き、午後からアルドのパーティが泊まる宿を訪問することにし、午前中はゆっくりと過ごすことにした。


 昼食を取ってから、アルドたちの泊まる宿に向かった。

 ジニーは午前中一杯寝ていたようで、昨日に比べるとかなり回復していた。

 彼女はレイたちが自分を訪ねてきたことに首を傾げているが、レイに近づきたかった彼女は疲れた表情を隠し、笑顔で三人を迎える。


「どうしたの? 私に何か用でも?」


 レイが「疲れているのにすみません」と頭を下げ、ここに来た理由を話し始める。


「実は魔法陣の情報をランダルさんに報告した後、ドクトゥスに行って調べようと思っているんです。でも、僕たちは魔術学院に知り合いもいませんし、ジニーさんに相談に乗ってもらおうと思って……」


 ジニーは得心したとばかりに、「判ったわ」と彼の話を遮り、


「誰か詳しい先生を紹介すればいいのね。そうね……ラスペード先生がいいかも」


 そう呟いた後、「私も同行していいなら、直接紹介するわよ」とレイにコケティッシュな笑顔を向ける。

 その顔にステラが一瞬眉を顰めるが、レイはそれに気付かず、


「いいんですか? リーダーのアルドさんに断らずに勝手に決めても?」


「いいのよ。別にこのパーティにずっといると決めているわけでもないし、アルドさんも私みたいなお荷物がいない方が楽だろうし」


 あっけらかんとそう言われたレイは、冒険者のパーティとはそんなものなのかと、意外に思っていた。


(そんなものなのか。命を預けるパーティメンバーなのに……意外だな。まあ、同郷でもない限りずっと一緒ってわけでもないのかもな)


 アシュレイとステラは、明らかにレイを狙っているジニーと行動を共にすることに不安を隠せないが、ドクトゥスに伝手があるわけでもないので、認めるしかなかった。


 ジニーは善は急げと言わんばかりに、「アルドさんに話してくるわ」と一言言うと、アルドの部屋に行ってしまった。残されたレイたちはあっけに取られたまま、彼女の部屋で待つしかなかった。


 ジニーはアルドの部屋に行くと、すぐにパーティを抜ける話を始めた。


「……というわけで、この任務が終わったら、レイ君たちと一緒にドクトゥスに行くわ。いいでしょ?」


 アルドは少し困った顔をするが、


「まあ、仕方ねぇな。お前がそう決めたんなら自由にしな。戻ってきたくなったら、いつでも声を掛けてくれ」


 ジニーはアルドにペコリと頭を下げ、チェスターとニールにも話をする。

 二人は気ままなジニーらしいと笑うだけだった。



 部屋に残された形のレイたちは、この展開についていけない。

 レイはアシュレイに「冒険者のパーティって、こんなに自由なものなのかい?」と尋ねる。


「私もソロだったからな……冒険者のやり方にはあまり詳しくない。もしかしたら、ジニーもソロに近いメンバーだったのかも知れんな……」


 アシュレイは自分の経験を思い出しながら、


「……気の合うパーティとは、何回か一緒に依頼をこなしたこともある。それに近いのかも知れん」


 しばらくすると、アルドらに説明を終えたジニーが戻ってきた。


「お待たせ。アルドさんもチェスターさんもニールも、問題なかったわ。快く送り出してくれたわよ。もちろん、この依頼が終わるまではアルドさんのパーティメンバーだけどね」


