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トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語~  作者: 愛山 雄町
第三章「冒険者の国・魔の山」

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第十六話「待ち伏せ:前篇」

 洞窟の調査からティセク村に戻った調査隊は、不安な夜を迎えていた。

 夜半過ぎ、ボリスとアルドの班が警戒に当たっているときにそれは起こった。


 ボリスとアルドの班は拠点にしている民家の外で、二箇所に別れて警戒に当たっていた。

 表側をボリスの班が、小川がある裏側をアルドの班が担当していた。

 獣人のアルドが小川の先に複数の光る目を見つける。彼が警告の声を上げようとしたとき、狼のウォーンという遠吠えが村に響き渡る。


「狼だ! 小川の先、三十m。ジニーはアシュレイに状況を伝えてくれ」


 さすがにパーティを組んで長いのか、全員躊躇いもなく即座に行動を開始していた。魔術師のジニーが家の中に駆け込み、弓術士のニールは民家の壁を盾にするように立って弓を構える。そして、槍術士のチェスターはアルドを支援できる位置に移動していた。


 アルドの目には狼たちの光る目が十対以上見えていた。


「十頭はいるぞ。森狼くらいだが、油断はするな」


 彼の警告の言葉が合図になったのか、狼たちが灯りの魔道具で照らされている裏庭に次々と飛び込んできた。

 ニールはすぐに矢を放ち、一頭の狼の首を貫く。

 狼たちは全く怯まず、前衛のアルドに襲い掛かっていく。


「数が多い! 適当にいなすぞ! チェスター、横に回る奴を頼む!」


 チェスターは槍を振り回しながら「オウ!」と答え、アルドの左に回った狼の脇腹に槍を突き立てていた。


 騒ぎを聞いたボリスがアルドの応援にやってきた。


「エリス、フランク! アルドの横を固めろ! ミレーヌは遠くにいる奴を積極的に狙え!」


 ボリスたちが増援に来たことから、狼たちに最初の勢いはなくなり、警戒するような、隙を探すような感じで、彼らの前をうろうろと左右に歩いている。

 その間にも、弓術士のニールとミレーヌは前衛の間から狼たちに矢を放ち続けている。

 アシュレイたちが裏口から現れると、狼たちの戦意は一気に喪失していった。

 狼たちは小川を飛び越え、次々と森の中に消えていく。

 襲撃を退け、ホッとしたその瞬間、ステラの叫び声が全員の耳を打った。


「屋根に火が放たれています! 表側に敵が!」


 アシュレイは「クソ、陽動か!」と吐き捨てた後、「アルド、裏は任せた!」と言って、表に走っていった。


 レイは裏口から出ようとしたが、ステラの叫び声で表側に走っていた。


(陽動? 狼をけしかけてその隙に? 火攻め?)


 いくつかの疑問が湧き上がるが、表側の入口から慎重に外を覗く。

 そこには、炎の球を茅葺屋根に投げつける翼魔(レッサーデーモン)の姿があった。


「翼魔だ! 魔法に気を付けろ!」


 レイの警告を聞いた翼魔は炎の球を彼に向かって投げつける。

 彼は入口の土壁を盾にしてそれを回避するが、その隙に翼魔の姿は闇の中に消えていた。

 彼が外に出ると、屋根は大きく燃え上がり、すでに消火が不可能な状態になっていた。


 自分たちの荷物を運び出した頃には、民家の屋根は巨大な松明と化して、夜空を焦がしていた。

 アシュレイは建物の中にいる不利を悟り、


「隣の家の壁を盾にして野営するぞ! 遮へいに使えそうなもので壁を作れ! 翼魔がいるから遠距離からの魔法攻撃に注意しろ!」


 その指示を聞きながら、レイは注意しようがないと首を振っていた。


(翼魔が使う闇の矢は暗闇ではほとんど見えない。気付いた時には攻撃を受けていることになるんだ。僕とステラで守れば何とかなるんだろうけど、それだと明日の、いや、もう今日か、今日の行軍に支障が出る。さて、どうしたらいいんだろう……)


 アシュレイもこの事態をどう打開するか考えていた。


(敵は魔物を使役できるようだ。昼間のキラーホーネットといい、先ほどの森狼といい、明らかに操られている。それに敵の戦力、特に翼魔の数が判らぬのが痛いな。何匹いるのか判らぬ状況では打って出ることも出来ん……夜明けまで警戒を強めて可能な限り休息を取るしかないな)


