陸上部のホープ
記念すべき最初のエピソードは結です
もうすぐ五月になろうとしていた。桜は散り、地面に桜の花弁が力なく横たわっている。生徒達に踏まれ、押し花のようになってしまっていた桜の花弁を見ると何とも切なくなる。あ、また踏まれた。
入学して一ヶ月近く経ち、野上や清川や氷室とは少しずつ打ち解けてきたと思う。
勉強もそれなりにやっていけてるので、まぁまぁ良好な滑り出しだろう。
俺は部活には特に何も入っていない。よって授業が終わればすぐに下校出来る。
風花は色々と部活を見学したいらしいので、俺は先に一人で帰っていた。
校門近くに運動着を着た女子の集団がいた。あれは陸上部だったかな?
「お、ハルっち」
集団の中には見慣れた顔がいた。
「久代はやっぱ陸上なんだな」
「ま、走ることしか能が無いからな。ちなみに今もロードワーク行って来たんだ」
久代は爽やかに笑って言った。
なんというか、普段とは違う一面って感じだな。汗をかいて頬を紅潮させている姿が微妙に艶っぽい。
「そういやハルっちは何か部活入ったのか?」
「いや、何も」
「そっか、じゃあ陸上部なんてどうだ?」
「遠慮しておくよ」
即答で断る。正直あんまり走ったりするのは好きじゃない。
「てか、この部活男子がいないんだよ。だから……な?」
「余計に入るか」
確かによく見たら女子しかいない。
女子だけの部活に入る勇気なんて少なくとも俺には無い。
「ははっ、まぁ気が向いたらいつでも来いよ。歓迎するから」
「気が向いたらな」
久代は特に落ち込むでもなく、ただ爽やかな笑顔を見せた。
こいつの明朗な性格は親しみやすく、元気を分けてもらえる気がする。
中学時代も意外と男子に人気あったしな。
「ねぇ、結。もしかして彼氏?」
「な、違いますよー。ただの友達です」
「えー、そうなのー?」
「結構仲良さそうじゃん? 君、名前は?」
「日高春斗ですけど……」
陸上部の女子数名がこちらに寄ってくる。どうやら先輩らしい。
一人の先輩が久代の肩に手を回し、久代を楽しそうにからかった。
「結構可愛くない? この子」
「ホント、結にその気が無いなら私達が狙おうかなー」
二年生か三年生の女子生徒がこちらをまじまじと見つめてくる。そして楽しそうに笑った。
俺は思わず後退する。
「もー、ハルっち困ってるじゃないですか。ほらほら、練習再開しましょ」
「はいはい。じゃーねー、春斗君」
「ばいばーい」
「はぁ……」
先輩方は手を振ってグラウンドの方へ向かった。
久代は少し申し訳無さそうな顔をしている。
「ゴメンな、ハルっち。困らせたみたいで」
「いや、大丈夫だよ。久代も部活頑張れよ」
俺はそう言って久代の肩をポンと叩いた。
「あ、う、うん……じゃな」
落ち着かない様子で久代はグラウンドへ向かう。
もう部活の先輩達と馴染んでるんだな、と感心しつつ俺も校門を出る。
なんとなく振り返ると、久代がこちらを見ていた。俺はとりあえず手を振る。すると、久代も振り返してくれた。