 その言葉にステラが、


「ジニーさんには、ドクトゥスで専門家を紹介頂くだけでは? パーティを抜ける必要はないと思うのですが? 快く送り出すとはどういったことなのでしょう?」


 隣でアシュレイも頷いている。ジニーは「えっ?」という顔をした後、


「私はこのパーティに入れてもらうつもりなんだけど? レイ君、いいでしょ?」


 レイは突然の話に「えっ?」と戸惑う。


「僕たちは三人で旅をするつもりですから……もちろん、ドクトゥスまでは一緒に行動しますけど……」


 ジニーは悲しそうな顔を作り、


「……そんな……私はパーティに入れてもらえるんだと……」


 レイがその言葉に困っていると、アシュレイが静かに話し始める。


「別にパーティを組んでいるわけではないが、我々と旅を共にするつもりなら、それなりの強さになってもらうぞ。そうだな、レイ、ステラ?」


 レイは戸惑いながら「ああ」と頷く。

 ステラはアシュレイの意図が読めたのか、笑みを浮かべながら、


「はい、魔法専門なら、少なくともレイ様以上の攻撃魔法を使えるようになって頂かないといけませんね」


 ジニーは「無理、無理」と首を横に振る。


「あんな魔法、魔術学院の専任講師でも使えないわよ」


「それでは努力するのだな。我々と共にあろうというなら、この腕甲(ヴァンブレイス)を付けられる程度の腕になってもらう必要がある」


 アシュレイはそう言いながら、ハミッシュから贈られた朱色の腕甲を軽く叩く。

 レイにもようやく話が見えたようで、ニヤリと笑いながら、


「僕たちは基本的には傭兵だからね。少なくともマーカット傭兵団(レッドアームズ)でやっていけるだけの体力は維持しないと。一緒にいるなら訓練の手伝いはしますよ」


 ジニーは三人の強さを思い出し、


(絶対に無理よ。昨夜アルドさんが言っていたけど、この三人は三級クラスの実力があるって。それにレッドアームズって言ったら厳しい訓練で有名だもの。そんな人たちに寄って集ってしごかれたら……レイ君は勿体無いけど命あっての物種だしね)


 ジニーはふぅと息を吐き、少し残念そうな笑顔になる。


「判ったわ。私には無理そう。でも、ドクトゥスには一緒に行くから」


 その言葉を聴き、ステラは心の中でホッと息を吐く。


(良かったわ。これでこの人にかき回されずに済むわ)


 アシュレイも同じように考えていたが、レイはそれに気付くことはなかった。


 ジニーはアシュレイとステラが、レイにこれ以上女性を近づけまいとしていると気付いていた。


(この二人がいる限り、レイ君に近づくのは無理ね。それにしてもどういう関係なのかしら? アシュレイさんとレイ君は恋人同士だって判るけど、ステラって娘は何なんだろう? まあ、私には関係ないわね)


「話は変わるけど、出発前に呪文を教えてあげるっていう話は覚えている?」


 ジニーは突然話題を変える。

 レイは「ええ、覚えていますよ」と答えるが、話の意図が読めない。


「相談なんだけど、呪文を教える代わりに、君のあの“追いかける魔法”を教えてくれないかな?」


 ジニーはレイの追尾型魔法の秘密を探ることに切り替える。

 レイは「いいですけど……」と言葉を濁し、


「僕は前にも言いましたけど、記憶を失っているんです。だから、普通の魔術師の修行方法を覚えていないんです。ですから、自分なりにイメージした魔法なんで、どう伝えたらいいのか……」


「そう……あなた()“天才”なのね」


 レイは「あなたも?……ですか?」と聞き直す。


「ええ、私が学院にいた時、物凄い天才がいたの。最年少で入学を果たしただけじゃなくて、ダントツの首席で合格したの。正直、学院に来る必要なんて無いんじゃないって思うほどの天才。その子がオリジナル魔法を結構使っていたから、ちょっと思い出したのよ」


(オリジナル魔法って、他にも作れる人がいるんだ。その割にはハミッシュさんもヴァレリアさんも驚いていたよな……)


 その後、追尾型魔法の練習をするが、やはりジニーには習得することができなかった。


 翌十一月十四日の朝。

 丸一日の休養で疲れのとれた調査隊は、ソーンブローを出発した。



 月魔族のヴァルマ・ニスカは、ステラの索敵能力を警戒しつつ、ソーンブローの街を見張っていた。


(ようやく出発したようね。あの三人が一緒か……“御子”様に接触するのは無理ね……)