 二十分ほどで近くにある廃材を利用した遮へいが完成する。


「灯りの魔道具を点けておいてくれ! 敵を見つけても無暗に飛び出すな……」


 アシュレイは次々に指示を出していく。

 村の中は民家が燃え、崩れていく音が聞こえるだけで、敵の気配はない。

 もう夜襲はないと思ったとき、暗闇の中から漆黒の闇の矢が撃ち込まれる。

 その矢は警戒に当たっていたボリスの班の弓術士、ニールの頬を掠っていく。


「敵襲! 魔法だ! 表側だ!」


 彼の声で休もうとしていたアシュレイたちが叩き起こされる。

 レイは敵の姿を探すが、闇に紛れて全く見つけることが出来ない。

 横にいるステラに「敵の居場所は判るかい?」と聞くが、彼女も首を横に振るだけだった。


 その後、何度か単発の魔法を撃ち込まれ、調査隊はほとんど休息を取ることが出来なかった。


 そして、十一月十二日の朝を迎えた。

 まだ、空は深い紺色に染まっているが、徐々に明るさが増していく。


 調査隊の面々は夜襲による睡眠不足で皆疲れた顔をしていた。

 比較的元気なのは、アシュレイら三人だけで、三人が食事の準備や周囲の警戒などを行っていた。

 アルドがレイに「元気だな」と呟くと、レイは食事の準備をしながら、「ミリース谷に比べたら、このくらい大したことはないですよ」と笑顔で答えていた。


(全然傭兵らしくねぇが、こいつもマーカット傭兵団(レッドアームズ)なんだな。この状況で笑っていられるんだから、ミリース谷っていうのはどんな地獄だったんだろうな)


 空が白み始めた頃、出発の準備は完了していた。


 斥候として先発するステラとアルドが出発していく。

 彼らの姿が森に消えたタイミングで、アシュレイが全員に向かって指示を出していく。


「隊列は一昨日と同じだ。先頭が私とレイ、その後ろがアルドの班、ヘーゼルの班、殿がボリスの班だ。ボリス、今回はかなり危険だが、頼んだぞ」


 全員が頷くと、更に注意事項を徹底していく。


「昨日の夜襲は嫌がらせに過ぎん。つまり、これからが本番ということだ! 奇襲、罠、狙撃。何でもありだと考えておいてくれ。絶えず周囲に気を配れ! 命令があるまでその場を離れるな! では、出発する!」



 ステラはアルドと共に森の中にいた。

 ステラほどではないが、アルドの動きも機敏で身を低くして遮へい物を利用しながら森の中を進んでいく。


(今のところ、敵の気配は感じない。罠らしきものもないわ……でも、森の様子が今日もおかしい……)


 一時間ほど進んだところで、本隊と合流する。

 ステラが偵察した結果をアシュレイに報告していく。


「今のところ敵の気配は感じません。罠もありませんが、森の様子が気になります」


「様子がおかしい? 具体的にはどういうことだ?」


「どういっていいのか……森が息を潜めているというか、森全体が緊張しているというか……すみません」


 アシュレイは「いや、いい」とステラの肩に手を置く。


(このまま道沿いに進んでもいいのだろうか? レイに相談してみるか)


 アシュレイは伏兵や罠を懸念し、レイに相談を持ちかける。


「ステラが森の様子がおかしいと言っている。このまま、道沿いに進んでも大丈夫だろうか?」


 レイは森の中を見回しながら、


「そうだね。迂回するほうがいいかもしれないけど、最短距離がこの道なんだよね……夜になることを覚悟して森の中を北西か南西に向かうか、最短距離を強行突破するか……」


 彼は数秒間目を瞑って考え、


「……夜に魔族と戦うほうが不利だね。僕は道を進むことを推す」


 アシュレイも踏ん切りがついたのか、


「そうだな。この疲れた状況で道のない森を歩くのは危険だ。今以上に警戒しながら行くしかあるまい」


「でも、敵はこちらの戦力を把握しているよ。もし、待ち伏せするなら、かなりの戦力を整えているはず。強行突破って言ったけど、迂回することも考えておいた方がいい。それに……」