 調査隊がペリクリトルに向け、街道を北上するのを確認し、森の中に消えていった。



 十一月十五日の夕方、調査隊一行は無事ペリクリトルに帰還した。

 懸念していた魔物の襲撃も無く、ステラが感じた視線も無かった。

 アシュレイは各パーティのリーダーを伴い、ペリクリトルの防衛司令官ランダル・オグバーンのもとに向かった。


 ランダルの部屋に通されると、アシュレイはすぐに報告を始める。


「ティセク村の南、約二kmにある洞窟内で魔族の物と思われる痕跡を発見しました……」


 彼女が報告を始めると、ランダルの表情が見る見る厳しくなっていく。

 五分ほどで報告を終えるが、ランダルは腕を組んだまま口を開かない。

 アシュレイたちも沈黙を保っているため、彼の部屋には重苦しい空気が立ち込めていた。

 一分ほど経ったとき、ランダルがおもむろに口を開いた。


「ご苦労だった……魔族に間違いはないのだな。いや、翼魔を倒しているから、疑っているわけではないのだが……あまりに衝撃的な報告だったからな……」


 いつもの無頼な感じのしゃべり方ではなく、報告内容に衝撃を受けたのか、重々しい感じのしゃべり方になっていた。


「魔物の襲撃についてだが、灰色猿(グレイエイプ)岩猪(ロックボア)、ハーピーが同時に攻撃を掛けてきたんだな。餌を取り合うわけでもなく、協力しているような感じで」


 アシュレイが頷くと、


「そして、魔物使い(モンスターテイム)の魔道具もないと……これは相当厄介な情報だな」


「それはどういう意味でしょうか?」


殺人蜂(キラーホーネット)の話を聞く限り、かなり自由に動かせるのだろう。魔物使いの魔道具はほとんど出回っていないが、そこまでできるという話を聞いたことはない。精々、目標を決めて攻撃しろといった程度だったはずだ……」


 そこで一旦言葉を切り、顔を顰めながら話を続ける。


「少なくとも二十匹単位の魔物を自分の思い通りに使役できるすべを持っているのだ。奇襲、夜襲、撹乱……どのような使い方でもできる……」


 ランダルの懸念がレイには理解できていた。


(灰色猿のような魔物が、暗闇に紛れて密かに街に入ってきたら……街は大混乱だ。毒蛇なんかで要人の暗殺もできる。それを考えているんだな、ランダルさんは)


 ランダルはその話を打ち切り、報酬について話し始めた。


「今回の依頼は五級相当の依頼だ。契約通り、四級、五級が四百(クローナ)(=約四十万円)、六級が三百Cでいいな」


 全員が頷くと、


「今回の情報は非常に重要な情報だ。追加報酬ボーナスとして一人当たり百Cを支払おう」


 アシュレイは頷きながらも、野営道具を放棄した補償を求める。


「判った。金額が判らんから、一律百Cで手を打ってくれ。それ以上は無理だ」


 アシュレイはボリスらに目配せし、彼らが頷くのを確認すると、「了解しました。それでは失礼します」と言って立ち上がる。

 他のメンバーも同じように立ち上がり、ランダルの部屋を出て行った。


 残されたランダルは今回の情報について考えていた。


(魔族か……レイが魔族の大規模な襲撃があると言っていたが、それの前兆なのか? だとしたら……二級、三級(ベテラン)連中を引き揚げさせた方がいいかもしれんな……)


 彼は今回の情報をペリクリトルの運営議会に報告し、防衛計画の見直しについてはかることにした。

 彼の計画は、アクィラ山脈に派遣しているベテランたちを呼び戻し、更に冒険者ギルド長の権限により緊急事態を宣言、街の防衛に冒険者たちを組み入れるというものだ。

 三日後、各ギルド長らからなる運営議会が開催されるが、今回の情報の信憑性に疑問が呈され、防衛計画の見直し案は否決された。

 但し、議長である冒険者ギルド長の意見により、ペリクリトル周辺の警戒を強化することについては承認された。



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