 レイが言いにくそうにしていると、アシュレイが彼の変わりに言葉を続ける。


「我々が盾になって他の連中を逃がせと言いたいのだろう? 特に魔法陣の情報を持ったジニーは必ず」


 レイは彼女の腕を掴み、「そんなことにはならないし、させない」と言ってから、軽く頬にキスをする。

 アシュレイは真っ赤になるが、「ああ、私もそのつもりだ」と答えていた。


 小休止を終え、アシュレイは出発を命じた。

 その時、既にステラはボリスの班のエルフの弓術士ミレーヌと共に、再び斥候に出ていた。


 四時間ほど順調に森の中を進み、全行程の半分ほどを消化していた。

 何度か休憩を挟み、斥候からの情報を確認しながら進んでいたが、魔物の気配はなく、森の中は、不気味なほど静かだった。


 小休止を終え、アルドと共に斥候に出ていたステラが突然立ち止まり、身を伏せる。

 一緒にいるアルドが慌てて、同じように身を伏せると、「何かあったのか」と小声で尋ねた。

 彼女は前方を指差し、


「何かいます。太い木の上の方です」


 彼女の指差した先、百mほど先の木の枝に灰色っぽい毛皮の塊があった。


「ありゃ、灰色猿(グレイエイプ)だな。その上にもいるぞ……一、二、三……六匹はいるな」


「アシュレイ様に報告をお願いします……待って下さい。下にも何かいます。猪? いえ、岩猪(ロックボア)が三頭です」


 アルドは「拙いな。どうする?」と呟く。


「一旦、本隊に戻りましょう。他にもいるかもしれませんし、一kmほど迂回すれば、回避できると思います」


 アルドも頷き、二人は本隊に連絡するため、その場から引き返していった。


 ステラたちの情報を聞いたアシュレイは、迂回することを決める。


「この先に伏兵がいる。少なくとも灰色猿(グレイエイプ)が六匹に岩猪(ロックボア)が三頭だ。ステラの見立てではまだ隠れている敵がいる可能性が高いそうだ。今判っている敵だけでもかなり苦戦することは必定。一旦、北に迂回してそのまま西に進むぞ」


 その言葉に皆頷くが、ボリスが、「そのまま森の中を突っ切るのか」と聞いてきた。


「状況次第だな。森の中の様子が判らんからな。移動に時間が掛かるようなら道に戻るつもりだ」


 ステラとヘーゼルの班のファンが斥候に出たあと、彼女たちのあとを追うように森の中に入っていく。

 森は潅木や下生えの草が生い茂り、先頭を歩くレイが槍で切り開きながら進むことになる。このため、道を進むより倍近い時間が掛かっていた。

 アシュレイは予想通りとは言え、この状況を苦々しく思っていた。


(やはり時間が掛かるな。もし、この場で戦闘になれば、かなり不利な戦いになるのは間違いない。どうすべきだろうか……)



 一方、灰色猿と共に調査隊を待ち受けていた月魔族のヴァルマは、上空から見張っていた翼魔の報告を聞く。そして、待ち伏せ攻撃が不発に終わったことに苛立っていた。


(あの獣人の娘のせいね。本当に目障りだわ。あの娘がいなければ翼魔を張り付かせることも出来たのに……)


 翼魔の報告では道を外れたことは間違いないが、森の中に入ったため、どこを進んでいるのかは判らないというものだった。


(さすがに上空からの偵察だけでは追いきれないか。使える翼魔は二体しかいない。こんなことなら小魔インプも連れてくるのだったわ……)


 彼女は翼魔二体を南北それぞれに派遣した。調査隊に見付かるリスクを犯すことになるが、低空からの綿密な偵察も許可していた。

 そして、待ち伏せに使う予定だった魔物たちについても、西に移動させることにした。


(何としてもこの森の中で奴らを仕留めないと……計画が大きく狂ってしまう……何としてでも……)


 焦る彼女はその美しい顔を僅かに歪めていた。



 調査隊は下生えの草や潅木、更には倒木、小さな谷などに何度も行く手を阻まれながら、西に進んでいた。

 一時間で一kmほどしか進めず、このペースでいくと敵襲がなくともソーンブロー到着は深夜になる。


(あと十数kmだが、このペースでは日付が変わる頃にしか到着できん。やはり、道に戻らねばならないか……それにしても敵襲がないのが気になる。待ち伏せが失敗した時点で強襲に切り替えると思ったのだが……)


 森の中を進んでいくが、さすがにペリクリトルの冒険者たちであり、それほど酷い疲労の色は見せていない。だが、昨日の戦闘、昨夜の寝不足が徐々に彼らの体力を奪っていく。

 森の中を二時間ほど進み、昼食を兼ねて休憩を取る。

 ステラたち斥候も本隊に合流しており、木の陰に隠れるような目立たない場所で休憩を取っていた。


 ルナは休憩を取りながら、指揮を執るアシュレイについて考えていた。


(アシュレイさんは凄いわ。昨日の判断もそうだけど、この状況も予見していた。一流の傭兵と一緒に仕事をするのは初めてだけど、若くてもこんなに凄いのね)


 そして、何気なく空を見上げる。

 大木の陰に隠れているため、見える範囲は狭いが、空は青く白い雲がポツンポツンと流れていく。

 その雲を横切るように大きな鳥のような影が通過した。

 彼女は一瞬ハーピーかと思ったが、翼の形がコウモリのようで鷲の翼を持つハーピーとは違うような気がしていた。


(今のは? ハーピーに似ていたけど?)


 彼女はアシュレイにそのことを報告した。


「さっき、チラッと鳥のような魔物が空に見えたんですけど……ハーピーみたいな翼じゃなく、コウモリのような感じの……」


 アシュレイは「翼魔だ。どこに見えた」と彼女に掴みかからんばかりに詰め寄る。

 その迫力にルナはたじろぐが、見えた方向を指差し、「あの辺りです」と震えるような声で伝える。


 すぐにアシュレイは「全員、身を隠せ!」と指示を出し、レイに、


「どうやら敵は我々の位置を見失っているようだ。翼魔を偵察に使っているらしい。可能なら撃ち落してほしいのだが」


 レイは「了解。百m以内なら撃ち落してみせる」と、彼女を安心させるようにニコリと笑う。

 そして、彼は全員に「翼魔を見つけたら、すぐに教えて」と言って、空を見上げていた。


(新しく考えた光の矢を使ってみようかな。でも、偵察している翼魔を撃ち落すと、こっちの位置を知らせることにならないか?)


 彼はその懸念をアシュレイに話すが、


「構わん。上空をうろうろされれば、そのうち見付かるのだ。撃ち落とした隙に距離を稼いだほうがいい。だが、確実に撃ち落してくれ。逃がすと拙いことになる」


 レイが頷くと、すぐにアルドの小さいが鋭い声がレイの耳を打つ。


「北東の空! 東からこっちに向かっている!」


 彼らから五百mくらいのところを、大木のこずえギリギリの高さで飛んでいた。

 張り出した木の枝で何度も見えなくなるが、彼らの真上を通過するコースを飛んでいる。


「みんな、隠れて! 真上を通ったところで撃ち落す!」


 レイの言葉に全員が草むらに身を隠し、彼自身も身を低くしながら、ゆっくりと位置に変える。

 レイは彼の真上を通過する直前に、翼魔の飛ぶコースを予想して、光の矢を放った。

 翼魔は真下から飛んでくる光の矢を見て、慌てて南に方向を変えた。だが、レイの放った光の矢はその動きに追従する。

 レイはその間に更に三本の矢を放っていた。そして、そのそれぞれが翼魔を追尾していく。

 そして、一本目の矢を必死に避けている翼魔の死角から次々と突き刺さっていく。翼を射抜かれた翼魔は失速し、彼らの三十mくらい先に錐揉みをしながら落下していった。


(遠隔誘導から、自律追従にイメージを変えてみたんだけど、うまくいった。これで連射機能と追尾機能が両立できる……)


 それを見たアルドたちは、その魔法の異様さに言葉を失っていた。彼の魔法の異常さに耐性のあるアシュレイですら、呆れるような表情を浮かべている。


(相変わらずというか……レイは飛行型の魔物の天敵だな。四本の矢に追いかけられれば、防御力の小さい魔物はパニックに陥るだろう……)


 呆然としている彼らの中から、ステラが翼魔に止めを刺すべく、木の陰から飛び出していく。

 そして、光の矢と落下の衝撃で瀕死の状態の翼魔に止めを刺した。


 アシュレイはステラの姿に我に返り、


「全員、出発するぞ! ステラ! ファンと共に斥候に出てくれ!」


 全員立ち上がり、再び森の中を進んでいった。


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